軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

中編②

「…イリス・カメーリエ、あれが?」

リーリエ・ボーデンは困惑していた。

普通科にいるはずのイリス・カメーリエを探していたら、なぜか特進科に並び、難関とされる医学科に在籍していることをスマホのキャラクター画面から知り、愕然とした。

「アホのイリス」と名高い彼女が、医学科にいるなんて信じられず、たまたま1限が自習だったので「保健室にいく」と言ってサボって医学科の教室にやってきた。

幸い、他の学科の生徒も受ける選択授業で、リーリエは教師が分からないぐらい後ろの席について、他の学科の生徒達に紛れ、イリスの姿を探しまわった。

やがてひとりの女子生徒に視線が釘付けになる。

「真面目に、授業を受けてる…だと!?」

…そう、件の御敵は車椅子に乗って授業をうけていた。

痩せこけ、顔色も悪いのに、瞳は授業にかじり着かんばかりのガッツを燃やしながら、ノートに講義の内容を書き込んでいる。

表情は…まるで死地にいる騎士のような覚悟の固さと悲壮感がある。

………誰だアレは。

さらに驚きなのが、ネルケがそんなイリスをうっとりと眺めているのだ。

お前、従者ならご主人様を連れて保健室にいけよ!具合めっさ悪そうにしてるじゃん!?

………とついつい悪役に感情移入してしまうほどリーリエは口をあんぐりとあけて二人をみやる。

勉強嫌いなイリス・カメーリエは姿はなく、病弱なガリ勉少女がそこにいる。もし、あれが演技なら悪役のくせにハリウッド女優顔負けな演技力である。

「カメーリエさん、だ、大丈夫かい?今日は顔色が得に悪いけど…」

堪らず声をかける教師に、イリスはニッコリ微笑む。

「…はい。これくらいなら全然まだ大丈夫です。ささ、わたくしに構わず授業を進めてくださいまし。」

「………。」

他の生徒達はなんとも言えない表情で、イリスをみつめている。

なんと言うガッツ…。あれがゲームのイリス・カメーリエではないのは一目瞭然である。

「………具合悪いならこなければよろしいのに。」

「…病弱でもアピールして、男子生徒の気をひきたいのでしょう。」

「…これだから、皇太子妃候補からはずれるんですわ…みっともない。」

(気を引くとかの問題じゃないよアレ!?)

リーリエの回りに座っていた女子生徒達が、イリスをみて、眉をしかめている。

彼女達からすると、病人が懸命に授業にかじりついている姿はカマトトぶっているように見えるのだろう。実際、イリスの側にいるネルケや、男子生徒や教師達に優遇されるイリスが気に食わないのだ。顔色が悪いのもアピールの道具に見えているのだろう。

しかし、なんと言うか…

(嫌味なぐらい綺麗よね…さすが悪役令嬢。)

金色の髪をキッチリとおだんごに結いあげ、蒼いリボンで纏めているが、騎士を彷彿とさせる凛とした佇まいで…一部の女子に人気がでそうな容姿だ。原作では豪奢な縦ロールのような髪型に、艶かしい口紅を口にべったりとつけていたのに、今は品の良い桜色のリップをつけている。

あまり化粧していないのにもかからわず、プルプルの白い肌とか…凄いうらやましい。

(顔ちっさ!ウェスト細っ!)

ユリウスルートにそなえ、美容と作法は完璧に入学したのに、上流貴族と下級貴族の気品の差をまざまざと見せつけられた気分だ。

辺境の町長みたいな男爵家と小国なみの領土を保有する六大侯爵家序列二位のカメーリエ家…比べる方が烏滸がましいというものだ。家格も、何もかも違う。埋められない差と言うものが、ゲーム脳のリーリエには理解出来ていないのだ。

自分はヒロインだから…それでまかり通るゲームの方がおかしいと、気がついてすらいない。

リーリエは、悔しいと言うか…僻みすら滲ませて、イリスを観察しながらふと、気がついた。

(もしかして、グラナード先生や、双子や、ネルケイベントが全くないのって…アイツのせい?悪役転生とか…そうだよ!なんで、気が付かなかったんだろう!絶対あの女、転生者だよ!)

それは半分正解だが、半分不正解だ。

イリスは確かに前世にゲーマーの記憶があるが、イリスはイリスだ。

ゲーマーの前世の記憶や魂に、自分の我儘ぷりや、ゲーム知識を引き継ぎされているが、彼女は彼女の魂がきちんとある。

前世の転生者の魂と、原作のイリス・カメーリエが合体した存在が今のイリスだ。

転生者の記憶を持っていていても、考え、行動をしているのはイリスである。

病気になったのも、ゲームとか関係ない。

因みに、リーリエを転生させた神も、ゲームと同じ世界だが、ゲームとは違いキャラクターは原作と差異があると言っている。

そのキャラクターの人生に何か起きるのかは、リーリエを転生させた神でも操作なんて出来はしない。

すでに、神の領域でも無理なのだ。

この世界は確かにゲームとまったく同じ形の世界だ。だが、ゲームとの違いは世界を守る神々や精霊達が確かに実在する事だ。

その神々を無視して……よその神が干渉するなんて、できるはずがない。

イリスの前世やリーリエの前世の世界の神が、他神が治める世界に魂を送るのは可能でも、そこに生きる人間の人生や、宿命までいじれる権限はない。そんなことをするれば他世界の神々から顰蹙をかうばかりではなく、並立する多くの世界のバランスを崩しかねないのだ

…神にも課せられたルールやマナーがあり、可能と不可能がある。

それが分からないリーリエは、歯軋りをしながら脳内で自分を転生させてくれた神様を罵った。

(…病弱なのを利用して、悪役令嬢を回避するつもり?そうはいかない。悪役やってもらわないと、こっちが困るのよ)

別に利用しているわけではない。が、結果的に悪役令嬢を回避しているだけだ。

本人は身体を治す事、将来の目標に目を向けていて、はっきり言って家族や知り合い以外の攻略キャラに関わる気もないし、自分の事で精一杯でヒロインすら眼中にない。

てか…そんな余裕がないのが、現状だ。

(やばい、全然わかんない!)

イリスは、涙目になりながら、黒板を睨み付ける。休みがちなせいで、授業についていけないのだ。彼女ができるのは黒板の内容と教師の言葉を拾ってなにか書き込むことだけだ。ネルケと後で予習復習を一緒にやるが、補いきれない授業がある。

イリスのスペックは顔と家格以外低い。そんな彼女が医学科に入れたのは努力の賜物だ。

「っうぅ…物理は嫌いなのです。」

「はい、お嬢様、次のページですよ。(やべぇ、頭ナデナデしたい。)」

「…ありがとう。」

……ネルケが優しすぎて怖い。

原作のネルケは、わたくしを最後に鞭で叩き、処刑台へと嬉々として送る笑顔が今でも思い出すたびに背筋が縮みます。それにねっとりした視線がどうも…。

慣れましたけど無気味です。

優しいと言えば、心なしかユリウス殿下も優しかったような…?気のせいでしょうか。

先程、会ったユリウス殿下を思い出し、わたくしはイヤイヤと、首を振りました。

わたくしは、殿下と結婚できませんし、相応しくないのは重々承知しています。

初恋の淡い想いが残っているのでしょうか…ちょっぴり切ないですね。

胸に手をあてて、思考を落ち着かせていると、ふと、視線を感じて振り返りますと…ヒロインさんと目が合いました。

あれ、ヒロインさんですわよね?

めっさ、こちらを睨んできますけど…ヒロインさんですわよね?

悪役令嬢顔負けの眼力に、思わず視線を逸らします。

うぅ…いじめなんて出来ませんのに…警戒されているのでしょうか?

「…廃除いたしますか?」

ネルケが、ゴミをみるような目でヒロインさんを睨んでます!

めっさ怖いですわネルケ!

しかも超どS顔で言っております…徐に鞭をとりださないでくださいまし!今、授業中!

わたくしは慌てて「やめなさい」と首を振りますと、ネルケは渋々、鞭をもどしました。

これが、ヒロインさんとのファーストコンタクトでございました。