軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第98話  廃坑はスラムの香り

シャマシュさんと別れ、道なき道を走る。

目的地は、カヤンタウ坑道。ルクラエラ最大の貧民窟である。

◇◆◆◆◇

みんなとトランシーバーで連絡を取った後。

取り返しのつかないことになる前にと、闇雲に走り出しそうになる俺にストップを掛けたのはシャマシュさんだった。

「ちょっと待ちたまえよアヤセ君。行き先は決めているのかい? 土地勘だってないだろう?」

「あっ、そうか! そうですね。大親方頼めますか? 案内」

大親方なら土地勘あるだろう。

どんなに頑健でも老人だし走るのは遅いだろうが、そんなのは瑣末事である。

「そりゃ別にかまわねぇが……」

「じゃあ、お願いします。早くしないと、モンスターの勢いすごかったですからね。ヤバいですよ」

実際、すごい勢いだった。

今日だけでどれだけのゴブリンを殺しただろう。100体くらいやったような気がする。

他の坑道からも、あの勢いで湧き出てくるとすると、すでにルクラエラは阿鼻叫喚の地獄絵図になっている可能性がある。

とりあえず、ディアナかレベッカさんか誰かと合流して、状況によってフレキシブルに対応しなきゃ……。

「だから、落ち着きなって。確かに不測の事態ではあるが、大丈夫。そう簡単にルクラエラは落ちないよ。ちゃんと坑道には常駐の戦士がいるし、人々だって無力じゃない。少なくともゴブリン程度が相手ならば、自分たちだけで凌げるはずさ」

「そうなんですか? でも、来る途中にたくさん坑道口ありましたし、全員が全員、あれを防げるとは思えないんですが……」

「それは廃坑だろう? 廃坑の入口はちゃんと封印してあるから、モンスターが出てくることはないよ。今、ルクラエラで許可が下りている坑口は4カ所だけなんだよ」

シャマシュさんの話では、塞ぐべき坑道は全部で4箇所だけらしい。

思ったよりずっと少ない。

ここに来るまでの間だけでも、10個くらいは山に穴が開いていたが……。

聞くと「廃坑は危険だからね。しっかり塞いだり崩したりしてモンスターが出て来ないよう処置してあるんだよ」とのお答え。

人が住んでいるように見えた場所も、別に坑道の奥深くに住んでいるわけではなく、入口付近を住居替わりにしているだけだったり、キノコを栽培したりと再利用しているだけなのだとか。

坑道自体は、ちゃんと入って数十メートルくらいのところで塞いであるらしい。

モンスターは奥から湧いて出るんだから、入口数十メートルくらいは安全ってことなんだろう。坑道ってのは、それこそ長いところで1000メートルほども掘るらしいからな。

ラ○ュタで廃坑歩くシーンあるけど、ああいうのがずっと続いてる感じか。

あまり馴染みがなくてピンと来なかったが、そもそも廃坑ってのは結構危ないものなのだそうだ。モンスターが湧いてくるのはもちろんとして、内部はクモの巣のように分岐していて迷子になる危険があるし、有毒ガスや酸欠の心配もある。縦シュートに気づかず落ちるなんてこともあるらしい。

そういうわけで、不必要な坑道の入口は基本的に閉めているとのこと。

平時でもモンスターが湧き出てくる危険性があるため、けっこう厳しく管理されているんだとか。

生きている坑道には、かならず戦士――シェローさんのような『 退魔屋(ハンター) 』が常駐しているらしい。

だから、すぐにどうにかなっちゃうということではないらしい。

シャマシュさんの話じゃ、すごく強そうなモンスターも湧いてるらしいし、楽観はできないだろうが。

「坑道は4箇所だが、国営の坑道は無視してもかまわない。あそこは常駐戦士の規模も大きいし、危機管理ができている。対応も早いだろう。行くとしても最後だな」

「じゃあ、残り3箇所ですか」

おお、けっこうなんとかなりそう。

モンスターが普通に湧く世界だから、リスクマネジメントちゃんとしてんだな。

残る三ヶ所は、現在二番目に有力で、民間委託されたリラス坑道。

精霊文明時代からあるとされ、現在は事実上の廃坑だが、坑道が再利用され貧民窟と化しているカヤンタウ坑道。

そして――

「最後の一箇所は、私の家があるこの坑道だよ。魔族にとっては魔結晶は必要不可欠だからね。私が管理することを条件に、坑道を生きた状態で使わせてもらっているのさ」

ということらしい。

なんていうか、最初は世捨て人かと思ってたけど、普通に社会性あるんだなシャマシュさん。魔族とかいったって、本人普通に人懐っこい感じの人だしなぁ。

とにかく、すぐに向かうべき坑道は二箇所だ。

急げばなんとかなりそうだ。

「とりあえず、これは全部シャマシュさんが持っていってください」

ゴブリンどもから回収した、数え切れないほどの魔結晶をすべて渡す。

とりあえず俺には使い道はない。魔族であるシャマシュさんが持っていたほうが活きるだろう。サイズ的にはスケルトンのものより小さい石だ。金銭的価値はたいしたものではないだろうし、そんなこと気にしてる場合でもない。

シャマシュさんの召喚魔法。

さっきはトワイライトミミック一体呼び出すだけで、一握りの魔結晶を使っていた。なら、いくらあってもいいものなんだろう。

「いいのかい? 助かる」

「ええ。さあ、のんびりしてる時間もないですし。行きましょう」

「いや、待ってくれ。別行動のほうがいいだろう。私は先に一人でリラス坑道を封じてくる。アヤセ君はカヤンタウへ向かってほしい。あそこは貧しい者が多いし、ルクラエラの対応がどんなに早くても、後回しにされる可能性が高いんだ」

二手に別れるか。まあ、シャマシュさんは極大戦力だ。ひとりで十分だろう。だれかが一緒に行く意義がない。

「わかりました。大親方、場所わかりますか?」

「ああ、大丈夫だ」

よし。急ごう。

カヤンタウ坑道。貧民窟ってつまりスラムってこと……だよな。男の俺はいいけど、ディアナとかどうなんだろう。モンスターの危険を排除しにいって、別の危険に遭遇とか洒落にならないな。

まあ、護衛のマリナもいるし、そう妙なことにはならないと思うが……。

……いや、刺青もんのディアナより、マリナのほうが逆に危ないのかな? でも、ターク族はそういう需要ないっていうし、よくわからんな。レベッカさんやエレピピのほうが危ないかも。

「……あと、イオンを任せてもいいかな、アヤセ君」

俺が益体もない心配をしていると、そんな要請をしてくるシャマシュさん。

イオンさんか。まあ、いいけど。

ってか半分くらいそのつもりだったけど。

シャマシュさんにイオンさんが付いていっても、役には立たなそうだし。

でも本人が、シャマシュさんに付いていく気マンマンだからな。

今も、荷物がパンパンに入ったリュックを重そうに背負いながら、ジト目でシャマシュさんのこと見つめてるしな。

無言のプレッシャーってやつだ。

「僕は別に構いませんけど、イオンさんがすげー嫌そうですよ」

「えっ、いえ……嫌ってわけではありませんが、私はほら……獄紋もありますし」

獄紋。そうか。

人がたくさんいるところに迂闊に連れて行くのは危ないのかもしれない。シャマシュさんなら、恐怖の魔族というもっと怖い属性持ちだから、問題ない……ってことなのかな。

イオンさんを連れて行くってことは、イオンさんを守りながらってことになるのか。

「でも、まあ大丈夫ですよ。うちにはエルフもいますし」

ディアナと早めに合流して、ディアナに預ければ問題ないだろう。獄紋者をエルフが捕まえたみたいな絵になるだろうから、そうそう手出しはされまい。

「それにね、イオン。はっきり言って足手まといなんだよ。私一人なら、坑道からモンスターが出てくる前に封じることができるんだ」

ピシャリと言い放つシャマシュさん。

「わかったわよ。…………気をつけてね」

「ありがとう。さて、そのまえに、いちおう護衛を付けようか。アヤセ君のことを信用しないわけじゃないんだが、念のためにね」

そうイタズラっぽく笑い、魔結晶を一握り手にとる。

そして、呪文の詠唱を開始した。

<命刈る 黒鉄(くろがね) アージェントの盾に阻まれ理となす>

<騎士の八徳 現し世の鏡 影に潜めし剣>

<光あれ 生み出されし蔭に漆黒の回廊を開け>

<我は 夢遣い(ナイトメア) シャマシュ・オーレオール>

<求めに応じ顕現せよ! シャドウナイト!>

炎のように立ち上るシャマシュさんのオーラ。

召喚魔法である。

一際大きい輝きのあと、顕れたのは黒い人影。

「イエス! イエス! ユアハイネス!」

影の騎士としかいいようのないのが出てきた。

出てきて、イエスイエス! と叫ぶ。

全身真っ黒で、剣と盾らしきものを持っている。

なんだこやつ。

「やっぱ、なんかしゃべるんですけど」

「そりゃ喋るさ。生きてるんだから。……さあ、シャドウナイト。君の主人は、このイオンちゃんだよ。しっかり護ってやってくれたまえ」

「イエス! イエス! ユアマジェスティ!」

「……まあ、いいか」

どうやら、シャマシュさんの魔法で呼び出されるモンスター然とした連中は、モンスターではなく『召喚魔獣』という分類で、いちおう生物なのだそうだ。

身長140センチくらいの小柄な影の騎士、シャドウナイト君も生物らしい。なかなかにファンタジーだ。

どうやら、ときどき呼び出すやつらしく、イオンさんはあまり驚くこともなく受け入れている。まあ、確かに護衛の騎士がいるってのは助かるかもしれない。

話がまとまったので、俺はトランシーバーを取り出しエトワに現状を説明した。

「――――と、いうわけだ。俺はこれからカヤンタウ坑道ってのに向かう。エトワたちは住民の避難勧告を続けながらカヤンタウ坑道に向かってくれ。合流しよう」

『了解です。あ、ボス。ディアナ姐さんが、エリシェの神官様と連絡がとれたそうです』

「おっ、どうなった?」

エリシェにいる神官ちゃんと普通にリアルタイムで連絡取れるのって、考えてみると高性能だよな。

距離関係ないのかな。

すごい電波でも発信してんのか、それとも精霊同士が電波を中継しあってんのか。

『討伐隊を編成してこっちに送ってくださるそうです。それと、ルクラエラでも討伐隊を組織して動いてくださるそうです。ルクラエラには、ダンジョンに潜るのを生業にしている冒険者がいるんで、そこにも協力を要請したようですよ』

「おお、けっこう対応早いな」

てか、冒険者なんて実在したんだな。

ダンジョンがあるって話は前に聞いたような気がするけど、冒険者ねぇ……。

まあ、ダンジョンって古い遺跡かなんかなんだろうし、トレジャーハンターみたいなものなのかもしれない。モンスターが出るなら魔結晶も集まるだろうし、魔結晶はそれなりの値で売れるって聞くからな。

まあ、そういうモンスターとの戦闘に慣れたのが協力してくれるなら助かる。

『……あのボス。それと、……ちょっといいですか? 提案なんですけど』

エトワから提案なんて珍しいな。

『レベッカ姐さんとエレピピさんは別行動ということでしたが、今回の件ですと、戦力を分散しないほうがいいんじゃないでしょうか』

「というと?」

『リラス坑道は魔族さんが封印に向かっているということですし、我々は全力で一箇所の対応だけをやったほうが、効率的でしょう。我々は6人しかおりませんし、多くの結果を求めるより、一箇所に集中したほうがしっくりきます!』

なるほど。

エトワの言うことも尤もだ。

俺はつい全部を自分たちだけでなんとかしようと思ってしまったが、それは傲慢というものなのかもしれない。

いくら戦闘力があるといっても、自分たちはたった6人。いや、戦闘力があるのは、俺とマリナとレベッカさんだけだ。

エトワは戦えないし、エレピピも素人同然。ディアナは補助的な魔法が使える程度。

トランシーバーがあるから、連絡取りながら――と考えてしまったが、下策だったかもしれない。

なにより、モンスターが湧いてくる場所、押さえるべき場所が3箇所だけなのだ。自分たちの力は一箇所に集中したほうがいい。

うーん。エトワのほうがよっぽど冷静だな。

数学者だから、数字で勘定できるってことなのかもしれない。

「ありがとう、エトワ。確かにそのとおりだな。まだレベッカさんたち捕まえられる? 全員でカヤンタウ坑道に集まろう。貧民窟になってるらしいから、気をつけてな。治安悪そうだ」

『了解です! 鍛冶屋のみなさんも手伝ってくれるというので、戦闘力のある若い方はリラス坑道へ、足の速い方を念のために国営坑道へ、現親方は我々の道案内に付いてもらいます。武器はそれぞれしっくりくるものを借りました!』

ハキハキと説明してくれるエトワ。

エトワは頭の回転が速いから頼りになるな。

最後にもう一度段取りを話し合い、現地に向かうことにした。

「では、私はリラス坑道を封じたあと合流する。アヤセ君は、カヤンタウ坑道の足止めを頼む。カヤンタウを封じたら、国営坑道を封じに行く。それで、なんとかなるはずだ」

「わかりました。シャマシュさんもお気をつけて」

「ありがとう。ではイオンのこと、頼んだよ」

「はい」

そうして、シャマシュさんは文字通り、空を飛んで行ってしまった。

正確には空を飛ぶ大型の鳥を召喚して、それに乗って――だが。召喚魔法、万能すぎるだろ。

さあ、俺たちもいこう。

……あ、強いモンスターとやらが、どこから出てくるのか聞きそびれたな。カヤンタウから出てこないことを願おう。

◇◆◆◆◇

大親方の案内でカヤンタウ坑道への道を行く。

シャマシュさんの坑道からは、比較的近いのだとか。まあ、街の中心からはけっこう歩いたし、メイン坑道の近くに街があるんだろうから、貧民窟があるような場所は、シャマシュさんの坑道と同じように、街外れってことになるんだろう。

イオンさんは黒いフード付きのローブを羽織り、パッと見て獄紋者だと気付かれないような格好をしている。

だが、やはり目立つかもしれない。いかにも「世を忍んでます」って感じの黒ローブで、悪目立ちするというか……。そもそも顔見られれば即バレだし、目だって紅いし。

まあ、かといって代案もなし……か。化粧でごまかせるレベル超えてるしなぁ。全身に浮かぶ黒い紋様なんて。冬だったら厚着と目出し帽でなんとかなりそうだけど、まだそんな季節でもないし。

モンスターが湧き出て混乱している最中なら、そうそうバレるってことはないだろうが、この世界の人間が獄紋についてどの程度の嫌悪感を抱くのかよくわからない。いきなり寄ってたかって引っ捕えようとする……なんてことはないと思いたいが。

護衛のシャドウナイトは案外高性能で、今はイオンさんの影の中に隠れている。

影の中と言っても、影の中にズブズブと沈み込んで消えているわけではなく、影と光の屈折で見えなくなっているだけで、普通に存在はしているらしい。

カヤンタウ坑道がある山へ続く道へ出る。

麓(ふもと) に、バラックが立ち並び、ちょっとした集落を作っている。

昼間から、仕事をしているのか、それとも時間を潰しているだけなのか、よくわからない人たちがたむろしている。

道端で焚き火をして、ボンヤリと火を眺めている年齢不詳の男。

裸に毛が生えた程度のボロボロのシャツを着て、なにかを一心不乱に磨いている若者。

煙草を吸い込んでは盛大に咳こみ道端にタン吐いている老人。

うーむ。

ああいうタイプの人に、話しかけるのは勇気がいるな。まともに取り合ってもらえる気がしない……。

でも、モンスター大量発生なんて非常事態なんだし、ちゃんと伝えてかなきゃダメだろうか。

……いや、適材適所という言葉もある。

今回の俺の役目は戦うことかもしれない。きっとそうだ。そういうことにしよう。

「大親方。いきなり弱音を吐いて済みませんけど、俺はあの人たちに『いきなりモンスターが湧いたから逃げろ!』とか言って信じてもらえる自信ないです。頼んでもいいですか」

大親方の言うことなら聞くかもしれない。年の功ってやつで。見た目も怖いし。

最初は、出会った人に簡単に説明して伝言ゲームで情報拡散しようと思ってたんだけどな。やっぱ向き不向きってもんがあるよね!

「いや、旦那。まず坑道まで行こう。このへんまでモンスターが来るような事態になったら、もういろいろ手遅れだろう。水際で食い止めなきゃならねぇんだろ?」

「それもそうですね。急ぎましょう」

大親方の提案に少しホッとしながら、バラックの立ち並ぶ細い道を行く。

山へと向かう坂道。ときどき労働奴隷と思しき人を見かける。ルクラエラで働く労働奴隷はこのへんで暮らしているんだろうか。

家賃とかなさそうだからな。

とりあえず、まだモンスターは湧き出てはいない模様。情報もまだ伝わってないようだ。そうでなければ、こんなにノンビリした雰囲気ではないだろう。

なんとか水際で防いでいるのかな。湧いてないなんてことはないだろうが、モンスターは倒せば魔結晶という換金可能な宝石が出るのだ。ここが貧民窟であるなら、ゴブリン無限湧きはゴールドラッシュに相当するイベントなのかもしれない。

抗口へ近づくにつれ、人が増え、喧騒が増してきた。

逃げまどう人々。

怒号が入り混じり、俺たちにも「モンスターが大量に湧いたらしい、こっちは危ないぞ!」と、逃げながら声を掛けてくれる。

まだディアナたちは来ていないみたいだ。距離的に俺のところからのほうが近かったんだろう。

抗口では、男たちが湧き出てくるモンスターと戦いながらなんとか入口を閉鎖しようと躍起になっているところだった。

とはいえ、ろくな材料はない。木材は乏しく、せいぜいボタ山から持ち運べる程度の石材を運んできて積むくらいだが、それではラチがあかないだろう。

カヤンタウ坑道は入口がかなり広く、シャマシュさんの坑道と同じく、不思議な光源があり内部はそれなりに明るい。見える限りでもけっこうな数の住居が内部に作られている。住居といっても、掘っ立て小屋程度のものだが、坑道内ならば雨風は凌げるのだし、十分快適だろう。

さすがに、周辺の住人の退去は完了しているようだ。

被害者がいるのかどうかはわからない。

とりあえず、周辺にはケガをした人間は見かけない。

「大親方。とりあえず加勢してきます。モンスターもゴブリンだけみたいですし」

「おう。俺はまわりのやつらに事情を説明してくる」

「わ……私、どうしよう」

イオンさんか。

ディアナが来てたら預けようと思ってたんだけどな。どうしよう。

シャドウナイトもいるし、滅多なことにはならないと思うが。

「大親方、イオンさんもいっしょに頼めますか。殺気立った男たちがたくさんいますし」

「おお、任せろ」

「イオンさんもいいですね。なるべく顔見せないようにお願いします」

「はい。ちょっと怖いけど……」

イオンさんは、一年もシャマシュさんの坑道で引きこもってたんだろうから、怖いってのはわかる。同じ半引きこもりとしては。

「シャドウナイトも頼むぞ。でも、人は殺すなよ」

イオンさんの影に隠れているシャドウナイトにも声を掛ける。

召喚魔獣のメンタリティーは不明だ。主君に危害を及ぼす者がいれば、躊躇なくヤルのかもしれない。

「イエス! イエス! マイロード!」

元気な声だけ聞こえてきた。

まあ、大丈夫だろう。どれくらいの戦闘力があるのかは知らないが、素人に負けるってこともないだろうし、あんな真っ黒いやつが出てきたら普通の人はビビる。戦いになるって可能性は低かろう。たぶん。

俺は魔剣を抜き、ひとり坑道へ向かった。

そして考える。

手伝いますと、いきなり戦いに参加しちゃうのってどうなんだろう。

横殴り的なルール違反になるのかな? いや、モンスターこんだけ湧き出てるんだし、そんなこと気にしないだろうか。でも、魔結晶出るしなぁ。

魔結晶いらないから手伝わせろ……か? いや、それじゃあただのお人好しだ。

普通にいこう。普通に。

「お困りですか? 僕はちょっと腕に覚えがある者ですが、手伝っても?」

ただのキザヤローみたくなってしまった。これだからコミュ障は……。

「見りゃわかるだろうが! 倒しても倒してもひっきりなしに出てきやがる。なんでもいいから手伝ってくれ!」

「僕が倒したぶんの魔結晶はもらいますよ!」

言いながら、周辺のゴブリンをまとめて切り捨てる。ゴブリンには防具を付けている者もいるが、魔剣ハートオブブラッドの切れ味の前では、まったく無意味だ。

さっきあれだけ戦ったからか、ゴブリンの相手は慣れたってのもある。

ゴブリン相手ならもう余裕ではあるのだが、シェローさんにもレベッカさんにも、絶対に油断はするなと口酸っぱく言われている。

油断はしない。獲物を前に舌なめずりもしない。

最速で全力で倒す。それが傭兵流らしい。

とりあえず出てくるゴブリンをどんどん倒していく。

――10。

――20。

入口付近にまで来ているやつは、30匹程度だったようで、あらかた倒すことができた。

だが、奥のほうにはまだまだいる。

ときどき、動物の鳴き声のようなものも聞こえてくる。

ゴブリン以外のモンスターも湧いているのかもしれない。とすると、厄介だ。

レベッカさんたち、早く合流しないかな。

「助かったぜ、兄ちゃん。何者だ?」

坑道入口で戦っていたオッチャンが声を掛けてくる。

戦闘にあたっていたのは、このオッチャンを含め、7人。全員男で、若者もいるし、オッサンも多い。この人たちが、普段ここで湧くモンスターを狩っているのかもしれない。

装備自体は粗末なものだ。

鉄の槍や剣。防具は鉄の胸当てがあればいいほうで、だいたいが革製のようだ。

まあ、俺は防具をまったく装備してないんだから、人のことを言えた義理でもないんだが。

しかしなんて答えるかな。

ええと。

ああ、こういう時のための答えがあった。

「騎士隊。アルテミス騎士隊です」

「騎士? 騎士なのか? あんた」

「あ、いえ。僕は、オーナーでして。騎士さんたちは、ちょっと遅れてます」

「???」

まったく締まらない感じになってしまった。

ドヤ顔で、騎士隊とか言って恥かいた!