軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第83話  文化遺産はラムネの香り

「それで、ジロー。さっきの子はなんだったの? 街のほうに走っていったけど、この辺では見たことない子だったし」

そういえば、レベッカさんに魔法の地図の説明をする前に、あのクマが出てウヤムヤなままだったんだっけ。

とはいえ、少女の正体は俺にもよくわからない。

少女が走り去るのを押し黙って見ていたディアナが口を開く。

「……あれは、精霊だったのです。ご主人さまが果物をとってすぐに、周囲の精霊力があの少女を形作ったのよ。私も初めて見る現象で、くわしいことはわかりませんのですけど……」

ほぉ。つまりクエスト用の精霊さんというわけかな。

結果的にクエストはクリアになったからよかったけど、よくわからない話だ。

この魔法の地図のクエストは、大精霊がかつて用意したものだったりするとか?

でも、エフタは試してみたけどクリアできなかったと言っていた。たしか、鉱物だか植物だかの採取クエストだったとか言ってたっけ。

クエストがまだ生きているならば、エフタもクエストをクリアできたはず。いや、そもそも目的の鉱物だか植物だかが見つからなかったんだっけ。

……ま、この世界の不思議なことについて、必要以上に考え過ぎても仕方ないんだけどな。

ファンタジー世界なんて「そうだから、そうなんだ」と割り切ってしまわなければ、精神衛生上よくないのだ。

◇◆◆◆◇

「みなさんっ! 無事だったのですか!?」

はぁはぁと息を切らせながら、トテテテテッと丘を駆け上がってくる金髪の少女。

サイドの髪を垂らし、後ろ髪をアップにしチョコンと神官帽を頭に乗せ、神官服のまま突然のご登場。

ウルトラ可愛い神官ちゃん、予告無しのご訪問である。

「神官ちゃ……さま。どうなさったんですか、急に、こんなところまで」

外で見る神官ちゃんは、考えてみたら初めてだ。

これはまた新鮮な可愛さである。

とても実年齢100歳超え(推定)のBBAとは思えない。

さすが異世界。「そうだから、そうなんだ」だ!

100歳だろうが、1000歳だろうが、カワイイもんはカワイイのだ。

「私が呼んだのです」

シレッと言うディアナ。

そういえば、前にもこんなことあったな。

「はい。ディアナ様から精霊通信で緊急救助要請があったので飛んできたのですが……。無事に切り抜けられた――ということなのですか?」

「えっと、はい。なんとかギリギリ倒せまして。わざわざ来ていただいたんですが……」

ディアナがテンパって召集したようだ。

実際、紙一重の戦いだったし、誰かと違いちゃんと精霊魔法の使える神官ちゃんがいてくれたなら、かなり助かっただろうとは思う。

でも、なんとも申し訳ない。

うちの奴隷がすみませんホント。

「ここでそんな強力なモノが出たのですか? シェロー、レベッカ、あなた達でも苦労するようなのが出たの? まだヒトツヅキまでには日があるのに」

神官ちゃんが不思議に思うのも無理はない。

シェローさん曰く、あのクマはヒトツヅキのラストで出てくるような強さだったらしい。

モンスターの中で最弱クラスのスケルトンなんかがメインのここら辺で、そんな強力なモンスターが湧くなんて異常事態なのだ。

まあ……。

魔法の地図のせいで湧いたんですけどね!

「神官、これを見るのです。並の魔物ではなかったのですよ?」

ディアナが、神官ちゃんにクマから出た頭部大の魔結晶を見せてフフンしてる。

「え……これ、魔核ですか? すごい、こんな大きいのはじめて……」

その大きさに感嘆の声を上げる神官ちゃん。

悠久の年月を生きる神官ちゃんをしても(実際の年齢は知らないんだが)、このサイズは初らしい。

「大きくて黒光りしてますね。やはりこれだけのサイズのは珍しいんですか?」

セクハラではないぞ。

「私は神殿に引きこもってるからか、精霊石はよく見ますけれど、魔核を見ること自体がマレです。とはいえ、それなりには見たことはあるんですが……。こんなサイズは経験ありません」

「ははぁ。こんな大きいのは経験ありませんか」

断じてセクハラではない。

「ええ。でもこんなサイズの魔核の持ち主ならば、相当に強かったのではないですか?」

「もちろん強敵でした。勝てたのは運がよかったとしか言いようがないです」

実際、薄皮一枚の幸運で勝ち取ったようなものだ。

「しかしディアナ。神官さまを呼んだなら呼んだと一言云ってくれよな。そうすればもう少し違った戦い方があったかもしれないんだから……。時間稼ぎしたりとか」

時間稼ぎができる状況ではなかったけどね。

しかし、それはそれ、これはこれだ。

状況はすべて把握しておくに越したことはない。

増援があると知って戦うのと、増援なく戦うのとでは、まるっきり違うものなんだろうしな。

「……私は、モンスターに慣れていないのです」

ふてくされたように呟くディアナ。

「ん? 俺だって慣れてないよ」

スケルトン以来、2体目だし。

ましてあんなデカいの。

モンスターがどうのってより、生物として怖いだろ。猛獣じゃん。

「ふふ、ジローさん。いけませんね。魔素の塊によって構成されたモンスターという存在自体が、エルフにとっては環境を損なうものなんですよ。まして、ディアナさまは生粋のエルフ。これほどの魔核を持つ存在が近くに湧いたのなら、周囲の精霊力はかなり希薄になったことでしょう。おそらく、私でも平静を失っていたと思いますよ」

そういうものなのか。

確かにクマが湧いたとき、珍しくビビってるみたいだったけど……。

「エルフにとっての周囲の精霊力の枯渇。それは、ヒトで例えるなら、空気が突然薄くなるような感覚に近いと言われています。エルフ族にとっては唯一にして最大の弱点と言ってもいいでしょう」

「そういうもんだったんですか」

「そういうもんだったんです」

そういうものならしょうがない。

そうだから、そうなんだ。

「……ところでジローさん。ちょっと手を、いいですか?」

神官ちゃんが、「手相みてやるから、ほら、手を出せ」と言わんばかりに右手を差し出してくる。

俺が手を出すと、ずっと前に祝福を授けた時と同じように、両手で包み込み、目を閉じる。

「……ど、どうしたんですか。神官さま……?」

場が変な空気になる。

ディアナがつかつかと歩みよってくる。

不気味なオーラを発しながら、なにか言い掛けて、また口を閉じるのを数度繰り返す。

なにがしたいんだ、神官ちゃんも、ディアナも。

「すごい……やっぱりそうです。さすがですね、ジローさん。新たなる天職の萌芽を感じます。私の長い神官生活でも、ここに至った方は数える程度。おめでとうございます、クラスチェ――」

「神官! それは私がやろうと思っていたことなのです。許しませんよ」

ディアナが口を挟む。

「ディアナさま。しかし、こういうことは神官の私のほうが――」

「いいえ、私がやる、やりたいのです。……せっかく黙っていて、二人きりの時にやろうと思っていたのに……」

「それは失礼しました。ディアナさまの邪魔をするつもりはありません」

「わかればいいのです……」

そして、エルフ二人でなにやら言い合いを始めてしまう。

「なんだか知らんけど、ディアナって神官さまには妙に偉そうに振る舞うんだな」

なんとなく気になり、ポロっとこぼす。

「え? もしかしてジローさんご存じないんです?」

「ご存じないです」

神官ちゃんが澄まし顔で答えてくれたことによると、ハイエルフというのはル・バラカの神官にとって、大精霊の代行者とでも言うべき存在で、すべての神官の上に立つ象徴的な存在なのだとか。

言うならば、神道における天皇みたいなものだろうか。

お姫さまなんて冗談で言ってたけど、その遙かに上を行く存在なのかもしれなかったんだな。

◇◆◆◆◇

せっかく神官ちゃんが来てくれたので、クランのことも聞いてみた。

「クラン……? クランクラン……。確かどこかで聞いたことあるはずですが……。すみません、ちょっと思い出せません。先任者との引継ぎで聞いたような記憶はあるのですが……」

「神官さまでもわかりませんか」

「帝都の大神殿に問い合わせればわかると思います。少し時間をいただいても?」

「はい、おねがいします」

なんでこうわけのわからないお導きばかり出るんだかな。

もっとシンプルなやつが出て欲しいものだ。

「薬草を採取しよう!」とかさ。

そういうの。

ちなみに今でているお導きは――。

そう思い天職板を出したら、新しいの増えてた。

”クラスアップしよう 0/1”

ああ、これか。神官ちゃんが言い掛けた「クラスチェ……」の正体は。

はっきり「クラスアップ」と書いてあるけど、神官ちゃんが言い掛けたのは、「クラスチェンジ」かな? 微妙に違うけど、同じようなもんだろう。

しかし、クラスアップか! どの天職がアップするのだかわからないけど、すげー楽しみだ。

すぐにやってもらいたいくらいだけど、ディアナがやってくれるらしいからな。

なんか準備とか必要なのかな? そもそも、あいつ精霊魔法は限定的にしか使えないとか言ってたくせに、できんのか?

クラスアップというと、ゲームだと職業のランクが上がるような感じのアレのはず。剣士が 戦士(ファイター) になったり 侍(サムライ) になったり 忍者(ニンジャ) になったりするんだろう。きっと。

あ、なるほど。

神官ちゃんが「チェンジ」と行ったのは、「アップダウン」で分けると、天職の上下関係ができてしまうから、それを嫌ったんだな。

あくまでチェンジして、天職が変わるという考え方。

ま、詭弁だけどね。

さて、現在出ているお導きは――

”クラスアップしよう 0/1

”クラン登録してみよう 1/2

”御用商と商取引をしよう 2/3

”鉱山街に行ってみよう 0/3

”湖畔街へ行ってみよう 0/3

”マイホームを手に入れよう 0/1

” 運命の大車輪(?・??????) 9/10

あまりお導きに対して積極的じゃなかったからってのもあるだろうが、気づいたらけっこう溜まってしまったな。

7個もあるじゃん。

とはいえ、すぐにクリアできそうなのは、クラスアップくらいのものだ。

クラン登録は、どうやって登録するのか不明で、神官ちゃんの調査次第。

御用商との取引は、まあエフタか、もしかするとへティーさんと取引するだけでクリアできる。ただこれは、エフタに高いものを売りつける口実になるので、もう少し暖めたい。

鉱山街は、エリシェからも比較的近い場所にあるルクラエラという鉱山の麓にある街のことだろう。これはそろそろ行ってみようと考えていたところだが、進捗状況が0/3だ。

つまり、わりとやっかいなお導きの可能性がある。ルクラエラに行ったとしても、達成までやるかどうかは微妙なところだな。

湖畔街は、例のヘリパイールとかいうウナギが名物な景勝地である。とりあえずは行く予定がない。いずれ、みんなで遊びに行きたい場所ではあるが。ウナギ食べたいし!

マイホームを手に入れように関しては、本当になぜクリアとならないのかわからない。あの屋敷じゃダメなんだろうか。

運命の大車輪も、最後の一行程を残し音沙汰ない。

だが、いったい何のためにお導きをクリアするんだろう。

そんなのは言うまでもない。精霊石の為だ。

死にかけた人間を完全回復させたり、物品に特殊効果を付与したり、若返らせたり。

精霊石は奇跡の石だ。

こっちでの価値はおよそ金貨20枚。300万円程度のものだが、地球でならどれほどの価値となるのか、想像もできない。

精霊石一つで若返ることができる年齢は、およそ一歳分ほどらしい。

10個あれば10年若返ることができる。

30個あれば30年若返ることができる。

世界中の富豪が、いくらでも金を出すだろう。

まあ、エルフがいなければただの石だけどもね……。

少し話がずれた。

要するに、精霊石はとても良いものだけど、金で買えるってことなのだ。

金貨20枚は大金である。

だが今の俺には、買おうと思えば隔月くらいで買える程には収入があるのだ。

いや、これからもっと商売を拡大させていくことを考えれば、お導きを無理にやるよりも、商売をがんばって、その金で精霊石を買ったほうが効率もいいし、なにより確実である。

――だから、わざわざお導きをやるのは、俺にとって道楽みたいなものだ。

「この魔結晶売れるのかな。売れたら、騎士隊の装備調えたりしたいですね。精霊石も買ってディアナに持たせておきたいですし」

「魔結晶ならトビーのところで買い取ってもらえるぞ。だが、いいのか? このサイズは手に入れようと思って手に入るものではないんだぞ?」

「ええ、まあ。……使い道もわかりませんし」

「魔結晶は精霊石と同じだ。魔素の塊なんだからな。このあたりには、魔族がいないからすぐに使うというわけにはいかんだろうが……」

魔族? またなんとも言えないワードが飛び出したな。

「魔族ってのは南に住む少数民族だ。魔素の扱いに長け、召喚魔法を得意とする。昔、戦ったことがあるが厄介なやつだった」

エルフみたいなもの……か?

エルフが精霊力の扱いに長け、精霊石から力を取り出して使うことができて、精霊魔法を得意とする。戦闘力が高いという点も似ている。

とすると、この魔結晶は精霊石のドデカいやつと考えられるのか。

じゃあ、とっといたほうがいいかなぁ。

だが、クマにやられたマリナの鎧も修理しなきゃだし、俺も防具が欲しい。レベッカさんもちゃんとした装備を持っているわけじゃないし、エレピピの武器防具も揃えたい。

商売で稼いだ分でも、買えなくはないが、まとまった金が用意できると良かったんだがな。

うーん……。

そういえば、クエスト達成の報酬も出てたんだっけ。

50ゴールドとか言って、実にショボくて泣けるけど、金貨5枚くらいは入ってたんかな。袋に入ってるのを持った感じ、5枚くらいしか入ってなさそうだったんだけど。

クエスト報酬の袋をのぞき込んでみると、確かにコインが5枚ほど入っている。

一枚取り出してみる。

金貨じゃない。ゴールドとかいう名前とは裏腹に、白いコインだった。

昔、駄菓子屋で売っていたラムネでできたコイン型のお菓子みたいだ。

ズシリとした重みがあるし、お菓子ではあり得ないんだが。

「うーん? 金貨じゃないですね。これ。レベッカさんわかります?」

「……ジ、ジロー……? それ。ちょ、ちょっと見せてもらっていい?」

「いいですけど、わかります?」

レベッカさんに一枚渡す。

「……う、うあ。わわわわ、し、しんかんさま、これ、これこれ」

コインを見て、ギョッと目を剥いてパニックになるレベッカさん。

「ど、どうしたのよレベッカ。良い女は決して慌ててはいけないとあれほど……。う? ……うわわわわ! ピ、ピピ、ピュセル精霊貨!!!」

「し、神官さま。ホンモノ……?」

「ホンモノよこれ……。ジローさん、いったい何処でこれを……?」

なんだか、ものすごいものらしい。

考えてみたら1000年前のクエストクリアの報酬なんだし、現在ではけっこう価値があるってこともありえたってことかもな。

入手の経緯をザッと説明する。

神官ちゃんはふんふんと可愛く耳を傾けていたが、ふぅーと息を吐きだした。

「ジローさん。これは、大昔、精霊文化時代に使われていたとされているお金で、ピュセル精霊貨というものです。当時、一般的に流通していたという記録があるわりに、現存するものは少なく……とても価値があるものなんですよ」

なるほど。文化遺産ってわけか。

「価値。高く売れるんですかね」

今は、文化遺産より現金だ。高く売れるならラッキーだ。

「そうですね。たぶん、一枚で金貨で50枚程度にはなると思います」

え?

50枚?

ちょ、マジか。

金貨一枚はだいたい15万円くらいの価値。ということは、こんなコイン一枚が750万円もするってことだぞ!?

価値があるったって、昔の10ゴールドじゃないの。

それが5枚あるから、えっと……3750万円……。

あわわわわ。

とりあえず言えることは、魔結晶を売らなくても、金のことはどうにでもなりそうだということやで……。

よし。3枚ほど売ってしまおう。

そんで、お導きを一つ進めよう。

装備の買い付けと、慰安旅行を兼ねて、鉱山街ルクラエラへね!