軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第45話  プラチナブロンドはお正月の香り

次の日、通常では考えられないほど早い時間に起床した俺は(と言っても6時ですけどね……。朝早く起きる必要のないニートっスから……)、両親への新年のあいさつもそこそこに鏡から向こうの世界へと渡った。

屋敷ではすでにディアナもマリナも起きていて、マリナは上機嫌で井戸から水を汲み台所のカメに移しているところで、朝からなかなか働き者だ。

俺に気が付くと最高の笑顔で朝の挨拶をしてくれた。こりゃあ、新年そうそう景気が 良(い) いでぇ……。

そしてディアナは……起きてるは起きてるんだが、まだ部屋のベッドでボンヤリと、しかし優雅に髪なんか 梳(と) かしているところだった。

……あ、あかん! こいつやっぱりお姫さまや!

「おはようディアナ。昨晩はよく眠れた?」

俺が声を掛けると、俺の存在に気が付いていなかったらしく、ビクリと体を震わせ振りかえった。ひょっとするとまだ寝ぼけていたのかもしれない。まあ別に部屋に入る前にノックもしなかったけども。

ディアナは顔を薄く赤らめ(刺青のせいでイマイチわかりづらいけど)言った。

「あ……、ご主人さま。おはようございます。……わ、私まだ今さっき起きたところなのです」

「じゃあよく眠れたんだ。結局マリナと一緒に寝たん?」

「はい。床で寝ようとするマリナをなだめるのに少しだけ苦労しましたけど」

一緒に寝ろよとは言っておいたけど、やっぱりすぐに一緒に寝たりはしなかったんだなぁ。

早急に一緒に寝るのに慣れてもらわないと、「いつもどおりに2人で寝ているところにご主人さまが混ざる」というスーパープレイに支障をきたすからな……。いや、昨晩思いついたんだけどさコレ。一人一人相手するのもいいけど、なんていうか不公平感? があるかなーなんて思っちゃったりして。

やっぱ男ならエルフ丼目指すべきだよね。

どうやってマリナをなだめたかも聞いてみた。

多分「ワラワも同じ奴隷でござる。遠慮は無用ナリよ」とかなんとか言ったんだろうと思ったんだけども――。

「最初は同じ奴隷だから遠慮はいらないと言ったのですけれど、なかなかマリナも強情で言うことを聞かなかったのです。なので少し方向性を変えて『――ならこのベッドは以降私とご主人さまの専用とするのです。マリナには別の部屋を用意するのよ』と言ってみたら『や、やっぱり気が変わったであります。姫といっしょに寝るであります』なんて急に素直になったのです。宿でご主人さまがいっしょに寝るって言った時は、あーんなに緊張しちゃってご主人さまに気を使わせたくせに」

「緊張していたのは俺も同じだけどな……。むしろお前がアッサリしすぎてるくらいなんじゃ……」と思ったが、それは言わずにおいた。

ま、とにかく2人で仲良く? 寝たようだし、しばらくはそうやって親睦を深めてもらおう。

ディアナはこうして話している間も、プラチナブロンドの腰まで届く長い髪をジックリと 梳(と) かしていた。

昔……というか今でも地域によっては、女性の髪というのは売れるものだったらしい。黒髪一択な日本ではあまりピンと来ないが、ディアナの長く美しい髪を見ていれば、なるほど確かにこれは需要があるのも頷ける。ウィッグにするとかエクステにするとか、そういうの抜きにしてもこれは価値のあるものだ。

マリナのパープルの髪もキレイだと思うが、ディアナのこの腰まで伸びるプラチナブロンドにはさすがに敵わないと言わざるを得ない。

絹糸のように繊細で、窓から射す光を受け淡く輝き、それでいてしっとりと濡れるように艶やか。光の加減によって、亜麻色、金色、アイボリーとしなやかにグラデーションする。

正直、金髪とかって現物をあんまり見たことなかったし、見たとしても下品に染色したか脱色したかした痛んだ髪くらいのものだったので、このディアナの芸術的な頭髪には、ある種圧倒されるものがあった。

こっちの世界で売ったらさぞかし良い値が付くんだろうな。日本でもドール用として売ればそれなりに値が付くかもしれないけど。

そんなことを考えながら、ジットリとディアナが髪を整えるのを見物していると、チラチラとこっちを伺っていたディアナが申し訳なさそうに言った。

「あ……あのご主人さま、寝起きの姿をあんまり見られると……恥ずかしいといいますか……。奴隷の分際でこんなことを言える筋合いでもないのですけれど……」

「ああ、ごめん。つい、見とれちゃってたな」

俺が素直にそう言うと、「えっ」と意外そうに驚いたディアナだった。

しかし寝起きが恥ずかしいなんていう、普通の女の子みたいな感覚があるとは思ってなかったな。割といつも泰然自若としてるのかと……。

◇◆◆◆◇

突然だが、うちの母親はなにか料理を作るとき必ず多めに作る。

ひとたびカレーを作れば2日どころか3日目まで残ってることはザラだし、朝の味噌汁が夜にも出るなんてのは日常茶飯事。兄貴も姉貴も俺も太ってるわけじゃないけど、わりと量食べるほうだったから、自然とそうなったのかもしれない。

なので当然というか台所には、元旦のお雑煮も大量に作りおかれており、コッソリちょろまかして異世界に持ち込むのもたやすい仕事だった。ディアナもマリナもモチビギナーなんだろうし、とりあえず一人につきモチは2つ用意。あらかじめオーブントースターで焼いてから、行平鍋に移した雑煮に放り込んでおいた。

昨夜のソバは、ほとんど違和感なく食べていたけどモチにはどんな反応するのかな?

「これは『モチ』というもので、米をコネて作ったもんだ。こっちの世界にはない……と思うが。まあ、とにかく食べてみてよ!」

そういって2人に(とっては未知の食べ物である)雑煮を勧める。最初はニョーンと伸びる不可思議な 物体(モチです) におっかなびっくりな2人だったが、意を決して食いついたのだった。

前のクリスマスケーキの時もそうだったけど、こういう時ディアナはさりげなくマリナに先に食べさせて毒見というか味見をさせる感じがあって、なかなかズルい。まあ、悪気はなくてお姫さま特有のものだったりするのかもしれないし、どうでもいいんだが。

「ハフッ! ハフッ! 変わった食感であります。ペタペタネチネチしてて美味しいであります!」

「ははは。あんまり急いで食べると、ノドに詰まらせるぞ」

マリナが喜んで食べるのを見て、恐る恐る口にモチを運ぶディアナ。

「あ、これは……、ムックフに似ているのです。でも、ムックフみたいなパサつきがなくて、おいしい……」

どうやらディアナも気に入ってくれたようだ。

我が家のお雑煮のダシも(薄口醤油ベース)口に合うようだし良かった。どうもムックフなるモチと似た食べ物があるみたいだし、やはり食文化発達してるよなぁこの世界。

まあ、美味しいもの沢山食べられるし、俺としては大歓迎だけどね。

あんまり食品売って儲けようという気もないし。

「さて……、腹が膨れたところで話なんだが、今日は実は俺の世界では正月っていう、要するに一年の始まりの日でな」

「おおお、そんな大切な日だったんでありますか? マリナ、なにも知らずノホホンとしてたであります。奴隷失格であります……」

「せめて一言、仰っていただければ……」

想像以上に気にする2人。こっちの世界じゃ正月って大切なイベントなのかな。まあ、俺的にはお雑煮食べれば終了程度、それか、暇だったら初詣に行くかもって程度でしかないんだから問題ないんだけど。

「なんつーかな。こっちの世界の感覚とはちょっと違ってな。俺のほうの正月はノンビリ休むだけの日みたいなもんなんだよ。だからなんか特別なこととかしないし、気にするような事はなにもないよ。こっちの世界の正月の時にでも、ちゃんとこっち式で……。って、いつまでもこっちだのあっちだのじゃわかりにくいな。この世界ってなんて名前なんだ?」

そういや名前知らなかった。星という概念があるのかわからないが、なんかしらこの世界の名前があるだろう。

「セカイってなんでありますか? ここはハノーク帝国領内でありますよ」

「マリナ、それは現在のこの土地の所有国がどこにあたるかというだけなのですよ……」

マリナが国名を答え、俺の代わりにディアナが突っ込む。

「へぇ、ディアナは知っているのか?」

「エメスパレット。それがこの世界の名前なのよ、ご主人さま」

澄まして答えるディアナ。軽くドヤ顔だ。

すこし突っ込んで聞いてやろう。

「エメスパレットってのがこの惑星の名前なのか?」

「? ワクセイですか?」

「いや、やっぱなんでもない」

惑星の概念はなかったようだ。ひょっとすると世界の果ては滝になってたり、大地は巨大な亀が支えてたりすると思ってるのかもしれない。

まあ、いずれにせよ、これでこっちとかあっちとか言わずに済むな。

「よし。じゃあ、これからはこっちの世界のことはエメスパレット、向こうのことは日本て言うからな。覚えておいてくれ。……マリナわかった?」

「了解であります! ……ところでセカイってなんでありますか?」

結局最初から説明したのだった。

その後、2人にこれからの生活の予定を話した。

村で お手伝い(メイド) さんを雇って、この屋敷の管理を頼むつもりだという件。これは(メイドさん雇ったとしても)一人ですべてやるのは到底無理だろうから、マリナとディアナにも当然やってもらうつもり。得手不得手もあるだろうし、いろいろ試しながらな。

ディアナとマリナは俺の護衛をしながら商売を手伝ってもらうつもりだという件。そう考えてみるとマリナの 武器(ハルバード) はちょっと物々しかったかもしれないな。街中であんなもん担いで歩いてたら軽く引かれそうだわ。

数日後に馬市が立つということなので、その時にヘティーさんに馬を買ってもらう件。一応前に3頭買ってもらう約束してあるし、実際に馬主(より実際的な意味で)になれるなんて夢のようだな。まだ乗馬の練習は不足というか、ぜんぜんやってないんで宝の持ち腐れにならないように練習しなければイカン。

エメスパレットで買った品を日本で売って、エメスパレットでは日本で買ったものを売るってのが商売の基本的な形になるという件。

こっちで商品を売る方法についてはまだ考え中。

蚤の市で売るのもいいんだけど、あれは毎日やってるわけじゃない。だったら、毎日やってる市場に店を出させてもらったほうがまだ現実的かもしれない。

それか、小さい店を出すか、小売はやめて問屋業をやるって手もある。まあ、問屋は楽そうだけど変に商売の規模が大きくなると、敵も増やしそうだし、基本的には自分たちだけで完結する商売にしたいところだ。

戦闘訓練は引き続き、時間あるときにシェローさん達に教わる予定だという件。乗馬の練習もまだまだ足りてないし、そっちもやっていかなきゃな。

――――でもまあ、とりあえず今日は正月だし、街に繰り出して遊ぼうぜ! と提案して街に向かうことにした。

俺はバッグだけ持って手ぶらだ。せっかく剣買ったんだし腰にぶら下げて歩きたかったけど、まだ鞘を作ってなかったのだった。さすがに抜き身で持ち歩くわけにもいくまい……。

ディアナも当然というか手ぶらで、一応マリナには護衛ということでハルバードを持たせた。

テクテクと小一時間歩いて、街に到着。2人に用意してあったものを渡す。

「はいこれ、お年玉」

なんのことかわからずキョトンとする2人。

ちゃんとポチ袋まで用意して、銀貨を一枚だけ(つっても1万円以上の価値があるんだけど)入れたものを一つずつ。

「日本の正月ではな、目上のものが目下のものに『お年玉』というものを贈る風習があるのだ。今日はそれ使って好きに遊んできていいよ。明日からまた忙しくなるだろうし、やっぱたまには羽伸ばさねーと」

俺がそう言うと(2人にお年玉をあげようってのは数日前から考えていた)、2人は顔を見合わせた。

……あれ? また、いまいち芳しくない反応。喜んでもらえると思ったんだけどな。

ディアナは単純に予想してなくて驚いているだけのようだが、マリナはどうも違うみたい。

おもむろにポチ袋の中身を取り出し、中から銀貨が出てきてようやく俺が言ったことを理解したらしく、驚いたり笑ったり泣きそうになったりという百面相を見せ、それから涙をうっすら浮かべながら言った。

「あ、主どの。マ、マリナ、こんなにいただけるような働きはまだなんにもしてないであります……。それに、マリナの仕事は主どのの側にいる、主どのを守ることであります。……好きにして良いならば、マリナは……主どのの側にいたいのであります……」

とつぜん告白めいた事を言い出すマリナ。なに急に、この子……。こっちが赤面しちゃうよ!

「そ、そうか……? じゃあいっしょにそのへん周ろうか、マリナ」

「い、いいんでありますか? …………うれしい」

淡く微笑んで頬を染めるマリナ。

たぶん、単純に忠誠心みたいなもんで言ってるんだろうとは思うんだけど、こんな風に言われたら男なら誰でも勘違いしちゃうよね。マリナ……恐ろしい子……。

ディアナは俺とマリナのそんなやりとりをジト目で見ていたが、「今日だけはマリナにご主人さまを貸してあげるのです。……特別な日ですから」とだけ言ってプイッと行ってしまった。

特別な日? 元日だからってことなのかな。ディアナの考えてることはいまいちわからんわ。