軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第155話  二日目は四次元殺法の香り

二日目の朝。

前晩はさすがにお酒は禁止とした。

夜中にキャンプファイヤー囲んで飲み食いして、その上さらに酒まで入ったら100%二日酔いコースだ。

元傭兵団のメンバーたちはブーブー文句を言ったが、ここはオーナー権限で断固突っぱねた。二日目からがむしろ本番なのに、前哨戦で終わった気になられても困る。

その代わり、三日目が終わったら、好きなだけ飲み食いさせる約束をさせられた。

まあ、一日目のヒトツヅキだけでも、魔結晶が1000個以上取れたし、モンスターの装備品もある程度は残った。一日目のモンスターのドロップ品じゃあ、そこまで金にならないだろうが、二日目、三日目は別だろう。

となれば、このヒトツヅキさえ乗り切れば、ヒトツヅキ成金になれるのは確定だ。いや、メンバーにも振り分けなきゃだから、そんなに儲からないかもだが。

とにかく、打ち上げ費用くらいは軽く出るだろう。

ヒトツヅキ一日目。エリシェ周辺のスポットはどこも無難に終了することができたようだ。

うちは軽い怪我をしたものが数人。これは神官ちゃんの通常魔法だけで全快した。精霊石は未だひとつも使用せず丸ごと残っているんで、全部持ち越せている。

他のスポットではすでに精霊石を半分も使ってしまったところもあるらしく、不安を残した恰好だ。とはいえ、事前に準備を促しておいたのが幸いして、ラストのスタチュー相手にもバリスタをうまく使って(俺が設計図を用意したものより威力も精度も低い、元々この世界にあった物だが)死人を出さずに倒すことができたのだそうだ。

そして、二日目のヒトツヅキが始まる――

「さあ、今日こそは戦いに参加させてもらいますよ!」

俺は総隊長であるレベッカさんに詰め寄った。

昨日は俺一人だけのほほんと遊んでた感じで、実に消化不良だった。

俺だって戦いに参加したいのだ。

全員すでに現場入りし、これから全体でミーティングをするところ。

「もちろん、そのつもりだわよ。私も今日は戦うしね。ここはエトワに任せる」

「あ、そうなんですか?」

「今日と明日は余裕ないと思うわよ。今のうちにジローも心の準備しておきなさい。例えば、誰かが死んだとしても最後まで戦い続けられるように……とかね」

レベッカさんの言葉は重々しかったが、実際命がけなのだ。

クランメンバーは生き還れるということは、俺だけが知っている。

この世界がゲームだと俺だけが知っている。

ちなみに神官ちゃんは、昨日のうちにクランメンバーに登録した。

実は自分もクランに入りたかったらしく、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ様はたいそう可愛らしく、ちょっと死んでもいい気分にすらなった。

今日と明日、神官ちゃんにはかなり働いてもらうことになる。つまり、前線近くにいてもらうことになるわけで、クラン登録は必須だった。

エトワが総指揮というところで、ちょっとしたドヨメキが起こったが、それ以外では新人さんが後方待機になるってくらいしか変更点はない。戦術そのものは昨日と同様、硬くてデカイモンスターは鉄球、その他のは適宜バリスタ、モンスターは適当に左右に散らせて撃破。

新人さんはみんな後方待機となるんで、オリカの料理を手伝ったり、疲れた先輩にレモンのハチミツ漬けを差し入れる役目となる。もし、前線部隊が壊滅したら結界内に逃げろと言ってあるが無駄だろう。新人さん達は、みな強くはなくとも『騎士』ではあるのだ。自分たちの後ろに村や街があるのに、逃げ出すということはできないだろう。だが、まあそのときはそのときだ。

時間が来て、二日目のヒトツヅキが幕を開けた。

今日は東側を元傭兵軍団で固め、西側を古参軍団で固めた。

中央はシャマシュさんと召喚魔獣、数名の元傭兵戦士と弓兵隊が陣取る。

総指揮はエトワ。物見ヤグラから、各隊へ指令を送る大事な仕事だが、エトワならやれるだろう。

戦力分布だが、こちら側は、怪物シェローさん、聖剣持ちのドラグーンであるレベッカさん、マジックウェポンである戦鎚を持ったマリナ、将軍で聖騎士なイオンという布陣。

エレピピは戦力的に二日目は厳しかろうという判断で、物見ヤグラ(召喚塔)でトランシーバー係をやってもらっている。

あちら側は、死神ヘティーさんを筆頭に、百戦錬磨の傭兵達が揃っている。

これだけの戦力でいきなりピンチになることはないはずだ。そんなことになるなら、普通に世界がヤバい。世界トップ級の戦力が何人か揃ってるんだからな。

森を掻き分けて一体目のモンスターが姿を現す。

資料によると、湧くモンスターの種類が二日目で一変するらしいが――

『一体目はワータイガー! 私の親戚みたいなモンスターです!』

トランシーバーからエトワの叫び声が聞こえてくる。

ワータイガーってのは、虎の頭を持った人間風のモンスターのことらしい。

分かれ道まで歩いてきたのを、俺も確認した。

「なるほど、タイガーマスクか」

もう、そうとしか言いようがない。

頭だけ虎なのだ。ちゃんとズボン穿いてるし、モンスターというより、変わり者のオッサンという風情。

「来るわよっ!」

レベッカさんが注意を促す。

オッサンはこちら側を標的に決めたようだ。

感情を窺えないモンスター特有の視線がハッキリと俺を捉えている。

そして、次の瞬間、その身体が跳ねた。

「速いっ!」

昨日のモンスターとは比べ物にならない俊敏さで、あっという間に肉薄。

まさに虎の俊敏さだが――

「させませんよ!」

イオンが立ちはだかり、

「あー! マリナがやりたかったでありますのに!」

マリナが地団駄を踏んだ。

「グァウ!」

ワータイガーが、立ちはだかるイオンに強烈なパンチを放つ。

正拳突きというよりは、ボクシングの右ストレートという感じ。

まさかの格闘家スタイルである。虎のキバやツメはどうしたのか。案外、スピードと体重を活かしたボクサースタイルのほうが強いのだろうか。いやタイガーマスクだから当然なのか、空中殺法とか使ってくるのか。

イオンは、ワータイガーの攻撃を盾や剣でいなしつつ、一進一退の攻防を続けている。

敵もさるもの、単純な動きが多い今までのモンスターとは違い、動きに知性のヒラメキがある。魔力に反応して攻撃してくるというより、敵をしっかり認識して攻撃を仕掛けてきている。

イオンは天職に恵まれ、それなりの戦闘訓練も受けているのだが、決して修羅場をくぐってきたわけではない。

動きが速く守りも硬いワータイガー相手に攻めあぐねている。

「くぅ! ならば、これでっ!」

横薙ぎの剣閃を、鮮やかにバック転で躱したワータイガーに、イオンが魔術で一条の火線を疾走らせた。

イオンは魔術師でもあるのだ。シャマシュさんに二年もじっくり習っていたことは知ってたが、実戦でこれだけ鮮やかに使えるとは思ってなかった。

炎は真っ直ぐに空中を突き進み、ワータイガーの顔面に直撃した。

「グワァウッ!」

モンスターのくせに悲鳴をあげたワータイガーに、イオンが踏み込み、鋼の剣を一閃させる。

激しく光片が飛び散る。畳み掛ける。連続でイオンの剣が唸る。

一度崩してしまえば、こちらのもの。四度目の攻撃でワータイガーは光の粒となり消滅した。

思っていたよりも強い。

イオンが……ではなく、モンスターがである。

「おつかれ。いや、驚きだな。昨日のモンスターとは比べもんにならない」

「はぁ、はぁ。そうですね。一体にこんなにてこずってしまうようでは……」

イオンが少し息を乱しながら答える。

イオンは将軍の天職を授かり、アイザックに師事して四年だか五年くらいは訓練を続けていたのだし(週一回だけど)、それなりの戦闘力は持っている。

昨日のモンスターくらいなら、どれもほとんど楽勝だったのだ。

それが、本日一発目のモンスターでそこそこ苦戦してしまった。

これはけっこうヤバいかもしれない……。

『次! 出ました。犬です! 赤い目の大きい犬!』

トランシーバーからエトワの声。

確認すると、確かに赤い目の大きな黒犬だ。

今度はヘティーさんの側に走っていった。

「今のはヘルハウンドね。ちょっと思ってたより、手強いモンスターばかりかも……」

レベッカさんが不安そうに呟く。

まあ、そのヘルハウンドはノリリンに一撃で殺されてるわけだが、あのへんは例外というものだろう。

『次出ます! 今度は顔が犬の人型モンスターです!』

今度はワーウルフだった。ワータイガーとの違いはよくわからないが、狼男とタイガーマスクでは実情はだいぶ違うのではないかと思った。

こっちに走って襲いかかってきたものの、シェローさんに一撃で殺されて終わったので、確認する暇もなかったが。

◇◆◆◆◇

『エトワ、どうだ? だいたい何分ごとに出てる?』

『昨日よりもバラつきがありますね。最短一分、長くて四分です』

二日目が始まっておよそ一時間。

モンスターの湧き時間は昨日よりかなり間隔が長い。

けっこう一撃で倒せるモンスターが多いんで、意外と今のところは余裕だ。

こっちが強いってだけなのかもしれないが。

『ご主人さま。神官宛てに緊急救援要請が出ているのです』

『え、マジで』

ディアナからトランシーバーで連絡が来る。

同時に連絡が入ったのか、神官ちゃんが慌てた様子でこっちに走ってきた。

「ジローさん! ここ以外のスポットはすでに壊滅寸前との報が入りました。幸い、まだ死人は出ていないようですが、時間の問題と……!」

「ええええ、まだ始まって一時間くらいですよ!?」

「こんなに余裕なここがおかしいんです! まだ精霊石ひとつも使ってないんですよ!」

んなこと言ってもな。俺は俺と俺周辺を護るために、手を打っていただけだし、まだ二日目終わってないし、一番ガチっぽい三日目だってあるんだから。

「要するに救援が欲しいってことなんですよね」

「……はい。こんなお願いしていいとは思っていません。私にできるお返しならします。助けて……あげてくれませんか」

「う~ん……」

この場合、他のところがヤバいから、戦力を貸せということだろう。

そういうことになる可能性も当然考えてはいたが……。

うちはエリシェから戦士を貰ってないから、戦力は全部自前のものなんだけどなぁ。

「まぁ……正直に言えば嫌です。なぜかというと、彼女たちがもしここで死んだとしても、それは僕が僕の管轄で僕の責任の上で死ぬのだから、僕自身が納得できるからですよ。でも、他所に貸し出して僕のあずかり知らぬ所で戦死したりとか、それは絶対に納得できません。というか、他のところの戦い方を信用してないんで」

神官ちゃんにこんなことを言っても仕方がないが、言わなきゃならないことだ。

他のモンスタースポットが壊滅しようと、それはそいつらの責任だ。どうして、ちゃんとやってるこっちが割りを食わなきゃならない。こっちは自前だけでやってんのに。精霊石だって自分らで用意してんのに。

「そう……ですよね……。でも、このままではエリシェにまで、モンスターが押し寄せてしまいます。街にはジローさんにだって知り合いはいるでしょう……?」

「まあそうですね」

結局そうなのだ。

事ここに至っては、もううちから戦力を出す以外にない。

つまるところ、ヒトツヅキ対策が不十分だった。

そういうことなのだ。

より万全を期すのなら、他のスポットの面倒だって見なければならなかった。

いや、そもそも、戦士をどっかに引きぬかれて十分に確保できなかったハンターズギルドが悪いのだ。いや、違うか。引きぬかれていった戦士が悪いのか。それとも引き抜いていった誰かが悪いのか。

とにかく、ヒトツヅキが『此岸めぐり』である可能性が出た時点で、もっとちゃんと考えなければならなかったのだ。

「それで、どれくらい戦力必要なんですか? うちだって、そこまで割けませんよ。……いや、ちょっと待って下さい」

戦力を変に分散するほうが危ない気がする。

バラバラの戦士として残りのスポットに分散して送っても焼け石に水――とまでは言わないが、微妙そう。

頭数で考えるより、部隊として考えたほうがいいんじゃなかろうか。

だとすれば――

「……ヘティーさんの元傭兵団員をヘティーさん以外、丸ごと送りましょう」

「えっ。いいんですか?」

「はい。その代わり、その人員でスポットを一つ抑えてもらいましょう。元々そこで戦っていた戦士は他のスポットに合流。つまり、うちらで二つ、ギルドで二つのスポットを抑えるようにする形にします。もちろん、エルフだけは残って貰わないと困りますが」

エリシェ周辺のモンスタースポットは全部で四つ。

ギルドが抑えているのが三つで、これが壊滅寸前ということなので、三つのうちの一つをさらにうちでカバーすることにする。で、元々そこで戦っていた戦士は、残りの二つに合流。エルフは各スポットに一人配置されているから、さすがに残ってもらう。

これ以上は譲歩できない。

元傭兵団を全員出すのはさすがに厳しいので、ヘティーさんだけ残ってもらう。あの人一人だけで一〇〇人力だからな。

元傭兵団はヘティーさん抜きでも、ミヤミヤが指揮を代行できるから問題あるまい。

てかさー。ハンターズギルド使えなすぎだろ。仕事しろっての。

「神官さまが持っている精霊石は全部ノリリンかミヤミヤに渡してください。向こうの神官が使えばいいでしょう。うちは自前のがありますから」

「……ありがとうございます、ジローさん。この礼は必ず……街からも、私個人からもさせてもらいます」

「ふふ、ま、無事に生き残れたらですよ、そういうのは」

神官ちゃんからの個人的なお礼は気になるが、元傭兵たちが抜けるのは実際かなり痛い。

これで、うちでちゃんと戦えるのは、俺、マリナ、イオン、レベッカさん、シャマシュさん、ヘティーさん、シェローさん、神官ちゃんの八名こっきりだ。

エトワとエレピピは通信係。新人さんたちは、後方待機。

ディアナは……回復役だ。

人間相手ならディアナでも使える地味な精霊魔法も有効だが、今日明日のモンスター相手には針ほどの効果もないだろう。

さすがに、あれだけ人数がゴッソリ減るのは痛いが、みんな一騎当千の戦士ばかりだ。シャマシュさんの召喚魔獣だっている。

だとしても、たった八人。本腰入れて戦わなきゃだ。

ナマモノは任せろ!!