軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第144話  新店はエキゾチックの香り

新店舗の準備が完全に整い、ついにオープンの日を迎えた。

オープン記念の花を自分で調達してきて飾りつけた。

ショーウインドウには、うちの布で作ったドレスを飾った。ショーウインドウというには、ささやかすぎるハメ殺しの窓だが、通りから見えるってのはデカイだろう。

ドレスはシャマシュさんにデザインしてもらい、街の仕立屋に仕立てさせた。シャマシュさんのデザインはこの世界ではかなり先進的なもの。どうせうちは布屋でしかないし、サンプルはちょっと人目を引くくらいでちょうどいいのだ。

こういった仕事は、ギルドを通せばいくらでも個人の職人に発注することができる。まだ工業製手工業すら始まっていない世界だから、仕事の単位はすべて個人だ。せいぜい親方と弟子という単位でしかない。それらをまとめているのがギルドというわけだ。

俺もギルド員だから、そのうちギルドから仕事を振られることもあるのかもしれない。

店舗のデザインもシャマシュさんの手によるものなので、エリシェ民にはかなりエキゾチックに映るだろう。が、これも計算だ。うちで扱っている布は、エリシェ民からすれば、すべて新素材となるのだから。

「変わった店に変わった布が売っている」

最初はそういう認識でいい。

まずは目立つこと、認知されることこそ優先されるものだからな。

◇◆◆◆◇

「じゃあ、いよいよ開店だけど、みんな大丈夫だな?」

「はい!」

みんないい笑顔だ。

シミュレーションも済ませてある。今日はおそらく買ってくれる客はさほどいないだろうから、言うほど大変なことにはならないだろう。

店員は、俺も含めて7名ほど揃えた。

オープン記念ということで、来店者にちょっとしたプレゼントを用意してあるからだ。来店記念の品物と、お買い上げ者用プレゼントの二種類。

来店記念の品は、限定500枚のマドラスチェック柄のハンカチ。これはエリシェの業者……というか、個人でやってるお針子さんに縫ってもらった。500枚作ってもらっても、手間賃銀貨4枚である。人件費安い。

チェックの布はうちの主力商品となりえる商材だし、ハンカチとしてバラ撒いたとしても、悪くない宣伝効果が望めるだろう。

あら素敵なハンカチね!

どこで買ったの?

見たことない柄ね。

実はこれあそこの店で――

……という具合に。

まあ、そんなに上手く行くかはわからんが。

商品を買ってくれたお客さんへのプレゼントは結構迷った。

買ってくれるということは、お客さんである。大切にしなければならない。もちろん、オープン初日に買ってくれる人は、ただの 新しもの好き(・・・・・・) の可能性もあるのだが、そんなことを言っても仕方がない。

人に自慢したくなるような逸品が良いだろう――ということで、お買い上げ者プレゼントはサングラスにした。

なんせ100円ショップにいろんな種類が売っている。布と関係がないが、うちで布を買うような人は、基本的にお金持ちばかりだろう。仕立ても馴染みの仕立屋に自分好みのデザインで注文するはず。つまりファッションに敏感な人だ。

この世界にはまだサングラスはない。となると、かなり珍奇に映るだろうが、それはそれ、これはこれである。どうせタダであげるものだ、チャレンジしてみよう。

この世界の人は、人種的にはコーカソイド系が多い(実際にはネコ人間やらドワーフやらがいて、人種の 坩堝(るつぼ) に近いが)。となれば、紫外線の問題もあるし、サングラスは案外イケるだろうという判断だ。

実際、サンプルとしてヘティーさんやイオンに渡してみたら、日常的に使ってくれている。イオンの場合、変装の意味もあるかもだが。

オープンの日時については、街の各所にチラシを貼った。

神殿にも貼らせてもらったから、口コミの効果もありそれなりに周知されたようで、すでに店の前は人だかりができている。

ほとんどの人はハンカチ目当てだろうが、それならそれでもいい。

「じゃあ、そろそろ開けるか」

時間はちょうど午前10時。

この世界の感覚では、かなり遅めの開店時間である。

「じゃあ、せっかく人揃ってるから、入り口の左右に並んで、いらっしゃいませーとやろう」

デパート形式である。

意味はあまりないが、客は気分がいいだろう。

そして店はオープンした。

扉を開け放ち、営業中の札を掛ける。

すでに集まっていた人たちが、ワッと押し寄せるかと思ったが、案外おっかなびっくりだ。タダでハンカチプレゼントなど気前が良すぎて逆に怪しく感じたのかもしれない。

だが、奥からディアナが出てきて、ニコリと笑い「どうぞ見ていってください」と一言声を掛けたら、反応は劇的だった。信頼のエルフ印というやつである。

この世界……特に帝国ではエルフは神の代行者に近い存在だ。ハイエルフと普通のエルフの違いを知っている人は稀だろうが、エルフはエルフ。

それなら大丈夫だろうと安心したのか、人々が次々と店の中に吸い込まれていく。

開店記念の品は、店の奥で受け渡し。当然ひとり一枚までだ。

店に入ったお客さんは、ある程度は商品も見てくれるが、まずハンカチを渡してしまわねば収拾がつかない状況になる。

ハンカチを先に受け取ってもらってから、興味があったら店も見てもらう。

「順番に並んでくださーい! 商品のほうも見ていってくださーい!」

みんな順番に並ぶという概念がないので、雑然としてくる。店は狭いんで入場制限をすることで、とりあえずの落ち着きを見せたが、店の前の人だかりがさらに野次馬を呼び、なんだか凄いことになってきてしまった。

外の整理にレベッカさんとエレピピを派遣し、さばいてもらうことにする。

まあ自動車も自転車もない世界だ。道を塞いだところで馬車の通行の邪魔になる程度である。事故が起きにくいというのは良いことだ。

お客さん方は、ハンカチを受け取ってからも、みんな物珍しそうに商品を見物していくが、珍しい生地に着目するほど余裕がある人が少ないらしく、だいたいは値札をチラリと見て驚き、すぐにカタナのコーナーへと移動していく。

カタナはさすがに目新しいらしく、見物していくお客さんが多い。

ただ値札を見て、「へぇ~」と溜息を漏らして去っていく人がほとんどだ。まあ、うちは布屋で、お客さんも女性が多いから、カタナみたいな「男のロマン」とは相性が悪いのかもしれない。

貴族のオッサン向けに舵を切りすぎた感あるかも。

その後、人だかりに興味を持った貴族の使いと称する人が来たり、露店で知り合った商人なんかが冷やかしに来たりした。

布もボチボチ売れた。

うちの布は、エリシェで最高級として売っているようなものと、ほとんど同額だ。

エリシェで最高級というと、しょせん異世界クオリティと思われがちだが、そうバカにできたものじゃない。

この世界では、なんでもかんでもだいたい手作りだ。その中でも最高級の布というのは、希少な素材を使って、熟練の職人が手間暇掛けて織り込んだ生地なのである。

もし同じようなクオリティのものを日本で買おうと思ったら、1メートルで1万円を超えるだろう。

そういったものと、同じような金額。

大金持ちしか買えないというのがわかるはずだ。

そして、閉店時刻。

時間一杯まで客を捌いていて、けっこう疲れた。肉体的というよりは、精神的に。

やはり早めにお客さんを選定して会員制にしてしまいたいところだ。

「エトワ、売上は?」

珍しく疲れた様子のエトワに訊く。エトワは若い分いつも元気いっぱいだが、さすがに今日みたいなのは気疲れするだろう。

「9400エルです。やはり単価が大きいと違いますね!」

「お、おおー……。あんまり売れてないような気がしてたけど、すごいじゃん」

金貨9枚と銀貨4枚分だ。日本円でいうと軽く100万円を超えている。

ブラック企業でやってた宝石店で、フェアをやった時みたいな売上げだ。

「やはり短刀がひとつ売れたのが大きいですね。あれだけで4000エルですから」

「生地はなにが売れた?」

「やはりハンカチとお揃いでチェック柄を買っていく方が多かったですね。値段も手頃ですから」

「手頃ったって単価500だから、そうそう買えないはずなんだがなぁ……」

1メートルで500エルってことは、およそ75000円くらいするってことだ。1メートルでは、これというものは作れないから、どうしたって沢山買わなきゃならない。

まあ、なんにせよ売れたのは喜ばしいことだ。

「会員証は?」

「バッチリ渡しておきましたよ!」

買ってくれたお客さんには、ポイントカード兼用の会員証を渡してある。

将来、会員制になった時の為だ。

今日来てくれたお客さんは全部で467名。

その中で、実際にものを買ってくれた人は20人程度だろう。

ハンカチはまだ残っているから、明日残りは捌ききってしまおう。

とりあえず、今日明日で来てくれたお客さんが、また別のお客さんを呼んでくれることを願うばかりだ。

◇◆◆◆◇

新規オープンの喧騒も去り、ちょっと店も落ち着き初めてきたころ。

「あの~。こちらにヘティー姐さんおられますでしょーか」

「え? えっと、今日はこっちには来てませんけど……。ことづてあるなら預かりますよ」

でっかい斧を背中に背負った女性だ。

髪型はくるくるパーマで童顔。使い込まれたブレストプレートを身にまとっている。

ヘティーさんの知り合いの戦士だろうか。

「ん? あなたがジローさまですか? ひょっとして」

「様付けられるようなもんじゃないけど、そうですよ」

「おお! あなたが!」

ズイッと両手を握られてしまう。

「申し遅れましたが、我輩は――」

「ん? どうしたのジロー、お客さん?」

お昼の買い出しに出ていたレベッカさんが戻ってきた。

レベッカさんから見ると、デカイ斧背負った人に詰め寄られてるように見えるかもしれない。いや、実際そのとおりの状況だが。

斧の女性は振り返り、レベッカさんの姿をまじまじと見つめてから叫んだ。

「ん? あ! ベッキン! ベッキンじゃないの!」

「うええええ! ノリリン! うっそ……か、変わらないわねぇ……あなた」

「ベッキンはなんだかシットリしたねぇ」

どうやら二人は知り合いらしい。

しかし、ノリリンて。アダ名なのか本名なのか気になるところだ。

二人は、そのまま懐かしい懐かしいと話し始めてしまう。

「お二人はお知り合いですか?」

「おっと、すいません、ベッキンとは久しぶりに会ったもので。お互いにもう死んだとすら思っていただけに、感慨もヒトシオというところで。申し遅れましたが、吾輩は元ユニゾン傭兵団右隊長を努めていたミノリ・レイシアです。気楽にノリリンとお呼びください」

「これはご丁寧に。僕はこのアルテミス生地店のオーナーのジロー・アヤセです」

「騎士隊もやってるんですよね?」

「あ、はい。そうですね。ところで、ユニゾン傭兵団って?」

初めて聞く名前だ。

「ああ、ジローは知らなかったっけ? ユニゾンはヘティーがやってた傭兵団よ。ノリリンは地獄の右隊長として名を馳せた傭兵ってわけ。って、ノリリンどうしたの? ヘティーに会いに来たのかしら」

「今、ミヤミヤが姐さん手伝ってるんでしょ? あの子から手紙きたからさ。我輩も飛んできたってわけなの」

「ミァハが? あの子、ああ見えてそういうとこあるのよね……。筆まめというか……」

ミヤミヤってのは、ヘティーさんの参謀役をやっていたらしい忍者みたいな女の人のことだ。本名はミァハ。俺も一度だけ言葉少なに挨拶されたことがあるが、その後は一度も見ていない。ヘティーさんの手足として動きまわっているらしいし、ディダをずっと張っていたのもミァハさんらしいから、ホントに忍者なのかもしれない。

「お姫様が行方不明になって、団も解散しちゃってさ、みんな散り散りになってたけど、またいつか集まろうってちょいちょい手紙回してたんだー。うまく結婚できたりして、落ち着いた子はともかくだけど、そんな子ほとんどいないからねぇ。我輩たちは社会のあぶれ者だぜ」

やれやれと肩を竦めてみせるノリリン。

でっかい斧背負ってワイルド系だし、結婚して落ち着くというのは想像しにくいかもしれない。いや、そんなこと言ったら怒られるだろうけど。

「それで、ミァハの手紙にはなんて書いてあったの」

「んー? ちょい待ってね」

レベッカさんが訊くと、ノリリンは荷物から手紙を出して読み上げた。

「えー、コホン。

親愛なるノリリン。いかがお過ごしでしょうか。

私は今、ヘティー姐さんといっしょにある仕事をしています。

それが片付いたら姐さんといっしょに、とある騎士隊に参加させてもらおうかと考えています。

私は騎士ではないから入隊資格があるかわからないけど、オーナーのジロー様はなかなか良い男だからきっと大丈夫でしょう。

騎士であることより、女であることのほうが重要みたいだし。もしかしたら、女として求められることぐらいはあるかもだけど、どんとこいです。

みんなバラバラになっちゃったけど、この騎士隊は大きくなりそう。

なんと、エルフさまもいるし、これが驚きなんだけど、ベッキーもいるんだよ!(しかも隊長だよ!) 女の子だけの騎士隊だし、またみんなで楽しくやれるんじゃないかなって思います。

突然の手紙で驚いたかと思いますが、ぜひ考えてみてください。

ミァハ・ヤミラミラより」

「OH……」

レベッカさんが頭を抱える。

てことは、つまりこのノリリンはうちの騎士隊に参加しにきたのか。

ミァハさん……いや、ミヤミヤ。見た目すっごいピシっとした印象だったけど、こういう人なんだな。

「という事情です! ジロー様! 私も騎士隊に入れてください! 私の天職は『戦士』と『斧士』! 騎士でもなんでもありませんが、戦闘経験豊富できっと役に立ちますよ!」

戦士と斧士かぁ。それじゃあ、もう傭兵になるしかない……のかもしれない。この世界の戦闘系天職者の人生が心配になるな。ヒトツヅキやモンスタースポットがあるから、最低限の仕事はあるのかもしれないけどさ。

「レベッカさん、どうしましょう」

「え、ああ……うん。えっとね、ジロー」

「はい」

「たぶんね、ミァハ……あの子、手当たり次第におんなじ手紙出してるんだと思うのよ……。ユニゾン傭兵団は、全部で100人くらいいたから……20人くらいは集まっちゃうかも。みんな良い子だし、腕もいいから、私としては参加してくれるのは嬉しいけど……」

「ならいいんじゃないですか? ただ給金はちゃんと出せるかわかりませんよ。というか、ある程度人数が増えたら、稼ぎに対しての歩合にせざるを得ないでしょう」

腕がいい女戦士が入ってくれるんなら願ってもないことだ。騎士隊なんて言っても半分は有名無実なんだからな。エトワだって参加してんだし。もちろん、変な人入れて揉め事起こされても困るけど、ヘティーさんの仲間だった人たちなら大丈夫だろう。

名より実を取るタイプだよ、俺は。

「うん、お金のことは最低限でいいと思う。この子たちは……って私もそうだったけど、それしか生き方を知らないだけだから。一攫千金狙ってるわけでも、稼いだお金を元手になにか始めたいわけでもない。本当に、生きる場所……あるいは死ぬ場所を探してるだけなのよ」

「わー、ひどいな、ベッキン。でも、だいたいそのとーりだ。姐さんがいなくなっちゃってから、吾輩も仲間たちもろくな仕事なかったからさ。姐さんがいるところが我輩たちの居場所で、死ぬ時は一緒だって決めてたのに姐さんいなくなっちゃうからさ……グスン」

話してて感極まってきたのか、涙ぐむノリリン。

「ほら、泣かないの。まったくあんたは昔っから泣き虫なんだから……。とりあえず今日は久々に飲みましょうか。ヘティーとミァハも誘って」

「わっ! やった! 飲む飲む!」

「ジローも来る?」

「いや、昔話もあるでしょうし、今回はやめときますよ」

「そ? じゃあ久しぶりに女だけでやりますか」

その日から、ヘティーさんの傭兵団出身の女性たちがだんだん集まるようになった。

みんな個性的な女性たちだったが、経験豊富で普通なら決して集まらないような猛者揃い。

新規で入った騎士さんたちと合わせ、だんだん騎士隊の規模は膨れ上がっていったのだった。

そろそろ隊じゃなくて、騎士団と名乗ってもいいのかもしれない。