軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第142話  新人騎士は研修運動会の香り

「ジローさん! 心配していました。ご無事なようでなによりです」

「挨拶遅くなって申し訳なかったです。神官さまもお元気そうで」

鏡が直り、この世界に復帰してディダ関係のゴタゴタが終わってから、俺はエリシェの自分の店に顔を出し、その流れで神殿にも顔を出していた。

神官ちゃんも、鏡を直す方法について大神殿やらなんやらに問い合わせたり、伝承を紐解いたりと尽力してくれていたらしい。本当に頭が下がるばかりだ。

「鏡に関しては伝承が残っていました。古い……精霊文明時代の記録です。かつて、神の眷属たちは不思議な鏡から、この地へと移り渡ってきたのだと。そして、その鏡から神の国へと彼らは戻りゆき、ある時を境に二度と帰ってこなかったのだと……。肝心の鏡そのものについては、よくわからなかったのですが……。ジローさんは、その神々の眷属……ということなのでしょうか」

けっこうハッキリ伝承残ってるんだな……。

まあ、当時の人たちも別にそのことを隠蔽したりはしなかったんだろうし。

夢幻さんの話では、1000年前はまだNPC、つまり現地人は賢くなかったのだそうだ。もともとこの星にいた生物を、強引に人間に仕立てたわけだから、内容的には一気に進化した原始人みたいなものだったのかもしれない。

それでも、プレイヤーたちを真似たり、神から与えられた仕事をやったりしているうちに、文化が生まれ、今の状態へと少しずつ進化していったのだろう。

しかし、神の眷属か……。

「もちろん違いますよ。僕が神の眷属なんてガラでもないでしょう? ……それに、当時の神の眷属はみんな運動オンチだって書いてありませんでした?」

「え! どうして知っているんですか? 神の眷属はみな偉大な魔法使いではあったけれど、身体を動かすのは苦手だったと、確かに伝承に残っていました」

未来人はみんな運動しなくて肥えてたらしいからな。超科学があっても肥満は解消できなかったのかな……。それとも、これから先、デブの遺伝子が勝つ時代へと突入していくのかしら。

「それはそれとして……神官さま。騎士隊のほう、応募来てるんですって?」

俺は話を変えた。

あんまりツッコまれても、答えようがないことも多いからな。

神官ちゃんは、夢幻の大魔導師のファンらしいから、いずれは夢幻さんのサインでも貰ってきてあげよう。

「はい、騎士隊のパレードの後から、少しずつですが騎士隊に入りたいという女性の問い合わせいただいておりますよ。今までで、8件」

「8件ですか。多いような少ないような」

「騎士の天職を授かる女性は少ないですからね、割合を考えればけっこう多いと見てもいいのではないでしょうか。中には思いつめて亡命する方もいるくらいですし……」

「なるほど」

そういえば、騎士職はいちおう上級職みたいなものだった。身近にたくさんいるから忘れがちだが、剣士だの槍士だのといったシンプル天職とは一味違うやつなのだ。

「とにかく、日にち決めて集まってもらって面接やりたいですね。うちは騎士隊だけで食ってくだけの給料出すのは無理ですから、そのへん承知してくれなきゃ雇えませんし」

「では、日を決めてくれればこちらから連絡しておきますよ。私が見たところ、みんな良さそうな娘たちでした。きっとジローさんも気に入りますよ」

「偶然かはわかりませんが、騎士職の女性はみんな誠実で優しいですからね、期待してますよ」

連絡は神官ちゃんがしてくれるらしい。

神殿が間に入ってくれるだけで、グッと騎士隊の信用度も上がる。

ありがたいことだ。

◇◆◆◆◇

あれよあれよと当日。

エリシェの外からの応募者もいたため、1ヶ月近い猶予をおいたのだが、その間にも応募者は増え、結局10名も集まったのだった。

面接はレベッカさんとヘティーさんに仕切ってもらっている。

ぶっちゃけた話、騎士隊としてのことで俺から話すことは特にない。

いや、厳密にはある。店の手伝いをやってほしい。それぞれの家庭の事情というか、生活があるだろうから、バイトか正社員かは選べばいいが、とにかく店のほうが人手不足なのだ。

だが、まずは騎士隊だ。騎士隊員としての条件をクリアしてからの話だな、店員をやってもらうかどうかは。

面接会場はなぜか屋外。

それもシェロー家前の、いつもの広場である。

うちの騎士隊員は、全員パレードの時と同じようにバッチリと装備を身につけている。

ドラゴンのモロコシ君も鎮座しており、応募者のお嬢さんがたは緊張に顔を引き締めている。

てか、圧迫面接なんじゃないのかな、これ。

「はじめまして。私はアルテミス騎士隊の隊長のレベッカ・ロート。まだ発足して間もない隊だから小所帯だけど、これから大きくしていこうと考えているわ。だから、こうして隊員の募集に応じてくれたこと、本当に嬉しく思う」

騎士鎧に身を包んだレベッカさんが、キリリと挨拶する。

ホントに騎士隊長! って感じだ。

「ベッキーったら硬いわね。そんなこわーい顔して……ほら、ジローさまもドン引きで見てるわよ?」

「ちょっとヘティー、ちゃちゃ入れないでよ。最初が肝心なんだから……」

「でもアレやるつもりなんでしょ? 今怖がらさなくても、すぐ思い知ることになるわよ」

「そうだけど……」

キリリとしてたと思ったら、すぐにヘティーさんが横槍を入れて、さっそくグダグダの様相だ。このへんが傭兵流の自由さなのかもしれない。

「コホン! えっと、とにかく来てくれたからには、私達はあなた方を拒むつもりはない。全員合格!」

レベッカさんが、いきなり宣言する。全員合格だ。

まあ、せっかく来てくれたんだし、実際みんな「騎士天職」持ちなのは間違いないのだ。

こちらから、拒む必要はない。

合格と聞いて、応募者たちの顔に安堵の色が浮かぶ。

その後、簡単に全員の自己紹介が行われた。

「私はハイエルフのディアナ・ルナアーベラです。よしなに」

ディアナが前に出て挨拶すると、応募者たちからどよめきが起こった。

騎士というのは姫に忠誠を誓いたいものなのだ。うちの騎士たちもだいたいディアナに忠誠を誓っている。誓ってないのは、レベッカさんとかヘティーさんだけかもしれない。

「はいはーい。まだ忠誠を誓うのはダメよ。今日のスケジュールが全部終わってからね」

なんとなく忠誠を誓いたそうな動きを見せ始めた応募者たちを、レベッカさんが牽制する。

スケジュール。一応今日の面接は一日がかりになると聞いてはいた。

だから、わざわざ店が休みの日に予定を組んだほどだからだ。

「では、これに着替えて。初日の訓練を開始する! みんな、合格した以上、うちの隊員なんだから当然訓練には付き合ってもらうわよ」

着替えは俺が用意した運動着だ。

みんなそれぞれ私服で来ているんで、さすがに訓練には適さないからだ。

レベッカさんの家で、着替えた応募者たちが戻ってくる。

「では、はじめましょう。マリナ、準備できてる?」

「いつでもいけるであります!」

マリナの前には、二本の剣が地面に突き刺さっていた。

練習用の鉄剣だ。

これはまさかの――

「じゃあ、最初はあなた……名前は?」

「はい! マルローネ・リンクルです!」

「じゃあ、マルローネ。そこの剣をとって、そこのマリナと戦いなさい。こちらが終わりというまでね。本気で抵抗しないと、死ぬわよ」

「えっ、えっ?」

マルローネさんは、年の頃20歳かそこらだろう。

フワフワの髪を一つ括りにして、どうみても町娘という風情だ。

騎士の天職を授かったといっても、実際に剣を取った経験があるかどうかはあやしい。

しかし、レベッカさんは全く容赦がなかった。

「ほら、はやく剣を取って構えて! 騎士になるんでしょう?」

「はっ、はい!」

気合一発、剣を取るマルローネさん。

それを合図ととったか、マリナが脳天気な声を響かせた。

「では、はじめるであります。エレピピ相手にもやっていたので、もう手慣れたものなのであります」

そして、訓練は開始された。

後にマルローネは述懐している。

「私たちはアルテミスのパレードを見て、その華やかさにばかり憧れを抱いていました。騎士というものがなんなのか、理解できていなかったんです。だから、隊長は初日からあの訓練を私達に課したんでしょうね。ええ……ほんと……。淡い幻想は粉々に打ち砕かれました。なんてところに来てしまったんだって思いましたよ、ホントのこと言うと。……なのに、終わるころには、不思議と、もっと強くなりたいって思うようになってました。あれが、騎士の洗礼というやつだったんですね……」

◇◆◆◆◇

まあ、実際問題、いつものうちの訓練なのである。

傭兵団『 緋色の楔(スカーレット・ウェッジ) 』で行われていたという、新人向けの実戦方式の訓練。俺もシェローさん相手にさんざんやったやつだ。

今は、4人目の相手をヘティーさんがやっているところ。

「ごめんね、ジロー。勝手なことして」

並んで一緒に訓練を見ていたレベッカさんが、とつぜん謝ってくる。

勝手にしょっぱなから強烈な訓練を課したことを言っているのだろう。まあ、確かにちょっと驚いたけどもさ。

「いえ、騎士隊はレベッカさんに基本おまかせしますから、問題ありませんよ」

「でも、これでもし何人かでも抜けちゃったら……。 当て(・・) にしてたんでしょ? お店の戦力として」

「まあ……多少は。でも、店のほうは弟子を新しく雇ってもいいですし、実際問題いくらでも当てはありますから大丈夫ですよ」

基本的には買い手市場だ。うちで働きたい人はいくらでもいるだろう。

ただ、俺は騎士天職者に対して一定以上の信頼を持っているし、騎士隊をやる以上一石二鳥だから、できれば応募者さんには残ってもらいたいものではあるけれど。

「やっぱり最初は厳しくしたほうが?」

「それは当然ね。傭兵団の応募なら、死ぬことも織り込み済みの人間が来るけど、うちは実際なにをやるのかよくわからないじゃない? だからって、形だけってわけにはいかないからね。それに、もうすぐヒトツヅキもあるから」

レベッカさんが言うには、ヒトツヅキでは騎士隊も後詰めで控えていてほしいのだそうだ。人はいくらいてもいいものらしく、実際に戦闘をしないのだとしても、けが人の救護や、食事の用意なんかをしてくれるだけでも助かるとのこと。

「後詰めっていうか、騎士隊もヒトツヅキは戦闘参加しますよね?」

違ったっけ。

モンスターとの戦いだって、ちょいちょい経験してるしさ。

「参加してくれるの? 騎士隊といっても、マリナもお姫ちゃんもイオンもシャマシュもエレピピも、ジローの許可なしで使うってわけにもいかなかったから、遠慮してたんだけど」

「いえ、だってヒトツヅキってこないだのルクラエラで起こったみたいに、モンスターが沢山湧くんですよね? 参加するつもりでしたよ、僕は」

「そう言ってもらえると助かるけど……、いいの?」

まあ、レベッカさんが躊躇する理由もわからなくもない……のか?

いや、たぶんヒトツヅキってのは俺が考えているよりも、ずっとヤバイものなのだろう。簡単気楽に参加表明していいようなものじゃないのかもしれない。

とはいえ、今更ケツまくって逃げるつもりもない。ヒトツヅキはモンスタースポットからモンスターが湧きまくる現象。つまり、うちの屋敷のお隣でのことだ。

俺なんかで手伝えることがあるなら、いくらでも手伝うさ。

「前にシェローさんからも、手伝ってほしいって頼まれてますしね」

「じゃあ、私からもお願いするわね」

普段、戦士の確保には苦労するものらしい。ヒトツヅキがこの世界の人間全員にとっての災厄と言っても、実際にそれに立ち向かえるガッツがある人ばかりじゃない。

しかも、ヒトツヅキは強力なモンスターも出てくる上に、その強力さにランダム性があり、必ずしも予定調和な強さのモンスターが出てくるわけではないのだ。

レベッカさん……というかシェローさんの管轄である、この森のモンスタースポットも、普段では考えられない強力なモンスターが湧くのだという。

酷い時は10名以上の死者が出るとも聞いた。生半可なことではないのだ。

とはいえ、うちの騎士隊が手伝えば、それなりの戦力にはなるはずだ。

特にシャマシュさんがいるってのが大きい。惜しみなく使え、壁にもなる召喚魔獣ってやつは、この上なく便利だ。

さらにアイちゃんなんかは、攻撃力も抜群。しかも遠距離攻撃だ。

シャマシュさん自身も、魔術をバンバン撃つことができる。

現代戦の基本は遠距離戦である。白兵戦など時代遅れだ。相手の攻撃が届かない距離から、一方的に攻撃できるなら、それに越したことはないのである。

俺も今のうちに魔術を実戦で使えるレベルにまで高めておいたほうがいいかもしれない。

その後も、応募者全員分の洗礼は続き、全員ヘトヘトで街へと帰っていった。

明日、ちゃんと来た人だけ、正式にうちの騎士隊員として採用するらしい。

まあ、見たところみんな最後はいい顔してたんで、大丈夫だろう。

エレピピだって、キツイ訓練をしても、なんだかんだ楽しそうにしてたからな。騎士天職者はみんな根性あるよ。

そして次の日。

果たして、昨日の応募者は一人も抜けることなく全員顔を出したのだった。

即、全員採用。

こうして、アルテミス騎士隊のメンバーは一気に倍近くまで増えたのだった。

◇◆◆◆◇

「そうだ。ヘティーさん、これ使えます?」

また別の日。

いつもの騎士隊訓練のさなか、俺はヘティーさんを見つけて話しかけた。

へティーさんは、うちの騎士隊に入ると決めてから、レベッカさんといっしょに騎士隊の運営について話し合ったりして盛り上がってるのをよく見かける。

さらに、イオンの世話を焼きたがって屋敷にもよく顔を出す。すっかりファミリーの一員という感じだ。

「ジローさま。それは新商品のカタナというやつでは?」

「そうです。それで、これって一応武器なんですが、ちょっと使い方が特殊というか、うちの地元じゃあ、扱いに熟練を要すと言われてたもんで……。ヘティーさんにちょっと触ってもらって、実際難しいかどうか判断してもらおうかなと」

カタナ……つまり日本刀を商品として売る前に、商品テストも兼ねて実際の切れ味も確かめておく必要があった。

ほとんど、飾りとして売ることにはなるだろうが、イザって時に使い物にならないんじゃ困る。

というわけで、最も武器を使った戦闘に器用そうなヘティーさんに頼むことにしたのだ。

「自慢ではありませんが、私に使えない武器はありませんよ」

言いながら、刀を鞘から抜く。

ダルゴス大親方謹製の打刀だ。

俺も野菜くらいなら切ったりしてみたが、実際に武器として使えるかどうかは不明である。いや、こんな鋼鉄の棒が使えないわけはないのだが。

「ふむ…………」

剣を持ち、刃を立て、音もなく2~3度振るヘティーさん。

「どうですか?」

「良い剣ですね。問題ないでしょう。なにか斬ってみますか?」

「ではこれを」

俺は用意してあった、巻き藁を出した。

自作である。

「こんなものでいいんですか?」

「はい。トラディショナルな試し斬りはこんなものを使うのが慣例らしいです」

なんでも、巻いた藁は人間の肉の硬さに、芯材の竹は人間の骨の硬さに似ている……という理由で、試し切りには巻き藁が使用されるとのことだ。

「では、いきますよ」

「あっ、ちょっと待ってください」

俺はせっかくだからカメラを回した。

異世界で鍛えたカタナを、この世界でも最高の剣士が扱う場面だ。撮らずにはいられない。

仮に失敗したとしても、ご愛嬌だ。

「お願いします!」

「では」

ヘティーさんは、脱力した格好で右手にカタナを持ち、やおら剣を持ち上げ、左手をそっと添えた瞬間、流れるようにタン、タン、タン、タン、と剣を振るった。

一拍遅れて巻き藁がバラバラにくずれて落ちる。

「うおおお……」

「ザッとこんなもんです。まあ動かない的でしたからね。ベッキーでもこれぐらいならやれるでしょう」

涼しい顔で言うヘティーさんだが、巻き藁を調べる段階で試し切り動画を何種類か見ていたからわかるが、凄まじい技量だ。

カタナみたいな引いて切る剣は使えないかも……なんて一瞬でも思ってしまって、本当すまなかった……。

「こういう武器、初めてじゃなかったんですか?」

「初めてですよ。でも触れば使い方ぐらいわかります。剣の声などと言うつもりはありませんが、剣士ならなんとなくわかるものです」

「そういうものなんですか」

じゃあ俺も剣士だ! とチャレンジしてみたら、本当に普通に斬れた。

巻き藁斬りが簡単なのか、それとも今までの訓練が生きているのか。

いずれにせよ、これでカタナも切れ味抜群と冠して売ることができるだろう。