軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話  パレード準備は自由の香り

パレードの準備は着々と進んだ。

騎士隊の装備は基本的に異世界での作製となるため、ネットオークションの方はちょっと縮小。手元にあった商品を出品したりして、あまり新しい商品は出していない。

まあ、単純に時間がないってのが一番の理由だが。

騎士隊の装備は、大部分は大親方に。装飾だけはビル氏に頼んだ。

また、せっかく高級布店をやる計画を立てているので、装備の一部を高級布で作った。

レースの記章も全員分完成し、ほとんど準備万端で迎えられそうだ。

「……ひとつ。大事なことがある。パレード前までには済ましておかなきゃならないことが」

俺は食事中に切り出した。

今回のパレードは、うちのメンバーではオリカと俺以外は総出である。

ディアナ、マリナ、レベッカさんは当然として、エレピピもエトワも、イオンとシャマシュさんもパレードには参加してもらう。

ハッタリの利くところで相談役のシェローさんにも参加してもらう予定で進めている。

オリカは馬に乗れないし、騎士って感じではなさすぎるんでパス。俺も騎士なんてガラでもないし、しょせんはオーナーでありパトロンなんでパスすることにした。

あくまで今回のパレードの主役は女騎士たちなのだ。

で、そのパレードをやるにあたってどうしてもやっておかなきゃならないことがある。

今日の昼飯メンバーは、俺とディアナとマリナとイオン、オリカにシャマシュさん。あと、レベッカさんとシェローさんである。いつもの訓練後の昼食だ。

「なんでありますか? やっぱり馬にも飾りをするであります?」

「私も馬に飾りが必要だと思っていたのです。ドラゴンばっかりズルいのです」

「そういえば、私も馬に乗る予定だったが、ゴーレムに乗るという手もあるぞ。うん」

「いや、乗り物の話じゃない」

まあ、確かにゴーレムに乗るというアイデアは悪くないし、馬に鎧を付けるという案も確かにあった。スケジュール的にドラゴンを飾り付けるのを優先してポシャったけれど。

「パレードに関係した話なのは確かだけどな。……せっかくのパレードなんで、その前にどうしてもやっておかなきゃなとは思ってたんだよ」

みんなが首をかしげる。

わからないかな。わからないか。

「奴隷契約の解除だよ。女騎士を自立した天職として認められる為にパレードやるのに、半分が奴隷紋つけてちゃさすがにな」

「えっ……」

マリナが真顔になる。

「それは……命令でありますか、主どの……」

あー。マリナは、奴隷であることにアイデンティティを見出してるからなぁ。

だけど、それじゃあダメなんだ。

奴隷としてマリナを買った俺が言うのもアレだけどもさ。

もう、そういう段階はとっくに過ぎ去ったよ。

「命令だよ、マリナ。このパレードはどうしても成功させなきゃならない。ちょっと大袈裟だけど、この街のターク族への偏見だって少しは払拭できるかもしれない……そういう機会なんだ。やれることはなんでもやっておきたい」

「そうで……ありますか……」

嫌そうではあるが、いちおう納得はしてくれた模様。

今回のパレードは特別なものだ。エルフと人族と魔族とターク族とカナン族とが、同じ騎士隊として帝国都市主催でパレードをやる。

そのことの意味は、きっと大きいと思う。小さいけれど偉大な一歩になる……そんな予感がする。

この国の酸いも甘いも知っているミルクパールさんも、きっとこの国の人間に大きいインパクトを与えることになると言ってくれた。

「大丈夫ですよ、マリナ。パレードが終わったらまた契約すればいいのです」

見るからに落ち込んだマリナにディアナが助言する。

「あっ、それもそうであります!」

マリナが顔を上げる。

まあ、確かにそうなんだが、再契約はなぁ……。

「そうそう。パレードの時だけだよ」

とりあえず乗っておくか。

実際に再契約するかどうかは、またその時に決めよう。

ぶっちゃけ、もうディアナもマリナも、奴隷契約なんて形だけのものに近い。シャマシュさんとの契約もそうだ。

ある程度以上の信頼があれば、奴隷契約なんてなくてもいい。

奴隷を奴隷として扱える人の為のものだな、この契約は。

俺にはどうやら無理らしいや。

◇◆◆◆◇

ディアナとマリナとシャマシュさんの奴隷契約を解除した次の日。

「不安であります不安であります。いまだかつてない心細さであります」

奴隷契約を解除したマリナは、必要以上に俺にひっついてきて、ほとんど離れずにいた。

「大丈夫だって。別に契約解除したってなんにも変わらないよ」

「し、しかし……。そうは言うでありますが、主どのとの繋がりがないであります。繋がりが欲しいのであります。なにか別の形でもいいから、こう、契約的なやつが」

腕にしがみついて、そんなことを言う。

俺は、奴隷契約をしていても、特別そういう繋がりみたいなものを感じたことなかったが、マリナはなにか感じていたのかもしれない。異世界人と地球人の差みたいなのもあるのかも?

「繋がりなぁ……。あ、あるじゃん。ほら」

俺は、オレンジ色に輝く指輪をマリナに見せた。マリナの指にも、少しシンプルな似た指輪が光っている。

繋がり……クランメンバーの証である指輪だ。

「……それと、そうだ。パレードを無事に成功させたら、マリナにネックレスか指輪を買ってやるよ。最初の精霊石、クマと戦った時に使っちゃったからな。その代わりに」

「ほ、ホントでありますか!?」

「ほんとだよ」

う~と唸りながら、嬉しそうに頬を俺の腕にこすりつけてくるマリナ。

本当はもっと早くに用意する予定だったのに、いろいろあって忘れてたとかは言わなくてもいい情報だな……。

アメジストの指輪かネックレスか。

アメジストはブラック企業時代に貰ったやつが家にあったはずだから、またビル氏に頼んで指輪に仕立ててもらうか。

レベッカさんも俺が贈った指輪を今でも大事に使ってくれてるし、指輪ならきっとマリナも喜ぶだろう。ディアナは嫉妬するかもしれないが。

……あー、ディアナの分もいっしょに作るか。

うん。そうしよう。

◇◆◆◆◇

その日の夜。

ソファに座ってお茶を飲みながら今後のことなど考えていると、風呂あがりのディアナがやってきて横に座った。

オリカが淹れたお茶を静かに啜って、リラックスタイム。

「ご主人さまがこんな時間まで屋敷にいるのは珍しいですね」

「パレードも近いし、店のこととか考えなきゃならないこと山積みだからな」

「最近、ちょっと忙しそうなのです。無理してるのではないのですか?」

忙しいというかなんというか。

実際、やることは多い。パレードが成功するにせよ失敗するにせよ、次の一手のことも考えておきたいし、店自体はもう借りちゃっているんで、準備に大わらわだ。

まあ、エトワが優秀なんで、もうほとんど任せっきりでもなんとかなりそうなのだが。

「いや、楽しくやらせてもらってるよ。日本にいたころには感じられなかった充足感だな」

「それならいいのですが……」

そして、また無言で茶を啜る。

茶菓子はおせんべい。エリシェでも似たようなものが買えるが、醤油味のは日本でしか買えない。

「……ご主人さま、ちょっと待っててください」

ディアナがそう言い残して席を立ち、ちょっとして戻ってきた。

どうやら部屋になにかを取りに行ってきたようだ。

「これ、差し上げるのです。元気がでるお 守(まも) り」

そう言って、いつもディアナが左腕に嵌めているバングルを手渡してくる。

ディアナは出会った時から、いくつかの精霊石製と思われる宝飾品を着けていた。

赤珊瑚のネックレス、両腕にはバングル。

バングルは右腕がグリーンターコイズ、左腕はブルーターコイズ。

「この腕輪は、我が家にずっと伝わっているもので、持ち主の健康を護ると言われているお守りなのです」

「いいのか? 家に伝わるものじゃあ、家宝みたいなものなんだろ」

「ご主人さま、最近疲れているみたいですから、持っていて欲しいのです。あっ、鑑定しちゃダメなのですよ。ご利益が無くなってしまうのです」

「おばあちゃんみたいだな」

お守りか。

まあ、精霊石製みたいだし、実際になんらかのエンチャントが施されてるんだろう。

付けてるだけで、健康になれるってのはありがたい。

実際の効能はよくわからんが、ずっとディアナが付けてたもんだし、悪いもんではないだろう。

「じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ。似合う?」

「うふふ。よく似合うのですよ。ほら、お揃いなのです」

「おっと、ハメられた! ペアルックやぁ!」

冗談はさておき、実際、けっこうカッコいい腕輪だ。

ありがたく使わせてもらうことにしよう。

◇◆◆◆◇

そしてまた次の日。

シェローさんの家の前の広場は、モンスターこそ湧くものの、それを除けば本当に気持ちのいい草原である。

だから、もっぱら戦闘訓練はそこで行われるのだが、さすがにパレード直前なので、みんなで馬に乗りリハーサルの真っ最中。

基本的には、先頭を歩くドラゴンに乗ったレベッカさんの後にくっついて目的地まで行くだけではあるのだが、いちおう練習はしておく。

見物客にあめ玉とか紅白餅でも撒くかという案もあったが、それはさすがにやめておいた。

そこに、一頭の馬が全力疾走で駆けてきた。

ここは、街道から外れているんで、人が来ることはほとんどない。

厳密には、シェローさんかレベッカさんに用事がある人だけだ。俺の屋敷はもっと街寄りだし、まあ、俺の客なんてものもほぼ来たことがない。

馬上の人は、旅装束でフードを深くかぶっていた。

腰には一振りの剣。

練習する俺たちの前で馬を止める。皆に緊張が走る。

「よかった! 間に合ったようですね」

「その声は、ヘティーさん!」

馬上の人物がフードを脱ぎ去り、輝く銀髪が露わになる。

ソロ家の長女であり、かつては傭兵団をひとつ束ねていた女傑……といっても、俺にとってはメイド服のやさしく強い人であるヘティーさんである。今はメイド服を着ていないが。

「どうしたのよヘティー。そんなに慌てて……」

レベッカさんが訊く。

確かに珍しく汗をかいて、なんだか少し薄汚れているように見える。

「帝都から急いできたものだから。でも、よかった。どうやらディダ叔父はまだ来ていないようですね」

「ディダ?」

ディダってのは、エフタとヘティーさんの叔父にあたる人物だ。

ずいぶん前に俺が日本で仕入れたベルベットをけっこうな金額で売りつけた相手でもある。

ドギツイ香水の香りを振りまき、精霊石で若返りしまくりのポッチャリ体型の商人で、屈強な奴隷戦士を何人も引き連れた悪趣味な男だ。

そのディダがどうしたってんだろ。

「はい。実は騎士隊のパレードの話、帝都まで噂が届いておりまして」

「そうなんですか? 思ってたより、情報の伝達が速い」

それとも市長が文書でも飛ばしたのだろうか。

神殿にチラシを貼らせてもらったりして、宣伝はしているものの、何百キロも離れた帝都に情報が届くほどだとは思ってなかったな。

いや、エリシェはデカイ都市だ。帝国でも三番目に大きいと聞く。今回のパレードはいちおう市の公式イベントとして開かれるのだし、帝都まで話が届いていても不思議ではないのかも。

「帝都といっても、私の実家絡みですけどね。実家は、ちょっと特殊……というか、情報が集まる場所でもあるので」

「なるほど」

ヘティーさんの実家は御用商だ。商人は情報が命とかいうものな。

「それで、ディダ叔父がディアナ様のサポートを自らやると言い出した件で、ちょっと調べに行っていたのですが、どうもディダ叔父がパレードの話を聞きつけて、そこでなにかをやるつもり……らしく」

「なにか? といいますと?」

「もうしわけありません、私の情報収集能力では、そこまでしか知ることができませんでした。……実家とは基本的に疎遠なので……あまり派手に活動できず。それで、とにかく戻ってきたんです。私がいれば、ある程度の妨害ならば防げるでしょうから」

なにかって……。なんかやらかすつもりなのか、あいつ。

っていうか、あの人って湖畔街とかいうとこに遊びに行ってるんじゃなかったっけ。

もともと、エフタの代わりにディアナのお導きサポートをやるとかいう話だったはずだが、奴隷戦士達を引き連れて、バカンスに行ってしまったはずだ。

まあ、あれからもう何ヶ月も経つから、地元に帰った可能性は考えていたけれど、本当に帝都に戻ってたってことなのかな。

「あのポッチャリか……」

ポッチャリ商人ことディダにベルベット売った時、俺としてはかなり高く売ったつもりだったけど、実際にはこの世界でも超高級布として存在してたらしく、相対的には損をした格好になった。

まあ、それで損したというか向こうが得したというか、そういう感じになったのだけど、それはあくまでも商売の中での話だ。

奴とは、それ以外には、それほどの付き合いがあったわけでもない。

初対面のときに、ちょっとイザコザがあったくらいで、実際、三度か四度くらいしか話したことがない。

だから、そもそも俺のことを覚えているのかどうかも微妙なくらいだ。

いや、俺はハイエルフであるディアナのご主人さまだし、覚えてないということはさすがにないだろうけど。

でも、騎士隊のパレードと俺との関連に関しては知らない可能性がある。

「なにか……って、妨害工作とかしてくるってことですかね。なんかあの人にメリットあるんですか、それ」

といっても妨害してくる可能性は低いような気がする。

気がするが、全然他に見当がつかない。

いや、奴がデキる商人だというのなら、懐に引き入れようとするのかもしれないぞ。

排斥か懐柔か。もともと、ディアナのお導きのサポートをソロ家がやるのだし、ディアナが絡むことには、一枚噛む権利があると考える可能性も否定できない。

「わかりません。ただなにか良からぬことを企んでいるのは確かです。あの男の十八番ですから」

「うーぬ。良からぬことですか……」

せっかく、楽しくパレードという予定だったのにな。

あんまり大々的にやらないほうがよかったのだろうか?

いや、それじゃあせっかくやるのに意味が弱くなってしまう。

妨害があっても撥ね退ければいいのだ。

ある意味では、ここが正念場なのかもしれない。地味に目立たず生きたいと思ってはいても、事ここに至れば、そうとばかり言っていられない。

戦わなきゃならない時だってあるんだから。

「ディダ……? ディダ・バルバクロ……? あの者が……来るのですか?」

小さな呟き。

振り返ると、白い顔をしたイオンがいた。

マズいね、どうも。