軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第120話  テレポートは未曾有の香り

「テンポ借りてきた」

「テンポ? ってなんですか?」

「んん? 店舗だよ店舗。お店」

ギルドから帰った俺はエトワに結果を報告した。

ちょうど、中央広場近くの目抜き通り沿いに良い物件が空いていたのだ。

「え! もうですか。早いですね! 家賃はどれくらいなんですか」

「金貨3枚」

だいたい45万円くらい。

広さはそれほどでもないけど、一階店舗で一等地ということを考えると全然安い。

とはいえ、現在の露店の家賃が月に銀貨一枚ということを考えると30倍にもなるわけだが。

「勢いで契約してきたけど、内装もやんなきゃだしオープンは騎士隊のパレードが終わってからだな」

パレードまでそんなに日がない。騎士隊の装備も大親方が急ピッチで制作してくれているけれど、まだ間に合うか微妙なライン。

とりあえず、パレードに全力を出して、そこで知り合った人とかに「新オープンします」と新店舗のショップカードでも配ることができれば御の字といったところだろう。

まあ、店そのものは大して準備はいらない。

すでに店はギルド職員といっしょに下見してきたけど、せいぜい8坪かそこらの広さでしかないし、ちょっと古いけど「味がある」として誤魔化せる範疇。

ただ、いちおう高級店としてやるわけだから、それなりの格式を演出する必要はあるだろう。会員制で来店日時指定の予約制にするとか、ちょっとサロン風にして客に茶だの菓子だのを振る舞うとか。

そこらへんは、芸術家のシャマシュさんもいるし、なんでも作れそうなドワーフ大親方もいる、細工師のビル氏になんか頼んでもいい。

壁紙を日本から持ってきて貼るのも良さそうだ。塗料だって、いろいろある。

まあ、あんまりやり過ぎるとケバケバしくなりそうなんで、上手いことやっていこう。イオンとかレベッカさんとかヘティーさんとか相談相手はたくさんいるのだしな。

「店の名前はどうしますか?」

「名前? ああ、そうか」

ギルドでも店をオープンする前には登録証を書いて出さなきゃならない。

いままでは露店だったから、登録も出すには出したがかなり曖昧だったのだが、ちゃんとした店を出すとなれば、ちょっとうるさくなってくる。

もともとエリシェは商業特区であり、商人にはかなり甘い政策が取られているのだが、さすがに店を持つとなれば税金もいままでより多く払わなきゃならない。

この世界では、実店舗を持つというのは商人として一人前になったという証なのだ。

「ま、変にコジッた名前にする必要ないよな。わかりやすくてシブい感じのがいい」

「そうですね。なんの店かわからない名前だと新規のお客さんを逃しそうです」

新規店舗だ。

わかりやすくて、客に対して求心力があるやつがいい。

「うちでしか手に入らない品が手に入る店だしな。会員制にするかどうかは、みんなと相談して決めるにしても――」

悩む。

すぐ思いつくのだと――

「高級生地専門店 アヤセ」

「エルフの里アンテナショップ 世界樹の森」

「メイドインアース」

「異世界雑貨店」

「エルフに会える店 ふるふるふるむーん」

「種族のるつぼ つぼ兵」

「秘密のおみせ みっちゃん」

「珍品堂 あやせ」

「アトリエ イセカイ」

「舶来品専門店 アナザースカイ」

「免税店 ニッポン」

「…………ろくなの思いつかないぞ」

自分のセンスのなさに絶望した!

「う~ん……。悩ましいですけど、知る人ぞ知る店という感じでもいいんじゃないですか?」

エトワの提案ももっともだ。

大衆向けに薄く広く商売をやるわけじゃないのだから、一見怪しいくらいでもちょうどいいのかもしれない。「エルフに会える店」なんてネーミングは論外や。

「騎士隊と同じ名前ではダメなのです?」

黙って話を聞いていたディアナが口を挟む。

「ん? アルテミス?」

「はい。アルテミス。良い名前なのです、どこか懐かしい響きで」

しみじみと云うディアナ。

アルテミスか。確かに騎士隊と同じ名前にすれば、繋がりもわかりやすいかな。

「エトワはどう思う?」

「はい。私もアルテミスで良いかと思います。『高級生地専門店アヤセ』も捨てがたいですが」

「シブい趣味してるよ、お前は」

というわけで、屋号は『アルテミス』に決めた。

早速登録証を出しにいこう。

◇◆◆◆◇

次の日の午前中。

久々に騎士隊全員での合同訓練である。

いつもは、エトワかエレピピかイオンかシャマシュさんかの誰かが欠けるのだが、今日は店が休みなのでピクニック気分で地獄の訓練大会。

俺はその訓練を馬の練習をしながら眺めている。

「いやぁ、凄い」

自然と言葉がこぼれる。

少し離れたところで、レベッカさん対マリナ&イオンの戦いが繰り広げられている。

最近は訓練で真剣を使っていない。

前までは腕に差があったから、真剣でも危なくなかったが、今は「万が一」が普通にあるんで禁止にしてある。現在は木製の模造武器でやることがほとんど。

さすがに訓練で死んだとか洒落にならないからな……。

そりゃあ、真剣を使ったほうが訓練濃度は濃いのかもしれないが。

もちろん、まだ弱いエレピピ相手の訓練では普通に真剣を使っている。

というか、手の空いたシェローさん相手に、例の『ずっと攻撃され続ける訓練』をやらされている。あれ普通に死にかけるやつだから、ちょっとだけ心配だ。

「はぁあああ!」

「ふっ!」

マリナとイオンがレベッカさんに仕掛ける。

ほぼ同時の攻撃。

マリナの長柄と、イオンの細剣がレベッカさんに殺到する。

「まだまだっ!」

マリナとイオンの見事な連携攻撃を、それでも軽々と木剣で捌くレベッカさん。

二人がかりの攻撃でも、まだレベッカさんには余裕がある。この世界の実力差ってどうなってんだ。

とはいえ、マリナもイオンも十分に良い動きだ。

マリナが剛だとするなら、イオンの剣は柔。

さすが、伝説の傭兵団の団長に師事しただけあって、巧みな剣だ。

しかし、実戦で鍛えられているレベッカさんは、さらにその上を行く。

どれほど才能があろうと、イオンの剣は所詮お姫さまの剣といったところなのかもしれない。

とはいえ、イオンはすでにかなり戦える。

戦闘系ばかり三つも天職があるのは伊達じゃないのだ。『将軍』に『聖騎士』。真面目に練習してたらすぐに追い越されてしまいそうだな。

レベッカさんとマリナイオンの模擬戦が終わり、次にシェローさんとマリナのガチ戦が行われた。

二人共、真剣。

通常の訓練というより、マリナの例の『雷槌ミョルニールハンマー』を使っての戦闘訓練である。

シェローさんとマリナでは実力差がまだ相当あるんで、アブナイことにはならない……はずだ。というか、その程度の危険な訓練はもうずっとやってきてるんで、慣れっこになってしまっているのかもしれない。

まあ、いざとなったらディアナが精霊石でなんとかするだろう。

「来いっ!」

「いくであります!」

身長ほどもある巨大なハンマーを構えるマリナ。

『雷槌ミョルニール・ハンマー』はルクラエラの一つ目巨人『アルゲース』が落としていったマジックウェポンである。

見た目に反して、「装備者」であるマリナには、ハルバードよりも軽く感じるのだそうだ。だいたい木でできたハンマーと同じくらいのイメージで振ることができるらしい。

そこらへんは、俺の魔剣もそうだ。レベッカさんの聖剣も同様らしく、マジックウェポンの特性みたいなものなのかもしれない。

「はぁああああああ!」

マリナがハンマーを振り回す。

あんな巨大質量の物体をブンブンと振り回すってだけで、ちょっと脅威だ。

「甘い! 隙だらけだぞ!」

だが、シェローさんには効かず、簡単に剣で弾かれよろめいてしまう。

「もっと速くだ! ハッハッハ! 槌は攻撃が単調になりがちだからな」

ぜんぜん余裕があるシェローさん。

うーむ、槌は強力な武器ではあるが、人間相手には確かに単調にならざるを得ないのだろうか。「振ってブツケル」だけだもんなぁ……。

「ぐぬー! ならばこれであります! ライトニングファなんとか!」

攻撃を弾かれ後退したマリナが叫ぶ。

槌がバチバチと雷を帯び始める。ビリビリ攻撃だ。

「いっけー!!」

ミョルニールハンマーを地面にガツン! と振り下ろす。

アルゲースの時と同じように、雷のシャワーが飛び散る。

「おお、これが前に言ってたやつか!」

云うと同時に、 両手剣(クレイモア) を雷の進行方向へ投げる。

雷が剣に吸い寄せられた後、地面に抜けていく。

その刹那の時間差でシェローさんは一気に距離を詰め、マリナが地面に振り下ろした槌を踏んづけつつ、拳をその眼前に突き出した。

ものすごい状況判断能力だ。

「ま、参ったであります」

マリナが降参する。

まあ、シェローさんが相手ならこんなもんだろう。例のビリビリの対策方法も話してあったしな。

「いやぁ、しかしビリっと来たな。少しカスってしまったぞ」

「当たってたんでありますか!?」

「少しな。直撃だったら動けなかっただろう」

いやいやいや。

一本でも当たってたんなら直撃じゃないの? 化け物基準ではセーフなのか?

俺はまだあれ食らったことないからイマイチわからんが、シャマシュさんもレベッカさんも、ヘロヘロで動けなくなってたけどなぁ……。

いや、あれは直撃で何本分か食らってたのか?

うーん。検証する気にもならないし、いいか……。

その後も訓練は続いた。

シェローさんの希望で、シェローさん対シャマシュさんが召喚した魔獣とのガチ戦闘も見れた。本気のシェローさんは凄い。肉体の躍動感とか、ちょっと感動するレベル。

ゴーレムの首を横薙ぎに跳ね飛ばす斬撃とか、ちょっとなにがなんだかわからんぜ。

聖剣アスカロンの性能試験も実施。

やはりレベッカさん曰く、アスカロンを使うと身体が軽くなるらしい。

剣についた特殊効果の影響だろう。

また武器としても優秀で、そこらの鉄の棒くらいなら軽々と切り飛ばすことができる。さすがに竜殺しの剣とかいうだけある。竜のウロコは硬いっていうもんな。

戦闘訓練はいつもレベッカさんの家のところで行う為、基本的に人が来ない。

モンスタースポットに近い場所は、万が一があるため、よほどのことが無い限りは人は近寄らないのだ。

だから、イオンも屋敷から出て訓練に参加しているのだが、本人的にも身体を動かすのが楽しいようで、笑顔で汗を流している。

「イオン、けっこう動けるね。けっこう当時訓練してたの?」

「はい。ですが、さすがにかなり鈍っていますね」

だろうな。二年も坑道で引きこもってたんだから。

「もっと動けるようになって、ほとぼり冷めたら騎士隊に入ったらいいよ。もちろんイオンさえよかったらね」

俺が気楽にそう言うと、イオンは心底驚いたような顔をした。

「え……? 騎士隊に、私が入ってもいいのですか……?」

「ん、そりゃいいでしょ。あれ、ダメなんだっけか? ああ、正体がバレると良くないからか。まあ、変装すりゃ問題ないんじゃないかな」

実際のところ、個人を特定するのってそう簡単なことじゃない。

もう2年も前に行方不明になったお姫さま。世間的にはもう死んだとされている人間。

これからの騎士隊の活動内容にもよるけど、気をつけてれば大丈夫なんじゃないかな。

さすがに知り合いとカチ合ったりするとヤバそうだが、他人の空似で片付けられるだろう。

髪色だって変えられる。瞳の色だってカラコンがある。

「ていうか、騎士隊のパレードにはイオンに出てもらおうかと思ってたんだけど」

「え、え、え。出てもいいんですか!? いいのかな……オリカさんは出ないんでしょう?」

「オリカは騎士って感じじゃないからな……」

現在の直属の上司であるオリカを差し置いてパレードに参加なんて! ということなのかもしれない。まあ、それはそれでわかる。わかるけど、イオンはパレード慣れしてそうだし、是非出て欲しい人材。

もちろん、変装した上で鉄仮面でも被せて、防御は完璧にした上で。

「そんなに難しく考える必要ないよ。実際、イオンの正体がバレる可能性なんて万に一つもないだろう。あ、でももしバレそうになった時に、誤魔化す練習ぐらいはしておいたほうがいいかもな」

「誤魔化す練習ですか」

「そうだよ。『はぁ? 私がお姫さまだっての? あっはっは。最近のナンパ師は口が上手いねぇ~』とか、そういうやつ」

「え、ちょ……ちょっと自信ないかも……」

「大丈夫、うってつけの人材がいる」

というわけで、イオンはエレピピに『お姫さまにちょっと似てる美人』の役を徹底的に習うことになったのだった。

エレピピは役者を目指してるだけあって、役柄作りがなかなか上手い。

イオンは『お姫様に似てるからと愛人にならないかと帝都の貴族に誘われたこともある酒場の三女で、帝都を飛び出してエリシェにまで辿り着き、金がなくて困っていたところを、ナンパ師のジローに誘われて、なんやかんやで騎士隊に入った根無し草の女』という設定になった。だれがナンパ師だ。

まあ、とにかく大親方のとこにいって、イオンの鉄仮面も追加発注してこよう。

ちなみにイオン用の装備品はすでに発注済みだったりする。

◇◆◆◆◇

「テレポートを試そう!」

戦闘訓練が終わり、みんなでレベッカさんが作った焼きうどんを食べようかという時に俺は切り出した。

最近は俺が持ってきた「そばつゆ」で焼きうどんを味付けするのが静かなブームだ。

できたて熱々の焼きうどんの上にかつお節も踊っている。

「出し抜けになによ、ジロー」

「あ、もちろんご飯食べてからでいいんですが、ほら、クランのランクが上がった特典として、屋敷まで瞬間移動できるみたいなんですよ。一度試してみたいじゃないですか」

「そんなことできるのー?」

「らしいです。やってみないとよくわかりませんが。あ、まあ冷めちゃう前にいただきましょう。いただきます。うまい」

ゾゾゾゾゾと焼きうどんをすすりながら、テレポートのことを考える。

よくよく考えてみたら、なんだか危険があるかもしれない。可能性はある。

だって、瞬間移動だ。ちょっと座標がずれちゃって、ぜんぜん違う場所に出現しちゃったりしたら大問題だ。上空でも地中でも、海の上でも山の中でも。

もちろん、そうならない為の本拠地登録なんだから、大丈夫なはずなんだが……。

やっぱり一人でやったほうがいいかもしれない。

よし……。

「ごちそうさまでした! ちょっと外出てきます」

外に出て「クランクランクラン!」と指輪に向かって唱える。

指輪から、クラン担当の精霊(小)が飛び出す。

「こんにちはマスター! どうなさいました?」

「うん。テレポートのやり方を教えてほしい」

「はい。デフォルトの設定は、クランリングに向かって『テレポート、クランホームまで』です。飛ぶメンバーはその時に決定してください」

「わかった」

思ったより簡単だな。

俺はみんなのところに戻り、ちょっと屋敷に行ってくると告げた。

そして外に出て、クランリングに向かって口を開く。

「では……大丈夫かな。大丈夫だろう。『テレポート、クランホームまで』」

すると、身体の下の地面に幾何学模様の魔法陣が出現し、白く輝きだす。

天職板が飛び出す。

そこに、『クランテレポート準備中』とおそらくカウントダウンだろう数字が一秒ずつ刻まれていく。

さらに、テレポートするクランメンバーを選択して下さいと出ている。

現在は、ここにいるメンバーすべてにチェックが入っている。俺はそのチェックを外した。

残り時間は30秒。けっこう時間がかかる。

「あー! 精霊の気配がしたと思ったら、なんかやっているのです!」

「うわぁ、ディアナ!」

「おお! アヤセ君、それは精霊魔法か! なぜ君はヒトの身で精霊魔法を操れるんだ!」

「うわぁ、シャマシュさん!」

エルフと魔族に見つかった。やつらは魔法的な感覚が鋭敏だぜ。

だが、もう遅い。

一足先にドロンさせていただきやす。

カウントダウンの数字がゼロになり、魔法陣の光が増す。

周辺すべてが光に包まれた次の瞬間。瞳を開くと、見慣れた屋敷のリビングに立っていた。

「お……おお。成功だ……。いや失敗があるのかどうかは知らないが」

軽い興奮が身を包んでいる。

本当に瞬間移動してしまった。

人類で初めて瞬間移動した人間として歴史に名を刻むぜ……。

俺はふらふらと屋敷を出て、レベッカさんの家に向かう。

家の前では、ディアナとシャマシュさんが右往左往していたので笑った。

テレポートは一日一回だから、また次の機会にみんなも体験させてやろう。