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「ずるいずるい」が口癖の妹には「ずるくない」の一本鎗で対抗します

作者: aiちゃんと僕

本文

「まぁ、なんて素晴らしい……!」

今日は私――ロザリンド伯爵家長女セシリアの誕生日。

家族と婚約者だけのささやかな誕生日会の最中、お母様の華やかな歓声があがる。

私の婚約者である第二王子アラン様の手元にあるのは、豪奢なベルベットの箱。

その中できらきらと輝きを放っていたのは、『蒼結晶のペンダント』だった。

希少な蒼結晶、そのあまりの美しさに私も思わず息をのむ。

「いつも完璧な淑女として、僕を支えてくれている感謝の気持ちだよ。いつもありがとう。愛してるよ、セシリア」

「ありがとうございます、アラン様。私もお慕いしております。大切にいたしますわ」

私が恭しく一礼し、そのプレゼントを手に取った――その、瞬間だった。

バァン!! と、貴族の令嬢らしからぬ音を立てて、食卓のテーブルが激しく叩かれる。

「ずるいずるい! お姉様ばっかりそんな綺麗なペンダント貰うなんてずるい! 私もそれが欲しい!」

案の定、というべきか。

両頬をこれでもかと膨らませながら立ち上がったのは、私の四つ下の妹――シャルだった。

愛くるしい容姿に恵まれ、両親に甘やかされて育った妹は、随分とわがままな娘になってしまった。

シャルは、私が何かを手にするたびに、悲劇のヒロインのような涙を浮かべて「ずるい」と騒ぎ立てるのだ。

私は、困ったように微笑んでいるアラン様に、目礼で謝罪する。

これぞ我が家の日常。

この後に起きるのは、「お姉ちゃんなんだから」という理由で優先される 妹(シャル) の意見。

お父様もお母様も「いつもすまないね」というポーズを取りつつも、当たり前に 姉(わたし) に我慢を強いるのだ。

だが流石に、第二王子殿下からの贈り物ということもあってか、今日の両親の対応はいつもと違っていた。

「これこれ、落ち着きなさい、シャルよ」

父様が引きつった笑みを浮かべ、チラチラとアラン様の顔色をうかがいながら妹を 窘(たしな) める。

「今日はセシリアの誕生日なんだよ。そうやってすぐ『ずるい』と騒ぐのはおやめなさい」

いつもの甘いお父様らしからぬ、あまりにも真っ当な教え。

だが、その目が泳いでいるのを見逃さない。ただ単にアラン様の前でこれ以上の醜態を晒したくないだけだろう。

そこへ、困った顔のお母様が、私の席へとそっと近づいてきて耳打ちする。

「セシリア、あの子にああしてダメな理由を、貴方の口からも噛み砕いて説明してあげたほうがいいんじゃないかしら……? きっとお姉ちゃんである貴方から言い聞かせた方が、あの子も納得すると思うの」

もっともらしいことを言っているが、要するに面倒な教育を私に丸投げしたいだけだ。

これまで散々甘やかしてきたツケを、こんな時まで私に払わせようというのか。

だが、いい機会かもしれない。

私は知っている。

理由。説明。

そんなものは、この暴走機関車のような わがまま娘(シャル) には、毛ほども通用しないということを。

必要なのは議論ではない。

可愛い妹と共々、両親にも少しお灸を据えることにしよう。

私は静かに席を立つと、椅子を引き、妹の正面へと歩み進めた。

私が正面に立つと、シャルは涙目のまま睨みつけてきた。

「言い訳なんて聞きたくない! お姉様はいつだってそう! 先に生まれたというだけで、いつも一番良いものを独り占めして……ずるい!」

お母様が「ほら、お姉ちゃん説明してあげて」と目で促してくる。

だが、私はそんな視線を完全に無視し、妹の目をまっすぐに見据えた。

「ずるくない!」

その一言だけを堂々と宣言する。

「えぇ……」とお母様の困惑した声が聞こえた気がするが、気にしない。

「っ……! ペンダントだけじゃないわ! お姉様の婚約者である第二王子殿下だってそう! 格好良くて優しくて、将来有望な王子様と婚約できるなんてずるい!」

妹は一瞬ひるんだかと思ったが、すぐにまた「ずるいずるい」と騒ぎ立てる。

私とアラン様の婚約――国政や家同士の契約という『大人の事情』のことを持ち出された。

本来なら、ここはしっかりと説明をする必要があるだろう。

私は大きく息を吸い込む。

「ずるく、ない!!」

先ほどよりも大きな声量で、改めて宣言する。

視界の片隅で、アラン様が笑いをこらえている。少し恥ずかしいが、引くわけにはいかない。

「なっ! ずるく……なくない! 今日のローストビーフだって! お姉様のほうがお肉が二枚も多かった! 私のほうがお肉が少ないなんて絶対にずるい! 泥棒猫! 強欲お姉様! ずるいずるい!」

泥棒猫なんて言葉、どこで覚えてきたのだか。

ついには肉の枚数にまで難癖をつけてきた。ばれないようにしていたつもりだが、目敏い妹だ。

お父様が「おいおい、肉の枚数は厨房の者が──」と間に入ろうとしたが、今の私たちの間に入り込める隙など存在しない。

「ずるくないったら、ずるくない!!」

これは、教育じゃない。

ただの姉妹喧嘩でも、感情のぶつけ合いでもない。

そう、これは――心を折る戦い。

「あー! もうっ! そればっかり! ちゃんと理由を言ってよ! ずるいずるいずるい!!」

「ずるくない!!!!!」

「ずーーーるーーーいーーー!!!」

「ずーーーるーーーくーーーなーーーい!!!!!」

理屈もクソもない。

「ずるい」の暴風雨に対して、私は「ずるくない」の一点張りでただひたすらに、頑なに、突っぱね続けた。

「ちょっと、二人とも、お願いだから一度落ち着いて……」

お母様が、落ち着かせようとしてくるが、私たちの「ずるい!」「ずるくない!」の応酬は止まらない。

晩餐の間に、令嬢らしからぬ大絶叫が響き渡り続ける。

そして──その平行線の終わりは、突然訪れた。

「あーーー! もう分かった!! 分かったから、頼むから二人とも静かにしてくれ! 殿下の御前だぞ! シャルにも同じものを用意する! それでいいだろう!? 」

ついに延々と続く無限ループに脳を破壊され、これ以上の醜態を恐れたお父様が頭を抱えて叫んだ。

「第二王子殿下の御前で、なんとお恥ずかしい。申し訳ございません、殿下」

お父様が、アラン様に頭を下げる。

「気にしなくていい。セシリアの 珍しい(かわいい) 姿を見れて良かったよ」

アラン様は楽しげにそう言って、私にウインクをしてくる。

そして私にだけ聞こえるようにそっと耳元で囁く。

「それにしても、あの子のいう通り君は強欲だね。そんなところも愛おしいのだけれど」

やはり、この人には私の目論見はお見通しのようだ。

それにも関わらず愛おしいなんて、相変わらずアラン様は私の全てを肯定してくれる。

結局、我が家からアラン様を経由して同じペンダントを購入するという事で話が纏まり、その日はお開きとなった。

* *

数日後。

ロザリンド伯爵邸の庭園にて。

私の胸元には、あの日貰った『蒼結晶のペンダント』が輝いている。

そして、その対面に座る妹の胸元にも──同じ『蒼結晶のペンダント』が、これ見よがしに飾られていた。

シャルは、ハーブティーのカップを置くと、満面の笑みを私に向けた。

「わーい! お姉様と一緒ですっ!」

そんな可愛いらしい妹に、私は頬を緩めて微笑み返した。

「そうね、お揃いね」

「ふふっ、お姉様大好き!」

「私もよ、私の可愛いシャル」

数日前、伯爵邸を揺るがす大喧嘩をしたとは到底思えないほど、庭園には穏やかで仲睦まじい姉妹の笑い声で満ちていた。

そんな光景を微笑ましそうに眺めていた両親に、私は声をかける。

「ところで……私の誕生日なのに、シャルも同じプレゼントを貰うなんて、不公平……ですよね」

お父様は嫌な予感を感じたのか、その額から一筋の汗を流した。

お母様もなにやらぎこちない笑顔で固まっている。

「シャルの誕生日の際は、このペンダントに似合う髪飾りをプレゼントするのはいかがでしょう。もちろん、私にも同じものをお願いしますね」

私は、完璧な淑女の笑みを浮かべて告げた。

「――そうじゃないと、『ずるい』ですわ」