初対面で旦那様にボロクソ言われましたが、聞いてるうちに笑ってしまいました
作者: Ash
本文
「お前が噂の悪女か」
古びた小さなトランク一つだけ持たされて、連れて来られた結婚相手の家。そこで、夫となる旦那様に初対面で言われたのが、この言葉でした。
「こんな貧相な女が男を手玉に取る悪女だと? 手玉に取られる男の趣味は最悪だな。金を払って相手をさせていたとしても、その金すらなさそうな顔じゃないか」
酷い言い草ですが、私もそう思います。母が死んで、継母と異母姉が来て、屋敷に閉じ込められて、メイドの仕事を押し付けられている私に、無駄金などありません。
というか、社交界に出るきっかけもありません。
それなのに、悪評だけは立っているのです。
「お前の部屋は用意してある! 見られる格好をしてこい!」
と、まあ、着飾る機会をいただけたのですが――
◇◆◇
「お前、本当に人を馬鹿にしているのか? まともに化粧をして、これなのか? こんな女に引っ掛かる馬鹿がいるのか?」
初めての化粧で、頑張ったんですけど、旦那様の批評はかなり悪いです。
私も頑張りました。薔薇色の頬とか、蠱惑的に見えるアイシャドウとか、真っ赤な口紅とか、貴婦人は斯くあるべきって顔にしようとしたら、これです。
「おてもやんか、お前は?! バトラー! 見られる格好にしてくれ!」
※作者注)おてもやん・・・チークが濃い顔のこと。お多福やオカメをイメージしていただけるといいかもしれません。
部屋に用意されたドレスの中にお姫様のようなドレスがあったので選んだのですが、メイドたちに剥ぎ取られて、着せ替え人形にされました。
※作者注)肌色より白いファンデーションに、アイシャドウとチークが濃い顔にベタベタ塗られた真っ赤な口紅。そして、夜会やウエディングに使うようなドレス。それが客観的に見た彼女の着飾った姿です。
◇◇◆
「やっと、まともに見れるような格好になったな」
着せ替え人形の時間がすごすぎて、私は曖昧に笑っておきました。継母や異母姉があんな苦しくて、辛い思いをしているなんて、想像したことはありませんでした。
「噂の悪女が来たと思ったら、化粧担当の侍女も連れていない貧相な女が来て。化粧直しぐらい自分でやっていたと思ったら、それすらできなくて。あのおてもやんだぞ。笑うしかないだろ」
「プっ」
状況説明されてみれば、とんでもない喜劇ですよね。
自分のことですが吹き出してしまいました。噂の悪女じゃないけど。
「本当の悪女が、おてもやんの化粧なんか人に見せられるわけがないからな。本当に困って、自分の馬鹿さ加減を笑うしかなかった」
「自分の馬鹿さ加減って、旦那様のことですか? 私のことではなく?」
「俺は悪女と結婚するつもりだったんだ。経験豊富な悪女なら、手間もかからないからな」
「え・・・? 悪女と結婚したかったんですか?」
「でも、笑わせてくれるお前が来た。笑う顔も可愛いお前のほうが、手間のかからない悪女より良い」
「え? え? それは異母姉ではなく、私で良いってことですか?」
「そういうことだ。俺の可愛い悪女さん」