軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 電力革命と代償の軍事研究

惑星テラ・ノヴァ。

油田の確保と、初期の石油精製ラインの稼働から数日が経過した前線基地(FOB)。

この日、基地の鉱山エリアでは、工藤創一と防衛隊員たちが、 煤(すす) と油にまみれて作業に追われていた。

「……ふぅ、これで何往復目だ?」

「午前中だけで5回目ですよ、隊長」

隊員の一人が、石炭を満載した手押し車を止め、額の汗を拭う。

彼らの目の前には、黒い煙を吐き出しながら地面を穿つ『燃料式掘削機(Burner Mining Drill)』が並んでいる。

基地の資源供給を支える心臓部だが、こいつらは「石炭」を燃やして動く。

つまり、定期的に誰かが燃料を補給して回らなければ、すぐにガス欠で止まってしまうのだ。

「悪いな、みんな。

自動化、自動化と言っておきながら、ここだけは人力頼みで」

創一が申し訳なさそうに声をかけると、隊員たちは笑って首を振った。

「いえ、訓練の一環と思えば、いい運動です」

「それに、この機械のおかげで鉱石が掘れているわけですからね。ツルハシで掘るよりマシです」

彼らは健気だが、創一としては忸怩たる思いがあった。

「工場(Factory)」の理念は、人間の労働からの解放だ。

隊員たちは貴重な戦力であり、石炭運びのクーリーではない。

彼らには警戒任務や休息に時間を使ってほしい。

「……よし。

待たせたな、みんな。ついに『あれ』の研究が終わったぞ!」

創一が高らかに宣言すると同時に、手元の端末から軽快なファンファーレが鳴り響いた。

『研究完了:電動採掘技術(Electric Mining)』

「電動……つまり、電気で動くドリルですか?」

「その通り! もう石炭を運ぶ必要はない。

電線さえ繋げば、24時間ノンストップで掘り続けてくれる優れものだ!」

創一はウィンドウを開き、クラフト画面を展開した。

必要な素材は、すでにインベントリに揃えてある。

【クラフトレシピ:電動掘削機(Electric Mining Drill)】

鉄の歯車(Iron Gear Wheel) x 3

鉄梁材(Iron Beam) x 2

小型モーター(Small Electric Motor) x 3

燃料式掘削機(Burner Mining Drill) x 1

「既存の燃料式ドリルを素材として流用することで、アップグレードが可能なんです。

さあ、リノベーションの時間だ!」

創一が指を鳴らす。

ナノマシンの光が、煤けた燃料式掘削機を包み込む。

バチバチバチッ! キュイィィィン!

重厚なディーゼルエンジンのような駆動部が分解され、代わりに洗練された電動モーターと冷却フィンを持つスマートな筐体へと再構築されていく。

黒煙を吐き出す 排気管(マフラー) が消え、代わりに太い電源ケーブルの接続ポートが現れた。

ガシャン!

再設置完了。

創一は近くの電柱からケーブルを引き、接続した。

ブゥゥゥゥン……

静かだ。

以前の「ガションガション、ボシュゥゥ」という騒音と黒煙がない。

滑らかなモーター音と共に、ドリルヘッドが回転を始め、コンベアの上に鉄鉱石を吐き出し始めた。

「おおっ……! 静かだ!」

「煙が出ないぞ! これで喉を痛めなくて済む!」

隊員たちが歓声を上げる。

創一は次々とエリア内の掘削機を電動化していった。

鉄鉱山、銅鉱山、そして石炭鉱山。

すべての採掘現場から黒煙が消え、クリーンで静謐な——しかし以前よりも遥かに高速な——採掘体制が整った。

「これで燃料入れの手間が省けましたね。

これからは空いた時間で、訓練や設備のメンテナンスに集中してください」

「了解です! ありがとうございます、工藤さん!」

喜ぶ隊員たちを見送りながら、創一は満足感に浸っていた。

これぞ、文明の進歩だ。

だが、その直後だった。

ブウン……ンンン……

足元のベルトコンベアの速度が、不意に落ちた気がした。

基地内の照明が、一瞬フッと暗くなる。

「……え?」

『——警告。マスター、電力消費量が急増しています』

イヴの警告音が脳内に響く。

同時に、目の前の電動掘削機のモーター音が、苦しげな唸り声に変わった。

回転数が落ちている。

『電動掘削機は稼働時に、一台あたり100 kW(キロワット) の電力を消費します。

現在、基地全体で50台の掘削機を換装しました。

単純計算で5000kW……つまり5 MW(メガワット) の負荷増大です』

「5メガ……。結構食うな」

『はい。既存の蒸気機関だけでは供給が追いついていません。

このまま 電圧低下(ブラウンアウト) が続けば、最悪の場合ブラックアウトします。

そうなれば、石炭鉱山の電動ドリルも止まり、発電所への燃料供給が途絶え、基地全体が沈黙します』

創一の背筋が凍りついた。

便利になった代償として、システム全体が「電力」という一本の命綱に依存してしまったのだ。

もし今、電気が止まれば、石炭すら掘れなくなり、再起動不能に陥る。

デス・スパイラルだ。

「やばい、急げ! 発電所増設だ!」

創一は発電エリアへと全力疾走した。

現在は湖畔に数基のボイラーと蒸気機関があるだけだが、これを拡張する。

「まずはエンジンだ。

こいつが電気を生む心臓部だからな」

【クラフトレシピ:蒸気機関(Steam Engine)】

鉄の歯車(Iron Gear Wheel) x 5

小型モーター(Small Electric Motor) x 3

鉄板(Iron Plate) x 10

「とりあえず、6基作成!」

バチバチバチッ!

巨大なシリンダーとタービンを持つ発電機が、次々と組み上がっていく。

これを設置するには、蒸気を作るボイラーも必要だ。

「ボイラーとエンジンの比率は1:2。

エンジン6基なら、ボイラーは3基必要だ」

【クラフトレシピ:ボイラー(Boiler)】

パイプ(Pipe) x 4

石の炉(Stone Furnace) x 1

「よし、作成!」

創一は湖畔のポンプから水を引くパイプを延長し、新しいボイラーを並列に設置した。

そこに石炭を供給するラインを繋ぎ、蒸気機関を連結する。

ドスン、ドスン、ドスン……!

巨大な発電プラント群が、水辺に威容を現した。

ボイラーに火が入ると、煙突から白い蒸気が猛烈な勢いで噴き上がる。

シュゴォォォォォォ!!

高圧蒸気がタービンを回し、発電機が唸りを上げる。

一瞬暗くなっていた基地の照明が、再び力強く輝きを取り戻した。

『発電出力、安定。

総発電容量は、余裕を持って確保されました。

蒸気機関1基あたりの出力は750kW。6基増設で4.5MWのプラスです』

「……あぶねぇ。ギリギリだったな」

創一はへたり込んだ。

電動掘削機1台で100kW。蒸気機関1基で750kW。

つまり、エンジン1基でドリル7.5台分を賄える計算だ。

許容量は決まっている。

無闇に機械を増やせば、また電力不足になる。

このバランス感覚が、工場運営の肝だ。

「さて、電力の憂いはなくなった。

次は……工場の心臓部、組立機だな」

創一は基地の中央、製作エリアを見渡した。

そこにはまだ、初期に作った『燃料式組立機(Burner Assembling Machine)』が稼働している。

こいつらも石炭を食うし、動作も遅い。

「次は『自動化組立機(Electric Assembling Machine)』の研究を解禁すべきですね。

どんどん燃料式から電力式に置き換えていきましょう。

隊員さんたちに燃料入れを任せているけど、その手間も完全にゼロにしたい」

『同意します。

電力式になれば、インサータによる材料搬入もスムーズになり、生産速度も向上します』

創一が次の技術ツリーを確認しようとした時、ふと画面の隅にある灰色のアイコンが目に入った。

銃と盾のマーク。

『軍事(Military)』カテゴリーだ。

「なあ、イヴ。

工場の効率化も大事だけど、軍事系は進めなくていいか?

この前の油田攻略戦、結構ギリギリだったろ?」

『……肯定します。

敵の進化係数は上昇傾向にあり、中型バイターの出現率が高まっています。

現在の通常弾薬とガンタレットだけでは、貫通力不足に陥るリスクがあります』

「だよな。

もっと強い弾、『貫通弾薬(Piercing Rounds)』とか、『火炎放射器(Flamethrower)』とかが欲しい」

創一は軍事技術のロック解除条件を確認した。

そこには今までとは違う要求素材が表示されていた。

【必要コスト:軍事テクノロジーカード(Military Tech Card)】

「軍事カード……通称『灰パック』か。

これを作るには……」

レシピを展開する。

【クラフトレシピ:軍事テクノロジーカード】

バイター研究データ(Biter Research Data) x 1

鉄板(Iron Plate) x 10

銅板(Copper Plate) x 10

「ふんふん。で、この『バイター研究データ』ってのは?」

【クラフトレシピ:バイター研究データ】

コークス(Coke) x 5

鋼鉄板(Steel Plate) x 5

バイオマター(Biomatter) x 10

「……うげっ」

創一は思わず声を上げた。

「け、結構するね……。

コークスと鋼鉄はいいとして、バイオマター10個!?」

バイオマター。

それはバイターの巣や死骸から採取できる希少な有機素材だ。

そして何より、あの『医療用キット』の主原料でもある。

1バイオマター=1医療用キットのレートで変換できる。

「つまり、軍事カードを1枚作るために、医療用キット10個分の素材を消費するってことか?

これ、めちゃくちゃコスト重いぞ……」

創一は頭を抱えた。

医療用キット10個といえば、国家予算レベルの取引材料だ。

鬼塚のような患者を10人救える量だ。

それを研究のために、湯水のように溶かすことになる。

「バイオマターは医療用キットの供給に使いたい所だけど、分配が難しいな……。

日本政府、怒らないかな?」

創一は迷った末、日下部駐在員に通信を入れた。

事情を説明し、バイオマターを軍事研究に回したい旨を相談する。

すると日下部からは、意外なほどあっさりとした返答が返ってきた。

『構いませんよ、工藤さん』

「え? いいんですか?

これ、不老不死の薬の原料ですよ? もっと寄越せって言われるかと」

『ええ。ですが、命あっての物種です。

医療用キットの供給は、今のところ月10個もあれば十分です。

国内での臨床試験用と、外交カードとしての備蓄。

それ以上、市場に流せば逆に値崩れと混乱を招きますからね』

日下部は眼鏡のブリッジを押し上げた。

その表情は冷徹だった。

『それに、先日アメリカから探りが入った件もあります。

今後、基地の防衛力強化は最優先事項です。

バイターだけでなく……万が一の事態に備えて、強力な「抑止力」が必要です』

言葉の裏に、国家としての計算が見え隠れする。

バイター対策と言いつつ、その武器が人間に——あるいは裏切った同盟国や工作員に向けられる可能性も考慮しているのだろう。

『先に研究を進めてください。

バイオマターは、また遠征で回収すればいい。

今は、貴方と工場の生存率を上げることが最大の国益です』

「……分かりました。

じゃあ、お言葉に甘えて、そうします」

創一は通信を切ると、決意を固めてイヴに向き直った。

「聞いた通りだ。

バイオマターの在庫を、軍事研究に突っ込むぞ」

『了解しました、マスター。

軍事テクノロジーカードの量産ラインを設計します』

「ああ。

バイターの襲撃が多くなってるし、進化も進んでる。

いつまでも手作りの弾丸じゃジリ貧だ。

武器の生産も自動化して、アサルトライフルもタレットも弾薬も……倉庫が溢れるくらいの潤沢な在庫にしたい」

創一はインベントリから貴重な紫色の物体——バイオマターを取り出し、研究所のスロットへと投入した。

ウィィィン……

研究所が、いつもより禍々しい灰色の光を放ち始める。

それは平和利用のための研究ではない。

殺戮と破壊のための、純粋な軍事技術の解析光だった。

不老不死の夢が、硝煙の現実に変わっていく。

「行くぞ、イヴ。

ここからは工場だけじゃない。要塞(Fortress)を作るんだ」

電力革命による生産力の増強と、その裏にある脆弱性。

そして希少資源を代償にした軍事力の強化。

テラ・ノヴァの工場は、迫りくる脅威に対抗するため、より強く、より凶悪に進化しようとしていた。