軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第128話 静止軌道の上で見つかったもの

アメリカ合衆国ワシントンD.C.。

ホワイトハウス 西棟(ウエストウイング) 、シチュエーション・ルーム。

外の気候は初夏を迎えようとしているが、この地下の密室には常に、心臓を凍りつかせるような無機質な冷気が循環している。

初回観測から、およそ6ヶ月。

あの『見えない巨大質量』——日本が空に隠し持つ超弩級の飛行要塞の存在を、国家地理空間情報局(NGA)のアーサー・ペンドルトンが初めて報告した日から、ちょうど半年が経過していた。

それ以降、この部屋では「3ヶ月ごとの定例報告会」として、日本の空中要塞に関する監視データのレビューが極秘裏に続けられている。

円卓を囲む顔ぶれは、いつもと同じだ。

キャサリン・ヘイズ大統領。

影の支配者、ノア・マクドウェル。

CIA長官、エレノア・バーンズ。

そして、数名の国家安全保障会議(NSC)の高官と、情報将校たち。

部屋の空気は、最初の報告の時のようなどよめきや激しい議論の熱はすでになく、ある種の「嫌な慣れ」に支配されていた。

つまり、全員が分かっているのだ。

(……また、日本の理解不能な何かを聞かされる時間か)

という、胃が重くなるような徒労感と諦念である。

「えー、では」

かつては上司から「妄想狂」と罵倒されていたNGAのしがない解析官であったアーサー・ペンドルトンは、今やこの最重要会議において、完全に進行役としての地位を確立していた。

彼は少しだけ緊張した面持ちでネクタイを直しつつも、以前よりも遥かに堂々とした態度で、スクリーンに最初のスライドを投影した。

「初回観測から6ヶ月が経過いたしましたので、第2回の『未確認重力異常・定例報告』を開始いたします」

アーサーの合図と共に、スクリーンに世界地図と、その上を這うように伸びる赤い航跡図、そして複雑な重力勾配の波形ログが表示された。

「まず、日本空中要塞群の現状です。

……現在、少なくとも『3隻』が確認されています」

シン、と。

会議室が一瞬、完璧な静寂に包まれた。

以前の報告では1隻だった。

それが、今は3隻に増えている。

その事実の重みに、将官たちの一人が思わず額の汗を拭った。

「3隻……。やはり、増産しているということか」

ヘイズ大統領が、こめかみを押さえながら低く呻いた。

アーサーは頷き、スクリーン上の3つの光点を順番にハイライトした。

「はい。現在、彼らは世界中の空域を、ほぼ無制限に飛行しています。

1号機と思われる反応は主に日本近辺の洋上を。2号機は太平洋および大西洋の公海上空を広範に。

……そして3号機は、日本の同盟国『以外』の空域を、縦横無尽に飛び回っている形跡があります」

アーサーは一拍置き、あえて極めて強い一言を付け加えた。

「同盟国でないのなら、北朝鮮の上空だろうと、ロシアの上空だろうと、好き放題しているということです」

「なっ……!」

NSCの高官が息を呑んだ。

好き放題。

それはつまり、この要塞が単なる「日本を守るための抑止力(盾)」などではなく、すでに他国の領空に完全な不可視状態のまま侵入し、作戦行動をとれる「鉾」として運用されているという明確な証拠であった。

「モスクワのクレムリン上空で、この巨大質量の反応が数時間にわたって 待機(ホバリング) していたログを確認した時は……正直、こちらも肝が冷えました」

アーサーは、データアナリストとしての冷静な仮面から少しだけ感情を漏らし、身震いするように言った。

もしあの時、その見えない要塞が、クレムリンの屋根を物理的に押し潰すか、あるいはレーザーでも照射していれば、ロシアの中枢は一瞬で消滅していた。

大国が気づかぬ間に、その首元に巨大な刃が突きつけられていたのだ。その圧倒的な恐怖は、単なる数字のデータ以上に、この部屋にいる全員の背筋を凍らせた。

「……情報機関の総合評価として、お伝えします」

アーサーは居住まいを正した。

「現時点で、この『見えない空中要塞』の存在をまともに把握し、トラッキングできているのは、世界で我々アメリカのみです」

「本当に、他国は気づいていないのか?」

エレノア長官が、氷のような声で確認を入れる。

「はい」

アーサーは即答した。

「少なくとも、重力勾配レベルの微細なノイズを継続的に追跡し、それを『巨大質量』として認識できている国は確認されていません。

……そもそも、誰も空に『全長数キロの鉄の塊』が浮いているなどと想定して、気象データや軌道データを洗ったりはしませんからね」

アーサーは、少しだけ自嘲するように口元を歪めた。

「……私のような 偏執狂(パラノイア) がアメリカにいたおかげで、ギリギリ気づけたと言っていいと思います」

その言葉に、会議室の張り詰めた空気がほんの少しだけ緩んだ。

「ふふっ」

ノア・マクドウェルが、ソファで面白そうに笑い声を立てた。

「アメリカは君に感謝すべきですね、アーサー。君のその素晴らしい偏執狂ぶりがなければ、我々もまた、ロシアや中国と同じように、日本の掌の上で無知なまま踊らされていたわけですから」

「ええ、本当にね」

ヘイズ大統領も、半ば本気で、深い疲労を滲ませながら同意した。

アーサーの報告がなければ、アメリカは日本の真の恐ろしさに気づけないまま、表向きの同盟関係だけで満足していたはずだ。アーサーの執念は、アメリカを「無知の敗北」から救い出したのだ。彼の立場が、半年前の「ただの変人」から、今やこの部屋の誰もが無視できない最重要観測官へと格上げされているのは、当然のことであった。

「……で」

ヘイズ大統領は、両手で顔を覆うようにして深く息を吐き出し、そして、限界を迎えたような声でアーサーに尋ねた。

「前回も聞いたけど……今回もまた、増えたの?」

「はい。増えました。1隻から3隻へ」

アーサーが真面目な顔で、一切の容赦なく事実を突きつける。

その短いやり取りが、この会議の異常性を最も端的に表していた。

空飛ぶ巨大要塞という、人類の歴史を根底から覆すオーパーツが、「また増えました」「そうですか」という、まるで近所のコンビニの店舗数が増えたかのような事務的なトーンで語られているのだ。

「ああ、もう……」

ヘイズ大統領は、椅子に深くもたれかかり、半ば呻くように天を仰いだ。

「もしかして、我々にも他国にも全くバレていないのをいいことに、調子に乗ってどんどん量産してる可能性は?」

「否定できません」

アーサーの即答に、ヘイズは完全に頭を抱えた。

政治家として、理解不能なテクノロジーに付き合わされ続ける疲労。それが彼女の精神をゴリゴリと削り取っている。

「……おかしいわ」

ヘイズは、バッと身を乗り出し、机を叩いた。

彼女の中の、常識的な政治家としての理性が、この事態の最大の「矛盾」に噛みついたのだ。

「そもそも、資材が必要でしょう!?

全長数キロ規模の空中要塞よ!?

最初の1台は、まあいいわ。百歩譲って、何十年も前から地下に巨大な秘密工場を作って、コツコツと資源をため込んで、なんとか誤魔化しながら作ったのかもしれない。

……でも、2台目、3台目は?

たったこの半年の間に、あれほどの巨大な質量を空に浮かべるだけの鉄やレアメタルを、どこから調達したというの!?」

ヘイズの言葉は、怒りというよりも、物理法則と経済の理屈が全く追いつかないことへの苛立ちだった。

「我々の情報機関は、日本の港湾施設も、新木場の倉庫も、かなり気を張って資材ルートを見張っていたはずよ!

それなのに、あれだけのメガ・ストラクチャーを建造するための異常な物資の移動や、莫大なエネルギー消費の痕跡が、地球上のどこからも出てこなかった!

……どういうトリックなの!?」

大統領の叫びに、会議室の誰もが明確な答えを持っていなかった。

ヤタガラスが量産されているということは、すなわち、日本の「見えない 生産能力(キャパシティ) 」そのものが、地球の全工業力を凌駕するほどの異常なレベルに達しているということを意味する。

「……海中資源、の可能性もあるかと」

NSCの情報分析官が、恐る恐る、一応の仮説を口にした。

「南鳥島沖の、あのダミーだと思われていた深海採掘船団。

あるいは、我々の衛星がカバーしきれない深海底に、巨大なプラントを建設し、そこから直接資源を吸い上げて、海中で極秘裏に要塞を建造しているのではないでしょうか」

「深海?」

ヘイズが、その言葉にすぐさま食いついた。

「深海で、数キロの要塞を組み立てていると?

……じゃあ何? あの空中要塞は、水中対応(潜水可能)ってこと?」

彼女の想像力が、与えられた仮説を元に、さらに絶望的な方向へと膨らんでいく。

「水空両用!?

空をマッハで飛び回り、レーダーから消え、いざとなったら深海に潜って隠れる……!?

どうなってるのよ、あの国の技術は!」

ヘイズは、自分がどんどん「常識の外」へと押し出され、SFパニック映画の住人にされているような感覚に陥っていた。

「いやー、凄いですねぇ」

重くなりすぎた会議室の空気を、ノア・マクドウェルが例の優雅で軽薄なトーンで切り裂いた。

「本当に、素晴らしい生産力です。

……アメリカにも、1隻欲しいですね」

「ノア、頼むから真面目にして」

ヘイズが、頭痛を堪えるようにノアを睨みつけた。

「結構、ガチの提案なんですけどね」

ノアは肩をすくめ、全く悪びれる様子もなく続けた。

「2台目、3台目と続くなら、それは『奇跡のワンオフ(特機)』ではなく、完全に『工業的な量産ライン』が確立しているということです。

なら、我々が掴んだ重力異常の 証拠(データ) を日本政府に突きつけて、『見つけていますよ。だから、同盟国である我々にも一隻、購入させてくれませんか?』と申し出てもいいのでは?

金ならいくらでも出しますよ。タイタン・グループの予算を全額突っ込んでもお釣りがくる兵器ですからね」

ノアの言葉に、会議室が少しだけ変な空気に包まれた。

笑っていいのか分からない。

冗談のように聞こえるが、もし本当に日本が「売ってくれる」なら、アメリカの国防にとってこれほど心強い話はないからだ。理屈としては、確かに通っている。

「ないです。それはない」

だが、エレノア・バーンズCIA長官が、氷のように冷たく、その甘い提案を一刀両断にした。

「日本が、あのような戦略的バランスを単機で崩壊させるオーバーテクノロジーを、他国に渡すはずがありません。

『医療用キット』でさえ、我々に首輪をつけるための道具として徹底的に出し惜しみをしている連中ですよ?

……もし交渉を持ちかければ、彼らは『そんなものは存在しない』とシラを切り通し、証拠隠滅のためにさらに深く潜るだけです」

「……そうでしょうね」

ノアは、少しだけ残念そうに唇を尖らせた。

「でも、もし日本が我々アメリカ以外の国——例えば中国や中東の王族に、あの空中要塞をこっそり提供していたら……その時は、エレノア長官と大統領のせいですよ?」

ノアの飄々とした責任転嫁に、ヘイズが呆れて溜め息をつき、エレノアが冷たく彼を睨み返す。

アーサー・ペンドルトンは、その三人のやり取りを黙って観察しながら、内心で密かに感心していた。

(……ノア・マクドウェルとエレノア長官、それに大統領って、なんだかんだで本当に仲良いよな……)

極限の緊張状態の中で垣間見える、影の支配者たちの奇妙な人間関係。それは、アーサーの張り詰めた神経をわずかに和らげる一幕であった。

「——さて。前置きはこれくらいにしておきましょう」

アーサーは、手元の端末を操作し、声のトーンを一段階落とした。

「……ここからが、今回の報告の『本題』です。

今回、我々の観測チームが判明させた事実が、一つあります」

その言葉に、会議室の空気が再び、ピンと極限まで張り詰めた。

ノアもエレノアも口を閉じ、ヘイズ大統領が息を呑んでアーサーを見つめる。

今までの「空中要塞が3隻に増えた」「どこで作っているのか分からない」という議論が、すべて前座に過ぎなかったと悟ったからだ。

「……それは?」

ヘイズが、乾いた唇を舐めながら尋ねた。

アーサーは、メインスクリーンに新しいスライドを表示させた。

それは、地球を中心とした宇宙空間の図解であった。

「一般的に、人工衛星の軌道は、高度によって大きく3つに区分されます」

アーサーは、レーザーポインターで図解の各層を指し示しながら、ゆっくりと、誰にでも分かるように説明を始めた。

「高度200キロから2000キロの『低軌道(LEO)』。

高度2000キロから3万6000キロ未満の『中軌道(MEO)』。

そして、高度約3万6000キロの『静止軌道(GEO)』……と」

アーサーは、そこで一拍置いた。

会議室の全員が、次に彼が口にする言葉を固唾を飲んで待っている。

「今回、我々は……日本空中要塞と思われる巨大な重力ノイズの反応を。

……静止軌道(GEO)よりも『さらに上』の宙域で、検知しました」

……。

沈黙。

全員の思考が、完全に停止した。

「……ということは……」

ヘイズが、椅子から立ち上がりそうになりながら、震える声で呟いた。

「……水空両用、じゃなかった……!」

エレノアが、信じたくない言葉を、氷のような声で吐き出した。

彼女の鉄面皮に、初めて明確な「絶望」の色が浮かんでいる。

「はい」

アーサーは、静かに肯定した。

「少なくとも観測事実は、それを示しています。

日本の要塞は、空中を飛ぶだけではありません。……宇宙空間へと進出しています」

会議室の認識が、音を立てて崩壊した。

「宇宙要塞、だったということ!?」

ヘイズが、頭を抱えて叫んだ。

これまでの「空飛ぶ都市」という概念すらも、すでに古いものだったのだ。彼らが地上でスパイ合戦を繰り広げている間に、日本はすでに地球の重力を振り切り、星の海へと版図を広げていたのである。

「うーん……流石は日本の魔法使い。スケールが違いますね」

ノアが、妙に感心したように目を輝かせている。

「悪夢でしかないわ……」

エレノアは、本気で、心底嫌そうに吐き捨てた。

冷静な諜報のプロフェッショナルである彼女が、これほどまでに感情を露わにするのは珍しい。

「我が国のロケット技術や、莫大な予算をつぎ込んだ 宇宙軍(スペースフォース) の存在意義が、一気にゴミになりましたよ。

……宇宙開発まで日本が独占する気ですか? いい加減にして欲しいですね、本当に……」

彼女の言葉には、アメリカという超大国のプライドを完全にへし折られた悔しさと、日本の底知れぬ技術力に対する純粋な怒りが込められていた。

だが、その絶望の中で、ヘイズ大統領の目がハッと見開かれた。

彼女の政治家としての明晰な頭脳が、一つの「答え」に辿り着いたのだ。

「……待ちなさい……!

ってことは……建造資材の謎が解けたわ……!」

ヘイズの叫びに、全員の視線が彼女に集まる。

「日本の国内でも、深海でもない!

地球上のどこを見張っても、資材ルートが出てこないはずよ!

……すでに太陽系にある資源を、日本が宇宙空間で直接採掘して、そこで建造しているのよ!!」

その言葉が落ちた瞬間、会議室にいた全員の視界が、一気に宇宙規模へと開けた。

月のクレーターに眠る無尽蔵のヘリウム3や希少金属。

小惑星帯(アステロイドベルト) に漂う、地球の全埋蔵量を凌駕するレアメタルの塊。

日本は、地球の資源など最初からアテにしていなかったのだ。

彼らは宇宙空間に巨大なプラットフォームを建設し、そこで小惑星を捕獲して解体し、完全な無重力環境下で、誰の目にも触れることなく2隻目、3隻目の宇宙要塞を量産している……。

それなら、全ての計算の辻褄が合う。

「なるほど?

深海や水中は、流石に違いましたかね?」

ノアが、自分の推理が外れたことを少し残念そうに言いながら、肩をすくめた。

この期に及んでも全く危機感のない彼のズレた態度が、逆に事態の深刻さを際立たせている。

「待ちなさい。ということは……」

ヘイズの 想像力(パラノイア) が、歯止めが効かなくなり、どんどん暴走していく。

「彼らは今、宇宙のどこまで行っているの?

月の裏側に、すでに巨大な 前哨基地(コロニー) を建設している!?

火星にテラフォーミングの実験施設を作っている!?

……今の日本の技術力なら、太陽系を飛び出して、他所の 星系(アルファ・ケンタウリ) にまで進出してたって、全く不思議じゃないわよ!?」

ヘイズの言葉は、SFパニック映画の狂乱した科学者のようだった。

だが、この会議室にいる誰一人として、それを「馬鹿げた妄想だ」と笑って否定することはできなかった。

なぜなら、この世界では、もはや日本の技術力に対して「あり得ない」と断言できる基準が存在しないからだ。

「……アーサー」

ヘイズは、すがるような目で解析官を見た。

「彼らは、どこまで行っているの?」

アーサーは、困ったように眉を下げ、しかし科学者としての誠実さを持って答えるしかなかった。

「……分かりません。

ですが、大統領。

一つだけ言えるのは……『日本という国が、我々の想定を下回ったことは、これまで一度もない』ということです」

その見事なまでの真理に、ヘイズは完全に沈黙した。

「どうせ、FTL(超光速航法)でも開発したんでしょう。

彼らなら、やりかねませんよ」

ノアが妙に納得したように頷き、とどめを刺す。

ヘイズが彼を鋭く睨みつけたが、エレノアも含め、誰もそれを「あり得ない」と全否定できなかった。

それが、怖いのだ。

「……アーサー」

ヘイズは、深く、深く溜め息を吐き出し、疲労困憊の声で言った。

「あなたの報告、毎回本当に嫌なんだけど」

その言葉には、大統領としての威厳はすっかり消え失せ、理解不能な現実に付き合わされ続ける一人の人間としての、純粋な泣き言が含まれていた。

「申し訳ありません、大統領」

アーサーは、少しだけ気まずそうに肩をすくめた。

「ですが、嫌な事実ほど、一刻も早く共有すべきかと存じまして……」

「素晴らしい心がけです」

ノアが、楽しげに笑って称賛する。

ヘイズは両手で頭を抱え、テーブルに突っ伏しそうになった。

「ほんとにね……。もう、どうすればいいのよ……」

会議室の空気が、少しだけ人間味を取り戻した。

だが、その根底にある恐怖と無力感は、決して消え去ることはない。

エレノアが、冷たく、そして絶望的な現状を整理した。

「結論です。

日本は、現在少なくとも3隻の超巨大要塞を運用している。

そのうち少なくとも一部は、宇宙空間での活動に対応している。

資材の調達ルートは、地球外(太陽系)での採掘活動による可能性が極めて高い。

……彼らは空中要塞ではなく、宇宙要塞を『量産』できる体制に入っています」

ヘイズは、顔を上げ、低く掠れた声で呟いた。

「分からない……。

日本という国が、本当に、底知れないわ」

アメリカという超大国が、完全に「白旗」を上げた瞬間であった。

彼らは、日本がどこへ向かっているのか、何を企んでいるのか、全く見当もつかないまま、ただその圧倒的な力の残り香(重力残差)を追いかけることしかできないのだ。

会議は、明確な対応策や結論を何一つ出せないまま、終了の空気に包まれた。

あるのは、更新された「より巨大な恐怖」だけだ。

散会間際。

ヘイズ大統領は、アーサーが片付けようとしている資料の束を見つめたまま、ぽつりと漏らした。

「……次の3ヶ月で、また増えてたらどうするのよ」

誰も、答えなかった。

いや、答えられなかったのだ。

ただ一人、ノア・マクドウェルだけが、優雅に立ち上がりながら、少し笑って言った。

「その時は、その時で。

また、この部屋で会議ですね」

その極めて冷酷で、そして的を射た一言が、アメリカの指導者たちの心に、最も嫌な響きとなって重くのしかかった。

極東の魔法使いは、もはや空を越え、星の海へとその版図を広げてしまった。

アメリカは、その背中すら見失いながら、ただ果てしない恐怖と共に行進を続けるしかないのだ。