軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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年が明けた新学期。

冬休み中はレオンも交えて恭介や透子達と一緒に椿は遊びに出掛けたりしていたのだが、以前と同じように彼が学校で話し掛けてくることはない。

創立記念パーティーで会話をしていたのは他の生徒に見られていたが、以降のレオンの態度が態度なので、生徒達は彼が椿を嫌っていると思っていた。

レオンが椿のことを好きだとバレるよりはいいかと思っているので、彼女は全く気にしてなかったが、周囲はそうではない。

サロン棟で呑気にお菓子を食べていた椿に対して、白雪と透子が意見を述べていた。

「本当に何も知らない人間は勝手なことばっかり言うのよねぇ」

「噂話で盛り上がって何が楽しいのか分かりません」

「知られたくないものから目をそらせるんだから、根拠のない噂も良し悪しよ」

「それはそうかもしれませんけど……。やっぱり、事実と違うことを言われると訂正したくなりますもん」

「自分一人だけしか事実を知らない場合ならともかく、私の場合はちゃんと事実を知ってる人が周囲に居るからね」

だから大丈夫なのだと椿が伝えても透子と白雪は浮かない表情をしている。

そんなに気にしなくてもいいのに、と椿は苦笑しつつ口を開く。

「私の噂の話は終わり。美味しいお菓子を前にして気が滅入る話は終わりにしましょう。折角だから楽しい話でお菓子を食べたいわ」

「朝比奈様は我慢強いのが度を超えてますよ」

「透子、あれは本当に気にしてないだけよ」

「そうそう。むしろ目を欺けてラッキーぐらいにしか思ってないもの。ってことで、楽しい話をしましょう。そうね、バレンタインの話なんてどうかしら?」

本当に全く気にしていない様子の椿を見て、もう、と言いながら透子は今年のバレンタインの話を始めた。

「それで、部活の女子合同で美術部の男子にチョコをあげることになったんです。恭介君は手作りがいいって言ってたので、豪華なのを作りますよ! あとは凪くんと保科君と篠崎君ですね。朝比奈様は今年、どうするんですか? 作ったりします?」

「そうね。私は妹とチョコを手作りする予定」

「いいですよね。姉妹がいると一緒に作れて」

いいなーと言いながら、透子は本当に羨ましそうにしている。

彼女に姉妹は居ないんだっけ? と椿はこれまでのことを思い返した。

「……確か、夏目さんは弟さんしかいないんだっけ?」

「そうですよ。五歳違いなんですけど、すっかり憎らしくなって可愛くなくなって」

「男の子ってそういうものでしょう? 家の弟もいずれそうなるかと思うと、恐怖だわ。想像だけでも心が引き裂かれそう。今のままでいてくれたらいいのに……。ああ、でも『姉貴』と呼ばれるのも良いわね。『姉さん』でも可」

「意外に椿ってブラコンなのね」

力強く言ってのける椿のブラコンっぷりに白雪はそっと彼女から視線を外した。

「だって可愛いんだもの。でも、弟も妹も学校に通い始めてから友達も増えて行動範囲も広くなって、家に居る時間が少なくなって……もう私と遊んでくれないの! どう思う?」

「どうも思わないわ! 妹や弟に遊んでもらうなんて普通の十七歳は考えないわよ!」

「いるでしょ! ここに!」

「まあまあ、朝比奈様も凪君も落ち着いて。バレンタインの話をするんでしょう?」

妹や弟の話で興奮していた椿であったが、透子から冷静に言われたことで我に返る。

「朝比奈様は菫ちゃんと何を作るんですか?」

「今年はブラウニーにしようかって話してるの。材料はシェフが全部用意してくれるし、混ぜるだけの作業しかしないんだけどね」

「自分の手が加わったら、それはもう手作りですよ」

透子からのフォローに椿は嬉しそうに微笑んだ。

「そう? ありがとう。……そうだ、夏目さんにも良かったらあげましょうか? 多分沢山作るから余っちゃうだろうし」

「え!? いいんですか!」

「ええ。その代わり、夏目さんの作ったチョコも頂戴ね」

「はい! お口に合うかは分かりませんけど!」

透子は、これ以上ないほどの笑顔を浮かべて喜んでいる。

こんなに喜んでもらえるなんて、と椿も嬉しくなった。

「それで、朝比奈様がチョコをあげる人は去年と同じですか?」

「そうね。ほぼ同じかな」

「あら、あたしにはくれないの?」

発言した白雪は可愛らしく首を傾げている。

わざとらしい態度に椿は思わず吹き出してしまった。

「失礼ねぇ」

「いや、ごめんね。ちゃんと白雪君にもあげるよ」

「うふふ、ありがとう」

椿としても白雪にあげようかどうか悩んでいたので、彼から言ってくれて正直ホッとしていた。

「あと、中等部の後輩にもあげる予定」

後輩にあげると言った瞬間、白雪が「え!?」と驚きの声を上げる。

「仲の良い後輩なんて居たの!?」

「驚きすぎでしょ! 気持ちは分かるけど! 居るよ! ちゃんと」

去年まではあげようか悩んで、渡す方法がなかったからそのままだったが、蛍は去年あった水嶋家のパーティーで菫から話を聞いたらしく、自分も欲しいと言ってくれたのだ。

「今年のバレンタインは忙しくなりそうだわ」

という出来事があり、迎えたバレンタイン。

椿は放課後にサロン棟の個室へと集まった面々に小さい手提げ袋に入れたブラウニーを手渡した。

彼らが食べた反応を見る間もなく、椿は個室から出て行って別の個室に居た透子と白雪のところへと向かった。

「はい。お約束していたものですわ」

部屋の中には清香もおり、椿は三人に小さい手提げ袋を手渡した。

「ありがとうございます」

「いつも申し訳ありません。それで、こちら。椿様の口に合うか分かりませんが」

「まあ、ありがとうございます。気を使わせてしまってごめんなさいね」

清香からもチョコを受け取ると、透子も鞄からチョコを取り出して椿に手渡す。

「それで、椿様。もうグロスクロイツ様にはそちらを差し上げたのですか?」

「いいえ。私、レオン様にはチョコを差し上げていないの」

あげていないと聞き、三人は一斉に椿を見て驚いていた。

急に視線が集まり、椿は狼狽えてしまう。

「い、色々と話し合いをしまして、私が作っている押し花のしおりをひとつ差し上げるというお約束になっておりますのよ」

理由を聞いた清香と透子は、素敵ですねと盛り上がっていたが、白雪は知らん顔をして紅茶を飲んでいた。

「あ、ごめんなさいね。これから中等部に行かなければならないので」

「久慈川君にも差し上げるのですか?」

「ええ。約束致しましたので。それでは」

椿はサロン棟の部屋を出て、車に乗り中等部の校門へと向かう。

帰宅ラッシュの落ち着いた放課後ということもあり、中等部の校門前には車はほとんどいない。

椿が車から降りると、校門の影から蛍と名取が姿を現した。

「ごきげんよう、蛍君、名取さん。こちらお約束していたブラウニーですわ」

「ありがとう、ございます」

「あの、私もよろしいのですか?」

「ええ。沢山作りましたから。……あ、もしかして手作りのものは苦手かしら?」

「いえ! 大丈夫です。ただ、私にも頂けるとは思ってなかったので」

蛍の付き添い気分で来ただけの名取からすれば、椿の行動は全くの予想外である。

「嫌でなければ受け取って頂けると嬉しいわ」

「嫌じゃないです。ありがとうございます」

「こちらこそ、受け取ってもらえて良かったですわ。それと、もうすぐ最後のテストでしょう? 勉強ははかどっております?」

「……うん。なにもなければ高等部にいけると思います」

「蛍君も名取さんも成績優秀ですのね。では最後のテスト、気を抜かないように頑張って下さいね」

中等部の校門前にいつまでも居る訳にはいかず、椿は二人に別れを告げて帰宅した。

これで忙しいバレンタインも終わりだと気を抜いていた椿は、玄関に入って純子からレオンが来ていることを知らされて、そういえばしおりを渡すんだった、ということを思い出す。

「……いつから待ってたの?」

「椿がサロン棟の個室から出て行って、すぐにここに来たからそんなには待ってない」

「結構待ってるよね、それ」

「そうでもない。菫から倖一の話を聞いたりしてたから、あっという間だ」

「それならいいんだけど。あ、佳純さん。部屋から缶を持ってきてくれる?」

すぐに佳純部屋までしおりの入った缶を持ってきてもらい、椿はそれをレオンに差し出した。

彼は蓋を開けて、中身を取り出してどれにしようかとひとつずつジッと眺めている。

「……これはレジンで作ったのか?」

「ああ、それ? そうよ。型を探してね。楕円の部分に押し花をいれてあるの。文化祭で気になって、佳純さんに調べてもらって作ったの。気に入った?」

「今までのはコンパクトで良いと思っていたが、こっちはこっちで挟んでいても押し花が見えるから良いな。今年はこれにするよ」

レジンで作ったしおりを持ってきていた箱に入れたレオンは、大事そうに持ちながら席を立った。

「あれ? もう帰るの?」

「ああ、夕食の前にいつまでも居たら迷惑だろう? 目的である椿には会えたから十分だよ。それじゃ」

レオンは本当に椿からしおりを貰いにきただけだったので、あっさりと朝比奈家から帰っていった。

そして、この頃から椿は美緒が妙に透子を見ていることに気が付いた。

何かを探るような美緒の視線に、彼女が透子を警戒しているのでは? と椿は疑いを持つ。

『恋花』内では美緒と恭介が二人で出掛けたりするイベントがあるが、彼女はこれまでイベントを起こしていると思っているので、デートに誘われないことに焦っており、同じヒロインである透子が彼とのイベントを起こしているのではないかと疑って見ている可能性が高い。

学校内で恭介と透子が話をすることはまず無いので、一緒にいるところを美緒が見ることはないと椿は思っているが、一応彼には知らせておいた。