軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

師範代催し。集計結果と師範代決めの最終審査。師範代になった者に郊外の炊き出しを任せる。料理教室に顔を出させる。

集計板の前に、料理番たちが集まっていた。

竹串の数が、品目ごとに書き出されている。

焼き魚・城下町向け。

焼き魚・港飯向け。

つみれ汁。

肉あん。

焼きおにぎり。

すり身揚げ。

酢の和え物。

その中で、ひときわ目立っていたのが、魚の焼き物だった。

「二十五本」

ヨイチが読み上げると、周囲から「おお」と声が上がった。

出した小皿は、およそ二十食。

客一人に竹串五本、飯そのものに向き合えと散々言い含めた中で、二十五本を集めたのだから、

かなりのものだった。

その料理番は、隠しきれないほどのどや顔をしていた。

博之はそれを見て、苦笑した。

「お前、顔に出すぎや」

「す、すみません」

「いや、ええねん。そら嬉しいやろ。二十五本やぞ。参加費五百文から考えても、竹串だけで

千二百五十文。差し引き七百五十文の勝ちや」

周りがまたざわついた。

「しかも、任せ印持ちの料理番が集まる中で、その数や。これはすごい」

料理番の顔がさらに明るくなる。

だが、博之はすぐに釘を刺した。

「ただし、竹串が多いから即師範代、ではない」

場が少し静かになった。

「魚の焼き物は、やっぱり強い。馴染みがある。分かりやすい。飯にも合う。港飯の濃い味も、

城下町向けの整った味も、客が手を伸ばしやすい」

ヨイチが頷く。

「魚部門は、全体的に竹串の数が多いです」

「そうや。逆に、酢の和え物とか、すり身揚げとか、地味な品目は竹串が少なめになる。

でも、それは腕がないという意味ではない」

お花も言った。

「食べる人の数、選ばれやすさ、見た目の華やかさ。そういう差がありますね」

「せやから、品目別に見る必要がある」

博之は集計板を指した。

「今回は、順位が出た。これはこれで大事や。でも、ここからや。上位者を奥へ呼んで、

もう一回作ってもらう。小皿で食べる。味、安定、出し方、人に教えられるかを見る」

料理番たちの表情が引き締まった。

客の竹串は、一次評価。

ここからが、師範代の最終確認だった。

調理場では、上位者たちがもう一度、料理を作り直した。

先ほどまで客へ出していた時とは違い、今度は博之、お花、ヨイチ、古参集、そして

数人のまとめ役が見ている。

火加減。

塩の振り方。

魚の置き方。

汁の温度。

盛り方。

説明の仕方。

どれも見られている。

まず、二十五本を集めた焼き魚が出された。

博之は一口食べて、すぐに頷いた。

「うまい」

お花も箸を置いて言った。

「皮の香ばしさと身の残り方がいいです。塩も強すぎません」

ヨイチは冷静に言う。

「港飯寄りですが、城下町でも出せる範囲です」

御三種の一人も頷いた。

「これは客が竹串を入れるのも分かります」

料理番は、緊張で固まっていた。

博之は笑った。

「文句なく、師範代やな」

その瞬間、料理番の顔がぱっと明るくなった。

「ありがとうございます!」

「ただし」

博之はすぐに言葉を重ねた。

「偉そうにすんなや」

「はい!」

「師範代は、偉くなる印やない。人に見られる印や。下働きに怒鳴ったり、

見習いを馬鹿にしたりしたら、即取り上げる」

「はい!」

「それと、来週の炊き出しのまとめ役、お前がやれ」

「……え?」

料理番の顔が固まった。

周囲から笑いが起きる。

「師範代取った記念や。郊外で炊き出しする。そこで、うまい焼き魚を振る舞ったれ」

「い、いきなりですか」

「いきなりや。客から竹串二十五本ももろたんや。今度は、お前が飯で返す番や」

お花が静かに言った。

「偉そうにするのではなく、皆に食べてもらう。よい使い方だと思います」

料理番は、深く頭を下げた。

「やります」

「よし」

博之は満足げに頷いた。

「来週、松坂郊外でやる。行きたくても本店まで来られんかった者もおるからな」

ヨイチが帳面に書く。

「師範代取得者、翌週の郊外炊き出しで実演。焼き魚担当、まとめ役」

「そうそう」

その流れで、博之はさらに言った。

「今回、本店でやった。次は郊外。その次は港でもええ」

「港でもですか」

「やる。うちは、本店だけやなく、郊外、港、街道沿い、順繰り回していく。

行きたいけど来られんやつもおる。なら、こっちから場を持っていく」

料理番たちの目がまた輝いた。

「ただし」

博之は指を立てた。

「一回出たやつが、次も連続で出るのはずるい」

「ああ……」

「参加費も高い。高くても出たいやつは多分おる。でも、同じやつばっかり出たら、

他の者の機会がなくなる」

ヨイチが補足する。

「連続出場は原則なし。師範代取得者は、次回は出場者ではなく、見立て役または補助役に回る」

「それや」

博之は頷いた。

「師範代は、師範代で見てもらう側から、見る側にも少し回れ。飯を食べて、何がよかったか、

どこが悪かったか、言えるようになれ」

お花が言った。

「それができないと、人に教えられませんね」

「そうや。自分が焼けるだけではあかん。人の焼き方を見て、言葉にできる。そこまでや」

博之は、師範代に決まった料理番を見る。

「お前、これから定期的に集まれ」

「集まる、ですか」

「師範代同士で、飯について語れ。火加減、塩、魚の種類、客の反応、

城下町向けと港飯向け。そういう話をせえ」

夜市が書く。

「師範代心得、作成要」

「心得、いるな」

博之は少し考えながら言った。

「一、偉そうにしない。二、下働きに怒鳴らない。三、失敗を隠さない。四、客の反応を見る。

五、原価を見る。六、人に教える言葉を持つ。七、飯で店の名を背負う」

「かなり大事ですね」

「師範代は、いずれ別の拠点の長になる可能性もあるからな」

その言葉に、料理番たちは少しざわついた。

「拠点の長……」

「可能性や。料理だけで長になれるわけやない。人をまとめる力もいる。

でも、飯の腕があって、人に教えられるやつは、どこかで必要になる」

博之は笑った。

「だから、今日勝ったやつは、勝っただけで終わるな。次は教える側、見る側、振る舞う側や」

師範代に選ばれた料理番は、嬉しさと重さの両方を感じている顔だった。

続いて、つみれ汁、肉あん、すり身揚げ、酢の和え物も審査された。

竹串の数だけで見れば、魚や肉あんに劣る品もあった。だが、食べてみると、

明らかに良いものがある。

酢の和え物などは、竹串こそ少なかったが、暑い日の城下町向けとして見事だった。

「これは師範代候補やな」

博之が言うと、周囲が少し驚いた。

「竹串、少ないですよ」

「少ないけど、役割がはっきりしてる。派手やないけど、夏に必要な飯や。

こういうのを見落としたらあかん」

お花が頷いた。

「女衆や年寄りには、こちらの方が喜ばれるかもしれません」

「そうや。竹串の多さは大事。でも全部ではない」

料理番たちは、それを聞いて少し安心したようだった。

人気のある飯。

静かに刺さる飯。

腹にたまる飯。

体にやさしい飯。

それぞれに価値がある。

師範代会は、それを見える形にしたのだった。

審査が一段落すると、博之は少し茶化すように言った。

「あと、師範代になったやつは、料理教室にも顔出せ」

「料理教室、ですか」

「そうや。女衆や町の人に、焼き魚の焼き方とか、つみれ汁の作り方とか、教えに行け」

料理番の何人かが、顔を赤くした。

「それは、ちょっと」

「冷やかされに行け」

「旦那様」

「料理の腕がよかったら、嫁を捕まえられるかもしれんぞ」

場がどっと笑った。

師範代に選ばれた焼き魚の料理番は、さらに真っ赤になった。

「旦那様、そういう話は」

「ええやんけ。飯がうまい男は強いぞ」

お花が少し呆れた声で言う。

「旦那様、すぐそういう方向に持っていきますね」

「大事やろ。飯が作れる、教えられる、怒鳴らない。これは婚活にも強い」

「言い方が軽いです」

「でも中身は大事や」

ヨイチも珍しく少し笑った。

「料理教室に師範代を出すのは、悪くありません。教える練習にもなります」

「やろ?」

「ただし、冷やかされに行け、という言い方は改めてください」

「はい」

博之は咳払いした。

「とにかく、師範代は飯を作るだけやなく、人前で話す、人に教える、場を和ませる。それも仕事や」

料理番たちは、まだ照れながらも頷いた。

こうして、第一回の師範代焼印試し会は、ただの順位付けでは終わらなかった。

焼き魚で二十五本を集めた者は、文句なしに師範代。

しかし、竹串の少ない酢の和え物も、役割が評価された。

つみれ汁は、港飯向けと城下町向けで別の価値が見えた。

肉あんは人気だったが、重さと時間帯の課題が残った。

そして、料理番たちは知った。

竹串が多ければ偉いわけではない。

少なければ駄目なわけでもない。

飯には、それぞれの役割がある。

だが、客の前に出れば、選ばれる怖さと喜びがある。

博之は最後に、師範代に選ばれた者たちへ言った。

「お前らは、今日から少しだけ店の顔や。偉そうにするな。うまい飯を出せ。人に教えろ。

困ってるやつを助けろ。で、たまには飯について語れ」

「はい!」

「切磋琢磨して、松坂本店のレベルを上げよう。ほんで、よその拠点にも負けんようにしよう」

料理番たちの返事は、力強かった。

その夜、松坂本店の調理場では、疲れ切った料理番たちが、それでもどこか楽しそうに、

今日の飯の話を続けていた。

あの客は何を見ていた。

港飯はやはり強い。

薄味でも刺さる人はいる。

焼き魚は火加減が命だ。

酢の和え物はもっと見せ方を工夫できる。

その会話を聞きながら、博之は畳に転がって呟いた。

「やってよかったな」

お花が答えた。

「はい。かなり」

ヨイチは帳面に、静かに書き加えた。

師範代心得、作成。 取得者は次回、見立て役または炊き出しまとめ役へ。

普段は師範代を育て、節目に師範を決める。

松坂本店の飯は、また一段、強くなろうとしていた。