軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帳簿に疲れたから炊事場で飯の研究。漬物を握り飯に混ぜ込み数種類のおにぎりやをすることを考える

料理場では、朝から若い衆が集められていた。

博之は炊き上がった飯の前に立ち、腕を組んでいる。

「たくあん混ぜ飯は売れた」

若い衆たちが頷く。

「せやけど、ずっとたくあんだけやと飽きる」

「まあ、そうですね」

「ほな、他に握り飯にできるもんを考えよう」

そう言って、博之は漬物桶をいくつか並べさせた。

たくあん。

茄子漬け。

紫蘇。

梅。

まだ漬かりの浅いものもあったが、試すには十分だった。

「細かく刻め」

若い衆が包丁を入れる。

茄子は小さく刻み、紫蘇は香りが立つように刻む。梅は種を外して叩き、飯に混ぜやすくする。

それぞれを飯に混ぜ込んで、丸く握る。

たくあん飯。

茄子飯。

紫蘇飯。

梅飯。

十個ずつ作り、古参や下働き、侍たちに配ってみた。

「おお、梅はすっぱいな」

「でも飯が進む」

「紫蘇は香りがええ」

「茄子はやさしい味やな」

思ったより反応はよかった。

ヨイチが紫蘇の握り飯をかじりながら言う。

「これ、ええんちゃうか。味が選べるやん」

「そこや」

博之は頷く。

「客が選べるのがええ」

今までの握り飯は、ただ腹を満たすものだった。

だが、たくあん、茄子、紫蘇、梅と並べれば、客は選ぶ楽しみがある。

「飯玉一つ十文」

博之は言った。

「二つ選ばせて、笹でくるむ。弁当代わりに持っていってもらう」

「二つで二十文か」

「そうや。普通の握り飯より高いけど、味がある」

お花が静かに言う。

「女の人や旅の人には、選べるのは喜ばれると思います」

「それに漬物もさばける」

博之は続けた。

「余りかけた漬物を、刻んで飯に混ぜれば無駄が減る」

ヨイチが笑う。

「旦那、またうまいこと考えたな」

「うまい飯が食いたいだけや」

こうして、握り飯屋の形が少し見えてきた。

郊外の横丁に一つずつ。

城下にも一つずつ。

まずは小さく出す。

海道沿いの店にも、漬物を何種類か置く。

「今日はたくあんやな」

「いや、今日は梅にするわ」

「紫蘇と茄子を一つずつくれ」

そんなふうに選べるようになれば、ただの飯玉ではなくなる。

その場にいた者たちも、少しずつ盛り上がってきた。

「これ、まかないでも食べたいです」

「売れ残ったらな」

「売れ残らんようにします」

そんなやり取りに笑いが起きた。

だが、博之はそこで終わらなかった。

「もう一つ、試したい」

「まだあるんか」

ヨイチが呆れた声を出す。

「豚汁を、飯に入れる」

「……どういうことや」

「豚汁の具を炊き込み飯にする」

博之は米を用意させた。

釜に米を入れ、水を張る。そこへ細かく刻んだ大根、ごぼう、ねぎ、しいたけを入れる。

味噌玉を溶かし、さらに小魚をすり潰したものを少し加えた。

「魚は内臓を取れ。臭みが出る」

若い衆が慎重に処理する。

豚肉を入れるかどうかは少し迷った。

「豚は……今回はなしやな」

「なんでです」

「握り飯にするなら、脂が強すぎるかもしれん」

まずは野菜と魚の出汁で試す。

釜に火を入れると、やがて味噌と魚の匂いが立ってきた。

「味噌汁炊いとるみたいやな」

ヨイチが言う。

「まあ、近いな」

炊き上がった飯は、白飯とはまるで違っていた。味噌の色がうっすら入り、

野菜の香りと魚の出汁が飯に染み込んでいる。

それを少し冷まし、握り飯にする。

形は崩れやすいが、握れないほどではない。

「食ってみてくれ」

皆が一口かじった。

最初に反応したのは侍だった。

「……これは、飯と汁が一緒になっとるな」

ヨイチも頷く。

「味噌汁と飯は合うに決まっとるけど、握り飯にするとまた違うな」

お花はゆっくり味わってから言った。

「野菜も取れますね。魚の出汁も出ています」

若い衆の一人が目を輝かせる。

「これ、まかないで出たら嬉しいです」

「まかないまかない言うな」

博之は笑った。

だが、確かにうまかった。

味噌の塩気があり、魚の旨味があり、しいたけの香りもある。白飯の握り飯よりは

ずっと満足感がある。

「名前はどうするんです」

「粗汁握りやな」

博之はすぐに言った。

「豚汁飯じゃないんですか」

「豚入れてへんからな」

場が少し笑う。

「これは具材がかかる。十五文や」

「他のより五文高いんか」

「野菜も魚も使うし、手間もある」

博之は答えた。

「ただ、二つ組み合わせて売ればええ」

たくあん飯と粗汁握り。

梅飯と紫蘇飯。

茄子飯と粗汁握り。

客に選ばせる。

「二つで二十五文とか、三つで三十文とか、組み合わせで値をつけたらええ」

ヨイチが腕を組む。

「これ、ほんまに握り飯屋になるな」

「なるやろ」

博之は少し嬉しそうだった。

飯を炊く。

漬物を刻む。

出汁を取る。

握る。

それだけで、一つの店になる。

しかも、横丁にすでにある材料を使える。漬物も魚も味噌も、無駄なく回る。

「これなら、海道沿いでも売れる」

侍の一人が言った。

「歩きながら食える。腹にもたまる」

「せや」

博之は頷く。

「飯は強い。持って歩ける飯はもっと強い」

料理場に、味噌と梅と紫蘇の香りが混じっていた。

若い衆たちは、次は何を混ぜるかと話し始めている。

博之はその様子を見て、静かに思った。

名物は、突然空から降ってくるものではない。

今あるものを刻み、混ぜ、握り、食わせてみる。

その繰り返しの中から、少しずつ形になっていくのだと。