軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

信長からの呼び出しで穴子と話家会について話す。実演もする。信長が興味を引き、博之困るwww

信長から呼び出しがかかったのは、穴子の天丼が九鬼水軍と松坂で評判になり始めた頃だった。

届いた文の宛名を見て、博之はしばらく固まった。

従五位下、大膳亮殿。

「……なんか、急に丁寧やな」

お花が横から覗き込む。

「官位をいただいたんですから、当然では?」

「いや、そうなんやけど。信長公からこの書き方されると、逆に怖い」

文の中身は、穴子の料理を見たいということ。それから、話家見習い会について、

ぜひ説明してほしいということだった。

博之は、文を畳に置いて頭を抱えた。

「秀吉さん、何を話したんや」

ヨイチは静かに言った。

「話したのでしょう。穴子と話家会のことを」

「それが困るんや」

「いずれ耳に入ります」

「風の噂で聞かれるよりはマシか……」

そう自分に言い聞かせながらも、博之は数日かけて準備を整えた。

穴子の白焼き。

穴子天丼。

それに、話家見習いを五人。

大和、堺、京都、近江、尾張を回った、話のうまい買い付け係たちである。

そして数日後、博之は織田信長の屋敷へ向かった。

信長は、いつもより少し面白そうな顔で待っていた。

「来たか、大膳亮」

「その呼び方、まだ慣れません」

「わしも尾張を治める身で、上総介を名乗っておる。あれも確か、それなりの官位やったはずや。

細かいことはまあええ」

信長は、少し笑った。

「まあ、よい。今日は近くへ座れ」

そう言って、信長は他の家臣より少し近いところを示した。

博之は内心で思った。

絶対、秀吉さんが何か言った。

だが、断るわけにもいかず、静かに座った。

「まず飯や」

信長が言う。

「穴子を持ってきたのであろう」

「はい。まだ調整中ですが、形にはなってきました」

まず出したのは、穴子の白焼きだった。

蒸してふっくらさせた穴子に、うなぎの蒲焼きにも使う甘辛いタレを薄く塗り、

軽く炭火で香りをつけたものだ。

信長は一切れ口に運び、少し目を細めた。

「……うなぎとは違うな」

「はい。うなぎほど脂で押す感じではありません。穴子は蒸して、

柔らかさを出した方がよいと思いました」

「タレは似ておるが、食べ応えが違う。これはこれで酒に合う」

「ありがとうございます」

次に、穴子天丼を出した。

飯の上に、野菜の天ぷら。

さらにその上に、穴子の半身をどんと乗せる。

信長が蓋を開けた瞬間、少し笑った。

「見た目がすごいな」

「穴子は、見た目の大きさも売りになります」

「うな重は香りで来るが、これは目で来る」

信長は箸を入れ、穴子天を崩しながら飯と一緒に食べた。

しばらく黙る。

そして、二口目、三口目と進める。

「悪くない」

近くにいた秀吉が、少し笑いをこらえた。

博之も心の中で思った。

かなり食べてますやん。

信長は、穴子の天ぷらと野菜天と飯を合わせて食べた。

「これは熱田ではできぬのか」

「熱田は、鮮度の問題があります。海辺ではありませんので」

「うむ」

「ただ、津島付近、常滑、海沿いの拠点なら可能性はあります。今、さばき方、蒸し方、

揚げ方を整えているところです」

「そうか。海辺なら穴子、川筋ならうなぎか」

「はい。土地に合う飯として育てたいと思っています」

信長は満足そうに頷き、箸を置いた。

「で、話家会や」

博之は、少しだけ背筋を伸ばした。

「秀吉さんから聞いた。話を売るそうだな」

「売るというか、見聞を話す場です」

「説明せよ」

博之は、仕組みを一通り話した。

「まず、観客を集めます。伊勢松坂屋の本店では、一人五十文をいただき、竹串を五本渡します」

「五十文で五本か」

「はい。話家見習いを数人立てまして、大和、堺、京都、近江、尾張など、買い付けで見聞きした話をしてもらいます。聞いて面白かった者の壺に、竹串を入れていただきます」

「竹串が銭になるわけか」

「はい。ただし、串一本あたりの値は変えられます。五十文の会なら一本十文相当でもよいですし、

高い会なら一本十五文、二十文にもできます。逆に、小さい会なら入場料二十文、

三十文でも構いません」

信長は、すぐに理解した顔をした。

「客が面白いと思った話へ銭を落とす。話す者は、どの話が受けるか分かる」

「そうです」

「なるほどな」

信長は、少しだけ感心したように頷いた。

その後、博之は連れてきた五人を前に出した。

まずは大和の話。

葛がどのように作られるか。奈良の寺社で何が喜ばれるか。大和八木の郊外で、

湧き水と三輪そうめんを使った流しそうめんが受けた話。

家臣たちは、思った以上に興味深そうに聞いていた。

次は堺。

商人との値交渉。

笑顔で値を吊り上げる商人。

銭払いのよい客として、伊勢松坂屋が少しずつ知られてきていること。

笑いも起きた。

三人目は京都。

郊外で炊き出しをし、読み書きの場を作り、小物を売っていること。

中にはようやく肉あん屋を一軒だけ入れたこと。

京都の老舗や寺社の壁が高いこと。

信長は黙って聞いていたが、目だけは鋭かった。

四人目は近江。

信楽焼の土の強さ。

六角方の商人の動き。

道の悪さ。

荷車がぬかるみに沈んだ失敗談。

家臣の何人かが、道の話に強く反応した。

五人目は尾張と熱田。

熱田神宮の門前に、肉あん、蜂蜜柚子茶、寝転び処、常設市を置いている話。

瀬戸物が伊勢でよく売れている話。

うなぎを熱田の名物にしようとしている話。

一通り終わると、信長は竹串を手に取り、いくつかの壺に入れた。

「確かに面白い」

「ありがとうございます」

「そして、役に立つ」

博之は少し身構えた。

「そこは、少し怖いところでもあります」

「分かっておるか」

「はい。秀吉様にも言われました」

信長は笑った。

「下世話な話もやったそうだな」

博之は顔をしかめた。

「はい。ただ、そちらは失敗もありました」

「女衆に怒られたか」

「しこたま怒られました」

家臣の間に笑いが起きる。

博之は頭をかきながら続けた。

「男衆には受けました。ただ、身内の女衆を笑いものにするような話が出まして、泣いた者もいました。

お花さんにめちゃくちゃ怒られました」

信長は、お花の方を見た。

お花は静かに頭を下げたが、目は強かった。

「それで、掟を作りました。人を傷つける笑いは禁止。名前を伏せても誰か分かる噂話は禁止。

下世話な話は時間と場所を分ける。女衆や子どもが通る場ではやらない。旅の話、土地の話、

怖い話、男衆向けの話で分ける。そういう形にしています」

信長は、しばらく黙っていた。

そして、低く言った。

「必要な掟だな」

「はい」

「だが、この仕組みは面白い」

信長は、竹串を一本指で転がした。

「話を聞かせ、客に選ばせ、銭を渡す。話し手は鍛えられる。聞く者は情報を得る。噂も広がる」

博之は、思わず言った。

「間者にするつもりはありません」

「分かっておる」

信長は即答した。

「だが、そう使える」

座敷の空気が少し変わった。

信長は続けた。

「大和の話、京都の話、近江の話、堺の話。今聞いただけでも、道、商人、寺社、物の流れが分かる。

東美濃にこれを染み込ませれば、どうなる」

博之は、少し言葉に詰まった。

「私は、飯屋です」

「知っておる」

「人を食わせて、笑わせて、少し休ませる。そういうつもりでやっています」

「だからこそ、人が聞く」

信長の声は静かだった。

「兵が言えば警戒される。商人が言えば値踏みされる。だが、飯屋が茶と饅頭を出し、

旅の話をすれば、人は聞く」

博之は黙った。

秀吉が、少し焦ったように口を挟む。

「殿、博之殿はあくまで仕組みを作っただけで」

「だから説明させた」

信長は、博之を見た。

「東美濃に話を染み込ませる案を考えよ」

「……案、ですか」

「すぐにやれとは言わん。だが、飯と話で人が集まることは分かった。なら、どう使えるか考えよ」

博之は深く息を吐いた。

また、飯屋の範囲を超えた。

そう思った。

だが、信長の目はもう完全にその先を見ていた。

「ただし」

信長は少し口元を緩めた。

「穴子はうまかった。次は、熱田でなくとも、海辺で出せる形を整えよ」

「はい」

「話家会も、掟を作って続けよ。面白いだけでなく、壊れぬようにな」

「承知しました」

信長は満足そうに頷いた。

「大膳亮」

「はい」

「お前は、自分で思っているより、大きなものを作っておるぞ」

博之は苦笑した。

「それが一番怖いです」

「怖いなら、なおさら考えろ」

信長はそう言って笑った。

博之は頭を下げながら、心の中で思った。

秀吉さん、やっぱり余計なこと言ったな。

だが、もう遅かった。

穴子と話家会は、ついに信長の目に止まってしまったのである。