作品タイトル不明
博之は信長公にキレられる?拗ねられるwww前に文を送る。流しそうめん、西瓜割り、穴子の調理開発。西瓜割りを城でやったら盛り上がったwww
博之は、前回の反省を踏まえて、木下藤吉郎秀吉へ文を送っていた。
信長公に、うなぎの話が風の噂で届いてしまった。
それだけで呼び出され、うな重とうなぎ巻を持って行くことになった。
あれは、なかなか面倒だった。
だから今回は、先に知らせておくことにした。
文には、こう書いた。
大和八木の郊外で、流しそうめんという遊びを試していること。
竹を半分に割り、水を流し、そこにそうめんを流して、箸ですくって食べること。
飯というより、夏の涼を楽しむ催しとして、子どもや女衆に受けていること。
それから、松坂郊外の市で西瓜割りを試したこと。
尾張から来た西瓜を井戸水で冷やし、目隠しをして、子どもは三回、大人は十回、棒を頭につけて回る。
周りの者が右だ左だと声をかけ、西瓜を割れたら景品を出す。
伊勢松坂屋では、先着で二百文のうなぎただ券を出し、
それ以降は海鮮焼きの優先券や麦茶券、甘味券などを景品にしたところ、思った以上に
盛り上がったこと。
そして最後に、穴子を少し試していることも書いた。
うなぎを開いて焼く飯を作った手前、海で取れる穴子も何かできないかと考え、
蒸し焼きや天ぷらを試している。
まだ開発中であり、形になれば改めて報告する。
そこまで書いて、博之は筆を置いた。
「これで、風の噂で聞いたとは言われんやろ」
お花が横から言う。
「旦那様、だいぶ学びましたね」
「学ぶわ。毎回うまいもの作ったら怒られるのは嫌や」
「信長公は怒っていたというより、拗ねていた感じでしたけど」
「それが一番面倒なんや」
そうして文は、藤吉郎のもとへ送られた。
数日後。
藤吉郎は、その文を信長に見せていた。
信長は文を読みながら、少しだけ口元を緩めた。
「ふむ。今回は先に知らせてきたか」
「はい。前のことを、かなり気にしているようでございます」
「風の噂で聞かされるのは、気分が悪いからな」
「それを踏まえて、先に文を寄越したのでしょう」
信長は、もう一度文を見る。
「流しそうめん。西瓜割り。穴子」
「いろいろ試しているようでございます」
「飯屋というより、遊びを作っておるな」
「伊勢松坂屋では、半月ごとに各拠点へ遊び金を出し、現場で試したことを報告させているとか」
「遊び金?」
信長が眉を上げる。
藤吉郎は少し笑った。
「飯や商いの種を拾うための銭らしいです。小さな試しを各地で行わせ、
面白いものを拾い上げる仕組みだと」
信長は、しばらく黙っていた。
そして、ふっと笑った。
「博之め。本当に商売人やな」
「はい」
「飯だけでなく、笑いも銭にするか」
文には、西瓜割りの様子が詳しく書かれていた。
尾張の西瓜。
井戸水で冷やしたもの。
目隠し。
子どもは三回。
大人は十回。
周りが声をかける。
割れたら景品。
外れても西瓜は食べられる。
見ている者も笑う。
信長は、そこを何度か読み返した。
「……やるか」
藤吉郎は、一瞬止まった。
「はい?」
「西瓜割りや」
「殿が、でございますか」
「わしがやるとは言っておらん。家臣どもにやらせる」
信長は当然のように言った。
「尾張の西瓜や。尾張でやらずにどうする」
藤吉郎は、少し困った顔をしながらも、すぐに準備を命じた。
その日の午後、庭先に井戸水で冷やした西瓜が置かれた。
家臣たちは、何が始まるのか分からないまま集められている。
信長は上座に座り、楽しそうに言った。
「博之が松坂でやっておる遊びを試す。西瓜割りという」
家臣たちがざわつく。
「目隠しをし、回ってから西瓜を割る」
「何回でございますか」
誰かが聞いた。
信長はにやりと笑った。
「子どもは三回。大人は十回らしい」
家臣たちが少し安心しかけたところで、信長は続けた。
「だが、そなたらは武士や。十五回まわれ」
一同が固まった。
藤吉郎は、そっと目を伏せた。
「殿、十五回はかなり……」
「武士ならできよう」
できるできないの話ではなかった。
最初に指名された若い武将は、目隠しをされ、棒を持たされた。
「頭につけて、まわれ」
「はっ」
一回。
二回。
三回。
十回を超えたあたりで、すでに足が怪しい。
十五回が終わると、完全にふらついていた。
周りから声が飛ぶ。
「右です!」
「いや、左!」
「前へ!」
「そちらは殿の方です!」
若い武将は慌てて向きを変え、棒を振る。
すかっ。
西瓜の横の地面を叩いた。
庭に笑いが起きる。
信長も声を上げて笑った。
「話にならんな。次!」
次の者も、十五回まわった時点でふらふらだった。
右と言われれば左へ行く。
前と言われれば後ろへ下がる。
西瓜ではなく、見物していた家臣の足元に棒を振り下ろしかけて、周りが慌てて止める。
「これは、なかなか面白いな」
信長は楽しそうだった。
「殿、かなり危のうございます」
藤吉郎が言うと、信長は笑った。
「だから面白いのだ」
何人か挑戦した後、ようやく一人が西瓜に当てた。
ぱこん、と鈍い音がして、ひびが入る。
もう一度振り下ろすと、西瓜が割れた。
赤い中身が見える。
庭先に歓声が上がった。
「割れたぞ!」
「見事!」
「ようやった!」
信長は満足そうに頷いた。
「褒美をやれ」
近くにあった瀬戸物の小皿を一枚取る。
「これをやろう」
割った武将は、目隠しを外し、ふらつきながらも平伏した。
「ありがたき幸せ」
周りの家臣たちは、おお、と声を上げた。
ただの西瓜割りだったはずが、信長から褒美をもらえる遊びになった。
一気に場が盛り上がる。
信長はさらに言った。
「あと何人かには、博之の店のうなぎただ券をやれ」
藤吉郎の顔が少し固まった。
「殿、それはまだこちらに手元がございませぬ」
「博之に見繕わせよ」
「承知しました」
藤吉郎は頭を下げながら、心の中で思った。
これ、どうやって旦那に言おうか。
ただ券を勝手に景品にされたと知ったら、博之は絶対に顔をしかめる。
しかし、信長の命である。
書くしかない。
西瓜割りは、その後も続いた。
家臣たちは、最初こそ戸惑っていたが、やってみると意外と熱くなる。見ている者も、
右だ左だと声を出す。外れるたびに笑いが起きる。割れた西瓜は切り分けられ、皆で食べた。
信長は機嫌よく西瓜を口に運びながら言った。
「博之は、本当に商売人やな」
「はい。飯を売るだけでなく、場を作るのがうまいようです」
「場か」
信長は頷いた。
「人が集まり、笑い、銭が落ちる。なるほどな」
少し間を置いて、信長は文の最後を思い出した。
「それで、穴子がどうとか書いてあったな」
「はい。海のうなぎのようなものとして、穴子を試していると」
「開発中か」
「そのようでございます」
「開発中でも、あいつが作るならうまいのだろう」
藤吉郎は苦笑した。
「まだ形になっておらぬかもしれませぬ」
「形になったら持って来させよ。いや、形になる前でも、一度報せよ」
「承知しました」
藤吉郎は頭を下げる。
また仕事が増えた。
うなぎの次は西瓜割り。
そして、今度は穴子である。
藤吉郎は内心で、博之の顔を思い浮かべた。
文を読んだ瞬間、きっとこう言うだろう。
「わしゃ飯屋か、遊び係か、友達か、どれなんや」
だが、仕方ない。
信長が興味を持った以上、もう流れは止まらない。
その夜、藤吉郎は博之宛ての文を書いた。
西瓜割りを信長公の前で試したこと。
家臣たちに十五回まわらせたところ、大いに盛り上がったこと。
割った者へ瀬戸物を褒美として与えたこと。
今後、うなぎただ券をいくらか景品に使いたいので、見繕ってほしいこと。
そして、穴子についても、殿が強い関心を持っていること。
開発中でも構わぬので、形が見えたらすぐ知らせてほしいこと。
そこまで書いて、藤吉郎は筆を止めた。
「旦那、また文を読んで頭を抱えるやろな」
そう呟いて、少し笑った。
だが、それもまた、伊勢松坂屋が信長の近くに入り込んでいる証でもあった。
飯。
遊び。
瀬戸物。
うなぎ。
穴子。
博之の思いつきは、また一つ、尾張の中で広がり始めていた。