軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九鬼水軍からの宿題の穴子の解答を持っていく。穴子の白焼き、穴子半身のせと野菜の天ぷら乗せ天丼

うなぎは、松坂、伊勢、津で少しずつ形になってきている。蒲焼き、うな重、う巻。

手間はかかるが、うまく作れば高く売れる飯になる。

だが、海の者たちにとっては、うなぎよりも穴子の方が身近である。

「穴子を用意しておいてください。こちらから料理人とタレ、衣の道具を持って行きます」

博之はそう文にしたため、九鬼水軍へ送った。

その傍らで、松坂の調理場では、穴子を扱える者を少しずつ育て始めていた。

「要領はうなぎと近い。ぬめりを取って、開いて、骨を見て、身を崩さんようにする。

まずは緊張せんとやれ」

若い料理人たちは、真剣な顔で頷く。

博之は、そこで少し声を低くした。

「ただな。この先に織田信長公がいると思ったら、怖くてやってられへんかもしれんけど」

「信長公、ですか」

「うん。絶対これ、うなぎと同じで、風の噂で知ったら怒られる」

料理人たちの顔が引き締まった。

「また呼ばれるんですか」

「呼ばれる。たぶん呼ばれる」

「それは……怖いですね」

「せやから、今のうちにちゃんと作れるようにしとく」

博之は真顔で言った。

「うなぎも穴子も、飯の種になる。けど、雑に出したら終わりや。高い飯は、

ちゃんとうまくないとあかん」

そうして数日後、博之は料理人たちを連れ、九鬼水軍の拠点へ向かった。

九鬼の者たちは、すでに穴子を用意して待っていた。

「来たか、旦那」

水軍の頭が笑う。

「穴子、なんとかなりそうか」

「なんとかです」

「おお、答えがあったか」

「うなぎをヒントにはしました。ただ、同じように焼くだけではちょっと違いました」

博之は、用意された穴子をまな板に乗せた。

「穴子は、焼きで香ばしさを出すより、まず蒸した方がよかったです。身がふわっとします」

「蒸すんか」

「はい。まずは蒸して、白焼きに近い形にしてみます」

料理人たちは、慣れないながらも手早く穴子を開き、蒸し器に並べた。

蒸し上がった穴子は、うなぎとは違う柔らかさがあった。脂の強さで押してくる感じではない。

しっとりして、箸で触ると身がほどける。

そこへ、博之は薄めたタレを刷毛で塗り、軽く炭火に当てた。

香りはうなぎほど派手ではない。

だが、ふわっとした白身に、甘辛い香りが乗る。

「まずは、これを酒のあてにどうぞ」

博之は、蒸し焼きにした穴子をぶつ切りにして小皿へ乗せた。

九鬼水軍の頭が、一切れ口に運ぶ。

しばらく噛んで、目を細めた。

「……これは、酒に合うな」

周りの者たちも食べる。

「身がふわっとしとる」

「うなぎとは違うな」

「うなぎは香ばしさと皮の感じが強かったけど、こっちはしっとりや」

「これはこれで、かなりええ」

水軍の頭は頷いた。

「焼きで押すより、このやり方が当たりやな」

「そう思います」

博之は言った。

「ただ、これだけではありません」

「やっぱりな。旦那がそれだけで終わるわけないと思ってたわ」

「蒸した穴子の水気を軽く飛ばして、衣をつけて揚げます」

「揚げる?」

「天ぷらです」

調理場の空気が少し変わった。

蒸した穴子に衣をつけ、油へ落とす。

じゅわっと音が広がる。

衣がふくらみ、白い身を包み込む。揚げ上がった穴子は長く、大きく、皿に乗せるだけで見栄えがした。

博之は、それを天つゆにさっとくぐらせた。

さらに丼に飯を盛り、横丁で出している野菜の天ぷらを乗せる。

その上に、穴子の半身をどんと置いた。

水軍の者たちが、一斉に身を乗り出す。

「……でかいな」

「豪華やんけ」

「これは見た目が強い」

「うな重とはまた違うな」

博之は丼を差し出した。

「穴子天丼です。野菜天と、穴子の半身を乗せてます。つゆは少し濃いめにしてます」

水軍の頭は、丼を受け取ると、まず穴子を箸で持ち上げた。

衣がつゆを吸い、湯気が立つ。

「これはええなあ」

一口食べる。

その瞬間、顔が変わった。

「……うまい」

周りの者たちも、次々にかっ込む。

「衣がつゆを吸ってる」

「身がふわふわや」

「野菜天もあるから、飯が進む」

「これは腹にたまるぞ」

「海の飯って感じがする」

下の者たちは、もう無言で丼を食べ始めていた。

うな重のような上品さとは違う。

穴子天丼は、見た目の大きさと、揚げた満足感で押してくる。

「旦那、これはすごいぞ」

水軍の頭が言った。

「うなぎはうなぎのすごさがあった。けど、穴子は穴子で十分すごい。しかも海で取れる。

こっちの者には、こっちの方が手に入りやすい」

「ただ、安くは売りませんよ」

博之はすぐに言った。

「穴子だって、取るのは簡単やないですし、調理手順が面倒です。

蒸して、水気を見て、衣をつけて、揚げて、つゆをくぐらせる。

雑にやったらべちゃべちゃになります」

「確かに、これは安売りするもんじゃないな」

水軍の頭は頷く。

「満足度が違う。丼として出せば、高くても食うやつはおる」

「呼ばれたからやってますけどね」

博之がぼやくと、水軍の者たちが笑った。

「いやいや、うちが言うたおかげで新しい飯の種ができたんやろ」

「こっちは無茶振りに対応してるだけです」

「それでこれが出てくるなら、もっと無茶振りしたくなるな」

「やめてください」

その場に笑いが広がった。

一方で、料理人たちは真剣だった。

うなぎと似ている部分。

違う部分。

焼きではなく蒸し。

蒲焼きではなく天ぷら。

タレではなく天つゆ。

同じ長い魚でも、飯としての立て方が違う。

博之は、丼をかっ込む水軍の若い衆たちを見ながら言った。

「穴子は、穴子で育てましょう。うなぎの真似をするんやなくて、海の飯として育てる」

水軍の頭は満足そうに笑った。

「ええな。これなら、穴子を取ってもそっけなく扱わんで済む。飯になる。銭になる。客も喜ぶ」

「その代わり、作れる人間を増やさんといけません」

「ますます大変やな、旦那」

「ほんまに」

博之は深くため息をついた。

しかし、その目の前では、九鬼水軍の者たちが穴子天丼に夢中になっている。

大きな穴子の半身を崩し、野菜天と飯を一緒にかっ込む。

つゆの染みた飯を最後までさらう。

その勢いを見れば、答えは出ていた。

「……まあ、面目躍如にはなったか」

博之が呟くと、お花が横で笑った。

「旦那様、また一つ増えましたね」

「増やしたくて増やしてるわけやない」

「でも、増えました」

ヨイチは帳面に静かに書き込んだ。

穴子。

蒸し焼き。

穴子天丼。

九鬼水軍向け。

博之はそれを見て、頭を抱えた。

「書くな。大ごとになる」

「もうなっています」

水軍の拠点には、揚げ油の香りと、男たちの満足そうな声がしばらく残っていた。