軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

松坂でうなぎ屋を試験的にやる。殿様が食べたことで既存概念が覆る。匂いで客が来る。上は時間を過ごしたい人がくるが若い男女にお花さんが釘をさすwww結果は上々

松坂で、試しにうなぎ屋を始めることになった。

きっかけは、松坂の城主がうな重とう巻を食べて、妙に気に入ったことである。

「松阪でもやれ」

そう言われた以上、博之としても無視はできなかった。

とはいえ、いきなり大きく始める気はない。

「とりあえず二十食限定やな」

博之が言うと、お花がすぐに目を細めた。

「旦那様の“とりあえず”は信用できません」

「ほんまに試しやって」

「その試しが、だいたい大ごとになります」

「今回は二十食だけや」

博之は指を立てた。

「十五食は下で売る。普通にうな重とう巻を出す。五食は上や」

「上?」

「二階の座敷や」

そこは、もともと少し上等な客を通すための場所だった。畳を敷き、風通しもよく、

下の飯場のざわめきが少し遠くなる。

博之はそこに、湯浴みと布団を組み合わせると言い出した。

「まず湯浴みしてもらう。体をさっぱりさせる。そのあと二階でうな重とう巻をゆっくり食べる。

茶も出す。食べ終わったら、少し昼寝できる」

「松阪で昼寝付きうなぎですか」

お花が呆れたように言う。

「熱田でやる前の試しや」

「また松坂で試すんですね」

「松坂はうちの庭みたいなもんや。失敗しても直せる」

ヨイチは帳面に書き込みながら聞いた。

「上の五食は、いくらにしますか」

「高くする」

「具体的には」

「下は二百文。上は湯浴み付き、う巻付き、布団付きで五百文やな」

「かなり高いですね」

「高くせな意味ない。下は飯。上は時間や」

博之は真面目な顔で言った。

「うな重を食べるだけなら下でええ。でも上は、ゆっくりするための場所や。

湯浴みで体を整える。飯を食う。横になる。起きたら茶を飲む。最後に買い物もできる」

「完全に売る気ですね」

「商売やからな」

そのために、博之は湯浴み場も少し上等に整えさせた。

従業員が汗を流すだけの場所とは別に、客向けの湯浴み場を用意する。広くはないが、

湯はきれいにし、香りのよい木の桶を使い、着替える場所も整える。

「湯浴みとうなぎ、合いますかね」

買い付け隊の者が首をかしげる。

「合うかどうかやなくて、体験や」

博之は言った。

「湯を浴びる。体が軽くなる。うなぎを食う。腹が満ちる。布団で少し横になる。起きたら、

今日はええ日やったなってなる」

「それで土産を買わせるんですね」

「買ってもらうんや」

「言い方だけ丁寧にしても同じです」

お花がすぐに突っ込んだ。

それでも準備は進んだ。

一階では、うな重とう巻を出す小さな売り場を作る。炭火の前には、

うなぎを捌ける料理番だけを置いた。ぬめりを取り、開き、骨を外し、軽く焼いてから蒸し、

さらにタレを塗って焼く。

その手間を見ていた若い衆が、思わず言った。

「これ、二百文でも安いんちゃいますか」

「最初は様子見や」

博之は答えた。

「ただし、安売りはせん。うなぎは雑に増やしたらあかん」

店の前に札が立てられた。

本日限定二十食。

うな重。

う巻。

二階座敷、湯浴み・昼寝付き上等仕立て、五食のみ。

松阪の町の者たちは、最初は半信半疑だった。

「うなぎで二百文やて」

「高いな」

「でも、殿様が食ったらしいぞ」

「松坂の殿様が?」

「うまい言うたらしい」

その噂は、思った以上に効いた。

もともと、うなぎは嫌がる者も多かった。ぬるぬるしている。骨が多い。

ぶつ切りで煮ると食べにくい。わざわざ高い銭を出して食べるものかと言われれば、少し弱い。

だが、殿様が食べたとなると話が変わる。

昼前には、店の前に何人かが集まり始めた。

炭の上でうなぎが焼かれると、甘辛いタレの匂いが通りに流れた。

じゅう、と音がする。

脂が落ちる。

煙が立つ。

その匂いだけで、通りが少しざわついた。

「……これはあかん」

「腹減る匂いや」

「二百文は高いけど、たまにはええか」

「殿様も食うたんやろ」

そう言って、一人、また一人とうな重を頼んでいく。

重箱の蓋を開けると、艶のあるうなぎが飯の上に乗っている。タレが白飯に染み、

湯気と一緒に甘い香りが上がる。

最初の客は、おそるおそる箸を入れた。

一口食べる。

しばらく黙る。

そして、小さく言った。

「……骨、気にならんな」

それを聞いた周りの者が身を乗り出す。

「うまいんか」

「うまい。飯に合う」

二口目からは早かった。

さらに食べ進めると、飯の下からまた少しうなぎが出てくる。

「おい、下にも入っとるぞ」

「ほんまか」

「これは嬉しいな」

その声で、さらに人が寄ってきた。

う巻も評判になった。

卵の柔らかさと、うなぎの濃い味が合う。飯にも合うが、酒にも合う。

昼から一杯やりたくなると言う者まで出た。

一方、二階の五食は少し違う動きを見せた。

最初に申し込んだのは、少し年のいった夫婦だった。

「伊勢松坂屋の湯浴みは、気持ちがええらしいな」

「うなぎも食べられて、少し休めるなら、ええんちゃうか」

そう言って、照れたように二階の席を頼んだ。

まず湯浴みで体をさっぱりさせる。

その後、二階の座敷でうな重とう巻、茶、甘味が用意される。食べ終えた後には、

畳の上に布団が敷かれ、少し休めるようになっていた。

しばらくして降りてきた夫婦は、妙に機嫌がよかった。

「湯に入ってから食べるうなぎは、ええな」

「体が軽くなって、飯がうまかった」

「布団も気持ちよかったし、ちょっと土産も見て帰ろか」

そう言って、二人は店の中の小物や布団の見本を見に行った。

もちろん、布団を担いで帰るわけではない。松阪近くなら後で届ける。遠ければ荷車に乗せる。

博之は最初から、その仕組みも用意していた。

そして、もう一組。

若い男女が、顔を赤くしながら二階の席を申し込んだ。

男の方が、やたらと声を張る。

「あの、上の、五百文のやつを」

お花は、にこりともせずに言った。

「承ります。ただし、規則は読んでくださいね」

札には、はっきり書いてあった。

騒ぎすぎ禁止。

長居禁止。

布団を汚した場合は買い取り。

不心得な行いがあった場合は出入り禁止。

若い男は真っ赤になった。

「す、すません。ちゃんとします」

女の方も耳まで赤くしている。

お花は淡々と案内した。

「熱田神宮向けの試しですので、品よくお使いください」

「はい……」

二人は湯浴みを済ませ、二階へ上がり、うな重を食べ、少し休んだ。

降りてきた時には、どこか距離が近くなっていた。

ただ、余計なことをした様子はない。

お花はそれを見て、少しだけ目を細めた。

「仲良くなる場としては、ありですね」

「やろ?」

横で見ていた博之が、にやにやしていた。

「旦那様、その顔やめてください」

「いや、ええ感じやなと思って」

「すぐ下品な方向に考えないでください」

「考えてへんわ」

「顔に出てます」

博之は咳払いした。

その日の二十食は、思ったより早く売り切れた。

下の十五食は、殿様が食べたという噂と、焼ける匂いで動いた。上の五食は、うなぎだけでなく、

湯浴みと昼寝を合わせた物珍しさで埋まった。

ヨイチは帳面を見ながら言った。

「悪くありません」

「どう悪くない?」

「下は匂いで客を呼べます。上は数を絞れば、かなり高く取れます。

湯浴みの評判も悪くありません。食後に土産や布団の見本へ流れる客もいます」

「布団、売れたんか」

「一組、注文が入りました」

「おお」

博之は少し嬉しそうに笑った。

お花はその顔を見逃さなかった。

「旦那様、また悪い顔してます」

「悪い顔ちゃう。商売の顔や」

「同じです」

「ひどい」

それでも、うまく動き始めたのは確かだった。

うな重。

う巻。

湯浴み。

二階座敷。

布団。

昼寝。

土産と布団見本販売。

ただ飯を出すだけではない。湯に入り、食べて、休んで、気に入り、買って帰る。

その流れが、松阪で小さく形になった。

博之は、売り切れの札を見ながら、ぽつりと言った。

「熱田でも、いけるかもしれんな」

お花がすぐに釘を刺す。

「調子に乗らないでください。まだ一日目です」

「分かってる」

「絶対分かってない顔です」

「分かってるって」

ヨイチは帳面を閉じながら、静かに言った。

「ただ、試す価値はあります。下は飯。上は時間。これは分けて考えた方がよさそうです」

博之は頷いた。

「下で腹を満たす。上で半日を売る。熱田はそれでいく」

「旦那様」

お花がじっと見る。

「はい」

「ニヤニヤしない」

「してへん」

「してます」

店の者たちが笑った。

こうして、松阪で始めた二十食限定のうなぎ屋は、思った以上に面白い動きを見せた。

熱田でやる前の、ほんの試し。

そのはずだった。

だが、博之の試しは、いつも少しずつ周囲を巻き込み、気づけば新しい商いの形になっていく。

今回もまた、そうなりそうな気配があった。