軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

松坂の城主から寂しいから飯持って来いと話が来る。開発中のうなぎ巻とうな重持参。めちゃくちゃ受ける。熱田の前に松坂で試験運用しろwww

松阪の城主から呼び出しが来たのは、熱田と瀬戸の話で伊勢松坂屋の中がざわついていた頃だった。

使いの者は、妙に気楽な顔で言った。

「殿が、寂しいから来いと」

「寂しいから?」

博之は眉をひそめた。

「それと、新しい飯を開発中らしいから、それも持って来いとのことです」

「やっぱり飯やないか」

お花が横で笑った。

「殿様、完全に旦那様を飯係として呼んでますね」

「最初からそうやろ」

博之はぶつぶつ言いながらも、試作中の品を用意した。

うな重。

う巻。

熱田の名物を作るなら何がよいか。そう考える中で、博之が目をつけていたのがうなぎだった。

骨が多く、扱いにくい。

ぬめりがあり、捌くのも面倒。

焼き方を間違えれば臭みが出る。

だが、脂がある。米と合う。甘辛いタレとも合う。うまく形にできれば、

ただの飯ではなく、少し背伸びしたごちそうになる。

丁寧に開き、骨を取り、焼いて蒸し、また焼く。そこへタレを塗ると、思った以上に形になった。

「まだ調整中やけどな」

博之が言うと、お花は小さく頷いた。

「十分おいしいです。でも高くなりますね」

「高く売るための飯や」

「また怖いこと言ってる」

そうして博之は、うな重とう巻を持って松阪城へ向かった。

城主は、すでに酒を用意して待っていた。

「来たか。熱田帰りの国持大名」

「まだ熱田で店も出してません。下見と相談の段階です」

「似たようなもんやろ。で、熱田について何か思うところはあるんか」

博之は座りながら、少し考えた。

「伊勢神宮に比べたら、まず全然やと思います」

「そらそうやろな」

「なので、いきなり伊勢神宮みたいな門前町は無理です。まずは小さい市を出します」

「ほう」

「混ぜ飯、肉あん、麦茶。あと、お花さんが考えた蜂蜜柚子湯」

「蜂蜜柚子湯?」

「甘くて香りがええんです。旅人向けに、ちょっと贅沢感を出せる」

「なるほどな」

「で、水はただにします」

城主が少し眉を上げた。

「ただ?」

「はい。ただし、畳を敷いた休み場に座るなら二十文取ります」

城主が吹き出した。

「水はただやけど、座るのに銭を取るんか」

「伊勢神宮で学びました」

「悪い学び方しとるな」

「でも、休み場があると人が留まります。留まると飯を食う。小物を見る。茶を飲む。銭が落ちる」

博之は、淡々と続けた。

「その銭の一部を熱田神宮へ寄進する。あるいは炊き出し、子どもの読み書き、

湯浴みの整備に回す。そういう形にしたいと思っています」

城主は感心したように頷いた。

「いきなり大きな門前町ではなく、まず座る場と小さい市か」

「はい。熱田は伊勢とは違います。遠くから来る参拝客だけに頼るより、

まず近くの人にも来てもらう形がいいと思います」

「で、今日持ってきた新しい飯がそれか」

「そうです」

博之は包みを開いた。

「熱田の名物を作らなあかんと思いまして」

「うなぎか」

「前々から、骨を取ったらうまくできるんちゃうかなと思ってたんです」

「骨を取る?」

「はい。手間はかかりますけど、食べやすくなります。旅人や、少し銭を持っている人

向けにはええかなと」

まず出したのは、うなぎ巻だった。

出汁を入れた卵で、焼いた鰻を巻いたもの。

城主は一口食べて、目を細めた。

「……これは酒に合うな」

「ほんまですか」

「卵は柔らかい。中の鰻は濃い。甘辛い味があって、酒が進む」

城主はもう一口食べる。

「しかも骨を取ってあるのがええ。いちいち気にせんで食える」

「そこ、大事かなと思ってます」

「これはええぞ。飯の前に出してもいいし、酒席にも合う」

続いて、うな重を出した。

小さな重箱に飯を敷き、その上に鰻を乗せる。さらに飯の下にも、少し鰻を忍ばせてある。

城主は箸を入れ、一口食べた瞬間に笑った。

「おい」

「はい」

「鰻と飯、めちゃくちゃ合うやないか」

「そこです」

「これは発明ちゃうか」

「まだ調整中です」

「十分うまい」

城主はさらに食べ進めた。

そして、途中で箸を止める。

「……下にまだ鰻あるやんけ!」

「はい」

「これは嬉しいな!」

座敷に笑いが起きた。

「上だけやと思って食うてたら、下にもまだある。これは客が喜ぶぞ」

「贅沢感を出したくて」

「松坂でもやってくれ」

「え、松坂でですか」

「高くても買うやつはおるぞ」

博之は少し驚いた。

「ほんまですか」

「ほんまや。これは高く売れる。手間もかかるし、うなぎ自体も安いもんではない。高く売って

ええ飯や」

博之は少し考えながら言った。

「熱田では、贅沢プランにしようと思っています」

「贅沢プラン?」

「はい。まず高めの湯浴みを用意します。そこで体を整える」

「うむ」

「その後、熱田神宮にお参りする」

「うむ」

「参拝後に、うな重を食べる」

「最高やな」

「腹いっぱいになったら、布団で少し寝る」

城主が箸を止めた。

「布団?」

「はい」

「うなぎ食うてから布団?」

「気持ちええと思うんです」

「おっぱじめたらどうすんねん」

博之は即答した。

「布団買い取りです」

座敷が大爆笑になった。

城主は腹を抱えて笑った。

「なんやそれ!」

「いや、さすがに貸し布団でそれをやられたら困るでしょう」

「そら困るけども!」

「なので、そういう場合は買い取りです」

「お前、ほんま商売人やな!」

笑いが収まるまで、しばらくかかった。

博之は、少し真面目な顔に戻って続けた。

「でも、湯浴みして、お参りして、うまい飯を食って、腹いっぱいになって、少し寝るって、

幸せじゃないですか」

「まあ、幸せやな」

「半日旅行みたいなものです。時々の休み。少し贅沢して、体を休める」

「なるほどな」

「最後に市を見て、お土産を買って帰る」

「完全に銭を落とす流れやないか」

「はい」

「お前がやりたいだけちゃうんか」

「それ、お花さんにも言われました」

また笑いが起きた。

城主はうな重を食べ終え、満足そうに息を吐いた。

「でも、面白そうや」

「そうですか」

「伊勢神宮は、祈りと旅と土産やった。熱田で同じことはできん。けど、お前の言う

“半日休み”なら分かる」

「はい」

「近場の者でも行ける。旅人も寄れる。湯浴み、参拝、飯、昼寝、市。これは一つの流れや」

城主は杯を持ち上げた。

「休むことにも値がつく、というわけやな」

「そうです」

博之は頷いた。

「飯だけではなく、座る場所、寝る時間、湯を浴びる気持ちよさ、土産を選ぶ楽しさ。

全部合わせて価値にしたいんです」

「さすがやな」

「褒めすぎです」

「いや、よう分かった」

城主はう巻をもう一つ摘まんだ。

「うなぎは高く売れ。これは安売りする飯やない」

「やっぱりそう思います?」

「思う。手間がかかる。食えば分かる。酒にも合う。飯にも合う。

しかも骨を取ってある。これは贅沢や」

「熱田の看板にできますかね」

「できる」

城主は即答した。

「少なくとも、松坂でもやれ」

「結局それですか」

「当たり前や。うまいもんは松坂にも落とせ」

博之は苦笑した。

「熱田より先に松坂で出すことになりますやん」

「試験販売や」

「便利な言葉使いますね」

「お前から学んだ」

座敷はまた笑いに包まれた。

熱田神宮を伊勢神宮にすることはできない。

だが、熱田には熱田の形があるかもしれない。

湯浴み。

参拝。

うな重。

昼寝。

市。

それは伊勢の真似ではなく、博之らしい“飯の道”だった。

城主は最後に、満足そうに言った。

「これ、信長公にも食わせたら喜ぶぞ」

博之は一瞬固まった。

「……また話がでかくなるので、それはちょっと」

「もう十分でかいやろ」

「それはそうなんですけど」

「諦めろ」

城主は笑った。

「お前はもう、飯で人を動かす側や」

博之は、空になった重箱を見ながら深くため息をついた。

「ほんま、ただの飯屋やったはずなんですけどね」

「その飯屋が、次は熱田で昼寝を売るわけや」

城主は楽しそうに杯を掲げた。

「ええやないか。楽しみにしとるぞ」

博之は何も言い返せず、ただ苦笑した。

松阪城の座敷には、うなぎの甘い香りと、楽しそうな笑い声がしばらく残っていた。