軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蟹江の国人衆や一向宗が休戦の1年後について聞いてきた。織田に降るか北伊勢連合を固めるか北畠に降るか

蟹江の国人衆と一向宗の代表たちは、博之の話を聞きながら、だんだん顔を険しくしていった。

炊き出しを一緒にやる。

市を立てる。

売上の一部を寺社や復旧費に回す。

民に頭を下げる。

それは確かにありがたい話だった。

だが、それだけでは足りない。

国人衆の代表は、苦い顔で言った。

「炊き出しを教えてくれるのは助かる。ほんまにありがたい。けどな」

「はい」

「一年後や」

座敷が少し静まる。

「この一年の休戦が終わった後、わしらはどうしたらええ。飯を配って、市を立てて、

民を戻して……その先に織田がまた来たら、どうする」

博之は、困ったように眉を寄せた。

「それは、正直かなり難しい話です」

「難しいのは分かっとる」

「私が決めていい話でもないです」

「それでも、お前は見えてるんやろ」

一向宗の代表が言う。

「織田がどう動くか。北畠がどう見るか。六角がどうするか。わしらよりは、よほど見えてる」

博之は、しばらく黙った。

そして、ゆっくりと湯呑みを置いた。

「今の北伊勢の国人衆の方々ができることは、大きく三つかなと思っています」

「三つか」

「はい」

博之は指を一本立てた。

「一つ目は、織田信長公の傘下に入ることです」

座敷がざわついた。

「織田に頭を下げろと言うんか」

「そういう言い方ではありません」

博之は首を振る。

「例えば、対等に近い立場を保ちたいなら、縁談です。織田家の直系か、

重臣の親族と縁を結び、家をつなげる。そこから織田方へ溶け込む」

「それは、結局飲まれるということやないか」

「そうかもしれません」

博之は否定しなかった。

「でも、真正面から対決すれば、また荒れます。城下も荒れる。民も逃げる。織田は今、

蟹江の反省を踏まえて丁寧にやろうとしていますが、戦になれば必ず傷は出ます」

代表たちは黙る。

「二つ目は、北伊勢の国人衆たちが、かちっとまとまることです」

「連合か」

「はい。織田にも北畠にも六角にも属さず、北伊勢としてまとまる。

港、城、街道、寺社、商人、税、炊き出し、普請。全部について決めごとを作る」

「どれだけ難しいか分かっとるのか」

国人衆の一人が低く言う。

博之は頷いた。

「分かっています。今、それができていないことも分かっています」

「なら、簡単に言うな」

「簡単には言っていません」

博之の声は静かだった。

「ただ、ここは昔から緩衝地帯だったわけです。尾張、北畠、六角。そのどこかが

力をつけたら食われる場所にある。それは、皆さんも分かっていたはずです」

言葉が重く刺さる。

「分かっていた上で、今の状態になっている。だから、一年でどこまで硬くできるか。

それが勝負になります」

一向宗の代表が腕を組んだ。

「三つ目は」

「北畠に帰属することです」

博之は三本目の指を立てた。

「北畠様の庇護を受ける。家臣として入る。年貢なり礼銭なりを納め、

北伊勢の守りを北畠様の名で固める」

「お前は北畠につけと言ってるのか」

「言っていません」

博之はすぐに答えた。

「北畠がいい、織田がいい、と私が言う話ではありません。六角については、

皆さんとの縁が薄いので、ここでは選択肢から外しています」

博之は手を下ろした。

「私に見えるのは、この三つです」

しばらく沈黙が落ちた。

やがて国人衆の代表が言う。

「では、織田はこの一年で何をする」

「おそらく、美濃を取りに行きます」

「全部か」

「全部取るとは言いません。ただ、多少なりとも取るでしょう」

博之は少し声を落とした。

「しかも、今度は蟹江のように荒らすだけではなく、炊き出しや寄進、

寺社への顔立てをしながら、丁寧に入っていくと思います」

「それを、お前が教えたんやな」

「……言いました」

「敵に塩を送ったようなもんやないか」

「そうかもしれません」

博之は苦い顔をした。

「でも、織田方はかなり聞いてきました。家臣の方から、炊き出しの仕方まで

教えてくれと言われています」

「そこまで教えるんか」

「教えたくないですよ」

博之は本音を漏らした。

「けど、私も尾張で商いをします。熱田神宮のことも言われました。瀬戸物の買い付けもあります」

「瀬戸物か」

「はい。瀬戸物は、私も欲しいです。北畠様や松坂の城主からも、欲しいという話があります。

伊勢松坂屋の商いの範囲内でも、絶対に売れる」

博之は正直に言った。

「だから、やります」

「熱田神宮は」

「伊勢神宮みたいにしろと言われています」

座敷が少しざわついた。

「できるのか」

「無理です」

即答だった。

「伊勢神宮は特別です。あの人の流れ、信仰の厚み、門前の値のつき方。あれを熱田で

そのまま再現するのは無理です」

「なら、なぜやる」

「商いを活発にすることはできます」

博之は続けた。

「茶屋、飯屋、土産物、瀬戸物、常滑焼、湯浴み、寄進。そういうものを整えれば、

熱田でも銭は動きます」

「その銭で、織田は美濃へ施しをする」

「おそらく」

博之は頷いた。

「武力で取る。施しで回収する。炊き出しや寄進で、民の心をつなぐ。

一年を通してそれをやると思います」

「そうなった時、今の北伊勢で戦えるか」

「そこです」

博之は、代表たちを見た。

「皆さんがこの一年でどこまで固まれるか。民を戻せるか。商いを回せるか。

寺社や港を味方につけられるか。そこにかかっています」

国人衆の男が、苦々しく笑った。

「まるで軍師のように言うな」

「やめてください」

博之は本気で嫌そうな顔をした。

「私は飯屋です」

「飯屋がそこまで見えるか」

「近所の拠点の人たちに飯を配ってるだけです」

「それで国の形が見えるんやろ」

「見えたとしても、領地が欲しいわけではありません」

博之は少し強く言った。

「私は、土地を取るために炊き出しをしているわけではありません。店の近くの人が

食えないと困るから飯を出しているだけです」

「だが、結果として人が集まる」

「それはそうです」

「なら、お前が判断すればいい」

「それをしたら、私が国を持つことになります」

博之は静かに言った。

「それは、したくありません」

座敷の空気が重くなる。

「私は飯場を作れます。市も作れます。炊き出しの仕方も教えます。民と話す場も作れます。

でも、皆さんが織田につくのか、北畠につくのか、連合を作るのか、それは皆さんが決めることです」

一向宗の代表が、深く息を吐いた。

「なかなか難しいなあ」

「難しいです」

「だが、逃げられんな」

「逃げたら、民が先に逃げます」

その一言に、誰も反論できなかった。

博之は最後に、少しだけ柔らかい声で言った。

「まずは蟹江の炊き出しと復旧市からやりましょう。そこで民が戻る流れを作る。

それを見ながら、皆さん自身で次を考えてください」

「一年か」

「一年です」

「短いな」

「短いです。でも、何もしない一年よりは、ずっとましです」

国人衆と一向宗の代表たちは、重い顔で頷いた。

戦うのか。

降るのか。

まとまるのか。

その答えは、まだ出ない。

だが少なくとも、城だけでは国は戻らない。

飯と人と銭の流れを戻さなければ、どの道を選んでも、北伊勢はもたない。

その現実だけは、この場にいる全員が理解し始めていた。