軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

松坂の城主から声がかかる。尾張の商いの神になるのか。織田に行ってしまうのは寂しいなと皮肉を言われる。記念に松坂の飯を安くしろとwww

松坂の領主から呼び出しが来たのは、信長一行が帰ってから間もない頃だった。

博之は、また何か言われるのだろうなと思いながらも、いつものように飯を持って城へ向かった。

「来たか、飯の神」

「やめてください」

「では、尾張の商いの神か」

「もっとやめてください」

松坂の領主は、最初から上機嫌だった。

「信長と文のやり取りしてるそうやな。なかなかやな」

「なかなかどころじゃないです。胃が痛いです」

「それで、今度は何を言われた」

博之は、少し遠い目をした。

「瀬戸物の買い付けを許す、と」

「おお、それはええな」

「それは嬉しいです。瀬戸物は欲しかったので」

「もう一つある顔やな」

「熱田神宮をなんとかしろ、と」

城主は一瞬黙り、それから大笑いした。

「はははは! 熱田か!」

「笑い事じゃないんです」

「いや、面白い。伊勢神宮を見た後やから言うとるな」

「間違いなくそうです」

博之は苦い顔で頷いた。

「伊勢神宮を見て、あの門前の銭の流れを見て、“尾張にもあれが欲しい”ってなったんでしょう」

「そら欲しいやろ」

「でも、伊勢神宮が特別なんです。他の神社があんな門前町をやれるとは思えません」

城主は茶を飲みながら頷いた。

「まあ、普通は無理やな」

「ですよね」

「だが、お前なら多少はやるやろ」

「なんでそうなるんですか」

「やるからや」

博之は頭を抱えた。

「まだ熱田がどんな状態か見てないんです。原っぱなのか、すでに店があるのか、

人の流れがあるのかも分かりません」

「なら見に行け」

「行くしかないでしょうね」

城主はにやにや笑う。

「しかも、ゼロから立ち上げを許されているんやろ」

「そういう言い方でした」

「好き放題できるやないか」

「怖い言い方やめてください」

城主は声を落とした。

「信長公も、そこまで本気で伊勢神宮並みを望んでいるわけではないやろ。だが、うまくいけば大きい」

「はい」

「熱田で人が集まり、瀬戸物が売れ、茶屋ができ、飯屋が並び、寄進が回る。

そうなれば、尾張の銭の流れが変わる」

「それを私にやれと」

「そうや」

城主は笑った。

「国持大名並みやな」

「言わんといてください」

「下手したら尾張丸ごと商いの権利をもらえるぞ」

「もっと言わんといてください」

「でかなったなあ、博之」

博之は黙った。

領主はわざと寂しそうな顔をする。

「そうやって、拠点を尾張に移していくんか」

「そんな怖いこと言わんといてください」

「松坂の出であること、忘れてしまうんかな」

「忘れませんよ」

博之は少し強く言った。

「私は松阪の普請から始まったんです。根無し草で、五百文持って、ここで飯屋を始めたんです。

それは忘れません」

城主は、少しだけ満足そうに頷いた。

「ならええ」

「でも、乗りかかった船ですから。ここまで来たらやるしかないでしょう」

「その船、だいぶ大船になっとるけどな」

「沈んだら嫌です」

「沈まんように人を育てろ」

「今やってます。ヨイチとお花さんの分身を作る会も始めます」

「心得会やったか」

「はい。帳簿、現場、炊き出し、寄進、買い付け、採用。全部、順繰り順繰り染み込ませます」

「それができるなら、熱田も何とかなるかもしれんな」

「まず見てからです」

領主はまた笑う。

「そういえば、官位出たらどうする」

「京都に飯屋一つくらいは……」

「ほう。京都、尾張、伊勢。お前ほんまに飯屋か」

「飯屋です」

「もうその答えにも飽きたわ」

そこで領主は少し表情を変えた。

「ただな、織田とそこまで近くなると、北伊勢の国人衆がまたぶつぶつ言うぞ」

「見えてます」

「さすがやな」

博之はため息をついた。

「特に蟹江です。信長公が二十五万文を置いていったでしょう」

「あれは効いたやろな」

「効いてます。国人衆や一向衆は、城を取り返した側なのに、“それであなたたちは

何をしてくれたのか”って見られ始めてます」

「そらそうや」

「炊き出しをしても、松坂屋の方がうまいと言われる。城下整備しても、伊勢松坂屋の方が

早いと言われる」

「きついな」

「そのうち教えを乞いに来ると思います」

「来るやろな」

「でも、私が織田とべったりになってるように見えたら、“裏切った”みたいに

言われる可能性もあります」

城主は腕を組んだ。

「どうする」

「私は飯屋や、を押し通します」

「またそれか」

「それしかないです」

博之は真面目に言った。

「織田にも飯を出す。北畠にも飯を出す。北伊勢の国人衆にも飯を出す。

困ってる人にも飯を出す。でも、兵は出さない。領地は取らない。誰かのために誰かを斬らない」

「飯屋として中に立つ」

「そうです。飯を食う場を作る。そこで話をしてもらう。私は飯屋ですから」

領主は、しばらく博之を見ていた。

そして、にやりと笑った。

「まあ、お前らしいわ」

「褒めてます?」

「半分な」

「半分……」

「残り半分は、心配や」

博之は苦笑した。

領主は杯を持ち上げる。

「瀬戸物も熱田も、まず見てこい。だが、松坂を忘れるな」

「はい」

「あと、尾張に出たんやから、これから飯屋の値段を安くしろ」

「それ関係あります?」

「ある。お前が大きくなった祝いに、松坂に安く回せ」

「めちゃくちゃ言いますね」

「信長公よりましやろ」

博之は少し考え、笑った。

「それは、まあ、そうですね」

座敷に笑いが起きた。

熱田。瀬戸。尾張。北伊勢。

話はどんどん大きくなる。

それでも、松阪の城でこうして笑いながら飯を食える時間だけは、博之にとって

まだ変わらない場所だった。