軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伊勢城主と信長が会談。終始穏やか。伊勢神宮に向かい厳かな雰囲気に衝撃を受ける。買い食いの時間

伊勢城主との会談は、終始なごやかな空気のまま終わった。

信長も、最初こそ探るような目をしていたが、伊勢側が変にへりくだるでもなく、

かといって敵意をむき出しにするでもなく、“伊勢は伊勢や”という空気で接してくることに、

少し面白さを感じ始めていた。

そして昼前。

一行はついに伊勢神宮へと足を運ぶ。

横丁へ入る前に、博之が軽く手を叩いた。

「まずは、お参りです」

「買い食いは後か」

「後です。ここ逆にすると、神様より団子になるんで」

周囲が笑う。

「まあ、それも分からんでもない」

そう言いながら、一行は神宮へ向かった。

寄進として二十五万文が納められる。

その額に、周囲の神官たちも少しざわついていた。

だが、それ以上に空気が変わったのは、鳥居をくぐってからだった。

さっきまでの城下町の喧騒。

客引きの声。

焼き物の匂い。

甘いものを焼く煙。

笑い声。

値段交渉。

それらが、すっと遠ざかる。

木々の音だけが残る。

信長は無言で歩いた。

滝川筋の者たちも、自然と声が小さくなる。

藤吉郎でさえ、珍しく静かだった。

参道を進みながら、信長がぽつりと言った。

「……厳かやな」

「そうですね」

博之も小さく頷いた。

「さっきまでの町とは、まるで別ですわ」

信長は空を見上げる。

「本当に、日の本に神様がおるなら、ここなんやろなと思う」

誰も軽口を叩かなかった。

それぐらい、空気が違った。

信長は続ける。

「書物の伝承とか、そういうのは置いといてもや。ここに来る価値はある」

「ありますね」

藤吉郎も深く頷いた。

「昨今の僧兵や一向衆とは、また別の凄さがありますわ」

「うむ」

「だから寺と神社って分かれたんかもしれませんな」

博之が笑った。

「そこ、私もちょっと思います」

「ほう?」

「ついでに言うとですね」

また始まった、という顔を皆がする。

博之は構わず続けた。

「日の本の神様の中心が、なんで伊勢なんかって、私ちょっと考えてたんです」

「ほう」

「実は、実り豊かやからちゃうかなって」

「実り豊か?」

「はい。護国豊穣の神様であらせられるでしょう」

信長が腕を組む。

「まあ、そうやな」

「でも、なんで京都やないんやろって思うんです」

「京都の前は奈良やしな」

「そうです。でも最初は伊勢なんですよ」

博之は木漏れ日の中を歩きながら言った。

「で、それって結局、米がうまくて、海産物が豊かで、食える国やったからちゃうかなって」

「……また飯の話になるんか」

「なります」

周囲が笑う。

「でも、日の本の民って、結局“食うこと”にめちゃくちゃ執着してると思うんですよ」

「まあ、それはそうやな」

「食えるから人が集まる。人が集まるから市ができる。市ができるから銭が回る。

神様も、人が集まるところにおられる」

博之は肩をすくめた。

「だから、伊勢が神様の土地っていうのは、案外“飯がうまいから”でも説明できるんちゃうかなと」

「そこまで言うか」

信長が吹き出した。

「やけど、なんか腹には落ちるな」

「でしょう?」

「飯屋としては、そっちの方が分かりやすいです」

滝川筋の者が笑いながら言った。

「ほんま、お前は最後メシに戻すな」

「でも実際、飯はうまいでしょう?」

「うまい」

即答だった。

信長も認める。

「尾張とも違うな」

「私の腕というより、もともと伊勢の国がうまいんです」

博之は真面目な顔になった。

「海が近い。米もある。神宮がある。門前町がある。旅人が来る。高くても売れる」

「……なるほど」

「だから、いい物が集まりやすいんです」

藤吉郎が周囲を見回した。

「確かに、ここ戦がない世やったら、とんでもない豊かさになりそうですな」

「私もそう思います」

博之は頷いた。

「こういう小競り合いや戦が減ったら、もっと豊かになると思うんですよ」

「でも、そこはまだ分からんか」

「分からんです」

博之は笑った。

「おいおい晩飯ででも話しますか」

信長が呆れたように言った。

「まだ話すんか」

「そら、飯屋ですから」

そんなことを言いながら、一行は参拝を終えた。

空気が少し緩む。

すると博之が、ぱっと顔を明るくした。

「さあ」

「おう?」

「横丁で買い出し行きますか」

一気に現実へ戻った。

藤吉郎が吹き出す。

「切り替え早いな!」

「ここからが本番です」

「本番なんかい」

「伊勢神宮は心を整える場所。横丁は財布を壊す場所です」

周囲がどっと笑った。

そして、静かな神域を後にした一行は、再び賑わい渦巻く伊勢の横丁へと向かっていった。