軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伊勢の町に入り伊勢城主に挨拶する。陸路で伊勢の町に来たのは正解や。伊勢神宮がより大きく見えるし意味が分かる。

伊勢の城下町をゆるゆると抜け、一行は伊勢城主の屋敷へと通された。

道中、信長たちは周囲を何度も見回していた。

参拝客の数。

商人の多さ。

湯屋、飯屋、土産屋。

荷を運ぶ人足。

道端で札を売る坊主。

そして、そこに流れる銭の匂い。

蟹江とも、尾張とも違う。

“祈り”が、商いを動かしている。

その異様さを、誰もが肌で感じていた。

やがて屋敷へ通されると、伊勢城主が笑いながら迎えた。

「遠路はるばる、ようお越しくださいました」

信長が軽く頷く。

「世話になる」

「昨日は松坂で泊まられたとか」

「うむ。松阪の城主と飲んできた」

「今日は陸路でこちらまで?」

博之が頭を下げる。

「はい。伊勢神宮にお参りして、横丁を回っていただいて、帰りは海路で松坂へ戻る予定でございます」

「なるほどな」

伊勢城主は、にやりと笑った。

「まず先に、わしのところへ挨拶に来たわけか」

「当然でございます」

「最近こっち来てくれへんかったから、寂しかったぞ」

周囲が笑う。

伊勢城主は、わざとらしくため息をついた。

「せやけど、今回ちゃんと陸路を選んで、先にここへ来たのは正解や」

「そうですか?」

「当たり前や。伊勢神宮を大きく見せるためには、まず城下を通らなあかん」

信長が目を細めた。

「前座に使っとるな」

博之が肩をすくめる。

「そんな悪い言い方やめてください」

「当たっとるんやろ」

「……当たってますけど」

場がどっと笑った。

博之は続ける。

「でも、順番は大事なんです。伊勢神宮を見たあとに城主へ挨拶するのと、先にご挨拶してから

神宮へ行くのとでは、受ける印象が全然違います」

「それはそうやな」

伊勢城主は頷いた。

「先に町を見て、人を見て、商いを見て、その上で神宮を見るから、“なんで伊勢が強いか”が分かる」

「はい」

「逆に、神宮だけ先に見たら、“立派なお宮やな”で終わる」

「まさしく、それです」

信長は黙って聞いていた。

伊勢城主はさらに笑う。

「まあ、ほんまは見せたくないんやけどな」

「また物騒なこと言わんといてください」

「いやいや、実際そうやろ」

そして信長へ向き直る。

「この賑わい、尾張の方にはまだ分からんでしょう」

信長は素直に頷いた。

「正直、ここまでとは思っておらんかった」

「でしょうな」

伊勢城主は茶をすすった。

「それに、伊勢松坂屋がまたややこしいんですわ」

「ややこしい?」

「伊勢神宮の端っこに店を出してます」

滝川筋の者が驚く。

「神宮の中に?」

「正確には周りですが、それでも普通は無理です」

藤吉郎が感心したように笑う。

「そんな難しい場所なんですか」

「難しいどころやない」

伊勢城主は指を立てた。

「一回入れたら、百年続くと言われとる」

「百年……」

信長が低く呟く。

博之が苦笑した。

「いやあ、うちが百年続くかは分かりませんけどね」

「店の名前は変わるやろうな」

「私が死んだら、さすがに伊勢松坂屋のままかは分からんです」

「でも、その場所の商い自体は残る」

「そのぐらいの価値はあります」

信長は静かに考え込んだ。

「そこまで儲かるのか」

「儲かります」

伊勢城主は即答した。

「しかも、安く売らへん」

「高いのか」

「旅人向け価格です」

周囲が笑う。

「普段なら買わん値段でも、伊勢参りに来た人間は財布が緩む。旅の記念、神様への縁起、

土産話。それで銭が落ちる」

博之も頷いた。

「うちの商品も、神宮で売る値段は、普段の何倍もします」

「むちゃくちゃ高いです」

「でも売れる」

「売れる」

信長はそこで、ふっと理解した顔になった。

「……なるほど」

「しかも、それだけやないんです」

伊勢城主はさらに続ける。

「伊勢神宮で高く売れるから、周りの店の値段も底上げされる」

「底上げ?」

「“あそこまで高く売れるなら、うちも少し高くしてええか”となるんです。

すると町全体の銭回りが変わる」

藤吉郎が唸った。

「だから皆、神宮に店を出したがるわけか」

「はい。あそこへ出すのが目標になる」

「出した瞬間、富が爆発する」

「そういう仕組みです」

信長は黙って町の方角を見た。

今までの戦とは、少し違う話だった。

城を落とす。

兵を殺す。

領地を奪う。

そういう話ではない。

“人が集まり続ける仕組み”そのものが、ここにはある。

伊勢城主は苦笑した。

「だから、北畠の家というより……」

そこで言葉を切る。

「伊勢神宮そのものを、あんまり見せたくないんですよ」

静かになった。

信長は、その意味を理解していた。

これはただの宗教施設ではない。

巨大な銭の流れ。

人の流れ。

物流の核。

価値の発生装置。

それを見れば、伊勢が“武力だけで成り立っていない”ことが分かってしまう。

信長は小さく笑った。

「……なるほどな」

その声には、感心と、少しの悔しさが混じっていた。

「そら、簡単には負ける気せんわな」