軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

信長と松坂の城主との会食。博之に関しての質問が飛ぶ。最初の買付無茶ぶり、布団の大量買い付けから

松坂城での会食も、酒が二巡三巡する頃には、だいぶ空気が柔らかくなっていた。

信長は杯を置き、ふと松坂の城主へ視線を向けた。

「お前、根無し草の頃からあやつを見ておるのやろ」

「はい」

「実際、どう思う」

城主は少し考え、苦笑した。

「……敵を作らないことに長けておりますな」

博之がすぐ反応する。

「いやいや、めちゃめちゃ敵おりますよ」

「お前の場合、“もっと敵だらけになっててもおかしくない”のに、この程度で済んでるという意味や」

座が笑う。

城主は続けた。

「いろんなところに筋を通す。寄進する。銭を落とす。相手の顔を立てる。

しかも、相手が“貸しを作られた”と思わんように自然にやる」

「そこが怖いんですよね」

藤吉郎が頷く。

「わしもそう思います」

信長が面白そうに聞く。

「最初に驚いたのは何や」

城主は即答した。

「布団ですな」

「布団?」

滝川筋の者が首を傾げる。

「はい。まだこやつが根無し草に毛が生えた程度の頃です。伊勢界隈に寄進しすぎておるから、

“少しは松坂に銭を落とせ”と話したんです」

博之が苦笑する。

「言われましたねえ」

「そしたら翌日、“布団二百組買います”と言い出した」

「二百?」

「総額十六万文です」

座がざわつく。

信長も目を細めた。

「根無し草が布団二百買うたんか」

「そうです。しかも、自分のためではない。港の寝床、飯場、病人用、女衆と子ども用、

雨の日の避難所用」

城主は酒を飲みながら続けた。

「しかも、“布団屋にも銭落ちるし、綿屋も回るし、運ぶ人間にも仕事できるからええでしょ”と

言っておりました」

藤吉郎が吹き出す。

「旦那らしい」

「わしはその時、“あ、こやつ金を溜め込む気がない”と思いました」

「いや、多少はありますよ?」

「多少やろ」

また笑いが起きる。

城主はさらに話した。

「あと印象的やったのは、地侍の件ですな」

信長が興味を示す。

「ほう」

「昔、名張方面のまとめ役を伊賀で捕まえて身代金のような銭を要求してきた地侍がおったんです」

滝川筋の者たちが顔をしかめる。

「よくある話ですな」

「普通なら揉めます。下手したら斬り合いです。ところがこやつ、

“じゃあ伊勢行きましょう”と言い出した」

「なんでや」

「価値観変えるためです」

信長が思わず笑った。

「またそれか」

博之は真面目な顔で頷いた。

「いや、あれ定番なんです」

「定番?」

「伊勢神宮見せるんですよ」

座が笑いに包まれる。

博之は構わず続けた。

「伊勢見ると、人の流れと銭の流れの規模感が変わるんです。自分の村だけ見てる人間が、

“世の中ってこんな広いんや”ってなる」

「それで地侍を連れてったのか」

「はい。そしたら途中から、“あれ? 襲って小銭取るより、味方で護衛した方が儲かるんちゃうか”

って言い始めまして」

藤吉郎が腹を抱えて笑う。

「怖い話やな!」

「怖いでしょう?」

「怖いのはお前や!」

信長も笑っている。

城主はさらに杯を置きながら続けた。

「長野家の若者たちもそうですな」

今度は信長が少し真面目になる。

「……ああ」

「普通なら、嫌がらせしてくる家のの若侍なんぞ、扱いに困る。ところがこやつ、

“信楽焼の買い付け行ってこい”と放り出した」

「そっちかよ」

「はい。刀ではなく、焼き物です」

博之は肩をすくめる。

「だって戦できへん状態やったし」

「しかも、その後また伊勢連れて行くんです」

「価値観変えるためです」

「またか!」

座が爆笑する。

信長は笑いながらも、少し感心したように言った。

「だが、それで変わるんやな」

「変わります」

博之は真顔で答えた。

「特に若いやつは。伊勢神宮見て、人の流れ見て、伊勢の端のうちの店の高い飯が売れる様を見て、

“こんだけ人が動くんや”って分かったら、“領地の小競り合いだけやないんやな”ってなる」

城主も頷く。

「実際、長野家の若侍ども、最初は“なんで焼き物やねん”みたいな顔してましたからな」

「してました」

「今は帳簿見ながら、“この焼き物尾張で値上がりします”とか言い出す」

「人は変わるんです」

信長は杯を傾けながら、静かに言った。

「お前、ほんまに人の使い方がおかしいな」

「飯屋ですから」

「その答えで全部済まそうとするな」

また笑いが起きる。

だが、信長は笑いながらも、どこか考えていた。

刀ではなく飯。

恐怖ではなく流れ。

支配ではなく、価値観を変える。

戦国では珍しいやり方だ。

そして、厄介なのは、それが実際に結果を出していることだった。

信長はふと聞いた。

「しかし、その話、蟹江では聞いておらんな」

一瞬、座が静かになる。

博之は即座に頭を下げた。

「北畠の領土で、しかも最重要部分の話ですから。そこまで言わせんといてください」

一拍置いて、信長が吹き出した。

「ははは!」

城主も笑い出す。

「こやつ、こういうところだけ急に線引きするんです」

「そらしますよ!」

「散々天下語っとったやないか」

「天下の話と、伊勢の奥の話は別です!」

「変な飯屋やなあ!」

座は大笑いに包まれた。

だがその笑いの中で、信長だけは少し細い目をしていた。

この男は、全部は言わない。

だが、隠す時は必ず理由がある。

そして、その理由が“筋”でできている。

それがまた、妙に信用できてしまうのだった。