軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

松坂の城主から織田信長と会って休戦期間1年に延ばしたらしいな。話面白そうやし聞かせに来いと言われ手お城に向かう

蟹江から戻って、まだ疲れも抜けきらないうちに、松坂の城から呼び出しが来た。

「織田信長と飯を食うてきたらしいな」

使いの者が、どこか笑いをこらえた顔で言う。

「しかも休戦が半年から一年に延びたとか。面白そうやから、飯を持って話を聞かせに来い、

とのことです」

博之は、畳の上でぐったりしていた。

「また飯か」

お花が笑う。

「旦那様、飯屋ですから」

「そうやけど、俺はもう寝たいねん」

「お殿様に呼ばれております」

「はい……」

結局、博之はいつものように飯を用意した。まぜ飯、汁物、すり身揚げ、肉あん、漬物。

少しだけ海鮮焼きの残り話をするために、丸型鉄板の小さいものも持たせた。

松坂の城へ上がると、殿様は待っていた。

「おお、飯で半年を買うた男が来たか」

「やめてください」

「いや、今回は半年どころか一年やろ。飯一つで半年延ばした。大したもんや」

「飯一つというか、胃が痛くなるような話もしましたけどね」

殿様は楽しそうに笑った。

「ほんで、海鮮焼きは見せたんやな」

「はい。結局見せました」

「賭けやったか」

「賭けでした」

博之は膳を並べながら答えた。

「この前、木下様を松坂でもてなした時には、海鮮焼きの本当の姿は見せていませんでした。

味は知ってもらったけど、焼いてるところ、人が集まるところ、くるっと返すところは

見せてなかったんです」

「それを信長に見せた」

「はい。ただ、最初から出すつもりはありませんでした。先にお好み焼きで、

鉄板焼きが人を集めるところを見せました。飯を食うというだけではなく、見て楽しい、

待って楽しい、そこで会話が生まれる、そういうところに気づくかどうかを見ていました」

「それで信長は気づいたか」

「気づきました」

博之は少し苦笑した。

「弓と鉄砲の違いみたいなものや、と最初に言われたんです。だからこちらも、

海鮮焼きは火縄銃十挺分ぐらいの価値があるかもしれません、と言いました」

城主は吹き出した。

「飯を鉄砲に例える飯屋がどこにおる」

「言うた後で、私も何を言うてるんやろと思いました」

「で、信長は?」

「人だかりを見て、分かってました。味だけじゃない。人を集める。待たせる。周りの店を

食い過ぎる危うさもある。だから、取り過ぎないようにお礼札を配って、よその店にも

人を回すという話をしたら、そこまで飲んでいただけました」

「なるほどな」

城は、海鮮焼き用の鉄板を見て、にやにやした。

「それで一年か」

「はい。蟹江、津島、常滑は、織田方に筋を通しながら、一年見てもらえることになりました」

「大きいな」

「大きいです。蟹江の人らも、少し落ち着けます」

殿様は膳の飯を食いながら、次の話を促した。

「それで、天下について論じてきたらしいな」

「いやいやいや、そんな大したもんじゃないです」

「美濃を取り、南近江を取り、京都を取り、朝廷か将軍家の権威で伊勢を押さえる、と言うたんやろ」

「……聞かれたから答えただけです」

「北畠の滅ぼし方まで織田に教えた飯屋か。寂しいな。いつも飯を一緒に食うてるのに」

「やめてくださいよ。あれは織田様に“伊勢が欲しいならどうする”と聞かれたから、織田様の

立場ならそうかなと答えただけです」

「ほう。では北畠側の答えもあるんやな」

博之は、嫌な予感がして顔を引きつらせた。

「ありますけど、言いたくないです」

「言え。大膳亮になるかもしれん男として、聞かせてみい」

「まだなってません」

「ええから言え」

博之は、しばらく黙ってから、ため息をついた。

「北畠様の立場なら、まず北伊勢を全部取り込みます」

殿様の笑みが深くなった。

「続けろ」

「蟹江の件で、北伊勢の国人衆は織田を怖がっています。飯荷の約定もできかけている。なら、

伊勢松坂屋を前に立てるか、北畠の庇護を前に出すかはともかく、まず北伊勢をゆっくりまとめる。

白子、四日市、関、亀山、桑名方面まで、飯場と荷の道を厚くする。国人衆には面子を残しつつ、

年貢なり礼銭なりを北畠に納めさせる形にする」

「ふむ」

「それで、織田が美濃に気を取られている間に、尾張側の境目に飯場と市場を増やす。

こちらから戦を仕掛けるというより、じゅんぐりじゅんぐり町に入り込む。寺社に寄進し、

炊き出しをし、港と郊外を押さえる。そうやって、織田に近いところの民や商人が

“北畠に寄った方が飯が食える”と思うようにする」

城主は、だんだん笑いをこらえなくなった。

「お前、大名家へのこだわりがなさすぎるやろ」

「私は飯屋ですから」

「飯屋が一番えげつないことを言うとるぞ」

「いや、でも正面から戦うより、そっちの方が国力落ちませんし」

「斎藤とはどうする」

「手を結べるなら結びます。織田が美濃に向くなら、斎藤と話をつけて、織田の足を引っ張る。

もちろん、斎藤が信用できるかは別ですけども、織田が美濃を簡単に取れないようにするだけでも

意味はあります」

「そして?」

「織田が北伊勢に手を出しにくい形を作って、津島、常滑、蟹江の向こう側に、こちらの飯場と

荷の道をじわじわ近づける。攻め込むというより、織田の周りに“北畠とやる方が穏便や”

と思う人を増やす」

城主は膝を叩いて笑った。

「お前、本当に刀持ってなくてよかったな」

「信長公にも言われました」

「そら言われるわ」

博之は困った顔で頭をかいた。

「でも、私は別に北畠様を裏切るつもりも、織田様につくつもりもありません。

聞かれた立場で答えが変わるだけです。私は飯屋なので、飯の道が壊れない方を考えているだけです」

「そこが怖いんや」

城主は、急に少し真面目な顔になった。

「お前は大名家に忠義が薄いわけではない。だが、大名家より先に飯の道を見る。民が食えるか、

荷が通るか、寺社が回るかを見る。だから、どの家の立場でも筋の通った策が出る」

「それは……そうかもしれません」

「だから、北畠としてはお前を雑に扱えん。織田も同じことを思ったやろうな」

博之は目を伏せた。

「私は、そんな大層なものになりたくないんですけどね」

「もう遅い」

「ひどい」

「飯一つで一年の休戦を引き出し、織田の前で天下と伊勢の取り方を語り、

今ここで北畠の織田対策まで語った。もうただの飯屋では通らん」

「飯屋ではあります」

「飯屋ではあるな」

城主は、また笑った。

「ただし、国を動かす飯屋や」

博之は、深いため息をついた。

「もう帰って寝たいです」

「まだ飯を食い終わってない」

「そこは食べてください」

「やっぱり飯屋やな」

城主は嬉しそうに肉あんをつまんだ。

「うまい」

「ありがとうございます」

「腹立つくらいにな」

「それ、織田様にも言われました」

座敷に笑いが広がった。

博之は苦笑しながらも、胸の奥ではまだ蟹江の港のざわめきが残っていた。

織田に話した策。

北畠に話した策。

どちらも、彼自身がやりたいものではない。

ただ、飯の道を守るために考えただけだ。

けれど、その道はもう、国の道と重なり始めていた。