軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

話の概要を理解する秀吉。博之は織田信長も木下秀吉も嫌いではなく興味がある。ただ蟹江での住民の件が嫌だと語る。そういえば奈良の話しましたっけ?150万文投げて文化交流した話

藤吉郎は、伊賀の地侍と元長野家の若侍の話を聞き終え、少しだけ頭を抱えた。

分かったことは多い。

だが、分かった分だけ、余計に報告が難しくなった。

「肝心の買い付け隊の正確な数や、銭の量、それから伊勢の商いの中身については、

あまり話したくないんでしょうな」

藤吉郎が言うと、博之は苦笑した。

「そこは、さすがに全部は話せません」

「でしょうな。けれど、大枠は見えてきました」

藤吉郎は、まぜ飯の椀を置き、博之を見た。

「織田信長様という方は、海道一の弓取りと言われた今川の殿様を討ち取られた。

武勇がすごいことは分かります。修羅場もくぐっておられる。腹も座っておられるでしょう」

「はい」

「それに木下様も、もともとの身分は低いところから重用されている。そういう

成り上がりの人たちを見るのは、根なし草の身からすると、私は少し面白いんです」

藤吉郎は、少し意外そうに博之を見た。

「面白い、ですか」

「はい。もともとの殿様、もともとのお上様に比べたら、根なし草とか、

飯が食えないやつの気持ちを少しでも分かる人や、それを理解しようとする殿様は、

私は基本的には嫌いじゃないです」

博之は、そこで少し顔を曇らせた。

「ただ、蟹江でのことは、あまり好かんのです」

「蟹江」

「はい。特に滝川様の下の方の武士たちや、国人衆や、一向衆が、あれだけがちゃがちゃ争って、

結果として住民に迷惑がかかった。私は血を見るのもあまり好きじゃないですけど、

それ以上に、住民が逃げなあかんような取り方が好きじゃないんです」

藤吉郎は黙って聞いていた。

「長野家が北畠に、軽く屈服したような形で、丸ごと話が落ち着いた経験を見てるから

余計に思うのかもしれません。戦で焼いて取るより、話で落ち着くなら、その方がええやないかと」

「それは、武家には耳が痛いですな」

「贅沢なことを言ってるのは分かります。この世知辛い世の中で、戦をするなと言うのは無理でしょう。けど、後始末や復旧にまで銭を回すとか、壊れそうな寺社を少し手入れするとか、炊き出しをするとか、そういうことまでしてくれる殿様や家臣がいたら、土地の人もまだ納得しやすいんちゃうかなと

思うんです」

博之は少し照れたように、頭をかいた。

「まあ、飯屋の私が言うことじゃないかもしれませんけどね」

藤吉郎は苦笑した。

「いや、耳が痛いですわ」

そして、少し真面目な顔で続けた。

「蟹江で城下の人間が本当にいなくなったという話を聞いた時は、こちらもびっくりしました。

そんなことあるんか、と」

「でしょうね」

「しかも、その受け皿が伊勢松坂屋という、こちらからすればよく分からない飯屋だった。

飯場、湯浴み、寝床、仕事まで用意している。財力があるのは分かる。けれど、なぜそこまで

手厚くやるのかは、やっぱり意味が分からんのです」

「そこは、私が根なし草だったからです」

博之は静かに言った。

「飯がない怖さ、寝る場所がない怖さ、明日どうなるか分からない怖さ。そこを知ってるから、

目の前で困ってる人がいたら、どうしても放っておけないんです」

藤吉郎は、少しだけ目を細めた。

「なるほど」

そこで博之は、ふと思い出したように顔を上げた。

「あ、そうそう。忘れてましたね」

「何をです」

「奈良の話ってしましたっけ?」

「奈良の話?」

藤吉郎は、すぐに身を乗り出した。

「大和八木の方に拠点を伸ばしてた時の話です。奈良のお坊さんから、五十万文くれたら

奈良の端で店を出していいよ、みたいな話が来たんです」

「津と同じような話ですな」

「そうです。で、私は断るどころか、腹が立って、三倍の百五十万文を投げて、

文化交流しようやって言ったんです」

藤吉郎は、しばらく固まった。

「……聞くに決まってるじゃないですか」

「長いですよ」

「長くても聞きます。しかも、蟹江の百五十万文と数字がまったく同じじゃないですか」

「そうなんです」

博之は少し苦笑した。

「だから蟹江で百五十万文の話が出た時、私も松阪のお殿様も、九鬼水軍の方も、

奈良の話を知ってたので、あ、これはまとまるなって思ったんです」

「だから、あの場で即座に払う流れになったわけですか」

「はい。聞いたことのある数字でしたから」

藤吉郎は、ようやく納得したように手を打った。

「なるほど。蟹江の百五十万文は、突然出た異常な金額ではなく、伊勢松坂屋の中では

前例があったんですな」

「異常は異常ですけどね」

「それでも、前例があった。だから松坂の殿様も九鬼水軍も、ああ、旦那ならやるなと思った」

「たぶん、そうです」

藤吉郎は、深く息を吐いた。

「これはまた、殿様に伝えにくい話が増えましたな」

「怖くない感じでお願いします」

「無理です」

「またですか」

「百五十万文を寺社との文化交流に投げた飯屋の話が、怖くないわけないでしょう」

藤吉郎はそう言って笑ったが、すぐに手を上げた。

「ただ、その話を聞くには、少し休ませてください。お茶を一杯飲んで、川屋にも行かせてください」

「そんなに重いですか」

「重いです。伊賀の地侍、長野家、北伊勢、六角、蟹江、ここへ奈良の百五十万文まで来たら、

頭が追いつきません」

博之は申し訳なさそうに笑った。

「すみません。私の人生、話が散らかってまして」

「散らかっているのに、筋は通っているから困るんです」

藤吉郎は立ち上がりながら、もう一度呟いた。

「飯屋って何なんやろな」

博之は、少し嬉しそうに笑った。

「それ、最近みんな言います」

「言わせてるのは旦那です」

座敷に笑いが起きた。

藤吉郎は川屋へ向かいながら思った。

信長にどう報告するか。

伊勢松坂屋は、ただの飯屋ではない。

だが、ただの飯屋でないと言い切るには、あまりに飯屋らしい。

そして今度は、奈良で百五十万文を投げた話まで出てきた。

「殿様、絶対に面白がるやろな」

そう思いながら、藤吉郎は小休憩を取ることにした。