軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

北伊勢の国人衆が伊勢松坂屋に来た。まずは飯。さすが飯の神の飯はうまいwww大事にならないように小さく北伊勢連合を始めたい。北畠の殿様にも話に行きましょう。

北伊勢の国人衆の代表たちが、松阪の伊勢松坂屋へやって来た。

白子、四日市、関、亀山。

それぞれの顔役が数人ずつ、供を連れている。みな表情は堅い。けれど、敵意というより、

どう話を切り出せばよいのか分からないという顔だった。

博之は、屋敷の座敷で彼らを迎えた。

「遠いところ、ようお越しくださいました。まあ、難しい話の前に、とりあえず飯を食ってください」

そう言って、女衆がまぜ飯、汁物、肉あん、魚のすり身揚げ、漬物を並べていく。

器は信楽焼の小皿と、最近試しに入れた常滑の小さな壺も混じっている。

国人衆の一人が、まぜ飯を一口食べて、思わず息をついた。

「……やっぱりうまいな」

別の者も頷く。

「飯の神やからな」

「やめてください」

博之は即座に言った。

「ほんまにやめてください。重圧がすごすぎて嫌です」

「蟹江では、そう呼ぶ者もおると聞きましたぞ」

「それが嫌なんです。私はただのスケベな親父です」

座敷に、少し笑いが起きた。

白子の顔役が言った。

「それも聞いております」

「聞いてるんですか」

「蟹江で、ご自分でそう言われたとか」

「言いましたけども」

「それが、かえって人間らしくてええと言う者もおります」

「なんでそうなるんですか」

博之は頭を抱えた。

関の者が、汁をすすりながら言う。

「薙刀を振り回して極楽浄土やと叫ぶ者より、スケベな親父に飯を振る舞ってもらう方が、

よほどありがたいという話ですな」

「その比較はやめましょう」

「それに、“偽善でも腹は膨れる”とも聞きました」

「ああ、それも言いましたね……」

「その言葉も、だいぶ広がっております」

「裏目に裏目に行ってる」

お花が横で小さく笑った。

「旦那様、親しみを持たれているということです」

「親しみが重いんです」

国人衆の間にも笑いが広がり、座敷の空気が少し緩んだ。

食事が一通り進み、茶が出されたところで、四日市の代表が姿勢を正した。

「さて、旦那。今日は飯だけ食いに来たわけではございません」

「でしょうね」

博之も背筋を伸ばした。

「蟹江のことは、我らも聞いております。織田と一向衆、国人衆の間に立ち、百五十万文を出して

半年の静けさを作った。住民にも飯と寝床と湯浴みを用意した。あれは、ただの商いではできませぬ」

「できれば、ただの商いで済ませたいんですが」

「ですが、済まぬところまで来ております」

亀山の者が続けた。

「北伊勢は難しい土地です。織田につくには、蟹江の件を見る限り怖い。北畠にそのまま

庇護を求めるには、我らの面子が立たぬ。六角との縁も無視できぬ。寺社や一向衆もおります」

「はい」

「我らだけで大きな同盟を結ぼうとしても、まとまりませぬ。今まで小競り合いをしてきた

相手同士ですからな」

その言葉に、他の代表たちも苦い顔で頷いた。

「けれど、伊勢松坂屋の飯と荷には、皆どこかで世話になっております」

白子の顔役が言った。

「買い付け隊には、我らの地の品を買ってもらっている。飯場が立てば人が来る。

市が動けば銭が落ちる。税に近いところまで、伊勢松坂屋の道に助けられているところがある」

「それは、ありがたい話ですけども」

「だからこそ、こう考えました」

四日市の者が、ゆっくり言った。

「同じ釜の飯を食うた仲間として、北伊勢で固まれぬか」

博之は黙った。

「伊勢松坂屋を主君に仰ぐという話ではございません」

「それは絶対やめてください」

「もちろんです。松坂屋さんに北伊勢を治めてくれと言うつもりもない。口出しを望むわけでもない。

城を持てとも言いませぬ」

「それは助かります」

「ただ、海の道、積み荷、飯場、買い付け、それを守るという目的なら、我らは

一つになれるのではないかと」

関の者が続ける。

「昔からの恨みや境目の争いは、すぐには消えませぬ。だが、荷を焼かぬ。飯場を荒らさぬ。

買い付け隊を止めぬ。逃げてきた民を斬らぬ。そういう約束なら、結べるかもしれない」

亀山の者も頷いた。

「まずはそこからです。北伊勢国人衆の連合などと大きく言えば、角が立つ。だが、

伊勢松坂屋の仲介で、荷と飯の道を守る取り決めを結ぶ。それなら、皆も飲み込みやすい」

博之は、深く息を吐いた。

「話がでかすぎます」

「でかい話を、小さく始めたいのです」

「それでも、私だけでは決められません。松阪の殿様には話を通したいです」

代表たちは、少し顔を見合わせた。

博之は続ける。

「北畠様の影響下で、私は商いをしています。松阪の殿様には、蟹江の時も助けてもらいました。

今回も、勝手に私が受けるわけにはいきません。皆さんも、来ていただけますか」

白子の者が少し笑った。

「蟹江の時も、松阪の殿様はおられたのでしょう」

「いました」

「北畠の正式な使いではなく、お友達として聞いたとか」

「それも言いました」

「では、今回もお友達感覚で会えますかな」

博之は渋い顔をした。

「いや、その重い話を聞くのに、お友達感覚はどうなんですかね」

四日市の代表が笑う。

「旦那は、いつも友達感覚で北畠に向かわれているのでは」

「否定はしませんけども」

「ならば、我らも友達の友達ということで」

「軽い。話が軽すぎる」

お花が横で言った。

「旦那様、軽く言わないと重すぎて誰も動けないのでは」

「それはそうやけど」

関の者が、少し真面目な声に戻した。

「旦那。我らも分かっております。これは危ない話です。織田も見る。六角も見る。北畠も見る。

だからこそ、いきなり旗を立てるのではなく、飯と荷の約束から始めたいのです」

「飯場を荒らさない。荷を止めない。逃げた民を斬らない。買い付け隊を通す。

寺社や市を守る。まず、その辺ですか」

「はい」

「それなら、私も話は聞けます」

代表たちの表情が少し緩んだ。

「ただし」

博之は指を立てた。

「伊勢松坂屋は戦の先頭には立ちません。軍勢も出しません。城も取りません。

年貢を直接集めるようなこともしません」

「それで結構です」

「うちは飯屋です。飯と荷と寝床と湯浴み、それと買い付けの道を守る。そのための仲介なら、

松阪の殿様に相談します」

「ありがたい」

「あと」

博之は少し身を乗り出した。

「飯の神は禁止でお願いします」

座敷に、また笑いが起きた。

亀山の者が言った。

「では、何と呼べばよいですかな」

「伊勢松坂屋の旦那でいいです」

「蟹江守は?」

「禁止です」

「大膳亮候補は?」

「誰ですか、それを言ったの」

お花が笑いをこらえ、ヨイチは黙って目を逸らした。

白子の代表が、最後にまぜ飯の椀を見つめて言った。

「同じ釜の飯、というのは不思議なものですな。昨日まで疑っていた相手とも、

飯を食うと少し話ができる」

博之は、その言葉に静かに頷いた。

「飯は、腹に入りますからね」

「だから、争いの前に飯を食う」

「食ってから、まだ争うか考えたらいいんです」

「なるほど。飯屋らしい」

「飯屋ですから」

その一言だけは、博之も胸を張って言った。

そして、その日のうちに、北伊勢の代表たちは松阪の殿様への面会を求めることになった。

正式な同盟ではない。

臣従でもない。

だが、飯と荷の道を守るため、同じ釜の飯を食った者たちが、一つの場に座る。

北伊勢は、まだまとまっていない。

しかし、まとまるための最初の膳は、すでに並べられていた。