軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

松坂の城下町の店で2部制と体験型の販売体制で試してみる。高額だが意外と家族連れのお父さんお母さんが子供に焼いてやるのが人気www

松坂城下の海鮮焼き屋は、すでに一店舗出ていた。

港で当たった勢いをそのまま城下にも持ち込んだ店で、開いた当初から評判は悪くなかった。

いや、悪くないどころではない。金型に種を流し、タコやイカを入れ、くるくる返して、

味噌醤油を塗り、青のりを振る。その一連の動きを見るだけで人が止まる。

ただ、問題もあった。

「売れすぎるんよな」

博之は畳の上でごろごろしながら言った。

「売れること自体は良いことです」

ヨイチが帳面を持って答える。

「けど、売れすぎるとあかんねん」

お花も頷いた。

「城下は港と違って、周りの飯屋との距離が近いですからね。昼前からずっと海鮮焼きの匂いを

出すと、他の店の客をかなり取ってしまいます」

「そうなんよ。うちはうちで売りたいけど、横丁全体が回らんと意味がない」

だから今回は、店を増やす話ではなかった。

すでにある松阪城下の一店舗を、どう運用するか。

そこを変える試みだった。

「まず、売る時間を分けよう」

博之が言うと、ヨイチが筆を構えた。

「二部制ですね」

「そう。今までは、開けてから売れるだけ売ってたやろ。あれをやめる」

「具体的には?」

「朝一番に一回売る。開店直後に、まず用意した分の半分を売る。朝から来る人、

城下に出てきた人、噂を聞いて並ぶ人向けやな」

「なるほど」

「で、昼時は売らない」

お花がすぐに反応した。

「昼は他の飯屋に客を流すわけですね」

「そうや。魚汁、鯛味噌飯、肉あん、すり身揚げ、茶屋。そこが昼にちゃんと売れんとあかん。

海鮮焼きは匂いも音も強いから、昼にずっと焼いたら全部持っていってしまう」

「二回目は夕刻前ですか」

「せや。昼飯が終わって、夕飯にはまだ少し早い。けど小腹が空いた頃に、もう一回焼く」

ヨイチは帳面に書き込む。

「松阪城下の既存海鮮焼き屋、運用変更。通常販売は開店直後と夕刻前の二部制。昼時は販売を止め、

他店へ客を流す」

「そういうことや」

実際に、その運用を試す日が来た。

朝一番、店が開くと同時に、すでに何人かが待っていた。

「今日もやるんやろ」

「港でも城下でも、これ見るのが楽しいんや」

「朝の分があるって聞いたで」

焼き場に火が入り、金型に油が引かれる。種を流すと、じゅわっと音が立つ。タコとイカ、

ネギ、刻み野菜が入る。焼き手が返し棒を差し込んで、くるりと回す。

「おおっ」

「やっぱり見てて飽きへんな」

「ええ匂いや」

店の者が声をかける。

「横のお店にも魚汁や鯛味噌飯がございますので、よろしければ後ほどそちらもどうぞ」

「分かってる分かってる。まずこれや」

「これ見たいねん」

結局、朝の分は一刻も経たずに売り切れた。

すぐに不満の声が上がる。

「もう終わりか」

「もっと焼いてくれよ」

「昼も売ればええやん」

店の女衆が丁寧に頭を下げる。

「申し訳ございません。昼は横丁の他のお店も楽しんでいただきたく、次は夕刻前でございます」

「うまいこと言うなあ」

「でも、しゃあないか。魚汁でも食うてくるわ」

そこで、お礼札も配られた。

「こちら、横のお店で少しお安く使えます。よろしければどうぞ」

売り切れで不満を持つ客を、ただ帰すのではなく、周りの店へ流す。これは伊勢松坂屋が

学んできたやり方だった。

そして、朝の販売が終わった後に、新しく試す体験型が始まった。

「本日は、海鮮焼きの体験枠でございます。札をお持ちの方から順にご案内します」

体験型は、一人百五十文。

ただ食べるより高い。

だが、客自身が焼き場に立ち、女衆に教わりながら、金型の中の種をくるくる返すことができる。

最初は、誰がやるのかと思っていた。

けれど、意外にも家族連れが来た。

「お父ちゃん、焼くん?」

「おう。見とけよ」

「焦がさんといてや」

「うるさいわ」

母親が参加する組もあった。

「お母ちゃんが焼くん?」

「そうやで。ちゃんと応援しなさい」

「お母ちゃん、すごい」

子どもは危ないので焼き場には立たせない。だが、少し離れたところから見学できる。

父親や母親が慣れない手つきで返し棒を持ち、女衆に教えられながら、じっと焼き加減を待つ。

「まだです。もう少し固まってから」

「今です。端を持ち上げて、くるっと」

「あっ、崩れた」

「大丈夫です。それも食べられます」

失敗もある。半分崩れる。焦げる。丸くならない。

けれど、きれいに返った時には、店の中で歓声が上がった。

「回った!」

「お母ちゃん、上手!」

「お父ちゃんのより丸い!」

「比べるな!」

普通に買う海鮮焼きは、勢いがある。並んで、見て、買って、すぐ食べる。

体験型は違った。

ゆっくり座れる。

自分で焼いたものを食べられる。

多少崩れても、それが話の種になる。

子どもも楽しむ。若い男女も笑う。

「これはこれでええな」

「高いけど、思い出になる」

「自分で焼いたら、ちょっと焦げても可愛く見えるな」

ヨイチは帳面を見ながら言った。

「体験型の内金で、お礼札の費用がかなり相殺できますね」

博之は頷いた。

「そこも大事や。通常販売だけやと、売れすぎた分だけ札の負担が増える。でも体験型は

百五十文もらうから、その一部を札に回せる」

「売れすぎる飯を、周りに迷惑をかけずに回す仕組みですね」

「そうや。飯は売るだけやない。回さなあかん」

夕刻前の二回目も、同じように売れた。

昼飯を終えた客、仕事帰りの者、子どもを連れた親、噂を聞いた若い衆が集まり、

あっという間に売り切れる。そこでまた札を配り、夕刻の体験枠を回す。

終わってみれば、松阪城下の海鮮焼き屋は、店を増やさなくても十分に強かった。

むしろ、増やす必要はない。

運用を変えるだけで、売上も評判も、周りとの関係も良くなることが見えた。

「おっしゃおっしゃ。ええ感じやな」

報告を聞いた博之は、畳の上で満足そうに転がった。

ヨイチは帳面を閉じる。

「松阪城下の既存店は、この方式でしばらく回せそうです。朝と夕刻の二部制。販売後の体験型。

お礼札で周辺店へ送客。体験料で札の費用を相殺」

「これなら伊勢港でも試せるな」

お花がすぐに釘を刺す。

「伊勢神宮はまだ先ですよ」

「分かってる」

「本当に?」

「分かってる。松坂で型を作って、伊勢港で試して、それからや」

博之は少し真面目な顔になった。

「売れすぎる飯ほど、売り方を丁寧にせなあかん。勢いだけで行ったら、いつか恨まれる」

海鮮焼きは、松坂城下でただの人気商品から、運用で回す商いへと変わり始めていた。