軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伊勢松坂屋のお正月の挨拶。それらしいことを言おうwwwヨイチ、お花さん、自分の力が強すぎる。3人がいなくなっても店が続くように自分事で動こう

正月の朝、松阪の屋敷には、いつもより晴れやかな空気があった。

女衆、買い付け隊、帳場の者、下働き、伊賀や奈良から来ている者まで、顔を合わせるたびに

頭を下げる。

「明けましておめでとうございます」

「今年もよろしくお願いします」

「今年も、うまい飯が食えますように」

そんな声が広間に満ちていた。

正月の膳も、派手ではないが少しだけ良いものが並んでいる。温かい汁、肉あん、少しの甘味、

蜂蜜柚子茶。みな笑いながら箸を伸ばしていた。

その中央で、博之は畳にごろごろしながら、ぼそりと言った。

「せっかくみんな集まってるし、それらしい話をせなあかんかな」

お花がすぐに言う。

「旦那様、それらしい話をするなら、せめて起き上がってください」

「いや、これが俺らしさや」

ヨイチが淡々と返す。

「説得力は減ります」

「逆や。これで説得力があるんや」

周囲に笑いが起きた。

博之は、肘をついたまま話し始めた。

「明けましておめでとうございます。今年も一年、まあ、楽しく過ごせたらええなと思ってます」

皆が静かになる。

「うちは、気づいたら大きくなりました。松阪、伊勢、鳥羽、伊賀、奈良、津、草津、四日市。

もう、俺自身も何をやってるんやろうと思うぐらい広がってます」

博之は少し間を置いた。

「けど、広がれば広がるほど、忘れたらあかんことがあります。うちは、もともと根なし草みたいな

ところから始まった飯屋です。食うに困った者、寝る場所に困った者、戦で親をなくした子、

身寄りのない者。そういう人らに、まず飯を食わせるところから始まった」

女衆の何人かが、静かに頷いた。

「もちろん、全員は救えません。そこを勘違いしたら店が壊れる。けど、うちはうまい飯を作って、

ちゃんと値段を取って、稼ぐ。その稼いだ金で、寄進をして、炊き出しをして、道を整えて、

子どもに読み書きそろばんを教える。この商いの回し方は、続けたいと思っています」

博之は、ヨイチとお花の方を見た。

「ただ、ここからが大事です」

広間の空気が少し引き締まった。

「今のうちは、正直、俺とヨイチとお花さんに寄りすぎてます。ヨイチは帳面を見て、

金の流れを押さえてくれる。お花さんは現場を回して、人の機微も見てくれる。俺は

ごろごろしながら飯のことを考える」

「そこをご自分で言うんですね」

お花が苦笑した。

「言う。けど、この三人が強すぎる状態は、危ないんです」

博之は声を少し落とした。

「もし松阪の町中で襲撃でもあって、俺とヨイチとお花さんの三人がいっぺんにいなくなったら、

この組織は終わります、では困るんです」

広間が静まり返った。

「旦那様、正月から縁起でもないことを」

誰かが小さく言った。

博之は首を振った。

「縁起でもないけど、現実の話や。今は戦の世です。道中で襲われることもある。病もある。

事故もある。町中で何が起こるかも分からん。もし、松阪で何かあって、

俺ら三人が突然いなくなった時に、誰も判断できません、帳面も分かりません、現場も回りません、

新しい飯も考えられません、では困る」

ヨイチは黙って聞いていた。

「だから、今年はみんなに、自分ごとで動けるようになってほしい」

博之は続けた。

「偉いさんと話せる者を育てたい。寺社や地侍に筋を通せる者を育てたい。帳面を読める者を

増やしたい。現場で揉め事が起きた時に、その場で柔らかく収められる者を増やしたい」

そこで少し口調を和らげる。

「でも、しっかりしすぎてもあかん」

若い者たちが顔を上げる。

「偉いさんとだけ話して、町の人と話せなくなる。帳面だけ見て、飯を食う人の顔を見なくなる。

そうなったら、うちは弱くなります。町の人と溶け込むこと、飯場で一緒に笑うこと、

炊き出しで椀を渡すこと、子どもや年寄りの顔を見ること。これも同じぐらい大事です」

お花が静かに頷いた。

「飯についても同じです」

博之は、料理場の若い衆を見た。

「俺がいなくなったら新しい飯が考えられません、では困る。だから、みんなも試してほしい。

新しい飯、新しい売り方、新しい市、新しい炊き出し。失敗してもええ。そのための謎経費は

出してます」

ヨイチが眉をひそめた。

「旦那様の謎経費を皆が使い始めたら、えらいことになります」

「ええねん。新しいものが一つ当たれば、全部取り返せる。伊勢神宮の肉あんも、信楽焼に

乗せるなんて最初は変な話やった。でも当たったやろ」

料理人たちの目が少し輝いた。

「もちろん、今ある飯を丁寧に作ることが先です。肉あん、魚のすり身揚げ、鯛味噌飯、

お好み焼き。雑にしたら終わりです。うまい飯をうまいまま出す。それは大前提です」

博之は、少し笑った。

「うちは、飯と寝るところには困らんようにしてます。給金も出してます。普通よりだいぶ

良いはずです。なら、その分、考えてください。自分の持ち場だけやなくて、店全体、

町全体、次の飯、次の道のことまで」

お花が口を挟んだ。

「旦那様、それを畳でごろごろしながら言うのは、全然説得力がありません」

「これでええんや」

「ええんですか」

「俺が綺麗に着飾って、背筋伸ばして、立派なことばっかり言い出したら、みんな息苦しくなるやろ。

抜くところは抜く。しっかりするところはしっかりする。そのさじ加減が大事なんや」

広間に笑いが戻った。

「組織は固まりすぎると脆くなる。いろんなやつがおってええ。元侍も、元孤児も、女衆も、

買い付け隊も、寺の者も、港の者も、みんな違ってええ。ただ、それぞれが自分の頭で

考えて動けるようになってほしい」

博之は、最後に少しだけ声を強めた。

「飯については探求する。人には柔軟に対応する。町には銭と職を落とす。これを忘れたらあかん」

皆が静かに聞いていた。

「うちが受け入れられてるのは、飯がうまいからだけやない。バカみたいに買って、

町に銭を落として、仕事を作って、炊き出しして、寺社に筋を通してるからです。

銭と職を落としてるから、町が受け入れてくれる」

博之は、また畳にごろりと転がった。

「だから今年も、うまい飯を作って、ちゃんと稼いで、ちゃんと返して、できれば楽しくやりましょう。

もし俺ら三人がいなくても、みんなが動けるように。それが今年の大きな目標です」

少し間があって、あちこちから声が上がった。

「今年もよろしくお願いします」

「頑張ります」

「新しい飯、考えてみます」

「帳面も、少し教えてください」

「寺社との挨拶も、次はついていきます」

博之は、満足そうに頷いた。

「ええな。そういうのが聞きたかった」

ヨイチは帳面を開き、淡々と書きつけた。

「今年の方針。飯を探求すること。町に銭と職を落とすこと。偉い方とも町人とも話せる者を

育てること。三人に依存しない体制を作ること。各自が柔軟に判断できるようにすること」

「最後に、旦那様はゴロゴロしすぎないこと、も入れてください」

お花が言う。

「それはいらん」

「必要です」

また笑いが起きた。

こうして、伊勢松坂屋の新しい一年は始まった。

派手な訓示ではない。

畳に転がる旦那が、根なし草の始まりを忘れるな、そして三人がいなくても続く店にしろと

語っただけだった。

それでも、皆の胸には残った。

飯を作る。

稼ぐ。

返す。

町に溶ける。

そして、自分たちで考えて動く。

今年の伊勢松坂屋は、ただ広がるだけではなく、続くための形を作り始めることになった。