軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どうやらこのタイミングで婚約を破棄され追い出されたことも、招待状や仮面が置いてあったのも、すべてはラディング侯爵と父によって仕組まれたことだったようだ。

つまりシルヴィーを利用して売り払う契約をして、今日は生贄としてここに来たことになるのだろう。

シルヴィーが何も言わずに俯いているとラディング侯爵はペラペラと今回の計画について勝手に喋り出した。

「何度やっても綺麗な花を潰すのは楽しくてやめられない。毎回、騙されて浮かれてやってくる馬鹿ばかりだ」

「…………」

普通の令嬢ならばここで泣き出して絶望するのだろう。

だが、シルヴィーの頭を支配するのは怒りと呆れだ。

(ここまでクズだなんて……お金のためならなんでもやるのね)

それからラディング侯爵は紅椿と真っ白な仮面は何も知らない令嬢が、犠牲になる際に必ずつけていることを説明していく。

「ワシは何人も何人もお前のような娘を自分のものにしてきた。この夜会もワシが楽しむために開いたものだ」

「…………」

「ハハッ、突然夜会に誘われるなどおかしいと思わなかったのか?」

シルヴィーはその言葉を聞いて拳を握り込んだ。

完全に抵抗をやめたと勘違いしたラディング侯爵は満足げに笑う。

「ああ……この絶望して何もかも諦めた時の顔がたまらないっ!」

シルヴィーが俯いているのが気に入らないのか顎を掴まれて、無理やり上を向かされる。

臭い息を顔面に吐きかけられた瞬間、シルヴィーの中で何かが壊れた。

(ああ……もうどうでもいい。本当に……最悪だわ)

シルヴィーはグッと下唇を噛み締めた。

ラディング侯爵はシルヴィーが怯えもせず泣いてもいないことが予想外だったのか、不機嫌そうに片眉を上げた。

「ふんっ、諦めたか。まぁ強気な娘が泣き喚くのも悪くないな。暴れられても困る。拘束させてもらおう」

「…………」

「大人しくしていれば痛い思いはしないさ」

ラディング侯爵は大人しくさせるためなのか、縄と鞭を持って近づいてくる。

こうなってしまえば、か弱い令嬢ならば萎縮してしまうに違いない。

ここで何人の令嬢が涙を流して、彼の犠牲になってきたのだろうか。

そう思うと胸が張り裂けそうだ。

(なんて奴なの……最低だわ)

シルヴィーの怒りは頂点に達していた。

ラディング侯爵に弄ばれた他の令嬢たちは、どれだけの屈辱に耐えていたのだろう。考えただけで胸が痛む。

(コイツもお父様も……いえ、違うわね。レンログ伯爵も許さないわ)

シルヴィーも元家族とも言いたくないクソ共に苦しめられた。

もう平民となるシルヴィーを遮るものは何もない。

今まで押さえつけていた感情が暴走して、自分の中で抑えられなくなっていく。

シルヴィーは胸元のドレスに肉厚な手が触れたところで口を開いた。

「…………おい、お前」

「……っ!?」

シルヴィーはこの追い詰められた状況で目を見開いてラディング侯爵をギロリと睨みつけた。

そしてラディング侯爵が呆然としている隙に、彼の肉で分厚く重なっている頬を鷲掴みにする。

大きすぎて手のひらが届かないからだ。

ぎとぎとの脂が手のひらに付着するが、そんなこと何も気にならない。

ただ怒りのままに力をこめる。

爪が食い込むのだろう。痛みに顔を歪めているではないか。

「や、やめろ……!」

「さっきから聞いていたら偉っそうにっ、しやがって……ヒック」

頬を引っ張られて言葉が出ないラディング侯爵の頬を握り潰すように爪を立てていく。

不思議といつもより力が出るような気がした。

たまらずラディング侯爵は体を持ち上げて、シルヴィーと距離を取ろうとするがバランスを崩して後ろに倒れ込む。

天蓋付きベッドが大きく揺れて体が沈んだ。

シルヴィーは上半身を起こしてから、反対側の手でつけていた仮面を剥ぎ取ると床に投げつけた。

バキリと派手な音を立てて紅椿が描かれていた仮面が真っ二つに割れる。

ニヤリと唇を歪めてラディング侯爵を見据えた。

「よくも……よくもやってくれ、ヒック……たなぁ」

「ヒッ!? な、なんだお前っ! ここじゃ……ヘブッ!?」

シルヴィーはさっきの仕返しとばかりにラディング侯爵の顎を掴もうとして、そのままダイブしてしまう。

すると手は自然と彼の顎を下から殴り飛ばした。

──ガンッ

その勢いでラディング侯爵は背中から床に落ちてしまったようだ。

床が軋むような重たい音が響いていた。

彼の手から縄と鞭がポロリと落ちてシルヴィーの視界に入る。

「へへっ……ふっふっ」

「お、おい」

シルヴィーは意識が朦朧としつつ、笑いが止まらなくなってしまう。

そのまま腕を伸ばして縄に魔法を使う。

すると縄はラディング侯爵の腕へ複雑に絡んでいき、ベッドの足へと四つん這いのような形で固定してしまった。

彼の悲鳴が聞こえたような気もしたが、シルヴィーは鞭を持ちながら彼の前へ。

「あはっ、あははは……!」

不気味に笑い出したシルヴィーにラディング侯爵の顔がどんどんと引き攣っていく。

この時、シルヴィーの酔いは完全に回っていた。

「おまえは……ゆるさな、ひっく」

「落ち着けっ、ワシが悪かったから……!」

「いたみおもいひれ……!」

シルヴィーはしゃっくりを繰り返し、呂律が回らずにいた。

力いっぱい鞭を振り上げたシルヴィーは容赦なく鞭を振り下げる。

ベチンと凄まじい音と共に、抵抗するように前に出していたラディング侯爵の尻を弾き飛ばした。

「──ッ!」

痛みから声も出ないラディング侯爵はベッドサイドに頭をぶつけながら悶えていた。

痛みに耐えるようにうつ伏せになっているラディング侯爵の背に馬乗りになる。

彼は腕を何度も引くがベッドがわずかに動くだけで抜け出すことはできない。

「ひっ……か、金はやるっ! いくらでもやるからっ」

「ヒック……許さなぁい、ゆるさなぁい」

身動きできなくなった男性の尻に目掛けて、シルヴィーは思いきり腕を振り上げてから唇を歪めた。