軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

④⑥

ホレスはアデラールの姿を見ると姿勢を正しながら返事を返す。

最近の口癖は『父上、すごい!』である。

アデラールを尊敬しているのか、寝る前に彼の話ばかりしていた。

ホレスは執事や侍女たちを見つけると今日覚えた魔法を見せてくる。

アデラールはシルヴィーの手をとると、当たり前のように口付けた。

満面の笑みをこちらに向けるのだが、その視線だけでシルヴィーへの気持ちが伝わってくる。

「シルヴィー、マリアから話は聞いたよ」

「…………!」

シルヴィーは先ほどマリアが話した内容を思い出す。

(やっぱりあの人たちは……)

何を企んでいるのか、何をしてくるかまではわからない。

だけどホレスや母に危害を加えることだけは避けてほしいところだ。

「シルヴィー、大丈夫だよ」

「…………え?」

「僕が必ず君を守るから」

アデラールの優しい視線はまっすぐシルヴィーを映し出す。

彼の手から伝わる温もりに安心していた。

シルヴィーは頷いてからアデラールを抱きしめた。

* * *

──建国パーティー当日。

シルヴィーは身支度を終えて、鏡に映る自分の姿を見ていた。

ラベンダー色と白のレースを使ったドレスは元々シルヴィーが働いていた高級洋装店でサイズを合わせて買ったものだ。

このドレスにはシルヴィーと母が編み上げたレースが使われている。

自画自賛するわけではないが、魔法で編み上げたレースの均等で緻密な模様は素晴らしい出来栄えである。

柔らかい生地が何層にも重なり、ゆったりとしたスカートはシルヴィーが動くたびに風に揺れる花びらのように揺れ動く。

ウエストは絞られており、デコルテも綺麗に見せてくれていた。

(さすがリーズさんだわ。素敵なデザイン……)

それにレースによって華やかさが加わり、シルヴィーの魅力を引き立たせている。

信じられないくらい指通りが滑らかなイエローゴールドの髪にはアデラールからプレゼントしてもらった髪飾りがある。

大ぶりな宝石はネックレスとイヤリングと同じだ。

(こんなふうにお姫様のようになることが、幼い頃からの夢だったのよね……)

平民になったのは仕方ないと思いながらも心のどこかでは、ずっとこうなることに憧れていたのだ。

強制的に押し込めていた願望が次々と叶っていく。

今はつらくとも積み上げていた努力は報われるのだと幼い自分に教えてあげたい。

こんなにも綺麗なドレスを着て、ここに立てていることが誇らしい。

(夢みたい……まさかこんなことになるなんて)

すると扉をノックする音が聞こえる。

アデラールの衣装はホワイトの生地にラベンダー色の差し色があり、ゴールドの装飾品が美しい。

いつものアデラールも魅力的だが今日はとびきり麗しい。

前髪も少し上げているからか雄々しい雰囲気に目を合わせられなくなってしまう。

(アデラール殿下が眩しすぎて直視できない……!)

このままでは不審に思われてしまうとなんとか顔を上げる。

するとアデラールの頬がほんのりと赤くなっているではないか。

予想もしない表情にシルヴィーは動きをピタリと止める。

「アデラール殿下?」

「困ったな…………君が、美しすぎて目を合わせられそうにない」

「…………ッ!?」

「どうしよう。誰にも見せたくないな。ああ、今すぐに僕だけのものにしてしまいたい」

アデラールの言葉を受けて、シルヴィーの顔にどんどん熱が集まってくる。

すると正装のホレスがリサとともに顔を出す。シルヴィーと目が合うと、嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。

「母上、おひめさま!」

「ふふっ、ありがとう。ホレスはかっこいい王子様ね」

「父上よりもかっこいい?」

「ホレスは世界で一番かわいいわ」

「ぼく、かっこいいがいい!」

ホレスは不満をアピールするように頬を膨らませている。

そんなところも天使すぎてうっとりしてしまう。

「ホレス、かっこいいはまだ譲れないよ。僕はシルヴィーの一番かっこいいでいたいんだ」

「むぅ~」

さらに膨らむホレスの頬は破裂しそうだ。シルヴィーはホレスのぷにぷにの頬をつつく。

アデラールがシルヴィーの頬にキスをするとホレスは抱っこを求めるように手を伸ばした。

「父上、ずるい! ぼくもっ」

アデラールがホレスを抱え上げると、シルヴィーの反対側の頬に口付ける。

幸せすぎて自然と笑みがこぼれる。

ホレスの頬を撫でる手も今では別人のように綺麗になった。

三人で会場に向かって歩いていくと、歓声や拍手が聞こえてくる。

(今日はあの人たちと顔を合わせるのね。たとえ何があったとしても、わたしはもう逃げない。しっかり向き合わないと……)

大きな扉の前で緊張から自然と顔が強張っていくが、アデラールがいつものように微笑みを向ける。

「わたしは……うまくできるでしょうか」

「大丈夫だよ、シルヴィー。何かあっても僕がいる。君にはいつも笑っていてほしいんだ」

「……はい」

アデラールの一言で不思議と気持ちが上向きになる。

「母上、ぼくもいるよ!」

ホレスは自信にあふれた表情だ。

たくさんの人と関わるようになり発語も増えて活発だ。

積極的にいろいろなことに取り組んでいる。

シルヴィーもホレスに負けていられないではないか。

(ここにこられて本当によかった。もう不安はない……わたしには支えてくれる人たちがいるわ)

そう思うとがんばれるような気がした。

三人で会場に入ると、大歓声が沸き起こる。

ホレスも初めてのパーティーだ。その光景に少なからず驚いている。縋るような視線がこちらに向けられていた。

そんなホレスに大丈夫だと伝えるようにアデラールが肩に手を置くと、背筋を伸ばした。

シルヴィーもアデラールやマリアにはまだまだ届かないが、努力した成果が少しでも認められるようにと願うばかりだ。

シルヴィーも柔らかな笑みを浮かべる。

するとアデラールの表情がどんどんと固くなっているような気がした。

(〝君の笑顔は僕だけのものがいい〟とか、思っていそうだけど……気のせいかしら)

しばらくアデラールと過ごしていてわかったこと。それは彼の考えていることはほとんどシルヴィーのことだ。

ホレスがお辞儀をすると会場に割れんばかりの拍手が響き渡る。