軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

④① ミリアムside4

──三年後。

ミリアムは今、地獄のような生活を送っていた。

なんとか貴族として生活はできていた。とはいえ、名ばかりの子爵。

使用人は雇えないしドレスやアクセサリーはすべて売ってしまった。

今まで贅沢三昧だったミリアムを取り巻く環境は一変したのだ。

(どうしてこんなことに……っ!)

この三年で自分のことは自分でできるようになっていた。平民の頃の生活に逆戻りだ。

整えることもできないほどごわごわの髪、くたびれたワンピースは何度も縫い直している。

レンログ伯爵邸に来る前よりもひどい生活に吐き気がした。

この生活に慣れるまでミリアムはずっと抵抗していた。

けれど部屋は汚くなるし、お腹も空いて体も臭くなっていく。

母もあの日から荒れていて喧嘩ばかり。屈辱の日々を過ごすしかなかった。

(……わたくしの人生はこんなはずじゃないのにっ!)

井戸に水を汲みに行って、三人分の料理を作り、身支度を簡単に整えて自分で部屋の掃除をする。

こうなってしまえば、もうシルヴィーのことを考えている暇はない。

彼女が生きているか死んでいるかなんて、今はどうでもよかった。

レンログ子爵令嬢という地位を手放さなければ、平民のシルヴィーよりも幸せなのだから。

それだけがミリアムの誇りだった。

今、父も真面目に仕事に取り組んでいる。

おざなりになっていた領地管理。領民からの信頼はゼロ。

領地も小さくなり、屋敷も手放してすべて借金の返済に充てられていた。

親戚にも見限られて、次に何か問題を起こすようなら爵位を譲らなければならない。

一族の恥晒し、そう呼ばれていてもひたすら耐えるしかない。

今はこの爵位に執着するしかないのだ。

借金も少しずつではあるが返していた。そうしなければここにいられない。

無理な徴税は禁止されているし、王家からの監視も厳しい。

遊びたくても余裕もなく、何もできない。ストレスは溜まるばかりで父はお酒に逃げている。

ミリアムだってこれ以上、落ちぶれたくはない。

今、レンログ子爵家はそのためだけのプライドで各々動いていた。

最初の一年目は頭がどうにかなってしまいそうだった。

いつか這い上がってやると、その覚悟でここまできたのだ。

元婚約者のロランは婚約を解消した後に伯爵家に婿入りしたらしい。

厳格と名高い伯爵家。結局、彼は爵位さえ手に入ればなんだってよかったのだ。

(あんな男は最初からわたくしに相応しくなかった。だから仕方ないのよ……!)

今までミリアムを褒め称えていた害虫みたいな令嬢たちも、今では落ちぶれた様子を見て馬鹿にしてくる。

(いつか復讐してやる。その時まで笑っていればいいわ……!)

埃まみれの床を磨きながらミリアムは下唇を血が滲むほどに噛み締めた。

他の令嬢たちは結婚して子どもが生まれて役割を果たしている。

それなのにミリアムはパーティーやお茶会に満足に出席することも叶わない。

年に一回、開かれている王家主催のパーティーに向けてなんとかドレスを調達するのに精一杯。売れ残った安物のドレスは袖を通すのすら屈辱だ。

なんとか結婚相手を探そうとするも白い目で見られてミリアムの惨めな姿を嘲笑いにくる令息や令嬢たちばかり。

何もしなくても令息たちの方が寄ってきた頃とはまるで違う。

(こんな家に嫁いでくれる令息なんているわけないじゃないっ!)

この窮地を救うためにはミリアムが結婚して婿入りしてもらうこと。

もう爵位すら価値がないと言われているようだ。

それに今年で二十一歳になってしまった。

周囲は着々と婚約者と結婚する中で、ミリアムだけ取り残されている。

こうなったら王太子のアデラールに助けを求めるしかないと現実逃避する日々。

そうでなければ救われない。

物語のようにミリアムを迎えに来てくれるのはアデラールだけだ。

(アデラール殿下、わたしのことを思い出して……! 早く迎えに来てください。あなたの愛するミリアムはここにおりますわ)

彼との妄想に耽ったところで、埃まみれの現実は消えはしない。

ミリアムは震える拳を握りしめていた。いつまで経ってもあの頃の生活には戻れない。

それから顔を隠しつつ、買い物に出かける。自分で買わなければ何も手に入らない。

子爵の娘だなんて思えない。街では三年経ってもシルヴィーの名前ばかり。

『シルヴィーお嬢様がいてくれたらこんなことにならなかった』

『シルヴィーお嬢様は本当に立派だった』

耳障りな声が届くたびにミリアムは苛立ちを隠せない。

(シルヴィーシルヴィーシルヴィーッ、その名前は二度と聞きたくないっ!)

わずかなお金でパンやハム、チーズを買う。繰り返される絶望の日々。

そこでさらにミリアムに追い討ちをかける出来事が起こる。

買い物を終えて、ミリアムが両親が待つ狭くて汚い屋敷へと帰ろうとした時だった。

「あの噂、聞いた?」

「聞いたわ。さすがシルヴィーお嬢様よね」

「本当本当、幸せになってくれてよかったわ。まさかシルヴィーお嬢様が公爵様の養女になって王太子妃になるなんて!」

「マリア王女様や両陛下にも気に入られているんですって! シルヴィーお嬢様はすごいわ」

「…………は?」