軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

③⑧

普段のアデラールとは違う、肉食獣が獲物を狙う時のような鋭い瞳にシルヴィーは驚いていた。

しかしすぐに優しい表情に切り替わる。

(い、今のは……!?)

アデラールは何事もなかったかのように、にっこりと笑みを浮かべると、シルヴィーが編んだレースを眺めている。

「君の魔法は本当に素晴らしいね。さすがシルヴィーだ」

「……あ、ありがとうございます」

「そうしたらレースを届けに久しぶりに街に行こうか」

「えっ……いいのですか?」

「実はもう許可はとっているんだ。ホレスも一緒に行こう」

「はい! ホレスも喜ぶと思います」

シルヴィーは笑顔で頷いた。アデラールも嬉しそうだ。

それに実はもう許可をとっているという恐ろしい言葉が聞こえた気がするが気のせいだろうか。

しかし一緒に街に行こうと言っていた王妃のことが気になってしまう。

「ですが、王妃陛下は……」

「母上はシルヴィーを独り占めしすぎだと思わない? 僕もシルヴィーと一緒に過ごしたいんだ」

「…………!」

王妃とはよく顔を合わせているが、アデラールとは毎日少しずつしか顔を合わせていない。

そのことを言っているのだろうか。

「リサ、母上にうまく誤魔化しておいてほしい。そうだな……マリアの体調がよくなったら三人でドレスを買いに行ったらどうかと伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

「すぐに準備しよう」

あっという間に話が進んでいく。彼は午後から時間があるということで街に行くことになる。

シルヴィーも出来上がったものをすぐに届けられるということで嬉しかった。

ドレスではなく街に馴染めるようにとワンピースに着替えた。

いつも通りの格好をすると、一カ月前まで街で当たり前のように暮らしていたのだと実感する。

ホレスと共に馬車に乗って街へと向かう。懐かしい景色にホレスも興奮しているように思う。

それからリーズや一緒に働いていた同僚たちとの久しぶりの再会。

同行しているリサも嬉しそうだ。

ホレスがリーズに抱っこをせがむと彼女も喜んで受け入れてくれる。

彼女たちはシルヴィーとホレスを温かく迎えてくれた。

それから出来上がったレースを渡すとリーズは大喜び。

どうやらシルヴィーと母、リサが一気に抜けたことでお店は負担が増えて大変だったようだ。

特に母とシルヴィーの魔法による刺繍やレースの恩恵は大きかったそうで、そう思うと申し訳なくなってしまう。

しかしリーズは「うちの魅力はレースだけじゃないんだから!」と言ってウインクしている。

アデラールは久しぶりの店に興奮して走り回るホレスを抱えている。

店で一緒に働いていた人たちは、アデラールの姿を見てうっとりとしていた。

そして次々に「あなたは世界一の幸せものね」「うらやましいわ!」と、肩に手を置いて仕事に戻っていく。

そんな中、興奮した様子のリーズが隙を見てシルヴィーに耳打ちする。

「聞いたわよ! 禁断の恋だったんでしょう!?」

「禁断の恋……?」

するとリーズが手を合わせて、物語を聞かせるように話してくれた。

幼い頃からアデラールはシルヴィーに想いを寄せていた。

けれどシルヴィーは母親を守るため、元レンログ伯爵家に虐げられ縛られていたためその想いを拒否。

アデラールのためにもシルヴィーは関係を隠していた。

その後、追放されてすべてを失ったシルヴィーは平民になる道を選択する。

夜会の日、仮面をつけてアデラールとの関係を断ち切るために一度だけ関係を持ち、彼の立場を思い姿を消す。

けれどそこで子どもを身ごもっていることを知り、一人で育てる決意をした。

三年後にアデラールがシルヴィーを見つけてプロポーズをして、晴れて二人は結ばれた……と、ここまで一度も息を吸わずに言いきったリーズはうっとりした表情だ。

「そ、その話って……」

「アデラール殿下から聞いたわ。とってもロマンティックよねぇ」

「……!」

何故かこの件が美談になっているようだが、内情はまったく違うことをシルヴィーは知っている。

(ヤ、ヤリ逃げしただけなのに……!)

リーズにアデラールが話したということは、このような話にした方が都合がいいということだろうか。

ここは空気を読まなければならないとシルヴィーは黙って聞いていた。

だけど嘘をつくのも心苦しいため、そんな狭間で揺れていた。

シルヴィーがワナワナ震えていると背中に感じる圧力。

恐る恐る振り返ると、アデラールが笑みを浮かべている。

彼は何も言っていないのに〝何も言わないよね?〟と、圧を感じる。

シルヴィーはブンブンと首を縦に振り頷くしかなかった。

アデラールは話題を変えるために王妃とマリア、シルヴィーと共にドレスを買いに行くことを伝える。

するとリーズは大興奮で目を輝かせた。シルヴィーの手を握りブンブンと振っている。

口パクで何度も『ありがとう』と、言っていた。

それから華やかなドレスやワンピース、帽子に靴と店のものを買い占める勢いで購入していく。

アデラールになぜかと聞くと「母上に先を越されたくないから」と、キラキラの笑顔で言っていた。

「私の店のドレスが王妃陛下と王女と未来の王太子妃に……!」

リーズはシルヴィーの体のサイズを計りながら涙を流していた。

シルヴィーもまさか自分が働いていたブティックのドレスを着ることになるとは思いもしなかった。

「今度のお披露目パーティーにオーダーが間に合わないのが残念だね」

アデラールとホレスも合流すると、ホレスは「ははうえ、おひめさまみたい!」と嬉しそうにしている。

ホレスとリーズが遊んでおりドレスなどを包んでいる間、シルヴィーはこっそりとアデラールに耳打ちする。

「アデラール殿下、どういうことですか!? どうしてこんな美談に?」

「言い方は違うけれど概ね事実でしょう?」

「えっと…………はい」

すべて嘘というわけでもないし、すべて真実かというと微妙に違う。

爽やかに笑っているアデラールには敵わないと悟ったシルヴィーはそっと口を閉じた。

こうなれば誰も傷つくことはなく、アデラールの体裁も保てる。

どうやらこの話はここから街全体に、王都へと広がりつつあるようだ。

アデラールの完璧な根回しに驚きつつも、丸め込まれているような気がしていた。