軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

②①

「シルヴィア……ホレスのことで気になることがあるんだけど」

「……どうかした?」

「ホレスがね、おもちゃを浮かせていたってうちの子が言っていたのよ。もしかしてホレスはもう魔法が使えるのかしら?」

「…………!?」

シルヴィーの心臓がドクリと脈打つ。

リサがここに来た過去はわからないが彼女も魔法を使うことができた。

ということは元貴族なのだろう。

だからこそすぐにホレスが何らかの魔法を使ったことがわかったのだ。

「最近、おもちゃを投げて飛んだっていうのに、はまっているみたいなの。だからかしら……」

シルヴィーはリサの顔を見ることができなかった。

冷や汗が滲む。ほぼ毎日、一緒にいるためリサの鋭い一言にはドキッとしてしまうことがある。

「ふふっ、そうよね。うちの子たち、ホレスが魔法を使えるって興奮気味に言うからかわいくて」

「そ、そうなのね。今日は本当にありがとう。またわたしが休みの時は二人を預かるわ」

「えぇ、お願いね!」

リサの部屋を出てホレスの手をぎゅっと握りつつ自室に戻る。

ホレスもシルヴィーの様子が違うことに気づいているのだろう。

「ホレス、人の前で力を使ってはダメよ?」

ホレスは首を横に振るだけだ。

幼い彼には絶対にやらないというのは難しいのかもしれない。

ホレスはというと、自分の手をじっと見つめながら何かを考えているように思えた。

「ぎゅっ……ない」

「え……? ホレス、どういうこと?」

手を握りながら泣きそうになるホレス。

だけど言葉の意味がわからずにシルヴィーは眉を寄せる。

ホレスに詳しく話を聞こうとした時だった。

「あっ、ぴょんぴょん」

「ホレス、さっきのことなんだけど……ないって何がないのかしら?」

「ぴょんぴょん!」

しかしすぐにおもちゃに気を取られたのか、うさぎのぬいぐるみの方へと向かってしまう。

その後、何度聞いてみてもホレスは答えてくれることはなかった。

けれどホレスが何か変化を感じていることは確かだ。

母にも相談はしているが、もし本当にホレスが大きな力を持っているのだとしたら、ホレスのためにも王家に相談するべきではないかと言っていた。

リサやリーズには相手がアデラールということまでは話していない。

シルヴィーの中に不安が募っていく。

(もしホレスに何かあったらどうしたらいいの……嫌な予感がする)

母親の勘だろうか。

シルヴィーの頭にチラリとアデラールの顔が思い浮かぶ。

彼は今、どうしているだろうか。

そう考えながらシルヴィーは楽しそうにうさぎのぬいぐるみで遊んでいるホレスを見つめていた。

──それから一週間経った頃。

シルヴィーの嫌な予感が的中することとなる。

ホレスが高熱を出したのだ。

幸い、あれから魔法はまったく発動せずにいたため安心して様子を見ていた。

だが度々、何かを我慢しているような素ぶりを見せていたことはわかっていた。

その度にホレスに聞いてみるものの『ぎゅっ、ない』と繰り返すだけ。

シルヴィーにはその意味が伝わらない。

今は王女のマリアのドレスを仕立てる大事な時期だとはわかっていたが、ホレスのそばにいるために休ませてもらっていた。

代わりにシルヴィーの母が店で朝から晩まで働いている。

今まで元気だったホレスだけに不安が尽きない。

二日経っても三日経ってもホレスの熱は下がらない。

医師にも診せたが『風邪ではないか』と、言われただけ。

薬も効かずに困り果てていた。

体力が落ちて弱っていくホレスを見ていることしかできない。

そんな自分が無力で悔しくてたまらなくなる。

「ホレス……ごめんね。何もできなくてごめんねっ」

代われるなら代わってあげたいと思っていた。

(早くよくなりますように……!)

熱で熱くなっていた小さな手を握りながら必死に祈っていた時だった。

「……ま、まぁ」

「ホレスッ!?」

いつから起きていたのか。

荒く息を吐き出しているホレスのブルーの瞳がこちらを向いている。

「いい、こ……まま、いいこ」

「…………え?」

「まま、だいすき」

「~~っ! ママも大好きよ。ホレス、ごめんねっ」

シルヴィーの不安が伝わってしまったのだろうか。

ホレスの優しさに涙がこぼれそうになってしまうが、ぐっと堪える。

ホレスにこれ以上心配かけてはいけないと無理やり笑みを浮かべた。

彼は安心したのかそのまま眠ってしまう。

ホレスがいない世界などもう考えられない。

(このままじゃダメだわ。どうにかしないと……!)

シルヴィーはホレスの頭を撫でて、彼をシーツで巻いて隠すように歩き出す。

いつの間にか朝日が昇っていた。

三日三晩ほとんど寝ずにつきっきりで看病していたせいか、足がフラフラする。

しかし医師を呼びに行かなければとホレスを抱えて外に出た。

このまま寝てもホレスの体調は悪化するばかり。

ならば朝一番に見てもらった方がいいだろう。

シルヴィーは涙を拭いながらひたすら走っていくが、どんどんと視界がぼやけていく。

──ドンッ

誰かとぶつかってしまい、シルヴィーは顔を上げて謝罪の言葉を口にする。

「す、すみませ……」

「シルヴィー、遅くなってすまない」

「…………え?」

見覚えのあるライトブルーの瞳に泣きぼくろのある左目。

フードの隙間から覗くシルバーホワイトの髪。

優しげな笑みがホレスと重なっていく。

忘れていたはずの記憶が蘇る。

(……まさか、そんな…………どうして?)

シルヴィーの前には夜会の日に助けてもらったアデラールの姿があった。

周囲から姿を隠すためなのかローブをかぶっている。

シルヴィーの心臓が勢いよく鳴っていく。

名前を呼んだため、アデラールはシルヴィーのことをわかった上で声をかけているのだろう。

「いや、今はシルヴィアと呼んだ方がよかったかな」

「なんで……」