軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

①⑧

「それと僕はシルヴィー嬢と結婚する」

「…………はい?」

「ラディング侯爵をこうした令嬢とアデラール殿下が結婚ですか!?」

「ああ……僕は彼女と結婚したい。しなければならないんだ」

奥の部屋に待機していた暗い顔をした妻たちが部屋の中へ。

尻を鞭打ちにされ、拘束されたラディング侯爵の姿を見た妻たちは一気に豹変する。

部屋にあったものを持つと彼をボコボコに殴り始めた。

「ア、アデラール殿下、よろしいのですか?」

「死なせるなよ」

「そんな無茶な……!」

ラディング侯爵が死なない程度までアデラールは見て見ぬふりを続けた。

彼女たちは人生を台無しにされたのだ。その恨みは相当なものだろう。

騎士たちが止めに入ると、彼女たちは自分たちから協力を申し出てくれた。

そのおかげでラディング侯爵の悪事の証拠や人身売買の金額を記した帳簿などが大量に出てくることになる。

ラディング侯爵はさまざまな悪事に手を貸しており、芋蔓式に貴族たちの名前が上がった。

それはほとんど夜会に参加していた貴族たちで、小規模な夜会は悪の巣だったのだ。

彼らは次々と罪人として牢に入れられていった。

証拠を掴んだアデラールは、その証拠と共に父の元に早馬を送った。

ずっと捕らえられなかった大臣は、その後にすぐに捕らえることができた。

そしてラディング侯爵に無理やり妻にされていた令嬢たちは解放された。

調査に協力してもらい、さらに関わった貴族たちに罰を与えた。

彼女たちの持つ魔法はどれもとても珍しいものばかり。

文字を早く読み取れる魔法や嘘を見抜く魔法などだ。

出来る限り希望を聞きつつ、文官補佐や騎士団で罪人の聴取など、各々の魔法属性に合った仕事を提案した。

もちろん無理強いはしないことは大前提だが、彼女たちは全員仕事の提案を受けた。

何より生家に強い恨みを持っているため、戻りたくはないとのことだった。

まだまだ反対はあるかもしれないが、彼女たちを積極的に採用して活躍させることにより、魔法属性に対する意識も変わることだろう。

この一件をきっかけに国の膿みを出せたのは大きい。

ラディング侯爵の妻たちを呼び寄せるのと同時に、シルヴィーに声を掛けるように頼むも彼女は見つからない。

レンログ伯爵邸に戻っている可能性もあるかと思ったが、戻ってはいないようだ。

まさか彼もこんな結果になるとは思わなかったのだろう。

シルヴィーの件の罰として降爵と領地の一部を剥奪。

爵位は関係なく、この件に関わっていた貴族たちには容赦なく罰が与えられた。

国を根幹から揺らす一件になったことで対応に追われて満足にシルヴィーを探すことができない。

(彼女はあの後、一体どこに……?)

近衛騎士たちにシルヴィーの特徴を伝えて探すように頼むが彼女はまったく見つからない。

日付だけが過ぎて、焦りだけが募っていく。

何よりシルヴィーがつらい思いをしていると思うと耐えられない。

ハンカチだけを残して幻のように消えてしまった。十一年前と同じように。

しかし名前や容姿がわかれば調べるのは簡単だ。

シルヴィーの情報を集めていくと、彼女の環境はつらいものだった。

母親が事故死した途端、レンログ伯爵は義母と同じ歳の娘を連れてきた。

それもシルヴィーは火属性ではなく、レンログ伯爵の魔法属性を継いだミリアムを溺愛している。

十一年前のパーティーに参加できたのは母親がまだ生きていた頃。

けれどこんな環境の中でもひたむきに前へ進もうとしていた彼女の強さに惹かれていく。

知れば知るほどに彼女への想いが募る。

(もう一度、彼女に会いたい……こんなにも惹かれているのに手が届かない。なんてもどかしいのだろうか)

アデラールがイエローゴールドの髪にラベンダー色の瞳の令嬢を探しているという噂は瞬く間に広がりを見せた。

そして同じ特徴を持つ令嬢たちが次々と現れる。

彼女たちは当たり前のように『わたくしが運命の相手です!』と言った。

その中にはシルヴィーの妹であるミリアムの姿もあった。彼女の義母の姿もだ。

シルヴィーを追い出した原因を作っておいて、こうして平然と顔を出すところが許せない。

大ぶりな宝石や豪華なドレスを見る限り、自重するつもりはないらしい。

アデラールは怒りが込み上げてきた。

この一件で保身のために動いている貴族たちをたくさん見た。

金を積む、娘を差し出す、成果を報告するなどだ。

どうやら彼女たちも再起をかけてアデラールに会いにきたようだ。

「アデラール殿下の運命のお相手は間違いなくわたくしですわ!」

「…………」

「髪色も瞳の色もわたくしと同じですもの!」

アデラールは初めてミリアムと彼女の義母を今すぐに目の前から消したいと思った。

今まで皆に平等に接していたはずのアデラールに芽生える怒りという感情。

彼女たちを許すことなどできない。

「君たちはシルヴィー嬢を虐げていた。そして元ラディング侯爵に売ろうとしたんだろう?」

ストレートに問いかけると、表情を繕うこともなくミリアムたちは焦りを滲ませている。

「そ、それはお父様が勝手に……わたくしたちは何もっ」

「彼女のものを燃やしてパーティーやお茶会に出させないように嫌がらせをし、婚約者を奪い取り、追い出したのは君たちも同じだ。それから彼女の美しさへの嫉妬も……」

「──うるさい! あの女の話をしないでよっ」

「ミ、ミリアムッ!」

「ぁ……」

どうやら彼女が一番触れて欲しくない話題だったようだ。

ミリアムが怒号をあげたのを冷めた目で見ていた。

(運命などと言っておいて、この態度とは笑えるな)

すぐに感情を荒らげて言葉を吐き、表情を取り繕えない。

自分の立場すらわかっていない愚かな令嬢だと思った。

彼女の母親が焦りつつミリアムとアデラールを交互に見ている。

(謝罪もできないとは……救いようもない)

こんな奴らだからこそシルヴィーは自分から出て行ったのだろう。

一番悔しいのはそんな彼女を救い出せなかったことだ。

もっと早く動いていたらこんなことにはならなかったはずだ。

「不敬だな。死にたくなかったら二度と僕の前に顔を見せないでくれ」

「もっ、も、申し訳ございません!」

涙を浮かべながらこちらを見つめるミリアムを見ても何も感じることがない。

「聞こえなかったのか? 不愉快だ。二度と顔を見せるなと言ったんだ」

「ヒッ……!」

「次は容赦はしない。シルヴィーに何かしたらお前たちを殺す」

アデラールの顔を見て逃げ帰るように去っていく。

(……シルヴィー、約束通り君を必ず守るよ)