軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ただの湯あたりです

湯船でいろいろ考え事しているうちについついいつもよりも長湯をしてしまいのぼせてしまった私でしたが、気が付けば自分のベッドの上に寝かせられていました。

えーと。私はどうやってここまで移動してきたのでしょう?

今まで確実に意識はありませんでしたから、自力歩行ということはあり得ませんね。じゃあやっぱりここまで誰かに運ばれて来たんですよね。

う~ん、どうなった私。う~ん、キオクニゴザイマセン。

額の上には冷たいタオルが置かれてあります。火照った頭に気持ちがよかったので、それに手を当てようと、何気なく自分の手を持ち上げると何かを一緒に持ち上げる感覚が。

「ああ、気が付いたようですね!」

ぼけーっと手を凝視している私と対照的に、気遣わしげな顔で私の顔を覗き込んできた旦那様。

自分の手にしては重たいな~と思って見ると、そこには旦那様の手がくっついていました。というか、旦那様の手が『ぎゅううっ』と私の手を握り締めていたのです。どうやら私、自分の手を持ち上げるついでに旦那様の手も持ち上げていたようです。そりゃ重いわ。

って、旦那様?!

ぼんやりしていた意識が一瞬でクリアになりましたよ、びっくりしました。コノヒトなんで 私室(ここ) にいるんですか!

頭がクリアになったついでに、にわかに慌てだした私です。慌てついでにまわりを見れば、いつもはせいぜいダリアとミモザしかいない私の部屋に、ミモザの代わりのステラリアとロータス、侍医様と、他にも侍女さんが数名いるではありませんか。

あら~、今日はなんだか人口密度が高いですね~……ではなくて!

エ、ナニコレ大騒ぎになってません?! ちょっと落ち着け私。

ワタシってば湯殿で伸びてたんですよね。もちろん当然ハダカでしたよね?!

ハッとなり布団の中の自分の姿を確認すれば、どうやらいつもの夜着を着せられているようです。

おそらく(いやむしろそう願いたい!)ダリアとステラリアが着せてくれたんでしょうが、それは後で聞くとして。とりあえずセーフということで。

「えーと、私、ドウナッテマシタカ?」

恐る恐る旦那様に尋ねれば。

「湯殿で倒れていたんですよ。ダリアが見つけてくれたからよかったものの、下手をすると溺れていたかもしれません」

いつもの微笑みはどこへやら、ちょっと怖い顔で言われてしまいました。

あわわわわ! た、たぶん溺死まではないと思いますが、みなさんに心配をかけたことには変わりまりませんね!

「スミマセン」

申し訳なさから小さくなるしかない私です。

「これからは湯あみをするときも侍女を付けましょう」

しかし旦那様は何とも真面目な顔でそんなことをおっしゃいましたよ。ちょ、湯あみくらい一人で入らせてください! 根っからの一流お貴族様でもない私が侍女さんに洗ってもらうとか、どんな羞恥プレイですか!!

「大丈夫です一人で入れます!! これからはぜっっっったいにのぼせませんから!! ほら、侍女さんのお仕事増やすのもアレじゃないですか。ほほほほほ!」

ここだけはハッキリきっぱり言わせていただきました!

「いいえ、貴女にもしものことがあったら……」

たかだか湯あたり起こしたくらいで、何を過保護なことを言ってるんですかコノヒトは!

それでもさらに 反論(いいくるめ) しようとした旦那様でしたが、

「まあまあ、旦那様。今回は奥様も少しお疲れだっただけで、長湯によるのぼせですから、そこまで過保護になられなくてもよろしいのでは?」

穏やかな微笑みを湛えたおおらかな侍医様が、やんわりと止めてくださいました。侍医様、ナイスアシストをありがとう!

ダリアの話では、そう長い時間伸びていたわけでもなかったようです。

ステラリアに濡れたタオルを交換されたり、緊急招集されてきた侍女さんに扇がれたりと甲斐甲斐しく世話をされているうちに火照りもおさまってきました。

「これをお飲みくださいませ」

そう言ってステラリアが手渡してくれたのは、白く濁った冷たい飲み物のようです。旦那様に抱き起されてクッションに背をもたせ掛けて座り、それを受け取ります。ハーブ水か何かしらと思って見ていると、

「カルタム特製の水分補給薬ですのよ。レモンと糖蜜と、ちょっとのお塩でできてます。熱でのどが渇いた時など、これを飲むととっても楽になりますの。叩き起こして特別に作ってもらってきましたわ!」

ステラリアがとってもキュートな笑顔で説明してくれました。あ、叩き起こしたんですね。ごめん、カルタム。

とりあえず一口含むと、スッと体に吸い込まれていく気がします。乾いた砂に水が染み込むような感じでしょうか。

「あ、美味しい」

すっぱくてほんのり甘くてしょっぱいというなんとも不思議な味ですがのど越しもよく、残りを一息であおってしまいました。ぷはっ! 満足です!!

カルタムさん 家(ち) の愛をおすそ分けしてもらった気分です。

「もう大丈夫でしょう」

という侍医様の診断に、旦那様以下みなさんがほっとしたのが感じられました。うう、メンボクナイ。

そしてワタシ的にも特に異常は感じられませんでしたので、

「こんな時間までお騒がせしちゃってすみませんでした。みなさんもう下がっていいですよ」

そう解散宣言をしたのですが、

「今は大丈夫かもしれないが夜中に突然具合が悪くなったりしては大変だから、今夜は誰かを側に控えさせておこう。僕も側についているが」

旦那様はそうおっしゃると、ダリアを見て、

「侍女を二人ほど。ダリアは今日は休め。服が濡れたままでは、お前まで体調を崩してしまうぞ。お前がいないと困るのはヴィオラだからな」

そう指示しています。

今まで気付きませんでしたが、言われてみると確かにダリアのお仕着せ、主に袖ですが、濡れているようで色が変わっています。むむ、これはきっと私のせいですね。

旦那様のおっしゃる通り、ダリアが倒れたら困るのは私です。良心の呵責もありますし、ここは早く休んでもらわないといけません! ――しかしいやにサラッと同室宣言しましたね、旦那様。あまりにナチュラルすぎて反論できませんでしたよ。ああでもここで私がゴネると、 使用人さん(みなさん) の休む時間がさらに遅くなってしまいます。これ以上みなさんに迷惑がかかってしまうのを防ぐには、私が素直に旦那様の意見を聞くのが一番ですよね。ええ、みなさんのためですもの。……ミモザがいないから、シャケクマ用意できないなぁ。

一瞬遠い目になりましたが、慌てて旦那様の意見に賛同を示すように『うんうん』と首を縦に振れば、

「では、ダリアと、今日来たばかりですからステラリアは下がらせましょう。側付きはこの二人に任せるのでいいでしょう」

そう言ってロータスは後ろに控えている侍女さんを振り返りました。先程からこまごまと働いてくれている二人は、いつもの愉快なエステ隊員のメンバーです。

そして二人は、私だけに見えるように、ニッと笑ってぐっと親指を立てています。うん、なんかいろいろ大丈夫な気がしてきました!

ロータスたちが下がって、部屋に落ち着きが戻ってきました。

仕方なく(・・・・) ベッドの半分を旦那様に明け渡します。

もぞもぞと 端っこ(じんち) に寄りますが、旦那様陣地を多めに譲るのは、お疲れのところ騒がせて申し訳ないという気持ちの表れと思ってください。

「お騒がせして申し訳ありませんでした。落ち着かないとは思いますが、もうお休みくださいませ」

旦那様陣地のお布団をめくって、お休みくださいとお願いするのですが、

「寝ている間に気分が悪くなってもいけないから、僕は起きて看病させていただきますよ」

旦那様はそう言ってベッドに腰掛けたまま、一向に寝ようとしてくれません。う~ん、困りましたね。これじゃあ寝るに寝れないんですが。

どうしたものかと思案していると、

「ほらほら、奥様! もう寝ちゃってくださいませ!」

「頭のタオルが温くなってますわ~! 取り換えちゃいましょうね!」

「はーい」

ささーっと寄ってきた侍女さんたちのお世話が始まってしまい、私はあれよあれよという間に寝かしつけられてしまいました。

その上、

「旦那様はお疲れでしょうから、お休みなられてくださいませ。私たちがしっかりと寝ずの番をさせていただきますからご安心ください!」

「朝までしっかりと!」

「……」

二カーッと笑う侍女さんs。

うん、やっぱり大丈夫な気がします!

そのあっぱれな笑顔に、私は安心して眠りにつきました。

え? 旦那様? 無言でお布団に入ってましたよ?