軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本音

ちょーっと待ちましょう、旦那様。アナタ今、彼女さんと別れるって言いましたか?

しかも何だか私のせいになってるし? なのに話から置いてけぼり喰ってるし? なんですかね、この状況はっ!

「あの~、ちょっとよろしいでしょうか?」

発言した私に、この場にいるすべての人からの視線が瞬時に飛んできました。

見つめ合う(にらみ合う?)旦那様とカレンデュラ様の間を割って入るのは大変申し訳ないのですが、ここは勇気を出して私なりにいろいろ確認を取らないといけないと思いましたので。

「なんでしょう?」

旦那様が先に視線を外し、私の方を見ました。旦那様に遅れて、カレンデュラ様も私の方を向きました。

「盛り上がっておられるところ大変申し訳ないのですが、確認したいことがございまして」

「確認、ですか?」

「はい」

私は匿われていたダリアの後ろから、旦那様をまっすぐ見れるところまで出ました。相変わらずカレンデュラ様と私の間にはロータスがいますが。

「彼女さんとお別れするとおっしゃいましたが、それでは私との契約はどうなるんでしょうか?」

「は?」

「え?」

旦那様とカレンデュラ様が同時に目を丸くされました。

「だって、彼女さんありきのお飾り妻でございましょう? 彼女さんがいなくなってしまえばなんといいますか、根本から覆ってしまいますよね?」

そんなに驚くことではないと思うのですが? おかしなことを言いましたでしょうか。小首を傾げて考えますが、思い当たりません。

「まあ、そうですが……」

「ですから、私の立場は非常に微妙になるわけですよ」

「なぜです?」

「だって旦那様は彼女さんとお別れしたならばもはやどなたとでもお付き合いできますでしょう? 旦那様の言をお借りすれば、彼女さんの出自がアレなので結婚できなかっただけで、それ相応の身分の方でしたら何の支障もございませんもの」

「確かに、おっしゃるとおりですね」

「そうなるとお飾りの私は不必要になります。むしろお邪魔というか」

「しかし私が言ったのはカレンと別れるということであって、ヴィオラとの婚姻を解消するということではありませんよ! むしろヴィオラがいいと思ったからこそ別れたいと思ったんです!」

焦った旦那様はその長いコンパスでつかつかと私のところにやってきました。近くに来ると私よりも高い位置に顔が来るので見上げないといけないのでつらいのですが。しかし私はきっぱりとその濃茶の瞳を見据えたまま、

「そんなことを急に言われてもですねぇ、旦那様のことをそんな風に見たことも思ったこともないですから困るんですよ」

とうとう本音を言ってしまいました。

「やはり、ですか」

私の本音を聞いて明らかにがっくりと肩を落とす旦那様。綺麗な眉も今は情けなく八の字を描いています。

「だって、旦那様は最愛の彼女さんがいるって最初におっしゃったじゃないですか」

まさかその対象が私にシフトしてるなんて誰が思うのでしょう!

「あの時はそうだったのです! しかし会えば会うほど、話せば話すほどにヴィオラに魅かれていく自分がいたのです!」

顔を赤くして、怒ったように言い放った旦那様。

「百歩譲ってそうだとしてもですね、別棟とこちらを往復なさってまるで二股じゃないですか」

「……」

さすがにばつが悪いのでしょう、視線を逸らしましたね。

「愛人さんを囲うお金持ちさんはたくさんいらっしゃいますからそれ自体罪ではありませんけどね。旦那様は私に契約を持ちかけるほどに彼女さんのことを大事にされていると思ってましたのに、残念です」

視線はそらされましたが、私はなおも旦那様の顔をガン見しながら言いました。息継ぎなしで言い切りましたよ! ふっ、すっきりしました。

「ヴィオラ……」

旦那様が反論しようとしたのか、その視線をまた私に戻し口を開いた時。

「あははははは!!!」

ものすごく快活な笑い声が唐突にエントランスに響きました。

いきなりのことにみんなギョッとしてその笑い声の方に視線が集中します。そこには今まで私と旦那様のやり取りを黙って聞いていたカレンデュラ様。

扇で口元は隠していますが、さもおかしげにおなかを抱えて大笑いしているのです。まさに爆笑とはこのこと。

「カ、カレン?!」

旦那様が驚き、目を瞬かせています。

「どうなさったのかしら?」

「さあ?」

私もダリアと視線を合わせてアイコンタクトです。向こうでミモザもぽかんとしていますが、ロータスだけは冷静にいつもどおり(いやむしろ冷酷執事モード)に佇んでいます。

そんな周りの空気などお構いなしに涙を流して笑うカレンデュラ様。

「あ~、おかしい! サーシス、あなたの想いなんてこれっぽっちも奥様に伝わってないじゃない!!」

まさかの発狂?! と思いきや、カレンデュラ様はどうやら私と旦那様の温度差に笑いが込み上げてきた模様でした。よかった。

笑いすぎて滲み出た涙を綺麗な指で拭いながら、

「何この温度差! あーおかしい笑えちゃう。ごめん、サーシス。私ヘタレは嫌いよ。いつの間にこんなヘタレになったのかしら?」

「はあ?!」

カレンデュラ様の豹変にまた旦那様はギョッとされています。そしていきなりのヘタレ認定ですからね、ショックで綺麗な顔が硬直しています。そんなことを今まで言われたことなどないでしょうから、かなりのダメージだと推測されます。ご愁傷様です。

「ヘタレなあなたなんて、こっちから願い下げだわ。私があなたに捨てられるですって? チャンチャラ可笑しいわ。こんな女々しい男、奥様、熨斗を付けてさしあげますわ!」

そう言って私の方を見るカレンデュラ様。

「いえいえいえいえ!」

身体の前でぶんぶん手を交差させながら『否』を表現したら、

「あははは! 奥様も要らないって! どうする? サーシス。ま、せいぜい奥様に捨てられないように苦労なさいな! でもこんな綺麗で面白くてしっかり者の奥様、あなたにはもったいないわね」

また可笑しそうに身をよじり、お腹を押さえています。爆笑は止まりません。

「カレン!」

「ま、とにかくサーシスには愛情も何もこんなヘタレな姿を見せられたらさっぱりなくなっちゃったわ! こんなところさっさと出て行ってあげる。あ、ドレスや宝飾品は手切れ金代わりにいただいていくわね。じゃ、奥様、後はよろしくお願いするわね!」

え? え? うそ、丸投げ?!

「え? 彼女さんは……」

「これまで通り、踊り子としてやっていけるから大丈夫よ。心配する必要なんてないわ。女は度胸だもの」

ニヤリ、と笑うそれは黒い笑顔。うん、大丈夫そうです。

そしてカレンデュラ様は優雅にドレスの裾をふわりと膨らませ踵を返すと、迷いのない足取りでミモザが開けて待つドアの向こうに颯爽と消えてゆきました。ああ、まさに風と共に去りぬ!

……残された旦那様。

まさにボーゼンです。私にボコにされ、彼女さんにもボコにされ。もはや立つ瀬なし。ショックのどん底にいらっしゃるようです。

ショックのあまり顔色も、青を通り越して白になっています。プチ廃人化しています。