軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだ一緒

「今日はお疲れ様でした。ああ、ロータス。今日はもう遅いからこちらで休んでいく。部屋を用意させてくれ」

うん、コノヒト今なんつった? ……久しぶりに動揺が激しいです。ロータスも、ダリアミモザも秘かに固まっています。久しぶりの激震がきました。

「……かしこまりました」

またロータスがいち早く復旧してきました。

そしてエントランスの周囲では、最近お約束の『旦那様シフト、緊急配備~!! 出あえ出あえ~!!』という声なき声が響くのを感じました。今日はいつもとパターンが違うけど大丈夫でしょうか?

「貴女はもうお休みになられますか?」

旦那様はロータスから私に視線を移すとそう聞いてきました。濃茶の瞳とぶつかって……っと、白昼夢から目が覚めました。

「え、ええ。今日はもう疲れましたので」

もう解放してくれ……っと、こほん。いえ、まあ、オプションイベントは終了したはずですから。

次に何を言い出すのか測りかねて小首を傾げれば、

「そうですか。お茶でもと思ったものですから。では、それはまたの機会に。おやすみなさい。私の分のお茶を部屋に用意してくれ」

私に向かって柔らかく微笑んだ後、ロータスにお茶の用意を言いつける旦那様でした。

「旦那様シフトは大丈夫かしら?」

旦那様の注意が私から逸れている間にダリアにこそっと耳打ちします。

「おそらく。先程何名かがお二階に上がっていくのを目の端に捉えましたので」

ダリアも声を潜めて返事をしてきます。

「いつも通りエントランスの様子を伺ってくれていたのね。よかったわ」

さすがは優秀な使用人さんたちです。いい仕事してます。

「はい」

二人顔を寄せ合いコソコソと話をしていたのですが、

「どうかしましたか?」

気が付けば旦那様が怪訝な顔でこちらを見ていました。

「あ、え、いえ、なんでもございませんわ!」

おほほほほ~、と無理矢理笑みを作りました!

「そうですか。ではおやすみなさい」

「おやすみなさいませ」

もうすっかりくたくたなので、遠慮なくお言葉に甘えさせていただきます。ダリアミモザと共に私室に下がることにしました。

「あ~びっくりしたわ。予想外なことをおっしゃるからまた固まっちゃったわ~」

完全武装……ではなく盛装をほどき、湯あみも終え、すっきりさっぱり夜着に着替えた私は、クッション性能素晴らしいベッドにぼふんとダイブしました。お行儀の悪いことは百も承知ですが、もはやダリアミモザも注意しません。諦めって肝心ですよね! このお部屋のソファといいベッドといい、とっても気持ちがいいので、ついゴロゴロダラダラしてしまいがちです。いや、のたうちまわっている方が多いか。って、話が逸れてますね。

「本当に。私もまた一瞬真っ白になりましてございます」

「私もです~」

ダリアもミモザも苦笑しています。

「最近の旦那さまの行動、全然わかりませんよね~」

ベッドでゴロゴロしながらダリアミモザに問いかければ、

「まあ、突拍子もないというか……」

「まさかというのが続いていますねぇ」

同じように旦那様の真意を測りかねた答えが返ってきました。

「彼女さんとケンカが泥沼化でもしているのかしら?」

「これまではこんなことございませんでしたけれど……」

「こちらも別棟にはノータッチでしたしね」

「こんなに旦那様が頻繁にこちらにいらっしゃるのなら、さらにややこしいことになりそうなものなのにね」

「そうですよね~」

「でも、旦那様にも何かお考えがあるのかもしれませんし、ここは少し様子を見ないといけませんね」

「そうね。ダリアの言うとおりだわ。……ふあ~。今日は疲れましたよ~。明日起きれるかしら? うあ、待って、旦那様と朝食は一緒なのかしら?」

こちらにお泊りになられるということは、こちらで朝食も摂られるということですよね。

「おそらくは。奥様はどうされますか?」

ダリアが肯きます。

「やっぱり一緒じゃなきゃまずいわよね?」

寝過ごしたとか、ありでしょうか?

「まあご一緒でなくても大丈夫でしょうけれど……」

苦笑いするダリア。

「……はい、うん。ご一緒します……。うえーん、私のまかない~~~!! ただでさえ最近夜の賄にありつけてなくてやさぐれてるのに~! ダリア~、カルタムに伝えといてくれない? お昼の賄を楽しみにしてるからって!」

『今日の賄はどこの地方かしら~♪』と思いを馳せるのが私の楽しみですのに! それにみんなとの楽しい賄団欒の時が減るのを私は心底惜しむのです!

「はい、もちろんでございますわ」

「今日はもう遅いわ。また明日ね」

いつもの就寝時間はとっくに過ぎています。ダリアミモザ、使用人のみなさんには超過勤務で申し訳ないです。

「「お休みなさいませ、奥様」」

「おやすみなさい」

二人は一礼すると部屋を出て行きました。

明日は朝から良妻スタイルにお着替えしないとダメですね。いつもの癖でお仕着せを着ないように気を付けましょう!

でも彼女さんは本当にいいのでしょうか? どういう状況なのか私の知ったこっちゃないことですが、こちらに飛び火は勘弁願いたいところです。

しかし今日は疲れました。社交というのは体力・精神力どちらも削り取られるモノなのですね。今日の夜会はReデビューといった感じでしたか。数少ない社交経験で『The☆蚊帳の外』な私は基本は壁の花、ダンスすることも会話することもほとんどなかったので、人間観察パラダイスでした。しかし立場代わり中心に近い人物になるとこんなにも疲れるものだったなんて! ふう、お疲れ~……すぴー。

夢見ることも一切拒否の爆睡で、気が付けば爽やかな朝。よく目が覚めたなぁと自分でも感心します。

まだダリアミモザが起こしに来ないので、そのまま布団をひっかぶって惰眠を貪っていると、しばらくして軽快なノックの音と共に二人が現れました。

「「おはようございます、奥様」」

「おはよう」

ダリアが私の肩にストールをかけてくれる間に、ミモザは嬉々として衣裳部屋に消えていきました。今日はお仕着せじゃないからワキワキしているのが手に取るようです。

「旦那様は?」

とりあえず最初に確認しておかねばいけないでしょう。そう思いダリアに確認すると、

「はい、こちらで朝食を召し上がってから出仕なさるそうでございます」

慌てず騒がず落ち着いて返事が返ってくるところを見ると、すでに旦那様シフトはしかれているのでしょう。

そうですか。うん、全然『早番とかでもう行っちゃったよ~』とか期待してませんよ?

「わかりました。支度したらダイニングに行きましょう」

ドレッサーの前に用意された椅子に腰かけながら、私は鏡越しのダリアに返事をしました。

私が支度を終えてダイニングに行き、テーブルについたところで旦那様が入ってきました

「おはようございます」

「おはようございます」

旦那様はすでに騎士様の制服を着ておられます。いつの間に着替えをこちらに用意していたんでしょうか。ぱりっとしたその制服は、旦那様のカッコよさを際立たせる効果があるようです。普段夜しか見ないので、朝の明るい陽のもとで見るとまた違って見えます。

「どうかされましたか?」

いつの間にか着席した旦那様がこちらをうかがっています。あぶないあぶない。じろじろ観察しすぎましたよ! これじゃあ怪しい子です。旦那様のように上から下まで眺めても不躾に見えないような視線のスキルをマスターしないといけませんね!

「いいえ。何でもございませんわ」

にこっ。とりあえず笑って誤魔化せ~。私の持ってるスキルなんてこんなもんです。

旦那様の着席と同時に次々と運ばれてくる朝食たち。

そう『たち』。

旦那様の朝食は相変わらずバイキングのようでした!