作品タイトル不明
準備開始
厨房での作戦会議で色々と案が出て、かなり試食会のイメージが固まってきました。
「あとはサーシス様の了解を得るだけなんだけど……どうやって説明しようかしら」
厨房で作る料理だけなら問題ないんだけど、今回は初の試み、ライブキッチンだからなぁ。当日は大広間に設置するとして、その前に、旦那様にはどうやって見せたらいいのか。
「とりあえず試食会の試食は厨房でするのはいかがでしょう。調理設備が間に合うかどうかわからいので」
「しかし、厨房に出向いてくださるかどうか——」
カルタムとロータスが考え込んでいます。
「それは大丈夫よ! 私が引っ張っていきますから」
「ぷっ! 引っ張ってって……マダ〜ム」
「いいですね、奥様にお任せしましょう」
「任せといて! でも、旦那様が厨房……ぶふふっ。似合わなさすぎて笑えますね」
「そもそも旦那様のようなお方が出入りするところではございませんから」
「そうね」
「奥様もですが?」
「あらやだ」
もはや私のリビングとさえ思ってるのに。やあねぇ。……と、リビングという言葉でいいこと思いつきました。旦那様がいてもおかしくないところ、あるじゃないですか。
「まって! もっといいところがあるじゃない」
「どこでございますか?」
「別棟よ!」
「なるほど、別棟でございますか」
「そうよ。あそこならキッチンがあるから、調理しているところを見てもらえるわ」
「いいですね、マダ〜ム!」
「ふふ〜ん」
別棟なら旦那様も難色示さずきてくれるでしょ。
材料を取り揃え、旦那様の休みの日を狙って〝試食会の試食〟をプレゼンテーションすることになりました。
『今日は別棟でお昼を食べますよ〜』と、旦那様をお誘いしました。バイオレットを抱っこした旦那様が私の後ろを付いてきます。
「別棟でお昼ご飯って、なんか久しぶりだね」
「そうですね! しかも今日は特別なんですよ」
「特別?」
「はい! なんと今日は『試食会の試食』でーす!」
「それは楽しみだ。ね〜レティ」
「はい!」
「ふふふ……サーシス様もレティも、びっくりしますよ〜」
今日のメニューは試食会当日と同じ、目の前で大きな魚の解体ショーからの、薄切りにしてお造り、湯通し、そして少し厚めに切って鉄板焼きと、調理の流れも楽しんでもらう予定です。もちろん生魚は旦那様だけで、私はしっかり火を通したのになってます。まだ禁止は続いています。ちなみに、バイオレットはルクール生活でお魚の美味しさを知ってしまっているので、旦那様と同じものを食べやすくしたものです。ちょっと羨ましい。
キッチンが見えるように着席したら、いざ調理開始です。
カルタムに続いてティンクトリウスが、大きなトレーに乗った物体を運んできました。いや、魚なのは分かってるけど、白い布を被せてるので今は〝物体〟。机に置き、白い布を取れば、氷の上に乗ったご立派な魚が現れました。今日のは大ぶりで赤みがかった体色の魚です。これルクールで何度も食べたけど、白身がぷりぷりしてて美味しいんですよね〜。解禁されたら絶対生で食べてやるんだと決意してる、お気に入りのやつでもあります。
「魚をそのままここに持ってきてどうするんだ?」
まだ何も説明されていない旦那様が怪訝な顔をしています。お昼と聞いてきたのにただの魚が出てきたら、そりゃ驚きますわ。
「これをですね、今からここで調理していくんですよ」
「これを? ここで?」
「はい! じゃあカルタム、よろしく」
旦那様は半信半疑という感じでしたが、まあ、見てたら解決しますから。私はカルタムに目配せしました。
「ウィ、マダ〜ム。今日もいいのが入りましたよ〜。では、調理させていただきます」
ここからは時間との戦い。そう言うとカルタムは細長い包丁を使ってテキパキと捌いていきました。手際よく骨から身が外されていきます。頭とか骨とか食べない部分は、ティンクトリウスが鍋に放り込んで出汁にしています。これは後で湯通しに使うんですよ。絶対美味しいやつ確定。
身を薄く切ったら皿に盛りつけ、ソースを垂らしたらあっという間に一品完成です。
「まずは薄く切った、お造りでございます」
透き通るような身が美味しそうったらありゃしない! すご〜〜〜く食べたいっ——でも私は鉄板焼きまで我慢です。
お造りを皮切りに、鉄板焼き、湯通しと、次々に料理が披露されていきました。
鉄板焼きでは 炎の演出(フランベ) に、旦那様もバイオレットも歓声をあげていました。そうそう、いいリアクションありがとうございます。
「これは新しいし、楽しいね。きっと試食会も盛り上がるだろう」
目の前で展開される『料理ショー』に、旦那様も興奮気味です。
「ライブキッチンだけでは品数が少なくなってしまうので、他にも作り置きのメニューも考えるつもりなんですよ」
「それは盛りだくさんだ。はははっ! 食べ切れるかなぁ」
「お持ち帰りでもしてもらいましょうか」
「いや、ナマモノはちょっと……」
「デスヨネー」
残念です。
「とにかく、料理はこれでいいと思うよ。でもライブキッチンなんて、どうやってやるか、だよね」
「大広間に簡易的なキッチンを、ベリスに作ってもらう予定です」
キッチンといっても、ちょっとした調理台とかまどを作るだけなんですけどね。それを旦那様に説明しました。
「——ふむ、分かったよ。じゃあ、この後もヴィーに任せていいかな?」
「もっちろんです!」
「こっちの方も、招待客が絞れてきたし。招待状を手配するよ」
「お願いしま〜す」
「しかし——」
「しかし?」
「僕のいない間にこんな楽しい会議してたなんて妬けるなぁ」
「あら。サーシス様も参加されます? 会議室は厨房ですけど」
「う〜ん、ちょっと興味はある」
あら、意外とすんなり厨房に来てくれそうですよ。
旦那様の許可も出ましたので、いよいよ大広間にキッチンの設置に着手します。
「火を使うから燃えやすいものの近くはダメ」
「床を傷つけないように」
「簡単に現状復帰できるように」
などなど、制約も踏まえつつ、どんなキッチンにするか、ベリス主体で検討です。みんなで大広間を動き回り、あーだこーだと意見を述べ、結局、燃えやすいカーテンを避け、食材の持ち込みがしやすいところということで、窓とは反対の廊下側、そして扉の横あたりにキッチンを作ることになりました。
「大きさはこれくらい欲しいかな」
「んー……高さはどれくらい欲しい?」
「これくらいかな〜」
「わかった」
カルタムが大体の寸法を示すのを、ベリスが黙々とメモしています。たまに手を止めるのは、どんな材料を使おうかと考えてるのかな。
キッチンの詳細はカルタムとベリスに任せて、その間に私とロータスは他の配置を考えます。
「ライブキッチンがここなら、お客様の席はこんな感じかな?」
「ビュッフェゾーンの近くがよろしゅうございますね」
こちらもざっくりとメモをしながら考えていきます。あくまでも立食形式なので椅子は置きませんよ。でも、疲れた方のためには準備しております。安心安全! もちろん私のようにすみっこ……もとい、端をお好みの方もいらっしゃると思いますので、壁際から中央まで、配置はいろいろ取り揃えております。
ざっくりと決まったところで、ついでの作り置きのメニューなんかも考えちゃいました。
「白身魚のタルタルって、美味しいよね」
「カナッペもどうでしょう」
「温かいスープも用意しましょう」
今日もアイデアは尽きません。
解体ショーあり、ライブキッチンあり、派手なフランベもあり。こんなお食事会は前代未聞でしょうから、ちゃんと成功するか今からドキドキです!