軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還ですよ!

体調も落ち着いてきたことだし、王都でやることもできたし、何より『公爵夫人重病説』を吹っ飛ばさないといけないので、私の王都帰還準備は早急に進められました。

そうと決まれば行動が早い旦那様。

大急ぎで王都に戻ったかと思うと、今回は二日とたたずに馬車団を引き連れて戻ってきました。

「帰る準備はできてる?」

「まだですよ」

「ええ……二日もあったのに?」

「いやいや、お迎えまで、もっと時間あると思っていました」

「そんな悠長な。ダリア! 急いで帰る準備をしてくれ」

「かしこまりました」

私たちを真っ先に帰したい旦那様は、すぐに侍女さんたちに帰り支度を指示しています。来る時は先遣隊がいましたが、今回彼らは後回しなようです。後からこの話を聞いたティンクトリウスが『天使と離れ離れ……!!』と嘆いてました。すぐ会えるのにね。

往路と同じくゆっくりとしたペースで馬車は進み、いよいよロージアが見えてきました。

「久しぶりのロージア……! ただいま!!」

「たった数ヶ月なのにね」

「ほんとですよ」

「僕には永遠のようだったけど」

ロージアに入り、公爵家の一部が見えてくると、帰ってきたんだという実感が湧いてきました。旦那様が言うように、王都を離れてたのはたった数ヶ月なんだけど、『 お屋敷(いえ) に帰ってきた』という感慨が湧いてきます。まさか実家ではない、ご立派なお屋敷に対して、こんな気持ちになる日が来るなんて思いもしなかったわ。馴染みましたねぇ……しみじみ。

エントランスでは、使用人さんたちが総出でお出迎えしてくれてました。いつもの光景と言われたらそうなんだけど、今日は涙出そう。

「ただいま帰りました〜!」

みんなが笑顔で迎えてくれるのが素直に嬉しいです。

その晩は、さっそくルクールのお魚を使った料理が出てきました。『あちらで食べ飽きているとは思いますが、違いをお試しください』ってね。

「カルタムのごはん、久しぶり〜! ……でもやっぱり生のお魚は出してくれないのね」

「今少しの我慢でございますよ」

「はあい」

ロータスにも諭されてしまいました。

仕方ない、すっぱり気持ちは切り替えていくよっ! カルタムの料理を楽しむよっ! カルタムはどんな感じに調理してくれるかな〜と、ワクワクしてきました。

カルタムとティンクトリウスの違いも感じてやるぞと意気込んでたんだけど、出てきたのはルクールでもよく食べていたマリネソテー。焼き魚(塩味)。あれぇ?

「ほぼメニューに変わりないんだけど?」

出てきたお料理は、ルクールで食べていたものと同じものです。

「〝違いをお試しください〟と申しましたでしょう。同じメニューだからこそ、違いが明確にわかるかと」

私が首を傾げていると、ロータスが説明してくれました。

「なるほど」

「こちら、ティンクトリウスが作ったものでございます」

「まさかの作者も一緒」

これなら味の違いがよ〜くわかりますね。

結果的に言うと、ほぼ違いはありませんでした。遠路はるばる運ばれてきたっていうのにですよ。驚きです。

「すごい……! 美味しい!」

ルクールとは違った感動です。まさか王都で、変わらぬ鮮度で食べられるなんてっ!

「サーシス様! すごいです!! 毎日食べていた味と変わりません!!」

「でしょう。ヴィーに、王都でも同じように食べてもらいたい一心で頑張りましたよ。そんなに喜んでもらえたら、悪夢を見るまで頑張った甲斐があったというもんです」

ちょっと遠い目になる旦那様。そーいやそんなことも言ってたね。

「王都でもルクールのお魚が食べられることはわかりました」

「うん」

「でも」

「でも?」

「そろそろお肉も食べたいですっ!!」

もう帰ってきたんだから、いろんな食材食べましょうよ。

「ふふふ。旦那様も同じことをおっしゃっておりました」

「あらやだ」

見ると旦那様が深く頷いていました。

「ロータス」

「かしこまりました」

旦那様がロータスに合図すると、今度は〝いつも通り〟の食事が運ばれてきました。色とりどりの野菜のサラダ、スープ、肉料理!! お……お肉ぅぅぅ!

「今度こそカルタムの料理ですよ」

「いただきます!!」

ティンクトリウスは斬新な予想外の調理が得意というのが持ち味だけど、やっぱりカルタムの安定した味にはまだまだ敵わないかな。

「これこれ、この味! あ〜、お屋敷に帰ってきたなぁって気がします」

やっぱりお屋敷に帰ってきて、行きたいところと言えば厨房でしょう。カルタムたちが昼食の準備をしている横で、私はちょっとつまみ食い……もとい、味見中です。少し野菜をとりわせたお皿に、ドレッシングもかけてくれて用意してくれるところ、さすが、わかってますね! カルタム特製のドレッシングは秘密のレシピらしく、カルタムにしか作れないんですよね。これがお野菜に合って、めちゃくちゃ美味しいんです。

「う〜ん……リモネンは入ってるとして、塩でしょ、コショウでしょ、他にスパイスが……うう……私に神の舌があれば……っ!」

「なかなか難しいですねぇ、マダ〜ム。まあ、材料はお教えしてもいいですけど、肝心なのは配合なんでね」

「え〜ん、カルタムが意地悪するぅ〜」

「ははははは!」

いつかレシピを盗んでやるんだっ!

「こういうのって、ティンクトリウスには伝えるの? 一子相伝の味! みたいな感じで」

「いやぁ? 教えることもありますが、まあ、自分の味を出すことも大事ですからねぇ」

「なるほど」

引き継ぐ味と、新しく創作していく味ね。ふむふむ、私も盗むより創作する方に努力しようかな。

「ルクールで、ティンはちゃんとやってましたか? お嬢様たちと遊んでばかりじゃなかったですか?」

「いっぱい遊んでくれたけど、お仕事もちゃんとやってくれましたよ! お料理、美味しかったです」

毎日たっぷりバイオレットたちと遊んで、なおかつ料理も完璧で。どこにそんな体力隠してるのって思うくらいに、毎日全力で過ごしてましたよ。そう伝えると、カルタムは微苦笑していました。

「マダ〜ムたちのお口に合いましたか」

「合いすぎましたよ! なんていうか、斬新だったし」

「斬新?」

「はい! 目の前で一人分ずつのしゃぶしゃぶをしたり、ライブキッチンでお菓子を作ったり」

「えええ!? ライブキッチン? なんですかそれ」

「目の前で仕上げをしていくの。デコレーションとか、フルーツカットとか」

お客様たちが来た時のことを詳しく話しました。

「すご〜い!」

「見たかったです!!」

お菓子のライブキッチンに食いつきが良かったのは主に侍女さんたちです。

「バーベナ様のお土産のペアが、とっても甘くて美味しかったですよ」

「アルゲンテア家ご領地は、ペアが有名ですからね」

さすがカルタム、よくご存知で。

「そうなの」

「ライブキッチンのアイデアは、ティンが考えたんですか?」

「そうみたいよ」

「あのティンがねぇ……」

カルタムは厨房の窓から外を見ています。視線の先には、厨房裏でバイオレットやデイジーと遊ぶティンクトリウスの姿が。楽しそうに笑う声が厨房の中にも響いています。

「あのティンが、です」

想像しにくいですよね。まあ、ギャップということで。

「新しいお料理も、普通のお料理も、とにかく美味しかったですよ。カルタムとはまた違った良さです」

「う〜ん。それは嬉しいやら妬ましいやらですねぇ」

なんて口では言ってるけど、ニコニコしてるから嬉しいんでしょうね! 妬ましいっていうのも、いい意味なんでしょ。

「ああ、そうだ。まだ企画の段階ではあるんだけどね、ルクールのお魚の試食会をしようかって話をしてるの」

「試食会ですか」

「そう。ただ単に『新鮮で美味しいお魚ですよ!』って売り出すより、実際に食べてもらって良さをアピールする方が説得力があるかなっていうことでね」

「それは面白い」

カルタムも乗り気になってくれました。

カルタムとティンクトリウス、この二人がタッグを組めば、想像以上に素晴らしい料理を作ってくれると思います。ルクールのお魚プロモーション、勝ったも同然でしょう。