作品タイトル不明
別荘へご招待
「ご 無 沙 汰 し て お り ま す が 、 お 変 わ り ご ざ い ませ ん か ? ——っと。出だしはこんなもんかな?」
私は今、せっせとお手紙を認めておリます。
そう、お友達をこの別荘にご招待するのです!!
バイオレットと私に早く王都のお屋敷に帰ってきてほしい旦那様に急かされ——もとい、ルクールの素晴らしさをお友達にも教えてあげたい、という思いからですよ。お招きするのはもちろんいつメン、バーベナ様、アイリス様、サティ様、ピーアニー様、アマランス様。〝この〟私でも気楽にお会いできる人たちです。
「え〜と、まずはご無沙汰していることを謝らなくちゃね。でもって、私とレティは元気ですってことも伝えなきゃ。おっと、ルクールがとても綺麗な素晴らしいところだってことを忘れずにアピールっと」
なんだかんだ書きたいことがあって、筆がどんどん進みます。かつて旦那様に認めたお手紙とは大違いですね! あの時は便箋一枚埋めるのにめちゃくちゃ苦労して、行間開けまくりのスッカスカのお手紙だったなぁ……って、そんな回想は置いといて。
「——というような、こんな素晴らしいルクールに遊びに来ませんか? ……できた!」
こんな感じでいいかな? 書きたいことを一方的に書いただけのお手紙だけど、大丈夫かな。心配なのでダリアに添削お願いしようっと。
「書いてみたけど、どうかな?」
「拝見いたします」
受け取ったダリアがサッと目を通してくれました。
「——とても奥様らしくて、よいと思います」
「よかった〜! 合格もらったから、あとはこれを四通書けばいいだけね。オッケーオッケー」
サクサクっと書いてしまいましょう。
書き上がったお手紙は、さっそく王都へと配達されていきました。もちろん早馬で。
思っていた以上にお嬢様方の反応は早く、三日後には全員からのお返事が揃っていました。
「婚活組はともかく、アイリス様も来てくださるとは」
まあ想定内でしたけどね。『他でもないフィサリス家からのご招待だから』と、旦那様のセロシア様も快諾してくれたそうです。
人数が決まれば、受け入れ準備ですね。お客様歓迎シフト、入りま〜す!
「こちらの別荘にお客様は久しぶりでございますね。気合を入れておもてなしいたしましょう」
「お願いね、パパヴェル」
「お客様のお好みなどがわかればよろしいのですが——」
「それならダリアがよく知ってるわ。何度も王都のお屋敷に来ていただいてるから」
「はい。承知しております」
「では、ダリアと相談しながら進めましょう」
お部屋の支度や、食材・飲み物の準備は、この二人に任せておけば安心です。もちろん私も手伝うよ!
「僕も、新しいメニューを考えなくちゃ。ルクールの魚を初めて食べてもらうんでしょう? ここでしくじるわけにはいかないです!」
確かにティンクトリウスの言う通りだわ。『魚を食べてもらう』のが、ご招待の裏テーマですからね。密かに勝負どころ。ここはティンクトリウスに頑張ってもらいましょう!
「うんうん! おいちゃんならできる!」
「奥様までおいちゃんって呼ばないでくださいよ〜」
「ごめんごめん」
「「おいちゃん、がんばれ〜」」
「おいちゃん頑張る!!」
自分で言うんか〜い! 思わずつっこんでしまったわ。ティンクトリウスったら、バイオレットとデイジーの応援にデレデレなんだもん。
という感じで、にわかに別荘が活気付いてきました。
バタバタと準備に追われていると、あっという間にご招待の日がやってきました。
王都から ルクール(ここ) までは近くない距離です。旦那様の早さが異常なだけで、普通は二日くらいかけてくるものです。みなさんは途中にある、サイングイネア家の領地の町で一泊してくるということです。ルクールに着くのは晩餐前くらいになると、連絡が来ました。
「お客様お一人に一棟、滞在していただきます。お部屋割りはこういう感じでございます。お連れになるお付きの方だけでは不自由もございましょうから、こちらからも使用人を数名お付けします」
パパヴェルが、簡単な別荘の見取り図に『誰の部屋』『割り当てられた使用人の名前』を書き込んだものを見せながら説明してくれました。
「どの部屋からも眺めは最高だものね。景色でケンカは起きないでしょ」
実は私たちの寝室がいちばんの景色だってことは秘密です。
「お部屋の準備は完璧でございます。どの部屋も快適にお過ごしいただけるようになっておりますわ」
「私も準備は参加しましたからね、確認済みです!」
運動がてら家具調度をピッカピカに磨きましたけど何か?
「新しいメニューもいろいろ考えましたよ〜! 楽しみだなぁ〜」
「大丈夫? レティたちと遊んでばっかりに見えたけど……」
「大丈夫ですって〜!」
ニコニコするティンクトリウス。こう見えて(どう見えて!?)腕は確かだから、任せておきましょうか。
これでお迎えする準備は万端です。さあ、いつでもいらっしゃいませ〜!
お客様たちは陽が暮れた頃に到着しました。
「ご招待、ありがとうございます」
「どれだけお会いしたかったか〜〜〜!」
みなさん旅の疲れも見せず、笑顔で駆け寄ってきてくれました。
「みなさま、はるばるのお越し、ありがとうございます。ご無沙汰、お許しくださいませね」
私もうれしくて満面の笑みでお迎えしたんだけど、急にみなさん、動きを止めてしまいました。何かあった? と、首を傾げていると。
「あら? ヴィーちゃん?」
「少しふっくらされた?」
「いえ、違いますわね……あっ!」
「お腹……?」
視線が私のお腹あたりに。あ、忘れてた。私、お腹が目立ってきてるんでした。そもそもルクールにきた理由を『領地の関係で〜』と濁して、懐妊したことは内緒にしてたんだもんね。そりゃこの大きくなったお腹を見たら驚くわ。
「内緒にしててごめんなさい。実は懐妊中なんです」
「「「「「なんと〜!!!」」」」」
「でも不安定だったので、公表は控えさせていただいていたんです」
「そういうことだったんですね」
「ああ、びっくりしましたわ」
「それもあって、こちらで安静にしていたんです」
「いろいろ心配してましたけど……それなら仕方ないですわね」
なぜかみなさん一様に『ほっ』とした顔をされたけど、そんなにご心配かけてたのかしら。秘密にしてたこと、ちょっと反省。
「ただの激太りじゃないですよ!」
「見りゃわかりますわ」
今日のところは移動してきたばかりでお疲れでしょうということで、晩餐は軽食にして、早々にお部屋にご案内しました。自慢の魚介や別荘、ルクールの町の案内は、明日からのお楽しみです。
ルクールは朝の散策が気持ちいいので、朝食後すぐにお出かけしました。
「町並みが綺麗ですわね! まばゆい日差しに白が映えていますわ」
「うちの領地とは違った雰囲気ね」
「うちの領地は山と畑ばかり。緑だらけで飽きちゃう」
馬車の窓から見える町の景色が、王都や御領地とは違うので、それだけでもワクワクしているようです。
「あっ! あれはなんですの?」
アイリス様が人だかりを見つけて声を上げました。どれどれ? ああ——。
「市場ですわ」
「市場? 野菜や果物を売ってる……ようには見えないけど?」
いや、そもそも貴女たち、王都の市場も知らないでしょ。私は常連だったけどね! というのはおいといて。野菜や果物も少しは置いてるけど、ここはお魚専門に近い市場なんでね、王都の市場とは様子が違います。
「ここはお魚の市場なんです。そうそう、ルクールのお魚は最高に美味しいんですよ! 今日の晩餐を楽しみにしていてくださいね」
ルクールのお魚を食べて衝撃を受けちゃってくださいよ! ついでに王都で『あそこの魚美味しい』って宣伝してくれたらありがたいです。……って、旦那様みたいなこと思っちゃった。
「美味しいお魚? 王都でいただくよりも?」
「もちろんです」
「きゃあ〜〜〜! 楽しみだわあ」
王都よりも美味しい魚と聞いてテンション上がるお嬢様方でしたが、
「わたくし、あまり魚が好きではないんですけど……」
サティ様が顔を曇らせています。
「ご無理は言いません。でも一度、召し上がってくださいませ!」
「ヴィーちゃんがそう言うなら」
苦手な方がいることも、ティンクトリウスにはちゃんと伝えておかなくちゃね。彼のことだから、きっと食べやすく調理してくれるでしょう。
港には、外国からの船が着いたところでした。大きな船体がゆ〜っくりと港に入ってくる様子だけでも歓声が上がります。
「大きな船ね!」
「外国からの荷物を運んでくるそうです」
「そもそも私、海なんて初めて見るわ」
「わたくしも〜! 湖すら、うちの領地にありませんもの」
「船に乗って外国に行くのも楽しそうね」
水平線の向こうの国に、思いを馳せます。そうか、海はよその国に繋がってるんでしたね。途方もなさすぎて考えたことなかったけど。
「お部屋からもよく見えますから、ぜひご堪能くださいませね」
「昨日は暗くて分からなかったけど、お部屋に戻るのが楽しみになりましたわ」
「ほんとは他にも素敵なところがたくさんあるんですけど、今のこの身では御案内が難しくて……」
町並みや港も素敵なところだけど、ルクールの魅力はこんなもんじゃないんですよ。小さな船で漕ぎ出して青の洞窟とか、丘の上の別荘とか。今は旦那様に止められてるから行けないけど、絶対案内したいところなんです。
「気になさらなくてよろしくてよ。またご招待くださったらいいことですもの」
「バーベナ様ったら、ちゃっかり次の予約をされて!」
「あら〜? ではみなさんはお誘いしなくてよ?」
「「「「ずるいずるい!! もちろんきますとも!」」」」
なんて会話をしつつ、船の荷下ろしなどを見てから、別荘に戻りました。