軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

楽しみが増えました

だ〜れもこない静か〜な時間と、ロージアにいる時とはちょっと変わった食生活のおかげで、私の体調は日に日に回復していきました。苦手な匂いで気分が悪くなるとか、まだたま〜に眩暈がしたりするけど、全然許容範囲です。

元気になってくると疼き出すのが、私の〝じっとできない病〟。優雅に大人しくなんてできないタイプなので、そろそろ動きたくなってきました。かと言って使用人さんのお仕事を手伝うまではできないだろうし……。

「美味しいご飯を食べて、あとはダラダラ過ごすだけ……このままでは太ってしまう」

「まあ! 奥様は元気ですのね」

今の状況を嘆いていると、おばあちゃん 医師様(せんせい) に笑われてしまいました。これまでとは違う事情なので、今回の静養には特別にお願いしてついてきてもらってます。こまめに診てもらえるので安心です。

「では、軽く別荘内の散歩から始めてはいかがですか?」

「そうね、探索がまだだったわ」

「ええ。別荘内ならご体調が急変しても対応できますから」

「確かに!」

おばあちゃん医師様の言う通り、多少のことならこちらで対処が可能です。では、近くから運動始めましょうか。

ということで、散歩がてらパパヴェルに別荘内を案内してもらうことになりました。

崖の上に建っているこの別荘、入り口の門から別荘までは広い庭園になっていて、取り囲むようにお客様用コテージが建っています。王都だと建物の裏というか奥側が庭園という造りが多いので、この配置は新鮮ですね。この庭園で毎日、バイオレットとデイジーがティンクトリウスと走り回っています。鬼ごっこしたりかけっこしたり——って、お嬢様生活とは真逆のことやってます。いいのかしら? 元気が一番だからよし! かくれんぼだけは危ないので、別荘の中限定にしています。そういえば、かくれんぼの時の厳戒態勢はすごいですよ〜。外に通じる総ての出口を使用人さんがしっかりガードしていて、子供たちが建物の外に出ることを許しませんからね! 万が一外に出てしまっても、崖の淵ですっごく立派な柵が阻んでくれます。王都だと石造の塀が一般的ですが、ここでそれをやると景色が見えなくて台無しだからかな。大人の背丈よりも高い鉄製の柵は、景観(景色?)を損ねないように、優雅な細工が施されてるんですよ。蔦が這っているような意匠は、隙間から人が出入りできないようになってます。優雅だし、実用的だし、一石二鳥! おっと、話がそれちゃったわ。

各コテージも別荘同様、玄関側は庭園、裏に回ると海に面しています。

「すご〜い! ここからの景色も最高ね!」

まず初めに、大広間用のコテージに案内されました。ここも、海に面している壁が全面ガラス張りになっていました。

「以前はこちらでお客様とパーティをされたりしていたとお聞きしています。今の旦那様たちはあまり派手なことをお好みになられませんので、たまにごく親しい方たちをお招きしての集まりをされるくらいですね」

パパヴェルが、窓のカーテンを全開しながら教えてくれました。今の旦那様……は、お義父様のことね。そうそう、領地ではサーシス様が『若旦那様』で私は『若奥様』だったわ。脳内変換OK。お義父様たち、ピエドラとルクールと、上手く使っているようです。

「王都にはない景色だから、お客様も喜びそうね」

「はい。どの方も大変気に入ってくださいます」

「でしょうねでしょうね」

さっそく子供たち(とティンクトリウス)が走り回っても十分な広さがある大広間。ここでお茶会だと……ちょっと広すぎる? いや、むしろこの部屋にちょこっと道具や材料持ち込んで出張厨房を作って、出来立てのお菓子をお出しする感じにしたら楽しそうじゃない? もちろんお客様は、私の数少ないお友達のバーベナ様やアイリス様で。あら、ワクワクしてきちゃった。

「奥様も、お友達をご招待してはいかがですか?」

ミモザが私の脳内を読み取った!? ——んなわけないか。ワクワクが駄々漏れてただけですね。

「そうね! 私がルクールにきた理由を話せるくらいに体調が落ち着いたら、ご招待してみようかな」

「ぜひぜひ〜。海に面した領地はとても珍しいので、きっとみなさまお喜びになりますよ〜」

ミモザの言う通り、海に面した領地を所有してるのは 公爵家(うち) くらいじゃないかな。アルゲンテア家でも、持ってなかったはず。

楽しみがひとつ増えて、また元気になりました。

「やっっっとこれた!!」

旦那様が王都からやってきました。もちろん正規のお休みですよ! ……多分。

『十日働いて、三日休みをもらう』と聞いていましたが、今回はまさにその通り、追い出し……ではなく、お見送りしてから十日目のカムバックでした。旦那様のお仕事以外でそんな長い時間離れているの、今まで数えるほどしかなかったかも? あ、結婚当初はノーカウントでお願いします。結婚当初は、少々会わなかろうが、会ったとしても短時間だろうが全然平気だったけど、今や会わないと物足りないというか寂しいというか……まあ、感情に変化がありまくりですね。

「おと〜しゃま〜!」

「レティィィィィ!」

二人で感動の再会を果たしています。こっちもつい笑顔になるくらい微笑ましいです。バイオレットだけじゃないか。私もすごく嬉しいですよ〜。

「お疲れ様です」

「ほんとは仕事を終えてそのままこっちに来たかったんだけど、ロータスに止められた」

「まあそうでしょうね」

王都で仕事終わるのが夕方として、そこから休憩なしの全速力で馬を飛ばしても、夜中の移動は避けられません。真っ暗闇……お化けが出たらどうするんですか! ——違うか。山賊とか物騒な人たちが出るかもしれないしね。そりゃ、さすがのロータスでも止めるでしょ。

「朝早くに出たけど、もうお茶の時間か」

「え? そんな時間に出てこの時間に着けるんですか?」

「だって馬だからね。馬車とは速さが違う」

「あ、そうか」

馬車の速度と本気の馬の疾走では、倍くらいの差が出るからね——と、旦那様。そっか、だから馬車で丸一日の距離なのにこんな早くに着いたんですね。

とにかく、長距離を移動してきたことには変わりありません。しかも旦那様のことだから、ほぼ休憩なしでぶっ飛ばしてきたんでしょう。

「いちおう聞きますが、休憩されましたか?」

「馬の交換の時にちょっと休んだくらいかな? ま、そもそもそんなの要らないよ」

やっぱり。『休憩? ナニソレオイシイノ?』みたいな顔しないでください。

「とりあえず少し休みましょうか。じゃないとレティと鬼ごっこもできませんよ」

「僕は大丈夫だ。鍛え方が違う」

「子どもの体力は半端ないんですよ。しかもこっちにきて毎日外で遊んで、驚くほど体力ついてるんですから」

「むむ……僕の知らないところでレティが成長しいてるというのか。ではその成長をしっかりと確認しなくちゃいけないな!」

「そうですよ〜。ちょうどレティもお昼寝の時間なので、一緒に寝てください」

「了解。じゃ、寝かしつけはまかせて」

「お願いしま〜す」

「レティ、お父様と一緒にお昼寝しようか」

「はいっ!」

旦那様とバイオレット、二人で仲良くお昼寝してくれました。

旦那様がきた日の晩餐。さっそくティンクトリウスは勉強の成果(?)を見せつけてきました。

「うん、これは美味しい。やっぱり鮮度が変わると味も変わるね」

旦那様が前菜を食べて満足そうにしています。

「ほんとですよ。毎日食べても飽きません——あら?」

「どうかした?」

「サーシス様と私のお皿、同じじゃないなって」

「え、そう? ああ、本当だ」

旦那様が食べているのは、白身魚のマリネ。生の魚を調味液に漬け込んだ〝だけ〟のものです。一方の私はというと、一手間加えてマリネソテーになっています。なるほど、こういうことか。

「なぜ僕のとヴィーのは違う料理なんだ?」

私は『理由』を知ってるけど旦那様は知らないみたいで、ダリアに聞いています。

「ご懐妊中はナマモノを避けた方がよろしいので、敢えてメニューを変えてお出ししております」

ダリアは理由まで、きっちりと説明してくれました。

「——なるほど、そういうことなんだ」

「そうなんです。でも、いいなぁ……生のお魚……」

ソテーも美味しいけどっ! 生のお魚も食べてみたいんですっ!! ついポロッと本音が出てしまいました。

「これから先、一生ダメなんじゃないから。ね、今だけ我慢しよう?」

「——ハイ」

「そうだ。体調が良ければ明日、市場を見に行かない? 魚の市場は珍しいから、楽しいと思うよ」

「魚市場?!」

「そう。生きた魚も見れるんじゃないかな」

「えっ? えっ? そんなの行くしかないじゃないですか」

食べられないけど、見ることはできる! 楽しみがまたひとつ、増えました。