軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

事件は突然に

その日はたまたま二階の寝室にいて、バイオレットと一緒にお昼寝しちゃって、しかも寝過ごしちゃって……と、いつもといろいろ違いました。

「旦那様が帰ってこられましたよ」

と呼びに来てくれたステラリアの声で目覚めた私。

「ん〜……え? もうそんな時間?」

「はい。もうエントランスの外に到着されていますよ」

「完全に寝過ごした〜! 髪に寝癖ついてない? よだれの跡ついてない?」

「ついていませんよ」

ガバッと飛び起き、見苦しくないよう髪と服を整えると、私は旦那様をお迎えするべく、エントランスに向かいました。

「そんなに慌てると危のうございますよ」

「平気よ! 何度ここを駆け抜けたと思ってるの」

「それはそうですけど……」

心配するステラリアを軽くかわして階段を飛ぶように……とはいきませんでした。

寝起きだったからでしょうか、体が重いというか。

「あっ……!」

「奥様!!」

ゴッという鈍い音。ああ、頭、めっちゃ打った。

不覚にも、最後数段というところで足を滑らせてしまいました。慌てたステラリアの声が聞こえます。

絨毯引きだから頭割れなくてよかった——というわけのわからん感想を最後に、私の意識はぶっ飛びました。

「……ああ、お気付きになられたようですね」

なぜか知らない場所で目を覚ました私。

見知らぬ立派な天井、私のものではない超寝心地のいいベッド。

——そして見知らぬ人々。

ここはどこ? あ、お金持ちの家ということだけはわかる。

「…………」

いきなり知らない場所で寝かされててびっくりするわ。

状況把握ができなくて無言になっていたら、ベッドのそばで私の様子を見ていた柔和なおじいちゃんが話しかけてきました。

「頭を打たれたのですよ。ご気分はいかがですか?」

「気分? ……悪くないです」

「吐き気なども?」

「はい。大丈夫です」

「起き上がれますか?」

「はい。一人で帰らないと、誰も迎えになんてきてくれませんもの」

「……え?」

「え?」

おじいちゃんがびっくりして私の顔を見てくるけど、私の方がびっくりしてるっつーの。

だってここは私の家じゃないし。

「私、このお屋敷の前で倒れてたんですか? それで助けていただいたんですよね?」

やっばいな〜。うち超ド級の貧乏だから、お礼とかできる気がしないんだけどな〜。

……って考えていたら。

「奥様?」

若い、綺麗な使用人さんが目を見張っていました。

「奥様がいらっしゃったんですか? それはご挨拶しないと!」

ここの奥様登場ですか! ちゃんとお礼を言わなくちゃなりません。

いそいそと起き上がろうとしたら、

「奥様は、奥様ですよ! どうなされたんですか!」

「え? 私は奥様じゃないですよ? 独身ですよ??」

私に向かって言うの、おかしいですねぇ?

私、結婚してませんけど? てゆーか、多分一生独身ですけど?

首を傾げていたら、さっきのおじいちゃんが、

「これは……記憶を失われているようでございますね」

打って変わって難しい顔をしていました。

「とりあえず旦那様にはお伝えした方がよろしいですわね」

「そうでございますね。ひょっとしたら、旦那様にお会いすることで記憶を取り戻されるかもしれませんし」

「そうでございますね」

少し年配の、キリッとした使用人さんがおじいちゃんと相談していました。

旦那様って、このお屋敷のご主人様よね?

そんな人にこんな姿で会ってもいいものなのでしょうか?

「もう大丈夫?」

しばらくして部屋に入ってきたのは、なんか凄まじい美形さんでした。

その長いコンパスですぐにベッドサイドまでやってくると、なぜか私の手を取りました。

そのキラキラ美しい顔が曇っています。

つーか、誰だ、貴方。

「…………?」

「いやぁ、ヴィーが階段から落ちたと聞いた時は焦ったよ」

「……」

「瘤にはなってるけど裂傷はなくてよかった」

そう言われたら頭がズキズキする。そっか、さっき『頭を打った』と言われたけど、私階段から落ちて頭を打ったのか。美形さん、補足ありがとうございます。

しかしなんでこの美形さんは私の怪我の具合をそんなに心配するのかしら?

「…………」

「ヴィー? 傷が痛む?」

そっと優しい手つきで傷を労ってくれる美形さん。……だけど。

「貴方は誰ですか?」

そこがめっちゃ気になるんです!!

ほぼ社交界なんて出て行かないから知り合いほとんどいないし、ましてやこんな美形の知り合いなんていませんから!!

「え?」

「え?」

私の質問に美形さんが唖然としています。

「……そうか。ダリアが呼びにきたものの、なんか歯切れが悪かったのはこういうことだったのか」

「はい。申し訳ございません」

「いや、いい。どう伝えたらいいのかわからなかったんだろう? それはいいんだ。問題は、ヴィーだ」

「はい……」

ダリアと呼んだ使用人さんと話を終えると、美形さんはまた私の方に向きました。

「ここはフィサリス公爵家の屋敷です」

「そうなんですか!」

フィサリス公爵家って、この国一番のお貴族様じゃないですか!

そんな大貴族様のお屋敷に、私如き貧乏伯爵家の娘が入り込んじゃって、しかもベッドまで占領しちゃっていいんでしょうか? いやよくない! あわわわわ……!

縁もゆかりもない大貴族のお屋敷と聞いてプチパニックを起こしていたら、

「大丈夫だから、ね、落ち着いて」

美形さんが優しく、握った手をポンポンと叩いてくれたので、少し落ち着きました。

「それで、僕が当主のフィサリス公爵サーシスです」

「公爵様でしたのね。ご無礼をお許しくださいませ」

私はベッドから降りて平身低頭、土下座でもしようかと起き上がりかけたんですが、公爵様に止められました。

「無礼もなにも、ここはヴィーの家でしょう?」

と、公爵様が苦笑いをしました。

いやいや、なんで超貧乏貴族の私が、公爵家が『私の家』になるんですかいね?

——あ、そっか!

ピーンと、一つの解答が閃きました。

「そうかそうか、私は家の借金返済のために、公爵家に住み込みで働いてるんですね!」

「違う違う」

あれ? 正解だと思ったのに。公爵様はまだ苦笑いしています。

「ヴィー……まさかと思うけど、君の名前は?」

「私の名前? ヴィオラ・マンジェリカ・ユーフォルビアですわ」

一応お父様は『伯爵』で、私はそのユーフォルビア伯爵家の長女です。

なのに公爵様は険しい顔をしました。

「……なぜに『ユーフォルビア』?」

「だってユーフォルビア家に生まれたんですもの」

「……結婚、したよね?」

おずおずと聞いてくる公爵様。それさっきも使用人さんに言われましたよ。

まったく、何回同じこと言わせるんですか。

「はい? まさかぁ〜! 私みたいな地味っ子、しかも多額の借金付きを、誰がもらってくれるというんですか〜! そんな物好き、この世にいませんよ!」

いくら公爵様とはいえ、みなまで言わせないでくださいよ恥ずかしい。

公爵様のように超美形でお金持ちならお嫁さんのなり手はごまんといるでしょうけどね!

しかし。

「ヴィーの……ヴィオラの記憶が……戻ってこない」

「「「「「ああ……っ!」」」」」

驚愕する公爵様。

ザワ……ザワ……と周りの使用人さんたちも落ち着きがなくなりました。その場に崩れ落ちる人もいます。

いやいや、なんでそんななるかな?

「ヴィーは僕と結婚して、公爵夫人なんだよ?」

「またまたご冗談を!」

「冗談じゃないよ! ヴィーは僕と結婚して、フィサリス公爵夫人なんだよ。ああもう、結婚証明書は……ああ、そうか、大神殿か。……そうだ、ミモザ、レティを連れてこい」

「かしこまりました」

「?」

公爵様は後ろに控えていた使用人さんの一人に命じました。

レティ? いったい誰かしら?

しばらくするとミモザと呼ばれた使用人さんが、一人の女の子を連れて戻ってきました。

二歳くらい、かしら。顔立ちは妹のフリージアに似てるけど、髪と瞳が濃い茶色。

この子は誰?

「あら、フリージア……にしては小さいわ。え? 私の知らない間にまた妹が増えたの!?」

貧乏なんだからこれ以上家族増やさないでよお父様ぁ。

そりゃ家族はたくさんいる方が楽しいけど、我が家の経済状況考えたらシャレになんないからやめていただきたいんですけど?

なんてうちの親に呆れていたら、

「妹じゃないよ、君の娘だ。そして僕の娘でもある」

ミモザからその子を受け取った公爵様が言いました。

私の娘ぇ〜!?

「うそん!? いつの間に私ったら未婚の母に……? こんなことお母様にバレたらどれだけ怒られるか……」

でもほんとに身に覚えがありません! でも激怒するだろうお母様を想像してガクブルしていると、

「レティを見てもダメか……?」

女の子を抱きしめ肩を落としている公爵様と、そんな公爵様の綺麗な濃茶の髪をくしゃくしゃにして遊ぶ女の子……あら、この人たち似てません? 特に色素。

フリージアに似てる=私に似てる。

そして公爵様の娘。

私、ほんとにフィサリス公爵夫人なの!?