軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とある日のお茶会

さてさて、突然届いた旦那様の元カノ・カレンデュラ様からのお手紙。

いつも余裕綽々な公爵家の使用人さんたちをも動揺させるという、なかなかの爆弾でした。

『いつものように調べたらいいじゃない』という私の一言に、

「では、少々お時間をいただきたく。それまで……」

「結果が出るまでお返事待って、でしょ?」

「そういうことでごさいます」

「わかったわ」

ロータスは静かに下がり、そのまま姿を見かけてません。どうやら早速調査を開始したようですね。

私の勘では、大丈夫だと思うんだけど。

こういうのはハッキリさせておいた方が後々いいですし、納得してもらいたいですしね。

そしてその報告は、意外なところからの方が先に来ました。

「今日王宮でカレンデュラと会ったよ」

「あら」

旦那様が帰宅してすぐ、この話題が出ました。

はは〜ん、さすが旦那様。疑われる前に先手を打ちましたね!

「新郎側の遠縁の貴族と結婚したらしい」

「ほうほう」

ニヤニヤ。

「今回はそれで一緒にこっちに来たらしい」

「なるほどなるほど」

ニヤニヤ。

「…………ヴィー?」

「はい?」

「なんでさっきからニヤニヤしてるのかな?」

「え〜と、久しぶりにカレンデュラ様とお会いして、サーシス様はうれしかったのかな〜と」

「うれしいとかないよ! あ〜元気だったんだなぁくらいしか思わないよ! それに、会ったと言っても廊下で一瞬すれ違っただけだし、ちらっと会釈したくらいだし、僕はずっとユリダリスと一緒だったから、こっそり会うとかもなかったし!」

「はいはい」

必死の形相ですね、旦那様!

あまりに一生懸命言い募るもんだから、からかうのもちょっと可哀想になってきたわ。

「なんならカレンたちが帰るまで、ユリダリスとずっと一緒にいようか?」

「いやそれは勘弁してあげてください。って、サーシス様、必死すぎ」

「疑わしきは排除するよ。必死にもなるさ。全く何も思ってないのに」

「はいはい、知ってますよ」

「ほんとかなぁ」

「ほんとですってば。てゆーか、カレンデュラ様がフルールに来てることを知ってたんですよね〜私」

「え? うそ?」

「ほんとです」

私は昼間受け取った手紙を旦那様に見せました。

「なんだ〜。そういうことか」

「そういうことです。ね、ロータス。サーシス様も、復活する気持ち、全然残ってないでしょう?」

「……はい」

さっきの旦那様の慌てぶりを見せつけられたら納得するしかないでしょ?

きっと報告書にも『問題ナシ』って書かれてるんじゃないですか?

それから数日後。

明日はいよいよ姫君の結婚披露宴。

旦那様も仕事でバタバタしていて、すっかりカレンデュラ様の件は忘れているようでした。

そんな中。

「久しぶりね、奥様」

「はい! お久しぶりですカレンデュラ様」

フィサリス公爵家の片隅にあるワタシ庭園の東屋で、今私はなんと、カレンデュラ様とお茶をしています。

公爵家を出てからしばらくオーランティア国にいたカレンデュラ様でしたが、戦の後はフルールの友好国であるアンバー王国に身を隠しました。戦の時にフルールのスパイ的なことをやったので、身の安全のためにフルール側が配慮したのだそうです。

身を隠すというより移住って感じですかね。

オーランティア自体、消滅したに等しいですから。

「ここを出て随分経つわねぇ。すっかり様変わりしたのね」

カレンデュラ様が周りをあちこち見ながら、何かを噛みしめているようです。

カレンデュラ様がいた頃は、別棟は高い木々に囲まれて、まるで庭園から隔離されたようになっていました。

それがすっかり整理され露わになった別棟は、ウッドデッキもなくなりあの頃とは雰囲気が変わっています。

それに、あの頃はまだ『ワタシ庭園』もなかったしね。

「ここも別棟も、旦那様がいろいろいじってくださったので……」

「あら。前はそんなことする人じゃなかったのに」

この辺りを大改修して、おまけに結婚式まで挙げましたねぇ。

カレンデュラ様の視線を追いながら、旦那様がやったあれこれを思い出していると、目を丸くした後クスッと笑いだしたカレンデュラ様。

まあ確かに、カレンデュラ様と一緒にいた頃の旦那様は、お屋敷のことなど全く興味を示さない人でしたからね!

「奥様はお元気そうで何よりだわ」

「カレンデュラ様こそ。ご結婚されたとお聞きしましたが……」

そうそう、これが今日一番聞きたかったこと!

結婚とか、全然興味なさそうな方だったのに、まさか結婚してたなんて!

一体どんな方と結婚されたのでしょう?

目の前で優雅にお茶を飲むカレンデュラ様は、ここにいた頃のように、頭のてっぺんからつま先までつやつやテカテカ。きちんと豪華なドレスを着て、キラキラお美しいままです。つか、むしろ退廃的な感じがなくなり、しっとりと落ち着いた雰囲気が増した気がします。これは相手の方のおかげ?

そんなカレンデュラ様の変化を感じながら近況を聞けば、

「金持ちおじいちゃん子爵の後妻に収まってるわ。毎日ボケそうなくらい穏やかに過ごしてるから、すっかりおばさんになっちゃった」

肩をすくめてふふふ、と笑っています。

さすがですカレンデュラ様! パトロン……げふげふ、いい人見つけましたか!

安定した穏やかな暮らしでますますきれいになってますよ、おばちゃんなんてとんでもない!

「どうやって旦那様と知り合ったんですか?」

「え? ……もちろん酒場でよ。でも今回は場末じゃなくて、ちゃんとしたお客しかいない高級な酒場よ」

「ほうほう! それで? どうやって? アプローチは? 旦那様から? まさかカレンデュラ様から?」

「……やけにぐいぐい来るわね……もちろん向こうからよ」

「おお〜〜〜!!」

私がぐいっと乗り出してきたから、カレンデュラ様がちょっと引いてます。いや、これ、私の勢いに引いてるのか。

「それで? それで?」

「そうねぇ……あまりに穏やかに話をするもんだから、ついつられてこっちもゆったりペースになっちゃうのよ」

「ほうほう」

「いつも穏やかに人の話を聞いてくれる人だから、ついつい身の上話なんかしちゃってね」

「今までそばにいなかったタイプ!」

「まさにそれね」

どんな方か知りませんが、ニコニコ優しそうな微笑みをたたえた紳士が目に浮かびました。

「子供たちもすっかり成人してしまって寂しいんだよって言われたら、放って置けなくてね」

母性本能をえぐってきましたね!

そういや元々カレンデュラ様ってば母性本能の強い人のイメージあるなぁ……あ、これ、忘れてあげないといけない黒歴史だった。

「それでめでたくご結婚、と。でも、お子さんたちは反対なさらなかったんですか?」

お金持ちだと財産とか色々大変でしょうに。

「ええ、なかったわ。じーさんの面倒見てくれてありがとう! って感謝されたくらいよ」

「優しい世界! よかったですね!」

旦那様がいい人のように、お子さんたちも優しいいい人たちなんでしょう。

「それで、今回は姫様の結婚披露宴に出席するんですか?」

「まさか! そんな堅苦しいところに、私が行くわけないでしょう?」

オホホホ! と扇子で口元を覆いながら笑うカレンデュラ様。あ、これは昔のままだ。

デスヨネ〜。変わりない貴女でホッとしました。

「では、旦那様だけ出席するんですね?」

「そうよ。私はその間部屋でゆっくりしてるわ。ただ道中が心配でついてきただけだもの」

そう言って柔らかく微笑むカレンデュラ様。

カレンデュラ様が相手に合わせてる!? 心配してる! なんか丸くなってる!(人間的に)

そのおじいちゃま、すごいですねぇ。

「そうなんですね! ……私も家でゆっくりしていたいデス」

そうだ、披露宴、明日だよ。

私の場合、駄々こねても無駄なんだけど。

披露宴のことを思い出して憂鬱になっていると、

「ほんっと、貴女ってば変わらないのね!」

カレンデュラ様に大笑いされてしまいました。

「旦那様、とってもいい方なんでしょうねぇ」

「そおね」

また微笑むカレンデュラ様は、以前のようなとげとげしさがなくなったように思います。カレンデュラ様、いい方にめぐり会えたんですね!

いろいろ近況などを話した後、カレンデュラ様は「やっぱりここは居心地がよくないわ」と言って早々に帰ろうとするので、

「旦那様……サーシス様に会って行かれないんですか?」

と聞いたら、

「会ってどうするのよ! 相変わらずね、貴女ってば!」

盛大に笑われてしまいました。

いやだって、私よりむしろ旦那様に会いたいかな〜って思ったんですもん。

まあでも、王宮ですれ違ったって言ってたから、機会を持とうと思えばいつでもそんなチャンスはあったと思うんです。二人きりがマズイなら、ユリダリス様でもお姉様方でも、付き添い的な人を交えて。

でもそれをしていないということは、お互いそんな気は無いということですよね。

旦那様の、あの、必死の形相を見ればなおさら。

帰るカレンデュラ様をお見送りしようとエントランスに戻ったところで、

「おかあしゃま〜」

ミモザに抱っこされたバイオレットが出てきました。

「そろそろお母様が恋しくなられたようで、ちょっとぐずっていらっしゃったんです。お客様もまだいらっしゃるというのに、申し訳ございません」

大人のお話に邪魔にならないよう、本館で遊んでもらってたのですが限界きましたか。もうお見送りだからいいけど。

「そう、お客様だったのよ。レティもご挨拶してね」

「こんちは」

私が抱き上げると、カレンデュラ様に向かってぺこりと挨拶するバイオレット。よくできました!

バイオレットを見てちょっとびっくりしたカレンデュラ様でしたが、優しく微笑み返してくれました。

「あら、かわいいわね。公爵様より貴女似かしら? これで貴女に逃げられる心配なくなったから、公爵様もさぞかし安心してるでしょうね」

「?」

「ふふ。じゃあね、奥様。またこっちに来ることがあれば寄らせていただくわ! 公爵様のお留守に」

「はい! お元気で!」

またの再会を約束して、私たちはお別れしたのでした。