軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪夢、ふたたび

体調が悪いせいなのか、なんか微妙に悪い夢を見た私。

夢の中の旦那様はバツ三(離婚歴三回)になっていました。

いやでも、ほんのちょっと運命のボタンがかけ違っていたらあり得た話ですよね。バーベナ様とご結婚とか、マジあり得そう。そしてバーベナ様とカレンデュラ様の女のバトルも……以下略。

夜中にうなされ目を覚ました私を、悪夢から守るように大事に抱きしめて眠ってくれる旦那様はには申し訳ない夢を見ました。ごめんね旦那様!

その後は朝までゆっくり眠ることができました。

「で。なぜ昨夜はうなされておいでだったのですか?」

旦那様がお仕事に行った後、私は使用人さんたちに昨夜のことについて詰め寄られました。

『体調の急変だといけないから』と、旦那様が使用人さんたちに私のケアをしっかりするようにと言い置いて行ったのです。

気持ち悪くて寝付けなかったのは事実ですが、うなされたのは夢のせいであって……。

「今日ね、夢見が悪くてうなされてたの」

仕方なく私は昨日見た夢を話しました。

「夢の中で、旦那様はバーベナ様をはじめ再々婚までしてたのよ。もちろん離婚理由は彼女さんのことでね。それで、三番目の奥様に離縁状を叩きつけられた〜ってところから話は私の嫁入り話になって、二十六にもなって結婚してないだとか 嫁(い) きおくれだとか、枯れてるだとか、さんざんお母様に責められて——」

夢の内容を思い出しながら使用人さんたちに話しました。

すると。

「ぶっ」

「くく……」

私の夢の話を聞いた途端にみなさん笑い出して。というか、笑いを堪えるために思い思いの方向に顔を背け、肩を震わせています。一応笑っちゃ失礼だと思ったんですねわかります。

「まあ、なきにしもあらずな話でございますね。今となっては笑い話で済みますが」

ロータスが苦笑しながら言いました。

「そうね、笑い話になってよかったけど、夢の中のお母様、怖かったわぁ」

「まあまあ。奥様にしても笑い話で済みましたし。なにより、体調が悪くなったのではなくてようございました」

「そうね」

でもまだ気持ち悪いのは続いていて、今日もベッドから出られそうにありませんが。

お仕事から帰ってきた旦那様はやっぱり夜中の出来事を気にしていましたが、私の顔色もそんなに悪くなく、特に変わった様子もなかったとロータスたちから聞いて安心していました。

「こういう経験がないから、怖いんですよ僕は」

そう言って私の手を握りしめる旦那様。

そうですね、貴方一人っ子だから身近で妊娠出産とか見たことないんでしょうね。私は弟妹がいるから平気だけど。

「大丈夫ですって! 私はそんなにやわじゃありません。毎日使用人さんのお手伝いしてるのは伊達じゃないですよ」

「……そうだった」

むん、とガッツポーズする私を見て笑う旦那様でした。

それでも体力自慢とつわりは関係ないもので、気持ち悪さは続いています。

今日もなかなか寝付けなくて、でもゴソゴソ動いていたら旦那様を起こしてしまうからとじっと忍んでいたらようやくウトウトしてきました。

つわりがキツイからって一日中ごろごろしてるから疲れないんですよね。だから寝つきも悪くなる。疲れていたらつわりが気持ち悪くてもしっかり寝付けるはず。明日からはちょとずつ動くようにしてみようかなぁ……。

* * * * * *

「お帰りなさいませ! 今日もお疲れ様でございました」

「ただいま戻りました。貴女は一日健やかに過ごされましたか?」

「はいっ!」

「そうですか。では、おやすみなさい」

「…………おやすみなさいませ」

フィサリス公爵サーシス様と結婚して早数年が経ちました。それでも私たちの間で交わされるのは、これくらいの会話しかありません。

旦那様は別棟にいる彼女さん——カレンデュラ様に夢中なのです。

彼女さんさえいれば他には何もいらないようで、周りがうるさいからと適当に選んで結婚した私のことは見向きもしてくれません。そういう条件で結婚したのは確かなんですが……。

私はといえば、初めて旦那様とお会いした日——旦那様が私の実家にプロポーズしに来てくださった日——にひと目惚れをして以来、ずっとお慕いしているというのに。

結婚しているというのに片思いって、これなんぞ?

いくら使用人さんたちがいい人ばかりだからって、寂しくないようにずっと一緒にいてれたって、旦那様が振り向いてくれないことには寂しさなんて埋まらないんです!

毎日別棟に向かう背中をお見送りすることの切なさに泣けてきます。

旦那様のために、横に並んで恥ずかしくないように自分磨きもがんばりました。

結婚前は地味子だった私が、今ではすっかり『社交界の華』と言われるようになりました。

苦手だったダンスだって頑張って上達しました。

旦那様のお役に立てればと、好きでもない夜会やお茶会などにも積極的に参加して、お友達を作りました。

なのに全部空回りで。

旦那様ったらちっとも本館に帰って来てくださらないし、それどころか今まで以上に彼女さんを隠そうともしないし。

旦那様と彼女さんのことは、社交界でも眉をひそめられています。

それでも気付かないふりをして笑っていることにも限界を感じる日々。

「僕だったらもっと貴女を大事にするのに」

「あんなやつ、別れてしまいなさい」

ダンスの合間に、優しいお貴族様にそう囁かれることもしばしば。

結婚する前、『おおっぴらには困りますが恋人作ってもオケ』って旦那様から言われてましたねぇ……。こうなったら本当に探しちゃおかなぁ……。

でもでもっ、私が好きなのは旦那様なんです! 他に恋人作ったって虚しいだけなんです!!

* * * * * *

「旦那様のばかぁ!!!!」

「ゴフッ!?」

……ん?

何か手応えあったなぁと思って目を開けると、隣で旦那様がお腹を押さえて蹲っていました。

「サーシス様!? どうしたんですか? お腹痛いんですか?!」

慌てて飛び起き旦那様の背をさすったら、

「いきなりヴィーのパンチが飛んできた……」

涙目で訴えられました。

あ、犯人は私でしたか!

「ごめんなさい! 私ったら寝ぼけてたみたいですね」

「しかもさっき、『旦那様のばかぁ!』って叫んでなかった?」

「ん〜? なんか変な夢見てました」

「ええ〜? 夢の中で僕が悪いことしたの?」

「そうなんですよ……ん? そうなのかしら? ん? よくわかりません」

「なんだ、そりゃ。体調が悪くなったとか、そういうんじゃない?」

「あ、それは大丈夫です」

今日はうなされてたんじゃなく、むしろ叫んでましたよね。元気です。

「それで。『旦那様のばかぁ!』なんて叫ぶような夢はなんだったのかな?」

私の体調確認をした旦那様は、有無を言わさぬ笑顔で聞いてきました。

「ええ……とですねぇ……。結婚して随分経つのに旦那様は彼女さんに夢中なままで私に見向きもしないって夢を……」

「はあ? え? ちょっと、ヴィーの言ってる意味がわかんないんだけど?」

ざっくりとした夢の内容に、旦那様が混乱しています。ですよね、かなり端折ってますから。

結局根掘り葉掘り質問されてさっきの夢の話を事細かに説明する羽目になりました。

「……なんで今頃そんな夢を見るかなぁ? まあいいや。それで、ほんとにほんとに、体調は大丈夫なんだね」

「ほんとにほんとです」

二日連続で起こしちゃってすみません。つか、二日連続で変な夢見るってどうなのよ、私。

ああ、やっぱり明日(今日?)からお散歩くらいはしよう。

そしてまた私たちは眠りについたのですが。

「わぁぁぁぁっ!!」

今度は旦那様の声で目が覚めました。

「サーシス様!? どうしました!?」

叫ぶと同時に飛び起きた旦那様に私は慌てて声をかけたら、すごい青ざめた顔で私を見てきます。旦那様こそお身体悪いんじゃないですか!?

「いや……変な夢を見た」

「はあ」

今度は旦那様がおかしな夢を見たんですか。はっ! さっきの私のパンチが当たりどころ悪かったから!? 変な時間に二日連続で起こしちゃったから!? ああ、罪悪感……。

窓の外はまだ暗く、起きるのには早い時間です。もう一度眠ってもらって、とにかく疲れをとっていただかなきゃ。

寝ましょう。寝て忘れましょう、と言おうと思ったその時。

「ヴィー」

真顔で旦那様が私を呼びました。

「はい、なんでしょう?」

旦那様の次の言葉を待って小首を傾げていると、

「ユリダリスはやめとけ」

だそうです。……って、なんでここでユリダリス様!? 意味ワカンね。

「何言ってんですか!?」

やめるも何も、ユリダリス様とは何の関係もないんですけど!? しかもステラリアの婚約者ですよ。

「え? ああ、いや……なんでもないよ」

「私が変な時間に起こしてしまったから夢見が悪かったんですね。ごめんなさい。後もう少し眠りましょう」

「そうしよう」

そう言ってまたお布団に潜り込む私たち。

夜中に何度も目が覚めてしまったけど、旦那様のお仕事に支障ありませんように!

「男女逆転?」

「だそうです」

旦那様から夢の話を聞いたロータスが教えてくれたのは、旦那様が『奥様』で私が『旦那様』の、男女が逆転した世界だったそうです。

もちろん『奥様』には『彼氏(愛人)』がいて。その世界で、夜会を拒否した『奥様』の代わりに『旦那様』がお誘いしたのが『侯爵令嬢ユリー様』だったそうです。だから『ユリダリスはやめとけ』って言ったのか……繋がりました。

「で……でも、男女逆転の世界って……っ! ぷふっ!」

旦那様、いくら夢の中だとはいえ発想が突飛すぎます!! 面白すぎるっ!!

思わず吹き出してしまいました。

お嬢様姿の旦那様、めちゃくちゃ美人さんだったんだろうなぁ。でもって、地味な男装の私、と。ユリダリス様のお嬢様姿も眼福だったかもしれませんねぇ。ニヤニヤ。

一緒に話を聞いていた使用人さんたちもプルプル震えています。あ、これは妄想してますね。

「ダリアが執事でしょ? じゃあロータスは侍女長だったのかしら」

男装したダリアはキリッと凛々しく素敵でしょうが、女装したロータス……ぷぷぷ。きっと美人さんに間違いなしだけどね!

現実のロータスを見ながら女装を妄想していたんですが、

「あいにく、私は夢に登場しなかった模様で」

にっこり。ロータス、めっちゃ笑顔です。

「ロータスだけずる〜い」

「何がですか?」

「なんでもないで〜す」