軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一件落着したのですが…… 〜フィサリス公爵家の長い一日3〜

怪しさ満載のモンクシュッド親子は、とりあえず別棟に案内されていきました。

ダリアに案内されて別棟に向かうモンクシュッド男爵父娘の背中を、複雑な気分で見つめます。

ロータスは、二人(と赤ちゃん)が見えなくなるのを確認してからダイニングに隠れている私の元にやってきて、

「全部お聞きになっておられましたね?」

呆れ顔で言いました。

「はいっ!」

一から百までずずずい〜〜っと。しっかり聞いてましたよ!

私が大きく頷くのを見て苦笑しています。

「でもあの人、モンクシュッド男爵じゃないですよね?」

「おや。なぜそのように?」

「だって、貴族年鑑に載ってた絵姿と違ってましたもん」

「そうでございますね」

私の答えに満足そうに笑ったロータスは、メガネをキュッと押し上げてから。

「奥様のおっしゃる通り、あれはモンクシュッド男爵ではありません。とりあえずここは騙されたふりをして時間を稼ぎ、その間に急いで調査いたしましょう。別棟ならば監視しやすいので、しばらくそこに軟禁しておきます」

さすがです。この短時間にしっかりと対策を練っていました。

しかもやっぱりモンクシュッド男爵じゃなかった! 絵姿入り貴族年鑑、いい仕事してますねぇ!

「なるほど! じゃあ後はお願いします」

「今さら旦那様が他所に愛人を作るはずがございませんが……。万が一のことを考えて、入念に調査させます。ええ、旦那様ですから」

「そうね、旦那様ですものね……。お願いね、ロータス」

「かしこまりました」

力強く頷くと、ロータスはダイニングから出て行きました。自分の執務室に行って、これからのことを指示するのでしょう。

そしてダイニングに残された私とステラリア。

「モンクシュッド男爵の件はロータスたちにお任せ下さい。それよりも奥様はご体調がすぐれないのですから、おとなしくお部屋に帰りましょうね?」

おっとそうだ、忘れてた。さっきから目眩と寒気がするんだったわ。まだウロウロしそうなのが伝わったのか、恐い顔でステラリアが私を見ています。

「ちょっとね、風邪っぽいかなぁって思うだけですよ。てへ☆」

「てへ、ではございません!! この騒動もございますし、心労と相まってひどくなってはいけませんので、今日は一日お部屋で、いえ、ベッドでおとなしくなさってくださいませ!」

「……はあい」

「昼食もお部屋に運びますね」

「使用人さん用ダイニング……」

「今日はダメです」

「うえええん。……はい。我慢します」

今は非常事態が発生していますから、私のことでこれ以上使用人さんたちに心配かけてはいけませんね。ここは素直に言うこと聞いておきます。

ということで、私は私室に強制連行されたのでした。

ステラリアによって部屋に強制送還されると、そのままあれよあれよという間に寝巻きに着替えさせられ、ベッドに押し込まれました。

まあでも庭園から寒気はしていたのは事実なので、されるがまま言われるがまま、おとなしく寝ておきます。悪化させたらそれこそ大騒動になりますからね!

しっかり掛け布団をかぶって目を閉じます。

温かくして薬湯でも飲んでゆっくり寝たら、明日には治ってるでしょう。つか、明日までには治さないと、旦那様が帰ってきてしまいます。風邪なんてひいてたら、それこそ大騒ぎする人ですから、元気でお出迎えしないといけません。

あ、でも旦那様には愛人さんがいて、そしてお子さんもいるんでしたっけ。そした私はお払い箱だから、風邪ひこうが体調崩そうが知ったこっちゃないかな? それはちょっと寂しいかも……。

横になったものの、旦那様のことや別棟のことが気になって目が冴えます。

今度こそ本気で就職口を探さないといけない感じ? 使用人さんスキルはかなり身についたけど、本気で使用人するならどこまで通用するかしら? それよりも、私ってば社交界でかなり有名人になっちゃってますから(不本意ながら)、離縁された訳あり女を雇ってくれるような奇特なお貴族様なんているのかなぁ。

あ、でも、あの男爵さん偽物だったよね? じゃあ娘さんも、そのお子様もニセモノ?

もう、旦那様! さっさと帰ってきてこの状況を説明してくださいっ!!

……って、う~ん、もう本当にややこしい。ややこしすぎてまためまいがしてきちゃったわ。

つまり、難しいことを考えるなってことですね。ええ、似合いませんとも!

もう寝るか。果報は寝て待てって言うしね。

体調が悪いせいか、ネガティブな考えに支配されがちですし。

もう考えるのはやめて寝てしまおうとした時、ステラリアが部屋を出て行きました。

薬湯でも持ってきてくれるのかな? それ飲んだら本格的に寝ちゃおう。

そう思って待ってたのですが、ステラリアが持ってきてくれたのは、なんと、医師様でした。

たかが風邪くらいで大袈裟な。

「そんな大層じゃなくても~」

「たかが風邪、されど風邪。大事に至ってはいけませんから、早目に医師様に診ていただきましょうね」

「ええ……」

「まあまあ奥様、そうおっしゃらず。治療が早ければ早く治りますよ」

おじいちゃん医師様に優しい笑顔でなだめられると否とは言えないですよ。

「はあい」

ということで診てもらったのですが……。

「か い に ん ?」

「はい、かいにん、懐妊でございます」

医師様の口から出たのは思ってもみなかった言葉で。

「そっか、奥様 解任(・・) かぁ」

まさかの医師様からの『クビ宣告』!! と、ズガーンと落ち込みかけたら、

「何をおっしゃっているんですか違いますよ。妊娠でございます。おめでとうございます。まだ自覚がなかったので、風邪と間違われたのですね」

医師様におかしそうに笑われました。

「おおー……」

愛人発覚よりもっとびっくりしました。

私が懐妊ですって?! 風邪じゃなくて懐妊?! 解任じゃなくて懐妊!?

ステラリアもミモザも、部屋にいた侍女さんたち全員が驚いています。いやいや、一番私が驚いてますってば!!

「どういたしましょう? 旦那様に伝達を出しましょうか?」

「明日には帰ってくるから急がなくてもいいんじゃない? それよりも、今は別棟がややこしいことになってるんだから、私のことでさらに余計な仕事を増やしたくないし……」

うれしい知らせだけど、でも旦那様にとってはそうじゃないかもしれないし。それをみなまで聞く覚悟ができてなくて躊躇うと、

「何をおっしゃってるんですかっ! 別棟こそどうでもいい話です!!」

ステラリアにめっちゃ怒られました。

「ロータスに知らせ……られるような状況じゃないですよねぇ」

ミモザが別棟の方を心配そうに見ながら言いました。

ロータスは、昼前に別れてから姿を見ていません。旦那様のいない今、ロータスがいろいろ動いてくれているのでしょう。

「ロータスには後から相談するとして。奥様は何もご心配いりませんよ。私たちがちゃ〜んとなんとかいたしますから!」

凛々しく宣言するステラリア。周りで頷く侍女さんたち。

「そうですよ〜。とりあえず奥様は安静にしておきましょうか。目眩とか悪寒がするのって、赤ちゃんが『身体を大事にしてね』って言ってるんですよ〜」

さぁさぁ寝た寝たとミモザが布団をかけてきます。先輩母の言葉は説得力ありますね。

「はぁい」

グルグル考えてもいいことないですし、今はどうしようもないですもんね。

それになんだか眠くなってきました。頭使いすぎて疲れちゃったかな?

私は素直に言うことを聞いて瞼を閉じました。

ダダダダダンッ!

どこかが激しく殴られる音が聞こえてきて目が覚めました。

なに? 騒がしいですね。別棟の人たちが押しかけてきたんですか?

まだ重い瞼をうっすら開けると、窓の外は薄暗くなる時間でした。そろそろ晩餐の時間かな。

ステラリアが扉を開けるのを寝ぼけ眼で見ていると、勢いよく入ってきたのは……旦那様?!

あらどうして旦那様? 旦那様は明日お帰りのはず。とうとう私、旦那様の幻影を見るようになってしまいましたか……。

「ヴィー!!」

旦那様に名前を呼ばれて初めて目が覚めました。

あ、本物だこれ。

「サーシス様?」

「ヴィオラ! 今日は僕の不徳の致すところで大変なことに貴女を巻き込んでしまい、なんとお詫びをすればよいか……」

旦那様はその長いコンパスでつかつかと私の元にやってくると、すばらしく綺麗なスライディング土下座を決めてくれたではありませんか!

……じゃなくてっ!!

「や、ちょっと、サーシス様!! 何をなさってるんですか?!」

「ヴィーに無用の心配をかけてしまって……、すまない! この通り!!」

慌ててベッドから飛び降りて旦那様を引き起こします。

「大丈夫大丈夫、大丈夫ですから立ってください!! この状況の方が心臓に悪いです!」

「それはよくないな。わかった」

そう言うと旦那様は立ち上がり、私の手を引きソファに連れて行きました。

そしていつものように並んで座ります。

「今回のことは驚いたよ。王都に帰って来る途中で屋敷から連絡をもらったから、先に帰らせてもらった。でももう解決したから安心して」

私を安心させるかのように手を優しく包み込み、ポンポンと叩きました。

「え? もう解決したんですか?!」

昼前に事件が起こって、夜には解決!? どんだけ仕事早いんですか使用人さんたち!

ハッとロータスを見ると、にっこり笑って頷いています。すごい、マジすか。

私がロータスたちの仕事の早さに驚いていると、

「モンクシュッド男爵と名乗るあいつらは、ヴィーも気付いていたようにニセモノでした。最近王都に出没していた詐欺師親子……いや、詐欺師とその愛人です」

「じゃあ、サーシス様の恋人というのは……」

「真っ赤な嘘ですよ!!! ったく、ヴィーはまだ僕のことを信用してなかったの?」

「いいえ、……うん? あ、やっぱりいいえ?」

「え、どっち!?」

「信用してましたよ……多分。まあ、でもおかしいなと思ってたんですよ。だって戦の頃って、サーシス様がしょっちゅうお手紙くださってた頃じゃないですか。あんなお手紙書いてお仕事もしてるっていうのに愛人作って密会してなんて、いくらなんでもムリでしょう」

「そうですよ、仕事とヴィーのことで僕の中はいっぱいだったんだから。むしろヴィーの元に早く帰りたいがために仕事を頑張ってたくらいだ」

「や、そこは国のためにと言っておきましょうよ」

ドヤ顔してそんなこと言わないでください! 国王様が聞いたら泣いちゃいますよ。

「まあとにかく僕にはヴィー以外が入ってくる余地なんてなかったんだから」

「じゃあ、あのお子様は?」

「あの子どもはどこか町で攫ってきたようです」

「ええっ!? それじゃあ……」

「大丈夫、安心して。早急に親を探してかえしますよ」

「よかった!」

かわいい我が子を攫われたなんて。きっとその子のお母さんは途方にくれたでしょうねぇ。

私だって、自分の子どもが攫われたら。……って、まだ見ぬ我が子ですけどね……あ。

そうだ。旦那様に言うべきことがあったんだったわ。すっかりこの騒動のせいで忘れてたけど。

「あっ!!」

「どうした? また気分でも悪くなった? ベッドに行こうか?」

急に思い出して素っ頓狂な声をあげたら、旦那様がにわかに慌てだしました。

う〜ん、どうやって告げよう? なんて言おうか?

「で、体調はどう? 医師は何と言っていた?」

「あー、それがですねぇ、えーと」

『懐妊』の二文字が恥ずかしくて、私がもじもじしていると、

「旦那様、おめでとうございます。奥様はご懐妊されております」

ステラリアが私の代わりに旦那様に告げてくれました。

「え?! 懐妊?!」

旦那様が驚いて、ピタリと動きを止めました。その後ろでロータスもびっくりしています。

「え、本当に?」

旦那様が私に確認してくるので、

「そう、みたい、デス」

こくんと頷く私。きっと今真っ赤なんだろうなぁ、顔が熱いもん。

「……うわ~、偽物の後に本物の子供がわかるなんて……!! そ、そうだヴィオラ、気分はどう? 僕はいいからベッドに入りなさい!」

何かを噛みしめた後ハッと我に返った旦那様は急いで、でも大事そうに私をベッドに運びました。

「うれしすぎてどうしよう……! とりあえず、ロータス! 領地の両親と、ユーフォルビア家に連絡しろ!」

「かしこまりました」

「ダリアとステラリアとミモザはしっかりとヴィオラのケアを頼んだぞ」

「かしこまりました」

「とにかくうれしい!! あ、ごめん、あんまりうるさいと身体に障るか? いやでもうれしいものは仕方ない!」

その後、旦那様がやっぱり大盛り上がりしたことは言うまでもありませんね。