軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィオラとサーシスの成長

旦那様が出張から帰ってきてすぐ体調を崩されました。

鬼の霍乱……げふげふ、珍しいこともあるなぁと思いながらも看病させていただいた甲斐あってか、一日ゆっくり養生すればあっという間に元気になりました。さすがは体力勝負の騎士様、すごいですねぇ。

一瞬『旦那様にもしものことがあったら……』なんて不吉なことも考えてしまいましたが、それは杞憂に終わったのでよかったです。でもね、やっぱり後継って必要ですよね。ここ最近、急にそんなことを思うようになりました。てゆーか、やっぱり自分の子供は欲しいなぁと思うもので。

臨月のお腹を重そうに抱えるミモザや、学校がお休みで公爵家に帰ってきているロータスの養子のクインスをついぼーっと見ている私です。

「体調を崩したせいで貴重な休みをまるっと一日潰してしまった」

朝食の席で、ブスッとしながら旦那様が言いました。

いやいや、普通の人なら二、三日は寝込んでると思いますよ? それを一日で復活とか、それだけでもすごいと思いますよ?

「一日だけで済んだと思いましょうよ」

「そうだね。寝込んだおかげでヴィーに看病してもらえたし、むしろ良かったと考えるべきか」

「くすくす。それはどうでしょう?」

宥めれば、ポジティブに考え直す旦那様です。

「でも一日ずっと寝たきりなんて久しぶりすぎて、今日は逆に体が重いかも」

「あら、軽くなるんじゃなくて、ですか?」

「うん。寝すぎだね、これは」

旦那様が首をグルグル回してストレッチしながら言いました。

過労だから、寝たらスッキリするのかと思ってたんですが、そうでもないんですね。

「では、ご朝食の後でも軽く体を動かされてはいかがですか」

そこですかさずロータスが提案してきました。

何ですか、いきなり。

でもこれまでの経験からするに、こういう時のロータスって、ろくなこと(ワタシ的にね☆)言わないんだよなぁ。

今日は何を言い出すのかドキドキしながらロータスを見ていると、

「奥様と手合わせするのです。奥様の剣の腕前もかなり上がってきておられるので、軽い体慣らしにはちょうどよろしいのではないかと思いますが。それに奥様の稽古にもなりますし、一石二鳥でございます」

なんて続けました。

おいっ! また旦那様と手合わせしろってか!! ちょっと前にもやったとこじゃないですか。私の腕前がどんなのか見てみるとかなんとか旦那様が言って。しかも一石二鳥って何? ロータスっ、お前は鬼か、鬼なのか!

「え? そんなの……」

「ああ、そうだな。確かに、ヴィーくらいの相手なら軽い運動にちょうどいいかな」

私が抗議しようとした声は、旦那様のノリノリの返事に簡単に遮られてしまいました。

ちょっと? あの時の私が必死で頑張ったっつーのに『ヴィー くらい(・・・) 』ってなんなんですかね?

「ヴィー くらい(・・・) ってなんですか、 くらい(・・・) って!」

じとんと旦那様を見れば、

「これは失礼」

ニコッと余裕の顔で微笑まれたら、ムカつくんですけど?

「やってやろうじゃありませんか」

「お、いいね」

「……あっ」

売り言葉に買い言葉、思わずノッてしまった……。

時既に遅し。旦那様がニヤッと笑った横ではロータスが言質とったとばかりに、

「では、ご朝食の後大広間にいらしてください」

なんて言ってるし。

また旦那様と手合わせですかい。

そんなの、旦那様にとっては体慣らしどころか準備体操くらいにしかならないんじゃないの?

「たっ、食べた直後に運動したらお腹痛くなりますよ!」

「大丈夫大丈夫、そんなに激しくしないから」

「ええ〜っ!」

朝食の後、私はズルズルと引きずられて大広間に移動し、旦那様の体慣らしに付き合って、剣(といっても短剣ね)のお稽古真っ最中です。

ロータス、ステラリア、その他数名の侍女さんたちとクインスが見守る中、キンキンキンと剣がぶつかる金属音と、私の乱れた息遣いが響いています。

何が悲しくて現役騎士様の体慣らしに付き合わなきゃなんないのよ。

という愚痴は、とりあえず横に置いといて。

病み上がりとはいえ相手はプロ。ここは遠慮なく打つべし打つべし打つべし!!

攻撃は最大の防御なり〜と、頑張って剣を振るいます。あ、でも闇雲に振るのはダメですよ? ちゃんと考えてね☆ しかも今日は模造剣ではなくちゃんとした 真剣(ホンモノ) です。これだけでも気を使うっつーの!!

「なかなかやるね、ヴィー」

「攻撃は最大の防御なり、ですよ!」

「なるほど。アグレッシブでいいよ」

軽くいなされるのは仕方ないとして、それでも教えられた通りに剣を操っていると、

「はい、そこまで」

パンパン、と手を打ちロータスが終わりの合図をしました。

「ふえ〜、疲れました〜!!」

真剣を扱う緊張やら、打っても打ってもいなされる疲労感から解放された私は、膝に手をつき肩で息をします。どこが軽い体慣らしよ嘘つきロータスっ!!

ゼーハーゼーハー荒い呼吸をしていると、

「よく頑張ったね。うん、かなり……いや、もう十分だと思うけど」

そう言って旦那様がミント水を渡してくれました。キリリと冷えていてスッキリ美味しいです!

え、旦那様? 今『もう十分』っておっしゃいました?

ミント水を遠慮なくぐいっと一気飲みしてから旦那様を見ていると、

「はい。ずいぶんと上達なさいましたので、もうお教えすることはございませんね」

今度はニッコリ笑ったロータスが言いました。

「えっ!? ほんと!?」

「はい。旦那様相手にこれだけできましたら十分でございます」

「おおお〜! うれしいです!!」

珍しくロータスに褒められました! 素直にうれしいです。頑張ってきた甲斐があったというものですよ!

「じゃあ今日の稽古はこれくらいに……」

旦那様がそう言ってお稽古をおしまいにしようとしたのですが、私、ちょっとひらめいちゃいました。

旦那様とロータスが打ち合ったらどうなるのかなぁって。

以前にステラリアが、ロータスの腕は旦那様と互角かそれ以上って言ってましたよね。

ちょっとここらで白黒はっきりつけちゃいません?

「ちょっと待ってください! せっかくだから、サーシス様とロータスの手合わせが見たいです!」

「「え!?」」

私の唐突な提案に、二人が驚いてこっちを見てきました。

「あれ? 私何かおかしなこと言いました?」

「いや、別にそうじゃないけど」

「旦那様と私が、ですか?」

「そう! ロータスも強いんでしょ? ステラリアが言ってたわ!」

そう言ってステラリアを見ると、大きく首を縦に振りました。

「昔はそうでございましたが……、今はどうでございましょう?」

ちらっと旦那様を見て苦笑しながら言うロータスですが、完全に否定はしませんでしたね。

「なんだロータス。今は、ってなんだ、今はって」

それを見てプライドが刺激されたのか、ムッとした顔になる旦那様に、

「言葉の綾でございますよ」

ニコッと笑ってかわすロータスです。

「じゃあやっぱりここで白黒はっきりさせましょうよ! サーシス様、一生のお願いです!」

「こんなことに人生かけないで!」

私の超真面目なお願いに、旦那様から即ツッコミが入りました。

「ステラリアだってクインスだって、見たいよね?」

私が控えるステラリアとクインスに聞くと、

「見たいですわ」

「はい、勉強になると思うので是非見たいと思います」

二人ともにキラキラした目で答えてくれました。

「私だけじゃありませんよ〜。ギャラリーもこう言ってますけど?」

と旦那様を見れば、

「勉強になると言われたら仕方ないなぁ」

「そうですね」

そう言って苦笑する旦那様とロータスです。

というわけで始まりました、旦那様対ロータスの剣の手合わせ!

「今回は短剣ではなく長い方の剣の使用ですが、どちらが勝つでしょうか? 解説のステラリアさん、いかがでしょう」

「そうでございますね、旦那様は現役の騎士様でございますから体力十分、パワーと速さも申し分ないでしょう。対するロータスはそればかりは不利ですが、その分技巧に優れておりますので両者優劣つけがたいですね」

「なるほど、詳しい解説をありがとうございました。クインス君はこの手合わせをどう見ますか?」

「ええ、と……初めて見る現役騎士様のテクニックが気になります。それから、父上の剣捌きも初めて見るのでドキドキしています」

「なるほどなるほど。初々しい感想、ありがとうございました」

使用人さんたちギャラリーが見守る中、旦那様とロータスが剣を構えております。実況は私ヴィオラと、解説はステラリア、特別ゲストにクインスを迎えてお送りします。……なんちて。

おふざけ実況は置いといて。

旦那様とロータス、どちらも不敵な笑みを浮かべて睨み合ってます。うう、かっこいいですね!

レフェリーはカルタム。

「はじめ!」

その声を合図に二人は素早く組み合い、剣が火花を散らしました。

キンキンキン……!

またも大広間に響く、剣のぶつかり合う音。

さっきよりも鋭く、重たい音です。やっぱり手を抜かれてたね。音が違うよ。

旦那様が上から切りかかれば、それを剣でいなすロータス。はじき返しその手でそのまま腹に向かって次の攻撃。

旦那様はそれも余裕でかわします。

「両者譲りませんねぇ。どうでしょう、ステラリアさん。これはサーシス様、ロータスの上をいってるんじゃないですか〜?」

「まあ、やはり"若さの分"、旦那様の方が優勢ですね」

「あらステラリアさん、言葉にちょっと毒が入っていませんか?」

「そんなことないですわ! がんばれ、ロータス!」

「あ、応援してるし。クインス君はどう見ますか?」

「僕は、お二人の剣捌きに見とれてしまって……」

「オッケーオッケー。二人とも凄いもんねぇ」

そうこう言ってるうちに旦那様が優位に立ち、カルタムの「そこまで」という声がかかった時には、旦那様の剣先がロータスの首元にありました。

背筋もスッと伸びて綺麗な剣の構え。

うぉぉぉぉぉ、旦那様、かっけぇぇぇぇ!! ……おっと、取り乱してしまいました失礼!

「わぁ! サーシス様、かっこいい!!」

こんなかっこいい旦那様見るの、"アノ"王宮の事件以来ですね!

「そうですか?」

思わず叫んでしまった私に向かって、剣を収めながらテレテレと笑う旦那様と、

「サーシス様、随分お強くなられました」

と眩しいものを見るような目になるロータス。昔は自分よりも弱かったおぼっちゃまが成長……とかなんとか、感慨深いものがあるのでしょう。

こんな旦那様見れるなら、剣のお稽古も悪くないですね!

軽い運動ということで始めた剣のお稽古でしたが、旦那様とロータスの手合わせですっかり白熱していまいました。

二人が水分を摂り、軽く汗を拭いていると、

「失礼いたします。奥様! ミモザが産気付きました」

侍女さんが大急ぎで報告しに来ました。

「ええっ!?」

「本当ですか? 医師様に連絡は?」

驚くばかりの私と違って、さっと仕事モードに変わったロータスが侍女さんに聞いています。さすがです。

「今呼びに行かせました」

「では、こちらでできることをするだけですね。ダリアはどうしていますか?」

「ミモザについています」

テキパキと乱れた服を整えながら侍女さんと話しているロータス。

「わぁ、どうしましょう〜」

「ここでヴィーがそわそわしなくても、みながちゃんとしてくれるよ」

私は落ち着かなくてオロオロしていると、旦那様に苦笑されました。

「私は様子を見てきますので、旦那様たちは——」

「私も行く!」

「え!?」

知らせに来た侍女さんと一緒にミモザたちの部屋に行こうとしたロータスに、私はハイっと手を上げて言いました。横で旦那様がギョッとしてますが、気にしない!

いつも一緒にいてくれたミモザが頑張ってるんですから、励まさないでどうするんですか。