軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

来訪

あれから一週間。

私たちはバタバタと忙しなく準備に追われた……なんてことはなく、義父母を迎えるために客室を整え、私室に簡易ベッドを運び込んだ以外は至って日常生活を過ごしておりました。『お客様が来るわ! 大変、片づけなくちゃ!!』なんてことにはなりません。毎日みんなで楽しく掃除してお飾りしてますからね!

そしていよいよ来訪当日。

『一緒にお昼を食べよう』ということで義父母は昼過ぎの到着予定だったので、午前中はお邸中の花を取り換えてまわりました。ベリスに言って取り寄せて育ててもらっている花です。せっかくきれいに咲いたので、おもてなしにはぴったりだと思ったのです。

さすがに今日はお仕着せでうろつくわけにいかないので、ミモザ厳選の落ち着いたオレンジのワンピースを着ています。ついいつもの癖で腕まくりしようとしたら怒られました。

あ、もちろん旦那様はまだお姿を現してないですよ? きっと今頃別棟でしばしの別れを惜しんでいるのでしょう。馬に蹴られるのは嫌なので放置の方向で。

「これで準備はできたかしら?」

ダイニングテーブルの上にもお花を飾り、あとはカルタムが今頃厨房で絶賛はりきり中の昼食を並べたら完成! というところまで準備ができたので、私はミモザに聞きました。

「ええ、完璧ですわ! 後は到着を待つだけですわね」

ミモザがそう言い終えるや否やのタイミングで、ダイニングのドアが開き、

「奥様、先代ご夫妻が到着された模様でございます」

ロータスが私たちを呼びにきました。

「わかりました。急ぎましょう。お出迎えしなくちゃ」

よっしゃーがんばるぞーと気合を入れました。完璧な嫁のミッションはもう始まってますよ! っと、旦那様を忘れてたわ。

「ロータス。旦那様は?」

ダイニングルームを出て足早にエントランスに向かいながら、私は言いました。

「ただ今旦那様付き侍女に呼びに行かせております」

さすがはロータス、抜かりはありません。

「ならよかったわ」

遅れてくるなら自分の言い訳は自分でしてくださいね~。

エントランスで義父母をお出迎え。

義父母に会うのって、結婚式以来ですね。ちょっと緊張しちゃいます。

この義父母。旦那様が二十歳の時に爵位を譲ると同時にこのお邸を出て、その後は領地で夫婦水入らず、ラブラブイチャイチャで暮らしているそうです(ミモザ談)。

旦那様のお仕事が騎士で、しかもエリートさんだから忙しいということもあり、領地経営はもっぱらお義父様がしているそうです。(ロータス談)

そんな情報を頭の片隅から引っ張り出して復習しておきます。

そうこうしているうちにロータスが静かにエントランスの扉を開けました。

そして入ってきたのが……。

「まあ、ヴィオラちゃん! お久しぶりね! 元気になさってた?」

ニコニコと笑いながら私に駆け寄ってきてくださったのがお義母さま。うん、40代半ば、しかも24にもなる息子がいるようには見えない若々しい美貌ですね! 開け放たれた扉から差し込む外の陽光に背後から照らされて、まるで光背をしょってるかのようです。きれいな金髪が煌めいて目にまぶしく、外に比べて少し暗めなエントランス内にいる私には若干ちかちかして見えます。まあ、それだけのせいではなさそうですが。旦那様のお綺麗な造形はコノヒト譲りですね。きらきら美形オーラを放つのはいいのですが、私の地味っぷりが助長されるので、あまり近くに来られるのはちょっと遠慮したいです。

「色々とこちらの話はロータスから聞いているよ。上手くやっているそうだね」

お義母さまの後からゆっくりと入ってきて、穏やかに濃茶の瞳を細めて微笑む長身の紳士はお義父さま。身長と色素はコノヒト譲りなのですね。少し癖のかかった濃茶の髪を綺麗に撫でつけ、見るからに仕立てのいい服を着こなしているお姿は、若い娘でもすぐさまたぶらかせちゃうくらい魅力的です。お義母さまの肩を抱きながら寄り添う姿はご立派で、かつ紳士の見本のようですね。

こんな穏やかなお二人からなんであんな 鬼畜(むすこ) が出来上がったのか、理解に苦しみます……っと、口が滑りました。

いや、そんなことよりも先程のお義父さまのお言葉。『色々』とはどういった『色々』でしょうか。赤裸々な『色々』なのか、オブラートに包んだ『色々』、どちらでしょうか? ここは後でじっくり話をしないといけないところですね!

まあそれはさておき、私も挨拶しなくては。

「お義父さまもお義母さまもご機嫌麗しゅう。お久しぶりでございます。本来ならば私がそちらに赴かねばならないところ、遠路はるばるお越しいただきありがたく存じます」

やった! 噛まずに挨拶できました!! ガッツポーズこそ心内に留めましたが、会心の笑みは止められませんでした。

「さすがにその堅苦しい話し方はやめてくれないか?」

私の会心の笑みとは対照的に、お義父さまが苦笑いされています。確かに、これ以上続けると確実に舌をかみます。私も血の惨劇は避けたいところです。

「そうですね。すみません」

素直に普段通りにすることを了承しました。

「それでいいのよ~! 一応親子なんだから」

お義母さまも同意されました。

「もうすぐ昼食の用意も整いますから、ダイニングに参りましょう。今日はカルタムが張り切っていましたわ!」

遠慮なく普段の口調に戻った私が、お二人をダイニングに誘導しようとロータスに目配せした時、

「遅れてすみません。ちょっと庭園を散歩していました」

その声にみんなが一斉に振り返ると、エントランスの扉が再び開かれ颯爽と旦那様が入ってこられたところでした。

……あ、コノヒトいるの忘れてた。

ついうっかり、いつもの癖で旦那様の存在をブッ飛ばしてしまっていました。あっぶなー。そうそう、侍女さんが呼びに行ってくれてたんですよね。

で、言い訳はそれですかい。『嘘つけ』っていう使用人一同の心内ツッコミが聞こえてくるようですよ!

「そうか。お前も久しぶりだな」

あ、お義父さま、言い訳ニイハオをスルーしましたね!

「はい。お久しぶりです」

旦那様はお義父さまと同じ瞳を細めて爽やかに微笑んでいます。

「元気そうでよかったわ」

お義母さまも嬉しそうに微笑んでいらっしゃいます。よく似た美貌の二人が並んでいると眼福ですね! 平凡娘の私としては、ちょっぴりうらやましいです。キラキラがアレなんで、日蝕グラスとかかけてみようかしら。

しかし感動の再会をやっている場合ではありません。あ、全然感動なんてしてませんね。

「みなさま、昼食の準備ができたようでございます」

上手いタイミングでロータスがぶった切ってくれました。